塩の道
江戸時代。南部藩の沿岸にあった野田。野田の人々は塩を牛の背に載せて内陸へ運んでいました。その道は『塩の道』、または『のだ塩ベコの道』(ベコ=牛)と呼ばれ、現代にその姿を残しています。
数百年の時の流れや歴史の重みを感じることができる『塩の道』についてご紹介します。
野田が誇る宝物『のだ塩』
こちらのページもご覧ください。
昔ながらの伝統製法『直煮製塩』で作られる天然塩。自然ろ過された地下海水を汲み上げ、4日間じっくりと煮詰めます。時間をかけて作られた塩は、ピリピリとした塩辛さは控えめで、まろやかな風味が特長的。ソフトクリームや焼き菓子にも使用されており、その味に惹かれた『のだ塩ファン』が全国各地にいるほどです。
歴史を今に伝える『塩の道』
野田で作った塩を牛や馬の背に載せて内陸へ運び、塩とお米などを交換したルートを『塩の道』と呼んでいます。盛岡をはじめ、雫石や花巻、北上、そして秋田県の鹿角まで足を延ばしていました。現在では三陸沿岸道路や宮古盛岡横断道路によって車だと2時間ほどで到着する盛岡ですが、当時はもちろん徒歩。それも塩を載せた牛とともに歩いていたわけですから、大変です。経由地にもよりますが、およそ7日間かけて盛岡まで運送していたと伝わっています。
なぜ塩の道が生まれたか
なぜ野田で塩作りが盛んに行われるようになったのか。そして、なぜ塩の道が重要視されたか。それは野田が抱えた環境が関係します。
太平洋から冷たく湿った偏東風、いわゆる『やませ』の影響により、寒冷な環境である野田は稲作には向きませんでした(現在では品種改良が進み、問題なく稲作を行うことができます)。そのため、外部から飯米を得る必要がありました。
一方で、野田の沿岸は十府ヶ浦海岸に代表されるように、容易に海水を汲み上げて運ぶことができる地形。そして、幸運なことに、豊富な砂鉄鉱山を多数擁していました。これにより、鉄で窯が作りやすく、「海水を煮詰めて塩を精製する」ことが比較的容易にできたのです。
南部藩内での製塩量不足もあり、野田の塩は瞬く間に有名になりました。海水を汲み上げる手間、海水を煮るための窯を作る手間、出来上がった塩を運ぶための牛を育て、まとめあげる手間、そして何日もかけて内陸へ歩く手間……。どれほど手間ひまがかかる行程であっても人々は続けました。塩作りは、野田、ひいては南部藩を支えた重要産業だったのです。
ここで、少々こぼれ話になりますが、『塩の道』の面影を感じることができる数字をひとつ紹介します。
なんと、盛岡市の豆腐購入額は全国の都道府県庁所在地で1位なのだそうです。
「盛岡はその昔、京都から豆腐職人を多く呼び寄せていた」「キレイな地下水が多く湧いている」といった理由も挙げられますが、塩の道を通して、野田から『にがり』が持ち込まれていたという面もあります。豆腐作りに欠かせない『にがり』は、塩作りの過程で生まれる副産物の一つなのです。
盛岡に限らず、岩手県、それも県北は豆腐が多く食べられており、この周辺では『田楽』といえば豆腐を使ったモノが一般的。米があまり採れないから豆で代用していた、ということもあって、豆腐文化が大きく花開いたと想像できます。
塩の道の終焉、そして復活
野田の塩作りは栄華を極め、終戦直後にはおよそ130基の塩釜を構えるまでに至りました。しかし、昭和24年に日本専売公社が発足され、塩の生産や販売に大きく制限が加わると、一気に産業は衰退。塩の道も数件の民家を残して、人の往来は年々減っていきました。
このまま道、そして塩作りの文化は途絶えてしまうのか……。
それでも道の歴史を後世に伝えるべく、起点や山道に道標を建てるなど地道な活動を積み重ねてきました。また、昭和50年代には根井地区から岩泉方面へ続く塩の道を使用したウォーキングイベントが開催されています。
塩づくりの方も、当時の野田村の青年たちが旗手となり、窯で煮る昔ながらの方法が復活。現在の『のだ塩工房』へ繋がっていきます。
塩の道の今~歩かなければ滅ぶ道~
再び歩き出した、塩の道の歴史。かつて存在した集落は消滅し、そこには廃墟と化した家屋だったモノがあるだけ。それでも、険しくはありますが、たしかに『道』があります。
塩の道を歩く。塩の道を走る。数百年の歴史を想いながら、自然を満喫してみてはいかがでしょうか。
みなさんが歩くことで、塩の道は生き続けます。
塩の道関連のイベント
塩の道を歩こう会
その名の通り、塩の道のうち野田村及び久慈市山形町の一部を実際に歩くイベントです。途中、村の最高峰である『和佐羅比山』の山頂を経由。春と秋、年2回開催となります。
令和4年度春に開催した様子はこちらからご覧いただけます。
塩の道トレイルランニング
起伏が激しい山道を、己の力のみで走りぬくイベントです。全国各地から集まったトレイルランニング愛好者たちのレースは、観戦だけでも楽しめます。コースや開催時期などは変更になることがあります。お気軽にお問い合わせください。
第1回開催の様子はこちらからご覧いただけます。
出典
『野田村 ベコの道』(野田村村誌編纂委員会 著)
『野田村の歴史ものがたり(佐々木 勝三 著)』
この記事に関するお問い合わせ先
野田村役場未来づくり推進課移住定住観光班
電話番号:0194-78-2963
お問い合わせフォーム
更新日:2022年12月13日