下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準の改正のポイント|牛島総合法律事務所|Ushijima & Partners

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<目次>
1. はじめに
2. 改正点
(1) 改正前の規定
(2) 「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」
(3) パブリックコメントにおいて示された考え方
3. まとめ

 

1. はじめに

 下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)に関する運用基準(以下「運用基準」といいます。)は、下請法違反行為を未然に防止することを目的として、下請法の解釈を明らかにしています。公正取引委員会は、令和5年11月29日に公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(以下「労務費指針」といいます。)等を踏まえ、下請法上の買いたたきの解釈が更に明確になるよう、令和6年5月27日に運用基準を改正いたしました。
 以下では、改正の内容について、「『下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準』の改正(案)に対する意見の概要及びそれに対する考え方」(以下「パブリックコメント」といいます。)も踏まえ、特に重要と思われるポイントのみに絞って紹介します。

(※)公正取引委員会「『下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準』の改正について」
(※)公正取引委員会「『下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準』の改正(案)に対する意見の概要及びそれに対する考え方」
(※)公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」
(※)公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」

2.改正点

(1) 改正前の規定

 下請法上の禁止行為である買いたたき(下請法第4条第1項第5号)とは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」であるところ、改正前運用基準第4の5(1)においては、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱う、とされており、「通常支払われる対価」についての解釈が示されていました。

(2) 「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」

 これに対し、改正後運用基準第4の5(1)においては、「通常支払われる対価」ではなく、「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」を例示しています。
 具体的には、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合、以下のア又はイの金額が「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」として取り扱われるとされています(改正後運用基準第4の5(1))。

ア 従前の給付に係る単価で計算された対価に比し著しく低い下請代金の額
イ 当該給付に係る主なコスト(労務費、原材料価格、エネルギーコスト等)の著しい上昇を、例えば、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの経済の実態が反映されていると考えられる公表資料から把握することができる場合において、据え置かれた下請代金の額

(※)公正取引委員会「『下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準』の改正(案)新旧対照表」

(3) パブリックコメントにおいて示された考え方

 改正後運用基準第4の5(1)のアは、改正前運用基準第4の5(1)から趣旨・内容に変更はないとされております(パブリックコメントNo.6)。
 これに対して、労務費指針の公表等を踏まえ、改正後運用基準第4の5(1)のイにより、特にコストが著しく上昇している状況における下請代金の据置きについての解釈・考え方が更に明確に示されることになりました(パブリックコメントNo.21)。
 そして、パブリックコメントでは、改正後運用基準第4の5(1)のイは、給付に係る主なコストの「著しい上昇」を「経済の実態が反映されていると考えられる公表資料」から「把握することができる」場合において、据え置かれた下請代金の額について、以下の考え方を示しています。

ア 著しい上昇

 改正後運用基準第4の5(1)のイはコストの「著しい上昇」があったか否かについては、具体的な金額や割合が一律には示されておらず、個別のケースごとに判断されるとされています(パブリックコメントNo.23)。

イ 経済の実態が反映されていると考えられる公表資料

 改正後運用基準第4の5(1)のイは「経済の実態が反映されていると考えられる公表資料」として最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率といった労務費に関する例示をあげるにとどまりますが、労務費指針において例示されている公表資料も当たるとされています(パブリックコメントNo.35)。
 また、原材料価格、エネルギーコストについては、「国内企業物価指数」、「石油製品価格調査」などが該当する旨が示されています(パブリックコメントNo.26)。
 なお、価格交渉を行うための条件として、労務費上昇の理由の説明や根拠資料につき、公表資料に基づくものが提出されているにもかかわらず、これに加えて詳細なものや受注者のコスト構造に関わる内部情報まで求めることは、そのような情報を用意することが困難な受注者や取引先に開示したくないと考えている受注者に対しては、実質的に受注者からの価格転嫁に係る協議の要請を拒んでいるものと評価され得るところ、これらが示されないことにより明示的に協議することなく取引価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は下請法上の買いたたきとして問題となるおそれがあることに留意すべきです(パブリックコメントNo.34)。

ウ 把握することができる場合

 「把握することができる場合」とは、「公表資料」から把握できる場合を念頭に置いているとされているものの、具体的には個別の事案ごとに判断されるとされ、注意が必要です(パブリックコメントNo.35)。

エ 据え置かれた

 「据え置かれた」とは、下請代金の引上げ自体は行ったものの、その引上げ率がコスト上昇率に満たない場合は含まれないとされています(パブリックコメントNo.34)。

 なお、改正後運用基準第4の5(1)のア又はイに該当する場合であっても、直ちに買いたたきに該当するというわけではなく、買いたたきに該当するか否かは、下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等の対価の決定方法、差別的であるかどうか等の決定内容、通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況及び当該給付に必要な原材料等の価格動向等を勘案して総合的に判断されます(パブリックコメントNo.16)。また、対象取引が、改正後運用基準が示す「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」の例示に該当しない場合であっても、買いたたきに該当する可能性がある点にも留意が必要です(パブリックコメントNo.20)。

3. まとめ

 以上の改正点を含め、買いたたきに違反した事業者に対しては、公正取引委員会からの勧告(下請法第7条第2項)の対象となりますので注意が必要です。

以 上

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