カルトの本当の怖さって? 狙われる早大生、巧妙なその手口と対策の心得 – 早稲田ウィークリー

Waseda Weekly早稲田ウィークリー

特集

カルトの本当の怖さって? 狙われる早大生、巧妙なその手口と対策の心得

近年よく耳にする「カルト」とは何が問題なのでしょうか。実際、学生が当事者になるケースが早稲田大学でも発生しているといいます。そこで、宗教問題に詳しく、早稲田大学リーガル・クリニックの所長でもある棚村政行教授(法学学術院)に、なぜ学生が狙われやすいのか、どんな問題があるのか、具体的な事例や対処法をお聞きしました。困ったときの相談窓口も最後に紹介します。身近に潜むカルトについて考えていきましょう。

本記事で使用する「カルト」という語は、「主流派を批判する急進的な宗教」や「主流文化から逸脱した宗教」といった学術的な用法ではなく、「反社会的な、危険で人権侵害を繰り返す集団」という社会的用法として用います。また、「宗教カルト」の他、セミナーや研究会などの名目でお金をだまし取る「経済・商業カルト」、戦争反対や平和を訴える団体を騙(かた)る「政治カルト」、人の弱みや不安に付け込む「心理カルト」などを包含します。

INDEX
▼実際に大学に相談が寄せられたケース
▼カルトの実態 その手口と対処法「誰でも自由に入れる大学キャンパスは格好のターゲット」
▼一人で抱え込まずにすぐ相談を! 各種相談窓口一覧

実際に大学に相談が寄せられたケース

どういうときに早大生が巻き込まれてしまうのでしょうか? まずは具体的なケースから見てみましょう。“危険”は身近に潜んでいますので十分に気を付けてください。

ケース① デートだと思ったら…

男子学生がSNSで可愛い女性と知り合い、チャットを通して次第に好意を持つように。ヨガの話で盛り上がり、体験イベントに行かないかと誘われ、会うことになる。当日、会場に向かう道中で初めて「仏法体験」だと聞く。到着後、複数の関係者に囲まれ、その場の雰囲気にも飲まれ、渡された紙にサインをしてしまう。その紙は入会届だったようで、後日会費の請求が届く。

ケース② 友人を助けるつもりが、逆に取り込まれ…

一浪して弁護士を目指し入学した学生が、カルトに取り込まれた友人を救うために、友人を説得。しかし、そのうち逆に勧誘され、入信してしまう。母親から大学に相談があり、学部の担当教員が本人と母親と面談をしたが、結局、退学届を出し学生は出家してしまった。

ケース③ 優しい先輩だと思っていたら…

両親の不仲や将来の進路などで悩む学生が、学生ラウンジで人柄の良さそうな学生から「卒論のアンケートに協力してくれませんか」と声を掛けられる。話をする中で「元気なさそうに見えるけど、悩みでもあるの?」と親切そうに気遣われ、そのまま喫茶店で悩みを聞いてもらい連絡先を交換したが、その後、宗教の執拗(しつよう)な勧誘が始まった。

ケース④ サークルイベントだと思っていたら…

地方出身の新入生が、「サークルに入らないと科目登録の情報が入らない」「うちのサークルは100名以上いるから安心だし楽しい」などと勧誘され、連絡先を交換。後日、先輩たちに東京見物に連れて行ってもらった流れで宗教団体の会館に連れて行かれ、入会届や新聞購読を強引に勧められた。

絶対に自分はだまされない、と思っている人は多いと思いますが、なぜこのような事態になってしまうのでしょうか。また、どのように自分の身を守ればよいのでしょうか。今回は、宗教問題に詳しい棚村政行教授(法学学術院)にお話を聞いてみましょう。

カルトの実態 その手口と対処法「誰でも自由に入れる大学キャンパスは格好のターゲット」

棚村 政行(たなむら・まさゆき)。早稲田大学法学学術院 教授、弁護士(第二東京弁護士会)、東京家庭裁判所調停委員、参与員、東京家庭裁判所委員会委員、法制審議会委員、日本家族〈社会と法〉学会前理事長等。民事法学を専門とし、長年、家族問題や宗教問題に携わる

――「カルト問題」の具体的な危険性とはどんなものでしょうか?

