イギリスでのHarassment(ハラスメント)とBullying(いじめ)との違いと対応
イギリスでは、政府が認定している団体、 ACAS(エイカス)/ が、イギリスでの仕事に関する問題を無料で相談できる場所となっています。企業からの要望(トレーニング等)にも対応しています。
今回は、イギリスでのHarassment(ハラスメント)とBullying(ブリ―イング/いじめ)から。
イギリスで、上記の2つの違いは何でしょうか?
Harassment(ハラスメント)は、法律( the Equality Act 2010 )で定められているProtected characteristics(保護特性ー年齢・性別・精神的或いは身体の障害・性的再指定・性的オリエンテーション・人種・宗教または信条)に関連した、被害者が望まない行為を加害者が行った場合を指します。これは、加害者が被害者の尊厳を侵害、或いは被害者に対して脅迫的、敵対的、品位を傷つける、屈辱的、もしくは不快な環境を生じさせるものとしています。なお、これには加害者の意図は全く関係なく、被害者にどんな影響を及ぼしたかということが焦点となります。
たとえば、かなり年上の従業員に対して、名前をよばす、「Grandad(おじいさん)」と勝手に呼んでいたマネージャーがいたとすれば、このマネージャーが「冗談のつもりだった」といっても、年上の従業員が尊厳を傷つけられたと感じると、保護特性のうちの「年齢」に関るハラスメントと認定されます。
ハラスメントは場合によっては、 Hate Crime/ (憎しみの犯罪)と認定される場合もあります。Hate Crimeは、裁判で有罪となれば、拘禁或いは罰則、その両方ともなる深刻な犯罪です。
ちなみに、イギリスでもヨーロッパでも名前を憶えていて、名前を会話に入れるのはとても大切なことです。日本で育つと気づかないかもしれませんが、イギリス人を含むヨーロピアンが、外人であるあなたの名前もきっちりと憶えていてくれて(発音はままならなかったとしても)、かつ会話の中にあなたの名前もよくいれてくれることも意識しておきましょう。
なぜなら、これは、「あなたのことを尊重している/あなたの存在を認めている」とことを間接的に表しているからです。
上記の背景もあり、仕事の場(プロフェッショナル・バウンダリー)で、誰かを勝手に「おじさん」「おばあさん」と呼ぶのは、いくら親しみをこめているつもりだったとしても、ハラスメントであり、間違った言動です。
たとえ家族や親しい友人といった親しい関係でも、何でもいっていいということはなく、プロフェッショナル・バウンダリーで動いている場合は、なおさらです。
Bullying(いじめ)に関しては、ハラスメントが法律で定められた保護特性を基準にしているのに対して、特に法律は存在しません。「被害者が望まない行為を加害者が行った場合を指し、加害者が被害者の尊厳を侵害、或いは被害者に対して脅迫的、敵対的、品位を傷つける、屈辱的、もしくは不快な環境を生じさせるもの」という部分は同じです。
例えば、仕事が終わった後、パブに一人を除いて全員が誘われる場合が何度かあり、いつも誘われない一人が「敵対的な環境」だと感じれば、それは「いじめ」と認定されます。仕事が終わった後とはいえ、ひとりを除いて部署全員がいっているとすれば、仕事の延長だと見なされます。
また、イギリスを含むヨーロッパでは当たり前すぎることなのですが、日本のように怒鳴ったり、大勢の前でこき下ろしたり等は、ありえません。いじめかハラスメントに相当するのは当然であり、怒鳴ったり、こき下ろすというとんでもない言動をとった人が厳重注意、最悪の場合は解雇となります。私自身、イギリスで20年以上働き、地球上の様々な場所で育った人々と働きましたが、職場で怒鳴っていたのは日本人だけです。しかも、日本語が分からない英語・ヨーロピアン言語スピーカーたちに日本語で怒鳴っていたので、そういった企業でヨーロピアンがすぐに転職していなくなるのは当たり前でしょう。これらの場合は、怒鳴るという言動をしていた日本人の職位が、その企業や部署で一番上だったため、彼らの解雇とはなりませんでしたが、こういった理不尽な場所では誰も力を発揮できないし、そういう場所に優秀なヨーロピアンたちは当然残りません。
