二八の法則 - 叡智の三猿

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二八の法則

2月7日はまもなくです。緊急事態宣言は予定通り解除されるのでしょうか、それとも延長されるのでしょうか。

緊急事態宣言後の感染者数の推移を見ると、宣言の効果があるのは明らかです。さらなる効果を進めるのか、一旦、解除して様子を見るのか。どちらの判断をしても、2021年の世相に重要な作用を及ぼすでしょう。

以前、あるアパレル会社のサプライチェーンシステムの設計をしたとき、アパレルの担当者がこんなことを言ってました。

もういっそ2月は何も売らない方がいいんじゃないという意見もあるんですよ。売ることで発生する無駄な費用と、売らなくても店舗の固定費は出てしまうことのバランスは考えるべきでしょうけど。

むかしから、2月とか8月はモノが売れないという話はよく聞きます(「二八の法則」といいます)。

これは消費者の懐にお金がないことが原因といわれます。

2月の前の1月は、新年会やら福袋やら新春バーゲンやらでお金が飛びます。その前の12月は忘年会やらクリスマスやらでやはりお金が飛びます。

冬のボーナスもあっという間に減っていきます。

そうすると、消費者心理としては2月は出費を控えめにしておこうということになります。

8月については、帰省や旅行などのイベントにお金を多く費やします。そこで、モノを買うという点に於いてはマイナスに作用すると思われます。

ただ、実際のところはどうなのでしょうか!?

ちょっと気になったので、日本百貨店協会が公開している統計資料から、東京地区百貨店の2019年の売上高を抽出して棒グラフにしてみました。本来は直近である2020年を抽出するべきですが、2020年はコロナ禍という特殊な状況であることから「二八の法則」を当てはめるのには、不適当と考えました。

東京地区百貨店の2019年の売上高

このグラフを見ると、確かに2月と8月は平均値からの下振れがやや大きいように思えます。ただ、2019年は2月、8月よりも10月の売上が悪いのが目につきます。これは台風19号の影響が甚大であったことから、多数の店舗が臨時休業や営業時間を短縮したことが一時的に影響をしたようです。

やはり「二八の法則」は、ある程度の妥当性があると思います。

わたしはアパレルの担当者の話を聞きながら「2月は何も売らないという発想は面白くていいな!」と思いました。

ただ、その会社は百貨店ブランドを中心とした委託による取引をしています。百貨店の意向もあるので「何も売らない」のは、現実味に欠けると思いました。

小売店との委託というのは、結構やっかいな取引です。売れなければ大量の返品業務が発生します。アパレル会社にとっては、小売店に出荷したはずの商品が、結果的に小売店で売れなくて返品されるのは、利益に貢献しない無駄な仕事です。アパレル会社の本音としては返品を受け付けたくないでしょう。

しかし、返品を受け付けない(返品を受け付けない取引を買取と呼びます)ということは、売れない商品が売り場を占領していることになります。売り場に古い商品が置かれている限り、新たな商品を次々と納品することは出来ません。

それは結果的にアパレル会社にとって不利益となります。返品は必要悪と捉えて、アパレル会社と小売店の間で予め「返品条件」を明確にしておくことが必要なのでしょう。

ちなみに委託ではなく消化という取引形態であれば、アパレル会社はもっと自由に商品をコントロールできます。

消化取引では小売店に置かれている商品はアパレル会社が在庫責任を持ちます。商品が売れたら小売店に手数料を支払います。このため、店舗に置くべき商品の構成や、補充タイミングや補充数量はアパレル会社が主導で決定することが可能です。

消化取引であれば「2月は何も売らない」というアパレル担当者の見解も現実感があります。

なお、小売店にとって消化取引は、在庫責任を持たないという点で、美味しいビジネスに思えます。

ただ、消化取引が百貨店を中心とした小売店の凋落を招いたと思います。

たとえ、商品構成や陳列数・補充タイミングをアパレル会社が握っていても、小売店は「販売のプロ」として主導してやるべきことがあります。

それは、商品をいくらでどのようにして売るかです。

商品の売価や陳列方法、接客方法や店舗での広告は、小売店が主体となって決めるべき仕事です。しかし、実際は消化取引が加速したことで、小売店は商売人のプライドを置き忘れたのかもしれません。手数料ビジネスで百貨店は巨大な賃貸不動産業のようになってしまったと思います。どの百貨店に行っても、似たような商品が並べられ、接客も画一的で、店舗として個性を感じません。

そこに来て、長期化する新型コロナ禍は百貨店にとって打撃しかないと思います。

百貨店の重要顧客である高齢者は外出しにくい状況が続きます。ビジネスマンも在宅勤務が日常化していて、ネットによる購買が加速しています。外出機会が減ると、ファッションにお金をかける意識も薄くなります。

感染対策が成功し、東京オリンピックが無事に開催されれば、需要の特効薬になると思います。ただ、中・長期的にはなりふり構わないリストラしか百貨店の生きる道はないように思います。