豊かな暮らしを実現する鍵は生活の多様性と伝統の中に – 早稲田大学
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豊かな暮らしを実現する鍵は生活の多様性と伝統の中に

特集:地域社会のより良い未来を目指して

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  • #災害復興
  • #研究活動

Thu 31 Oct 24

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Thu 31 Oct 24

都市部への人口集中や自然災害など、持続可能な地域社会を実現するために解決しなければならない課題は山積しています。土木デザインの力で生活・景観を保全し、発展させていく研究を行っている、理工学術院の佐々木葉教授にお話を伺いました。

地方ならではの生活をヒントに持続可能で豊かな暮らしを考える

「長期的な視点で人の暮らしを豊かにする」をテーマに、景観論・デザイン論を軸として土木の分野でまちづくりの研究をしています。特に地方都市・集落の生活、景観に関心があり、各地でのフィールドワークのほか、岐阜県郡上市八幡町にサテライト研究室を設置して、地域住民の方々との交流を重ねながら、研究成果の発信も行っています。

自然と共存している地方での生活には、興味深い暮らしの知恵や、今ある課題を解決するためのヒントが詰まっています。生活の多様性という観点においても、地方での暮らしの形を保全することは、都市や国全体のレジリエンスにつながっていくでしょう。例えば、経済危機や自然災害などによって暮らしの形を変えることを余儀なくされたとき、地方ならではの伝統や慣習から生き抜くヒントを得ることができる、というように。景観や生活の画一化が進む現代社会の中で、さまざまな暮らしの形を存続するにはどうしたら良いのか、景観・土木の観点から考え続けています。

土木デザインの力で人を育てる好循環をプログラム

土木デザインの大きな役割の一つに、「ここが価値のある場所だと分かりやすく表現すること」があります。例えば新潟県新発田市・古太田川周辺集落では、土でできた手作りの護岸や、「江浚い(えざらい)」という川の環境を維持するための手入れ作業など、水辺で生きる伝統的な暮らしの工夫が実践されています。私たち研究メンバーからすると守るべき貴重な慣習ですが、住んでいる方にとっては当たり前な、日常の光景でした。しかしそれも徐々に消えつつあります。そこで私たちは、身近にある「川」を起点に、人が自由に集まることのできる場の価値を再発見するため、川辺にテントやテーブルを設置したり、子どもたちと一緒に川やその周辺を探索したりと、住民同士の交流が自然と生まれるような、川に対する愛着を持つきっかけづくりに取り組んでいます。

都市にはない、その地域ならではの自由で開かれた暮らしを知ることで、多様な考えを自分の中に柔軟に取り込むことのできる人材が育ちます。しかし残念ながら、このような場は現代において自然に発生することはありません。だからこそ、デザインによるプログラム作りが重要なのです。人が環境を作れば、その環境が人を育て、その人たちが良い環境を存続させる努力をする。そういったサイクルを作るために、土木デザインを活用していきたいと考えています。

社会環境工学科では、「空間デザイン」という講義で身近な土木施設の背後にある工夫や知恵を学びます。そこからステップアップした「空間デザイン演習」では、実際に土木のデザイン提案をするのですが、最初は全てをリセットし、特別なものを作ろうとする学生も少なくありません。もちろんそれもデザインなのですが、その場が本来持っている豊かさを高め、新たな行動のきっかけを作るのも立派なデザインです。こういった授業を通して、デザインの概念を単なる見た目ではない、より深いものに広げていくことを意識しています。

日常を支えるインフラづくりには生活者の声に耳を傾けることが不可欠

近年、技術の発展で以前より被害が減っているとはいえ、自然災害により環境が破壊される事例が多発しています。ただ、大雨や津波が全てを流してしまったとしても、ここがどのような場所で、どのような生活が営まれていたのか、必ず手がかりが残っているはずです。良い土木デザインができれば、たとえ時間がかかっても、災害前と連続した新しい生活を取り戻せると思います。今後は、地域住民が当事者として引き受けられる新しいインフラを作るために、最新の技術を活用しながら、そこで生活している人の話をよく聴いて、固有の最適解を探っていける人材がより必要とされていきます。時にはルールを柔軟に捉え直し、思い切った決断をすることも必要かもしれません。そういった勇気を持って舵を取っていける人材が一人でも多く育つことを祈って、研究を続けていきたいです。

◆PROFILE◆

1984年早稲田大学建築学科卒業、1986年東京工業大学大学院社会開発工学専攻修了、博士(工学)。東京大学工学部助手、日本福祉大学情報社会科学部助教授などを経て、2003年より現職。NPO法人郡上八幡水の学校副理事長。2023年度、土木学会デザイン賞最優秀賞受賞など。2024年6月、女性初の土木学会会長に就任。

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