学生と地域の化学反応で宮城をもっとおもしろく。未来につながる“産学○○”?(前編)
地域の未来を担う若者と、いかにお互いが楽しみながら宮城のこれからを共創できるか。このことを「ちいきのミライ、わたしたちから」をグループクレドとする当社は、事業活動や大学との授業連携等を通じて追及しています。本記事では、今年度の学生との取り組みを事例に、冒頭の問いを読者の皆さんとともに考えていきます。
本記事は、前後編の記事となっております。
前編では、今年度実施した東北工業大学様との授業連携にフォーカスし、大学教員の視点で、産学連携が生み出すシナジーへの期待や、地域と学生の未来に軸足を置いた産学連携のこれからについてお伺いしています。
後編では、当社の社員による視点で、当社が学生との取り組みを行う意義や、取り組みをより価値として広げていくには何ができるかを、座談会を通して考えていきます。
目次
1.地域×デザイン case:東北工業大学 産業デザイン学科との授業連携
2.工場と団地と地域のリノベーション case:東北工業大学 建築学科との授業連携
1.既存の枠組みに当てはめない「学びの場の創出」
2.学生と地域が主体となるまちづくり「未来型の地域連携」
3.学生の可能性を信じて問いを立てる「ブレークスルー思考」
地域×デザイン case:東北工業大学 産業デザイン学科との授業連携
「地域×デザイン」というテーマのもと、地域の魅力の発見と発信について実践的に学ぶ授業。成果物は、地域の魅力発信を目的とした映像です。メディアを通じて発信するのはこの授業が初めての学生も多く、映像という手段の扱い方や、伝えたいことが伝わる表現か、などを踏まえて映像そのものを評価・講評をしてほしいと当社にお声がけいただきました。
教員紹介:東北工業大学 産業デザイン学科 坂川 侑希 様
インタビューアー:東北工業大学 産業デザイン学科OG CS事業部 大沼 紗采
学問の社会実装
大沼 「地域×デザイン」というテーマの授業でしたが、私自身が工大OGとして、学んだことをアウトプットして地域からの評価をもらう機会があるのは、学生にとっていい経験になると思って、私も少しでもその力になれたらと思って参加させていただきました。今回の授業連携を考えられた背景をお伺いしたいです。
坂川先生 私自身も、大学からデザインを学び始め、4年の卒業研究の時に、太白区のとある地域を対象にウォーキングの研究をしたんです。「高齢者の健康維持という社会課題をデザインによってどうやって解決するか」を研究したことをきっかけに「デザイン+地域+教育」という新しい軸が自分の中に生まれました。教育者・研究者となった今の自分のミッションは、デザインの学びの場を設計し、提供することですが、それを地域の方と一緒にやっていきたいと思っていました。
大沼 学んだことを学校という枠組みを飛び越えてアウトプットする場って限られているし、自分でやろうと思っても「何から始めたらいいんだろう」「どこからコネクションしよう」…と難しいですよね。
坂川先生 面倒くさいからと、やらなくなってしまいます。そして地域にも興味が向かなくなっていく。そこのハードルを下げたいと思っています。これまでの実践を通じて、地域の方は大学生が来ることについてポジティブに捉えていると感じていますが、地域への入り方は慎重にやるべきなので、地域への入り方までを学生へレクチャーし、そのあとは学生自身で考え乗り越えていくプロセスを大事にしています。もちろん、苦労はするけど、最終的に得られる学びや、成功体験も含めて授業を設計しているので、学生はこちらの想定通りのアウトプットができる。それが学生にとって自信につながって、地域への意識が高まっていくのだと思います。
大沼 企業側が参画することのポイントはどのあたりにあると思いますか?
坂川先生 前提としてあるのは、実学としての「デザイン」がまだまだ社会に浸透していないという危機感です。デザインの研究者・教育者としてできることは、学びの機会創出や大学を飛び出していける仕組みをつくること。デザインで社会や地域をよくしていこうという気持ちを持ってもらいたいし、その背中を押していきたいなと。デザインの学びって複雑だからこそ面白いので、授業や大学の中で完結させてしまうのはもったいないと思っています。地域に出て、どうやったら目の前の人たちを笑顔にできるのかを考え、自分がデザインしたものを使ってもらえた・見てもらえた経験を得る。これは大学の中だけでは難しいです。産学官+地域、この4者の関係は重要で、どれも欠けてはいけないと思います。
産学官+地域だからできること
大沼 今回の授業は、発信するプロセスを実践的に学び、デザインリサーチの手法や地域との関わり方、映像というメディアを通じた表現手法を身につけることも大事にされていましたよね。
坂川先生 自分が何に魅力や価値を感じて、何をアウトプットしたいのか、「表現したい」「カタチにしたい」という欲求に学生のうちから気づいてほしいと考えています。映像制作にあたっては、学生の持っている価値観を大事に、自分がいいと思ったものがなぜいいのか、なぜ美しいのか、なぜかっこいいのか。これをどうしたら言語化できるのかについて教えています。言語化ができたら、あとは自分の欲求に従って突き進む。この表現への欲求こそが、デザインやアートを学ぶ学生の強みだと思います。本学の学生は真面目な学生が多いので、今回の授業が、ひとつでも殻を破れるようなきっかけになればと。デザインには、様々なフレームワークがありますが、それに囚われることなく、自分だけのやり方を掴んでいって欲しいですね。学生も必死で、一生懸命取り組んでくれるので、デザイン教育の専門家として、どれだけ価値のあることを提供できるかは常に模索しています。
大沼 授業を受けた学生の反応はどうでしたか?