カルトの共通点の一つは、対象者をマインドコントロールや洗脳…要するに、行動や思想、考えることを停止させ、操り人形化すること。すると今度は、知らないうちにその対象者が加害者側に回り、自分と同じ被害者を増やすことにつながります。

自分はそんな失敗はしない、と考える学生も多いと思います。ですが、彼らは非常に組織的かつ巧妙。緻密なプロセスを通して、相手を人格から考え方から全て変容させてしまいます。つまり、自分が被害に遭っていることに気付かない、「何かがおかしい」と考えることすらできないほど思考を停止させるのがカルトなんです。

そのプロセスにも、いくつかの段階があります。

  1. 信教の自由など精神的な自由権や人格権、行動の自由、思想信条の自由など基本的な人権が侵害され、自由に行動したり物事を考えたりできなくなる
  2. 詐欺的商法や法外な献金などの違法な資金獲得活動によって経済的搾取を受けたり、自らが被害者となるだけでなく、加害者側にも回り経済被害を再生産する
  3. 結婚や恋愛、性的自己決定権、家族関係などに不当に介入され、婚姻・恋愛・家族関係の自由が侵害される
  4. 密室性、閉鎖性、狂信性などを背景に、指導者らによる暴力、虐待、体罰、ハラスメントなどを受け、逃げられない状況にさらされる
  5. 取り込まれた後は集団自殺や犯罪行為も辞さないという反社会的な活動に向かってしまう恐れがある

仮に取り込まれたとして、「脱会できたらそこで終わり」ともなりません。日々の支えやよりどころにしていたものを失うことになるため、その喪失感は想像以上に大きく、結局、再び集団に戻ってしまうケースもよくあります。これは薬物問題と一緒で、一生懸命「やめよう」と努力しても、無くなったことによるマイナス面に耐え切れなくなり、入退会を繰り返してしまうんです。

――大学生は狙われやすいと聞きますが、なぜでしょうか?

カルトは、宗教なり、政治なり、心理なりを道具に、人集めや金集めをすることが目的です。その“人集め“という点で、誰でも自由に入れる大学キャンパスは格好のターゲットと言えます。しかも、学生は他人を疑うことよりも、出会いや親しい交わりを優先して日本中、世界中から集まってきます。

また、「学生」という立場は、期待や希望、夢にあふれている反面、不安もあるし孤立することもよくあります。それが狙い目なんです。例えば、新入生であれば「サークルを紹介する」「履修相談に乗る」、就活生であれば「就活のセミナーがある」「先輩の話が聞ける」といった形で、それぞれの人たちが持っているニーズや関心に合わせて引き込んでいくんです。

特に早稲田大学の場合、学生も校友(卒業生)も多いので、「私も早稲田の学生です」「早稲田出身です」と、他人との接点や共通項も生まれやすい。そして、早稲田の学生を1人取り込むことができれば、そこからまた何人かに入り込める。ねずみ講やマルチ商法と同じ発想なんです。

また、「人」だけでなく「お金」も集めたいカルト側にとって、保護者がどういう仕事をしているとか、資産がどれくらいある家庭なのか、という点も重要です。実際に彼らはそういった保護者情報を巧みに聞き出し、ランク付けをしています。それだけに、早稲田はネームバリューもあるし社会的な信用もある。早大生が学歴的にも“将来のリーダー候補”として狙われやすい側面があります。

――先ほど、「勧誘・マインドコントロールの方法は組織的かつ巧妙。緻密なプロセスがある」という話がありました。中でも、最近多くなっている手口はどのようなものでしょうか?

やっぱりSNSですね。コロナ・パンデミックだったここ3年は対面で会う機会がそもそも減っていた分、「#春から早稲田」などのキーワードでターゲット候補を検索し、コメントやDMでのやりとりを経て、カルトのオンラインサロンへの勧誘やリアルな出会いにつなげます。

カルト側からすれば、SNSをきっかけにしたやり口は、保護者や周りの友人に気付かれにくいという利点があります。だからこそ、学生自身が対処法や身を守る術、社会で何が問題になっているかという情報を身に付けておく必要があります。これは悪徳商法でも一緒ですね。

他に多いのは、サークルを装い、「アンケート」「サークル紹介」「履修相談」「留学相談」「勉強会」「ボランティア」「SDGsイベント」「就活セミナー」「自己啓発セミナー」といったテーマで学生の興味を引く手法です。これらは、健全なサークル活動や正規団体との見分けが難しいという側面があります。

特に最近は、信頼を得るまで1年以上の時間をかけてじっくり人間関係を作り込むケースも多く、まともな団体なのか、そうでないのかを選別することがどんどん難しくなっています。

いずれにせよ、きっかけを作ったあとはLINEなどのSNSによる連絡先の交換、グループチャットへの参加を促してきます。すると今度は、歓迎会やスポーツ活動、勉強会などに参加させ、先輩や同級生との交流を通して信頼関係・人間関係の構築が行われます

そこから、集団やグループが主催する行事、セミナー、講演会、合宿などへと段階的に誘うアプローチへ。集団のメンバーとして教化が図られると、今度は新規メンバーのリクルートや寄付、物品販売などの資金獲得活動の手足として使われるようになるんです。

――対処法として有効な手段はありますか?

