内 容
中国は開発経済学で解けるのか —— 。未曾有の変貌をとげる現代中国を、社会科学の実験場とみなし、開発経済学のさまざまなモデルや仮説を準拠枠として、その「発展」の軌跡を検証する。はたして「中国モデル」は存在するのか。第一人者による透徹した中国経済論。
「なぜ中国経済を取り上げるのか」(序章「3. 実験場としての中国」)
目 次
序 章 中国経済の捉え方:開発経済学的枠組みと視座
はじめに
1 経済発展または開発:基本的概念と分析枠組み
2 時期区分:改革開放以前と以後
3 実験場としての中国
4 本書における開発モデル
5 準拠枠としてのモデルと仮説
6 実証方法について
補論1 現代中国経済略史: 開発戦略の変遷過程
第1章 初期条件と歴史的文化的特性
はじめに
1 ガーシェンクロンの「後進性の優位」仮説
2 制度の形成と進化:ノースの「経路依存性」論と速水の「誘発的制度革新」論
3 2つの歴史的遺産:1949年と1978年
4 歴史的視野から見た現代中国の経済発展: 市場経済の発展
5 文化論:ウェーバーの「儒教論」はなぜ間違っていたのか
第2章 成長モデルと構造変化
はじめに
1 ハロッド=ドーマー・モデル
2 貯蓄率と成長:ロストウの段階論、中国の高貯蓄
3 重工業化モデル:マハラノビス・モデルとフェリトマン=ドーマー・モデル
4 成長会計モデルとチェネリーの標準パターン論:中国への適用
5 ペティ=クラークの法則、ホフマン法則と中国
6 不均整成長論、ビッグプッシュ・モデルと計画経済
7 内生的成長論と経済発展
補論2 グレンジャーの因果分析
補論3 重工業と軽工業
第3章 ルイス・モデルと中国の転換点
はじめに
1 転換点論争
2 ルイス・モデルとレニス=フェイ・モデル
3 過剰労働論再考:ヌルクセ型偽装失業とルイス型過剰労働
4 日本、台湾、韓国における経験と中国
5 都市農村分断と転換点
6 郷鎮企業モデル
7 ハリス=トダロ・モデルと中国における労働移動:盲流から民工潮へ
8.開発と都市化
第4章 外向型発展モデルと中国
はじめに
1 2つの開発戦略:輸入代替と輸出主導
2 貿易と交易条件:プレビッシュ=シンガー命題を中心に
3 中国の貿易政策:貿易の自由化とWTO加盟
4 中国の新たな貿易レジーム:特区と加工貿易
5 外国直接投資の役割と決定要因
6 成長、貿易、FDI のダイナミックス
7 外資に対する評価
第5章 雁行形態論・キャッチアップ型工業化論とその限界
はじめに
1 雁行形態の3類型
2 アジアの経験: 第1次輸入代替から第2次輸出代替へ
3 雁行形態論と産業・技術の国際的伝播
4 特化係数やRCA指数から見た雁行形態モデルと中国
5 輸出財の技術集約度
6 中国に「雁行形態モデル」は妥当するか
7 キャッチアップ型工業化論の限界
第6章 人口転換と人口ボーナス
はじめに
1 人口と経済発展:マルサスの罠と低水準均衡の罠
2 人口転換とは
3 中国の人口構造の推移と特色
4 人口ボーナスとは
5 中国における人口ボーナス論
6 高齢化が中国にもたらすもの
7 人口規模と経済発展:中国の経験
第7章 分配と貧困
はじめに
1 クズネッツ仮説とその妥当性
2 中国における格差の構造と推移
3 格差の決定因
4 ウィリアムソン仮説と地域格差拡大・縮小のメカニズム
5 中国における貧困水準の動きと貧困の構造
6 格差と貧困をめぐるいくつかの問題
補論4 ワハカ=ブラインダー(OB)分解
第8章 人的資本と教育
はじめに
1 シュルツとベッカーの人的資本論
2 教育のミンサー型収益率
3 中国における人的資本の蓄積
4 中国における教育の収益率とその効果
5 教育の収益率のダイナミックス
第9章 環境クズネッツ曲線と中国の環境問題
はじめに
1 環境と経済発展
2 環境クズネッツ曲線
3 中国の経済発展と環境クズネッツ曲線
4 中国における環境政策の変遷
5 国際環境問題と中国の主張
第10章 開発独裁モデル:中国における政府と市場の関係
はじめに
1 開発独裁とは、開発主義とは
2 開発における国家・政府と市場
3 東アジアにおける経験:アムスデンと村上泰亮
4 中国の特殊性:共産党と国民党の比較
5 政治体制と成長:民主主義、独裁と成長
6 「開発」の意味論:センの「自由としての開発」論と中国
終 章 中国の開発経験をどう見るか
はじめに
1 中国の開発経験:その開発経済学への貢献と示唆
2 市場創生のダイナミズムと技術吸収
3 「中国モデル」再考
4 「調和の取れた社会」、「科学的発展観」と開発論
5 「中所得(国)の罠」を超えて
参考文献
あとがき
図表一覧
人名索引
事項索引
訂正情報
本書初版第1刷の141頁の図5-2のbに誤りがあり、正誤表を作成しました。以下より正誤表ファイルをダウンロードいただけます。
書 評
『中国経済研究』(第10巻第1号、2013年3月、評者:江崎光男氏)