坂川先生 受講する学生の多くは、地域ってなんだろう?と漠然とした興味がある学生が多かったです。地域の方とのコミュニケーションに不安がありながら、授業を通じてノウハウが少しずつ掴めると、自分から地域に通うようになっていました。地域の外側にいる人から、地域の内側に入っていっている実感が持てて、それが楽しいと。また、自分の価値観と向き合い、それが掴めたときのピーンと降りてくる感じが達成感となり、やっていてよかったという感想でした。全員後期もやりたいと言ってくれています。
講評会の様子
大沼 デザインを学ぶ学生の地元志向はどれくらいあるのでしょう?
坂川先生 地元志向で地元就職希望の学生も多いです。大学側としては、そういう学生が地域にいて、羽ばたく時を待っていることを、いかに広められるかが求められていると思います。一方で、地域(ローカル)でデザインすることはデザイナー1年生には難しいかもしれません。ローカルは広い視野を持っていないと、見えない部分が多すぎるんです。今年の春に、研究室一期生の学生が、東京で3年修行した後に、地元秋田で起業しましたが、これはキャリアパスとしては非常に理想的だなと感じています。
大沼 企業側も、デザインを活かせる仕事だと学生に伝えきれていないので、これが産学連携をやる意味でもありますね。
坂川先生 教員としても、就活の際にその企業がデザインをどれだけ理解しているかを見極めるよう、学生にアドバイスしています。アウトプットだけではなくプロセスに注力できているか、上流工程に力を入れているかをシビアに見てほしいからです。デザインと言うと、どうしてもアウトプットに目がいってしまいますが、本来デザインは方法論やプロセスを指す言葉であり、社会をより良くする手段なのです。ユーメディアさんは社会をより良くするために、様々な事業を展開されていて、デザインを活かした地域貢献を考えている人を受け入れてくれる会社であると思います。地域に貢献できる人材を育成するためには、これまで以上に大学側から地域にアプローチする必要があります。そこへユーメディアさんが賛同していただけるなら、ぜひ一緒にと思ってお声がけしました。
産学連携と言うと、学生のアイデアを生かして商品開発、のような成果を求めるものが多いですが、これまでの産学連携の枠組みを超えた、デザインの学びの場の創出が今回はできたのではないかと感じています。
今後は、今まで以上にユーメディアさんからも大学側に入ってきてもらって、より学生たちに地域で仕事をすることや地域を発信することのリアルを知ってもらい、地域に対する解像度をもっと上げてもらいたいと思っています。どんなことでもデザインの授業として再構築できますので、なんでも言ってください!
