小林よしのりというと、以前はやたらと戦時中の兵隊さんを美化・賛美して語るのが鼻につく人だったが、さすがに百田尚樹の出現を経てそういう一面的なものの見方しか出来ないネトウヨ的な語りには辟易したのか、
現在では「保守」として、百田尚樹さんや、安倍総理の信奉者をネトウヨや、奴隷根性の持ち主と呼び、どちらかというと井上さんなどの「真のリベラル」に対して、意見を同じくはしないものの経緯を示しているように見える。
この人は良くも悪くも「保守」というものに強いこだわりを持っており、「その当時の偏りに逆張りしていく」というスタイルなので、読んでいて面白い。
小林よしのりが言うことが決して中庸だとは思わないし、とにかく上から目線なので読んでて鬱陶しいと思うことも多いけれどたとえ自分とは意見が違っていても読む価値はあると思う。
さて、そんなわけで今回の「堕落論」だけれど、久々にかなり面白かったのでオススメです。
小林よしのりが凝り固まった持論を述べる部分はだいぶ他の本と比べると少ないので、今まで小林よしのりを読んだことない人でも読みやすいと思う。
ゴーマニズム宣言SPECIAL 新・堕落論 | ||||
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結局のところいつもの「わしのかんがえたさいきょうのほしゅ」および「大衆はアホばかり」という話になるのだが、
「堕落論」とあるように、やや歴史的な文脈や文学小説をひきだしにして語っているので非常に読み応えがあった。
1話だけどうしようもないクソ話があったけどそれ以外はだいたいとても面白い。
まず導入から「後期太宰治」である。紹介してる作品が「トカトントン」や「パンドラの匣」「苦悩の年鑑」である。
太宰治 トカトントン
太宰治 パンドラの匣
それから坂口安吾の「堕落論」を作者なりに解釈してみたり、
シュムペーターの「資本主義・社会主義・民主主義 」イノベーション論と「家族動機」を引き合いに出してみたり。
オルテガの「大衆の反逆」、夏目漱石の「こころ」と乃木大将の殉死を並べて語ったりする。
戦前と戦後で日本人がどう変わってしまったのか、をいろんな文学者の目線を通して語るというわけだ。
文学者から見て
戦時中の人たちはどういう人達だったか。
そして敗戦はそういう人たちにどういう衝撃を与えたのか。
その結果、戦後の日本人はどうなってしまったのか
という風に、ある程度歴史の流れを意識して現在を語っているわけだ。
歴史認識の問題は、近視眼的に見たほうが面白いが、ある程度引いた視線からのほうが理解しやすい。
小林よしのりがそういう視点を獲得しようと努めているのはかなり意外であるが、良い傾向だと思う。
特に面白かったのが「アメリカ・ヨーロッパ・日本」ではそれぞれ「保守」という言葉が意味するものが全く違うという部分である。
同様にして「リベラル」という言葉も、戦後からの変遷をきちんと整理している。
「フェミニスト」という言葉にも「第一波~第三波、ポストフェミ」まで歴史があるように、「保守」や「リベラル」も言葉のもつ意味がが変遷してきている。
その変化をちゃんと整理して理解している人は今あんまりいないのではないかと思われるので、この交通整理はとても役に立つ。
さらに、日本の憲法学者「宮部俊義」の話や共謀罪についての話もあったが、このあたりはまぁ見飽きたのでスルーするとして。
最後に「ニーチェ」の「ルサンチマン」についての詳細な説明から映画「オーディエンス」の紹介があった。この説明がめちゃくちゃ面白そうで、ぜひぜひ見てみたいと思った。
イギリス国立劇場ロイヤル・ナショナル・シアターが、厳選した名舞台の数々をデジタル映像化してスクリーンで公開するプロジェクト「ナショナル・シアター・ライヴ」の日本公開作品第3弾で、イギリス女王エリザベス2世と歴代総理大臣たちとの謁見で繰りひろげられるドラマを描いた「ザ・オーディエンス」を上映。映画「クィーン」でエリザベス2世を演じアカデミー主演女優賞を獲得した名女優ヘレン・ミレンが、再び同役を熱演。同じく「クィーン」のピーター・モーガンによる脚本をもとに、「リトル・ダンサー」「めぐりあう時間たち」の名匠スティーブン・ダルドリーが演出を担当した。
この「ナショナル・シアター・ライブ」自体がすごい面白そうなので、今年の4月くらいになったらチェックしてみる!