医学部付属病院小児科の山本准教授らが、心不全を併発したハーラー症候群患児への同種臍帯血移植に成功しました

医学部付属病院小児科の山本将平医師(医学部医学科准教授)らが今年8月、新生児拡大マススクリーニング(※)により日本で初めて新生児期(生後28日未満)にムコ多糖症1型(ハーラー症候群)と診断され、心臓の機能不全を併発している1歳3カ月の患者に対する同種臍帯血移植(造血細胞移植)を実施しました。移植は成功し、患者は11月上旬に無事退院しています。心機能の低下により造血細胞移植が困難とされた子どもに対する治療成功は、難病の早期診断と高度な医療技術による成果であり、両者の融合がハーラー症候群患者の病状の進行防止につながると期待されます。

ハーラー症候群は、細胞内の不要物を分解する酵素の先天的な欠損によって「ムコ多糖」と呼ばれる老廃物が全身の臓器に蓄積し、中枢神経障害を引き起こす難病です。精神と運動機能の発達障害や特異的な顔貌、骨の形成不全、心臓弁膜症といった症状が現れ、治療せずにいると15歳前後で死亡するリスクが高いとされています。治療法の1つは欠損している酵素の補充ですが、週1回の投与を生涯にわたり続けなければなりません。また、造血細胞移植は生後2年以内に行うと中枢神経障害の進行を抑えられるとされていますが、一般的には診断を確定できるのが4歳前後になるため障害が進んでしまい、治療の効果が不十分であるといった課題がありました。

今回、治療した患者の保護者は早期の造血細胞移植を希望しましたが、心不全を合併していたため複数の病院で困難と判断され、本病院小児科を受診しました。山本医師ら血液腫瘍性疾患診療グループは、移植の可能性を詳細に検討するとともに小児科や小児循環器の専門医らとディスカッションを重ね、院内倫理委員会に諮った上で移植を決定。厳重な循環動態管理と感染症予防対策下で治療を進めた結果、造血細胞の順調な生着と心機能の改善が確認されたため、免疫抑制剤を調整しながら容態を見極め、無事退院に至りました。

山本医師は、「本病院小児科は、ムコ多糖症などに対する造血細胞移植の実績が全国最多で豊富な経験を有しており、今回の患者さんに対しても、“自分たちが治療しなければ”という責任感を持って臨みました。病気の早期発見は重要ですが、たとえ早く見つかっても治療できなければ患者さんとご家族を不安にさせてしまいます。皆さんに安心していただける医療を提供するために、今後も拡大マススクリーニングの発展と受け皿となる治療体制の整備に尽力していきます」と話しています。

※新生児拡大マススクリーニング
新生児マススクリーニングは、先天性代謝異常などの病気を発症前に発見して適切な治療につなげるための公費による検査で、2024年度現在、23疾患が対象となっています。「ムコ多糖症1型」など、23疾患以外の複数の疾患を対象とした検査(自費負担)が拡大マススクリーニングです。