イギリスでは、うつ病は一般的ですが、「適応障害」はあまり聞きません。仕事場で怒鳴られて精神的に「適応障害」を起こすのは、ごく普通の反応です。怒鳴るという理不尽でCivilでない言動をしている人は、自分の感情を、プロフェッショナルな場である仕事場にふさわしく制御することができないということで問題があり、被害者に多大な悪影響を及ぼしているだけでなく、会社全体に敵対的で脅迫的な環境を作り出していることで、会社の生産性・倫理も下げています。厳重注意を受け、言動を修正しないといけないのは、怒鳴るという言動をとっている人です。
もちろん、怒鳴る日本人は少数派で、大多数は理性的にフェアに対応しています。
ヨーロピアンの中でも少し曖昧に感じる例としては、同僚Aが同僚Bにプロジェクトの件でメールを送ると、同僚Bが同僚Aに返信する際に、小さな批判(あからさまに同僚Aを責めているわけではないけれど、同僚Aのプロジェクトの扱いに問題があるのではないか、同僚Aの能力に対してメールを読んだ人が疑いを持つような曖昧なもの)を交えた返信を、プロジェクトやそのメールの件とは関係のない多くの人々にコピーして送る等です。
これも、同僚Bから同僚Aへの「いじめ」と認定されます。
セクシャルハラスメントを例にとると、このACASのオンライン・ラーニングの中であがっていた例は、男性ばかりの部署に女性が一人だけいて、彼女にだけ服装や髪形についてコメント、腕を軽く触る等の行為が同僚からあった場合、これは、「性別」という保護特性にあたることについてのハラスメントのため、セクシャルハラスメントとなります。また、実際に被害者への直接コメントや接触でなくても、性的な話題や性的なことを連想させるような話題をいうことも、部署全体の環境に影響を及ぼすということで、ハラスメントとなります。
イギリスを含むヨーロッパでは、セクシャルハラスメントも他のハラスメントと同様、「力・権力で誰かを支配したいという欲求」からきていることは証明されています。女性がどんな服装や見かけであっても、日本のように「若い女性が男性に混ざっていること自体が挑発的(=男性に性的欲求を起こさせるのは女性のせい)」という考え方は全く存在しないし、これはレイプ神話の一つで、立場の弱い女性に加害者の責任を押し付けるものです。
職場は、誰もがプロフェッショナルとして働きにきている場であり、プロフェッショナル・バウンダリーを常に意識しておく必要があります。
ハラスメントやいじめは、上下の序列が厳しい職場では特にエスカレートすることが既に分かっています。
日本だけに住んでいると気づかないかもしれませんが、ヨーロッパと比べると、日本は異常なレベルで上下の序列や男尊女卑が強い場所です。
日本だけで育った場合は、そのバイアスを無意識にもっていることもよく認識し、自分のほうが立場が上であるときは特に(同じ職位・年齢でも男性である、勤務年数が少し長いというような小さなことでも)、自分の言動には注意しましょう。
どんな場合でも、ひととして誰もが対等であり、立場や状況に関わらず尊敬をもって接することは意識しておく必要があります。
たまたま特定の場所(特定の会社)で特定の期間における職位の関係で序列に上下があるとはいえ、ひととしての上下があるわけではないし、序列の下の人を奴隷やサンドバックのように扱っていいというわけではありません。
日本だけに住んでいると気づかないかもしれませんが、ヨーロッパと比べると、日本は異常なレベルで上下の序列や男尊女卑が強い場所です。
日本だけで育った場合は、そのバイアスを無意識にもっていることもよく認識し、自分のほうが立場が上であるときは特に(同じ職位・年齢でも男性である、勤務年数が少し長いというような小さなことでも)、自分の言動には注意しましょう。
どんな場合でも、ひととして誰もが対等であり、立場や状況に関わらず尊敬をもって接することは意識しておく必要があります。
たまたま特定の場所(特定の会社)で特定の期間における職位の関係で序列に上下があるとはいえ、ひととしての上下があるわけではないし、序列の下の人を奴隷やサンドバックのように扱っていいというわけではありません。
イギリスでは、ハラスメントやいじめがあった場合、加害者個人と会社両方が訴えられる可能性があります。
ハラスメントやいじめを起こさない環境をつくることは、会社の義務です。
ハラスメントが起きた場合の、通常のプロセスは以下です。
①ハラスメントの被害者が、スタッフハンドブックや会社の規則に従って、ライン・マネージャーや担当者に話す。(Informal)
②担当者・担当部署は、速やかに調査を行い(ハラスメント被害者の安全と機密性は最大限に守りながら)、状況を確認し、加害者と話す。この目的は、「被害者にとって状況が悪化することを防ぐ」「正式な懲戒解雇へとつながる誰にとってもストレスフルな状況を避ける(ハラスメントがひどい場合や警察へ通報が必要な場合等はもちろん除く)」「加害者が自分の言動が被害者に引き起こしている影響に気づき、言動をただし、謝る機会を与える」です。間違っても「加害者の気持ちを慮ったり、加害者の身を守る、加害者の顔をつぶさないため」ではありません。
③上記でも状況が変わらない場合、さらに正式に被害をエスカレートさせるプロセスがあればそれを実行し、それでも解決しない場合は、裁判となります。
運悪く、ハラスメントやいじめのターゲットとなった場合は、「いつ/誰が/どこで/どのような言動をとったか/目撃者がいれば目撃者の情報/自分がどう感じたか」をメモしておきましょう。これは自分でVoice recorderに吹き込む形でもかまいません。どんなに小さく見えることでも、パターンが見えることが大事なので、きちんと記録を残しておき、安全な場所に保管しておきましょう。
加害者は往々にして狡猾で、巧妙にターゲットや機会をうかがっていることが多く、権力もネットワーク力ももっているため、被害者が訴えにくい、或いは訴えても誰も信じてくれないのでは、というまやかしを作り出します。それを打ち破るためにも、記録は重要です。
被害者も周りの人たちも、加害者が100パーセント悪く、被害者に非はないことを理解しておく必要があります。
会社と従業員の間には、Mutural trustとMutural confidence(お互いの信用と信頼)があることが前提となっています。
ハラスメントやいじめを防ぐため、会社の規定には、以下の項目をいれることをACASではすすめていました。
①ハラスメントもいじめも100パーセント許さない、という明確なポリシーをもっていること。ハラスメント・いじめが起こった場合のプロセスは明確であり、加害者は加害の事実の責任から逃れられないことが明確であること。責任の所在が明確であること(同僚同士のいじめ・ハラスメントであれば、マネージャーやラインマネージャーが責任者。ラインマネージャーから部下へのハラスメント・いじめであれば、所定部署の担当者が責任者等)。どのようにこのプロセスが見直され、実際に運用されるかが明確であること
②オープンな環境を保ち、職位に関わらず誰もが気軽に話せるようにしておく。上下の序列が強い環境にはしない(=権力の集中が起こらない環境にする)
③フェアなプロセスを保つ:被害者の機密性を保つ、素早い対応等。これは、加害者の人権を守ることも含む。加害者や加害者の周りのひとが、被害者を悪く扱ったり脅したり、訴えを取り下げるようプレッシャーをかけたりしないようにする
④標準となる言動を示す: 誰もが職場でどのようにふるまうべきかを理解している/明確に具体的に、何が許される言動で、何が許されない言動かを示す
⑤すべての従業員と明確なコミュニケーションを行う: 規則は、変更があるたびに全員にきちんと説明され、誰もが自分の権利と責任を理解している。トレーニングを行う。誰もが、ハラスメント・いじめが起こった場合は、迅速にフェアな調査が行われ、規則に見合った結果(懲戒免職等)があることを明確に理解している
イギリスやヨーロッパで開催されている「働くこと」についてのウェビナーにはいくつも参加していますが、法律を厳しくし、きちんと監査する機関があり、かつ罰則がきちんと行われることも重要ですが、もともと権力の集中しない組織を作ること、社会や一人一人の認識と行動が変わることも大切だとしています。
ヨーロッパでは既に基本的人権は社会の基盤となっているのですが、日本の場合、この基本的人権の内容を正しく理解し実行すること、基本的人権が侵害された場合にきちんと抵抗することを教える必要があるでしょう。
ヨーロッパと比べると長い道のりですが、不可能ではないし、一人一人が変れば社会も変わり、企業や政府も変わらざるを得なくなります。
誰もが安全で、それぞれのいいところを発揮してよい社会をつくっていくことは手の届くところにあります。
よりよい社会を求めて希望を元に変化を起こすことも可能であれば、恐れに足を取られてどんなに悪い場所・状況でも変化がないのが一番と縮こまり動かない選択も可能です。
私たちみんなが、勇気を出して一歩をふみだせば、より早い速度で実現するでしょう。