◆学生が制作した動画はこちらからご覧いただけます
https://www.life.tohtech.ac.jp/creative/news/2024_sakagawa_expert_a_loacal_movie/(東北工業大学様公式サイト)
◆河北新報の記事:東北工大生が商店街PRの映像制作 仙台・文化横丁など(河北新報オンライン)
工場と団地と地域のリノベーション case:東北工業大学 建築学科との授業連携
仙台市六丁の目の印刷団地には、当社の印刷センターがあります。現在の印刷センターができた2018年以前に稼働していた工場が同じエリアにあり、今後、その旧工場のリノベーションが検討されています。
検討にあたり、齋藤設計事務所の齋藤和哉さんにご相談していたところ、齋藤さんが非常勤講師を務める東北工業大学の建築学科の授業の中で、旧工場のリノベを題材にできないかとご提案いただきました。
当社は、授業初回に工場見学や学生からのヒアリングを受け、中間・成果発表会にも参加をいたしました。
教員紹介:株式会社 齋藤和哉建築設計事務所/東北工業大学 非常勤講師 齋藤 和哉 様
インタビューアー:CS・地域ブランディング事業部 執行役員 佐々木 和之
工場や団地の社会的価値を学生と磨く
齋藤さん 旧工場のリノベのプロジェクト自体が、建築だけではなくまちづくりや地域から考えなければいけないテーマだったので、学生が普段取り組んでいる課題と近いなと思いました。大学4年の卒業設計で今までやってきた成果を卒業論文的にまとめる際、自分で社会課題を見つけるところからスタートします。自分なりに考える「次世代の建築は○○だ」「○○を通して社会がよくなっていくんだ」を前提に置き、課題に取り組みます。学生にとっては、こういったことを考える機会がないのでとても難しいんですよね。
旧工場のリノベーションの話を聞いた時に、学生も入れてできると、お互いに良くなるんじゃないかと思いました。旧工場のリノベには、ユーメディアさんが社会にどう貢献していきたいかというビジョンが上流にあって、だからこういう場にしたいという思いがあったじゃないですか。「周りがよくなったら自分たちも良くなる」という考え方が根本にありました。
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佐々木 当社は本社がある仙台から離れることはないので、仙台がにぎわって活性することで当社も成長し発展することを実体験してきました。今後のまちづくりを中心で担っていくのは学生や若者たちなので、今回の授業連携の話もぜひと思ったし、「ユーメディアに言ったらやってくれるだろう」という期待も感じていました。学生の発表を全部は実現できないけど、できる限り叶えたいと思う発表ばかりでしたし、学生がこういう未来のまちづくり活動ができる拠点をつくっていきたいと思いましたね。
齋藤さん 学生もこういうことをもっとやりたいと思う。どんどん実験的なことをやっていけるといいですね。
今回も、学生には現実的なハードルをある程度排除して考えてもらい、印刷業界や団地や工場の未来を描いてもらいました。ここで重要なのが、みんなで考える場をつくることです。今回、旧工場のプロジェクトは、学生も印刷部門の人も営業部門の人も一緒に考えています。発表も、工場長だけではなくて社員の方みんなに聞いてもらいました。これからみんなで変わろうとしている、ということを肌で感じる場を築くことができました。
佐々木 学生は印刷団地にも初めて来ると思うけど、団地を開いていく意味をちゃんと考えてくれました。
齋藤さん 何をやるか?からハードに落としていく考え方は私が建築を学んでいたときからあったけど、今の時代にはさらに、そもそも造るか否かの議論から入るんです。専門家の視点を取り入れて、造るべきか、造るなら新築なのか改修なのか。それがないと、使ってもらえない建築になってしまうんですよね。
佐々木 学生が今まで生きて感じてきたことを建築という手法でこういう風にしたいと言ってくれていると感じて感動しました。
齋藤さん 建築はあくまでも手段なので、学生に、どういう人たちにどう使ってもらえるとこうなる?を問いかけていました。学生にはこういう機会を一緒に楽しむ人になってほしくて。自分で考える機会をどれだけ養えるかは、教育の立場にいるときはいつも考えています。私が“教える”とその人の作品ではなく私の作品になってしまうからです。 “なぜこれがいいのか”を聞きながらディスカッションを繰り返す。一週間後、考えてくる子は考えてくるし、考えられない子は横ばいになる。これは教育でしかできないプロセスで、実社会ではこれをしていると締め切りが来てしまいますからね。建築をやっている人はつぶしが効いて、自分でプロジェクトを動かすことができるので、いろんなジャンルの業界に建築の学生はいっぱいいますよ。
仙台から全国へ
佐々木 仙台・宮城で働くという点においてはどうですか?
齋藤さん コロナ禍も経て、リモートでも働けるし、地方にいた方が積極的にまちや地方と関わりができるし、大きいものをつくれる可能性もある。私は、あえて仙台でやるという道を選んだ方で。自分が学んだ先生は、阿部仁史さんという建築家で、仙台にいながら世界的な建築家になられました。私たちの世代は、設計をやりたければ東京に出ないと話にならん!という時代もありました。そのフェーズに自分が立った時に、全国区になれる事務所が仙台にあれば優秀な学生は残ると思ったんです。でもローカルだけだとぎゅーっと縮こまっていって、新しいものや本当に地域に必要なものが見えづらくなるので。グローバルな視点は必要で、ただ東京を介さずとも情報は発信できるし、地域で世界から評価されている人はたくさんいます。
佐々木 心強いです。最近、ちょっと東京に一回行ってきた方がいいんじゃないかみたいな考えを持ち始めていたのですが、その時点で東京を中心に考えてしまっていますね。
齋藤さん 東京が世界の中心ではないと思うので。学生の目標がどこなのかをしっかり聞きたいですね。
佐々木 学生と向き合うのを放棄してはいけないですね。
<後編>
学生と地域の化学反応で宮城をもっとおもしろく。未来につながる“産学○○”?(後編)
credit
Writer/阿部 ちはる