学生自身の対処法として、次の4つを意識してください。

  1. 知らない人が親切そうに近づいてきても相手にしない。しつこい場合は勇気を持って断る。SNSでの勧誘なども、誰がどのような目的で出したものか確かめて、うかつに返信しない。
  2. 知らない団体や個人から勧誘を受けたら、その団体やグループがどのような活動をしているかをネットでチェックし、安全・安心な団体であることを確認する。その際、巧妙に作られたWebサイトである可能性もあるので、他の検索結果も確認する。
  3. 住所、氏名、連絡先、学校、家族関係などの個人情報は、基本的に相手に教えない。また、別の場所に連れて行かれる、他の人を紹介するような話になった場合には断る。
  4. もし、執拗(しつよう)に連絡が来たり、押しかけて来たりするようなことがあれば、所属学部・研究科の事務所や学生生活課に相談する。または、全国霊感商法対策弁護士連絡会法テラスなどの相談窓口に相談し、適切な指導・助言を求める。

特に意識してほしいのは4です。とにかく、1人で抱え込まない。また、友人がカルト問題に悩んでいれば助け船を出したくなることもあると思いますが、その場合も専門家に頼ることを忘れないでください。

過去のオウム真理教のケースでは、友人を脱退させようとした人が逆に取り込まれ、最終的には幹部になってしまったという、まさにミイラ採りがミイラになる事例がありました。カルト側には「こう来たらこう対応する」という細かなマニュアルが存在します。それに対応できるのは専門家の領分ですので、適切な相談窓口をしっかり頼ってください。

3についても、住所を知られてしまうと、直接訪問や付きまといなどにより家族や近隣に迷惑をかけることにもなります。一人暮らしの場合は引っ越しするという手段がありますが、実家の場合そう簡単ではありません。

一時期、カルト問題は沈静化していましたが、去年から旧統一教会にまつわる諸問題が注目され、そこから「宗教2世」(※)といった別な問題にも光が当たってきました。このように、大事なことは一過性に終わらず、持続的に関心を持つこと。正確な知識や情報を共有することで被害を防ぐことにつながります。

(※)特定の宗教を信仰している親や家族の下に生まれ、誕生時や幼少期からその宗教に入信させられている人々

取材・文:オグマナオト(2002年、第二文学部卒業)
撮影:小野 奈那子

1人で抱え込まずにすぐ相談を! 各種相談窓口一覧

困ったことがあったら、1人で解決しようとせず、すぐに相談窓口に駆け込んでください。一番身近な相談窓口としては、所属学部・研究科の事務所がありますが、その他の窓口として以下を紹介します。また、早稲田ウィークリーでは過去の記事でカルト対策5つのチェックポイントをご紹介していますので、併せてご確認ください。

学生生活課(学生生活110番)

学生生活上のさまざまなトラブル・事件・事故などで悩みを抱えたら、ささいなことでも構いませんので相談してください。

保健センター学生相談室(法律相談)

月に2回、早稲田キャンパスの保健センターにて弁護士による無料法律相談を受け付けています。事前の申し込みが必要です。

弁護士法人 早稲田大学リーガル・クリニック(28号館)

早稲田大学に併設された法律事務所です。早稲田大学関係者であれば無料で相談が可能です。事前の申し込みが必要です。

法テラス 霊感商法等対応ダイヤル

法務省が所管する日本司法支援センターの無料相談窓口です。事前の申し込みは不要で、メール相談窓口もあります。

全国霊感商法対策弁護士連絡会

弁護士によるネットワーク組織で、霊感商法被害の実態とその危険性について啓発するとともに無料相談窓口(電話・メール)が案内されています。

【次回フォーカス予告】10 月30日(月)公開「学園祭特集」

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日はほぼ毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/weekly/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる