TCFD提言に沿った情報開示
気候変動に関連する当社グループ事業への影響
竹中グループは、「竹中グループCSRビジョン」に基づいて社会課題を解決し、サステナブル社会を実現するため、重要課題(マテリアリティ)を2022年に見直して5つのカテゴリーで設定しています。その1つが「環境との調和」であり、脱炭素・資源循環・自然共生を統合的に進めることで、環境に配慮した建築・サービスの提供や環境負荷低減に取り組み、サステナブルな社会の実現を目指しています。
当社グループは、2019年に気候変動による事業影響、リスク・機会の分析、および戦略への反映の検討を開始しました。2021年1月には「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」 の提言に賛同し、関連情報開示を行っています。
ガバナンス
地球環境、生物多様性、資源循環の各分野における取り組み状況は、分野ごとに設置している全社・グループ横断ワーキンググループで統括的に把握し、地球環境専門委員会に報告しています。地球環境専門委員会は、サステナビリティ分担役員を委員長として年4回開催し、気候変動への対応を含む地球環境問題に関する活動や対応を審議しています。地球環境を含むサステナビリティに関する重要な方針及び計画は、その上位のサステナビリティ中央委員会(旧CSR推進中央委員会)で審議、立案しています。代表取締役社長を委員長とし、年3回開催されます。これら委員会の事務局は経営企画室サステナビリティ推進部が一括して担当します。また、これら委員会での審議結果のうち、重要な決定は経営計画中央委員会の審議を経て取締役会でおこない、代表取締役社長に報告しています。決定・指示事項は、各委員会及び全社・グループ横断ワーキンググループを通じて周知されています。
戦略
時間軸の定義
重要課題(マテリアリティ)の設定、及びリスク、機会の分析にあたっては、2050年のカーボンニュートラルを目指す「環境コンセプト」における長期の時間軸(12年以降)、2030年を目標年とするSDGsを考慮して「2030年のグループのマイルストン」を中期の時間軸(3年以降11年先まで)、そして経営3か年計画の立案サイクルである短期の時間軸(2年先まで)で検討を行っています。なお、2050年、2030年は当社グループの「CO2削減長期目標」のターゲット年にもなっています。
リスクと機会の特定プロセス
2024年3月にサステナビリティ中央委員会に再編された旧CSR推進中央委員会、及びその下部の地球環境専門委員会ならびにその傘下の全社横断ワーキンググループである地球環境推進ワーキンググループでは、気候変動に関するリスクや機会をはじめ、事業に関連する品質、安全、などのリスクを中心に把握し、評価して対応を検討しており、取締役会に報告し、意思決定しています。
当社事業における重要課題(マテリアリティ)の特定、および、長期的なリスク・機会について、2019年に地球環境専門委員会の下部に設置されている地球環境推進ワーキンググループで本社部門横断で外部有識者の意見も参考にしながら検討し、2015年に合意されたパリ協定やSDGs(持続可能な開発目標)などとの関係性も整理して、旧CSR推進中央委員会で審議しました。
気候変動の影響に関する基本認識
近年、日本においては気候変動に伴う異常気象により毎年のように大型台風上陸や集中豪雨が発生しています。竹中グループにおいては台風での風の影響が大きい超高層建物や土木構造物や集中豪雨による浸水被害の影響が大きい大規模地下のある建物などを多く施工していることから、これらの気候変動による影響リスクが大きいと認識しています。気温の上昇や自然災害の激甚化によって、建設現場における熱中症などの健康リスク上昇や輸送網の混乱などによる工期遅延リスクが想定されます。
一方で、日本国内では家庭・業務部門のCO2削減が喫緊の課題とされ、「建築物省エネ法」の改正によって、適合義務化の範囲が拡大するとともに、建築物のエネルギー消費性能の一層の向上を図ることが求められています。建築物の省エネルギー性能は、建物耐用年数にわたってお客様(建築主)の温室効果ガス排出量に大きな影響を及ぼすとともに、建物建設時の主な調達資材である鋼材やコンクリートなども製造時の温室効果ガス排出量が大きいという特徴があります。また自社事業では、建設現場で使用する重機の燃料や事業全般で使用する電力が、温室効果ガスの主な排出源になっています。
シナリオ分析
リスクと機会を特定するために2つのシナリオを設定し、影響レベルと対応施策を設定しました。
1.5℃シナリオ(参照シナリオ:IEA(国際エネルギー機関)NZE)
パリ協定の1.5℃目標達成に向けたあらゆる政策がとられ、最も移行リスクが高まるシナリオとして、IEA NZE(2050年ネットゼロ排出シナリオ)を採用しました。IEA NZEは2050年までのネットゼロの達成に必要なエネルギーシステムにおける幅広い変化が前提となっています。同シナリオに沿って、既存の法規制の強化や新たな法規制の制定をインプットとして、CO2削減に寄与するエネルギー効率の大幅な改善(効率的な設計、利用、リサイクルを促進する取り組みの追求など)が市場から求められ、そのための技術開発投資が促進されていく事業環境を想定しています。
2022年には2019年に特定したマテリアリティを見直しました。気候変動に関連する重要課題 には「環境との調和」があり、その解決のために事業上の移行リスクと機会を分析し戦略を検討するにあたり、前提となる気候変動関連シナリオとして、IEA NZEを採用しました。
4℃シナリオ(参照シナリオ:IPCC(気候変動に関する政府間パネル) SSP5-8.5)
IPCCのSSP5-8.5は、経済成長を優先して化石燃料の使用が継続し、温室効果ガスの排出が非常に高い水準で推移する事業環境を想定しています。2030年~2040年頃までに平均気温は1.5℃以上上昇する可能性が非常に高く、更に21世紀末までに平均気温が4℃以上上昇する可能性があります。中長期的には大雨や台風の強度が強まり、洪水等の自然災害によって都市インフラへの影響増大を想定しています。
気候変動の潜在的な物理リスクを評価するため、IPCC AR6(第6次評価報告書)において想定された5つのシナリオのうち、気候変動対策において最も保守的なシナリオとして採用しました。
シナリオ分析の結果として、5つのリスクと4つの機会を特定しました。
リスク
- ・建築物省エネルギー法の規制強化に伴う建設コスト増大:国内で喫緊の課題とされる家庭・業務部門のCO2削減のため「建築物省エネ法」による規制対象の拡大・義務化、基準の大幅な引き上げが進み、断熱・省エネ性能向上のための研究開発投資や仕様の見直しによる原価増が見込まれています。
- ・炭素税・排出量取引制度の導入によるコスト増大:政府は2026年から排出量取引制度を本格導入し、2028年から化石燃料輸入事業者を対象に炭素賦課金の導入を予定しています。一方で、排出量取引制度の具体については現在政府内で検討が進められており、今後の制度の動向によっては当社が義務化の対象となり、温室効果ガス排出量の削減目標が達成できない場合には当社グループの新たなコスト増要因となります。また、受注競争においても排出量削減が重要な要件となる可能性が見込まれます。
- ・低炭素工法の不足による受注競争力低下:建築工事においては、客先のニーズに対応する低炭素工法の技術がないと受注機会を逃すリスクが高まります。また、土木工事においては,現在,国土交通省の発注活動 においても,気候変動に関する認証の取得が受注要件になっています。
- ・建設現場での熱中症発生に伴う生産性低下リスク:主力である国内都市部の建築工事では外部や空調が非稼働の内部空間等、熱中症が発生しやすい環境での作業が多くなっています。熱中症発生の増加や作業制限による工期の遅延によって生産性低下の可能性が高まります。
- ・大規模自然災害による工期遅延:ゲリラ豪雨、台風などの大規模自然災害の増加によって、建設資材の供給が遅れて工事遅延が生じる可能性が高まります。
機会
- ・ZEB、エネルギーマネジメントシステムの受注機会拡大:パリ協定に基づく日本の中期目標(2021年に表明した2030年に温室効果ガス排出量を2013年比46%削減)は、より野心的な目標となり、国内外の建築、都市における脱炭素に向けたトレンドは一層加速され、ZEB(ゼロエネルギービル)の需要が急速に増加すると想定されます。ZEBを実現するために必要な再生可能エネルギー由来のグリーン電力需要が拡大すると予想されます。
- ・中高層木造・木質建築の受注機会拡大:伐採木材製品の炭素貯留効果が見込まれ、温室効果ガス排出量が少ない建築構造として、中高層の木造・木質建築に対する市場ニーズの高まりが想定されます。
- ・先進的な技術開発による受注機会拡大:低炭素コンクリートやCO2吸収コンクリートなど、当社が取り組んできた環境性能ニーズを先取りした技術開発によって、受注機会拡大の可能性が想定されます。
- ・レジリエンス需要の高まりによる受注機会の拡大:防災・減災・国土強靭化需要の高まりによって、当社が研究開発に取り組んできた関連技術を端緒とした受注機会拡大の可能性が想定されます。
リスクと機会の財務的影響については、当社グループ売上高の 90%超を占める主要事業である建設事業において、予定売上原価や工程に負の影響を及ぼす事象を財務上の重要なリスクと定義しています。
- *リスクの影響レベルは、Ⅰ:100億円以上、Ⅱ:30億円以上100億円未満、Ⅲ:30億円未満、機会の影響レベルは、A:50億円以上、B:50億円未満としました。
- *影響時期は、短期:0~2年先、中期:3~11年先、長期:12年以降としました。
これらの結果を反映して、事業機会獲得やリスク回避のための技術開発投資を拡充するなど、事業戦略に反映しています。技術開発の中でCO2削減など気候変動対応に特化した予算を設定しています。
リスク管理
リスク・機会の特定プロセス
- 1.SDGs、ISO26000(社会的責任に関する国際規格)、GRIスタンダードなど国際的なガイドラインを参照し、70余りの社会的課題の候補リストを作成しました。
- 2.課題の候補リストを社会と自社の2軸での重要度を5段階(5:とても重要、4:ある程度重要、3:重要、2:あまり重要でない、1:重要でない)で評価し、最重要課題領域(社会からの要請も大きく(5または4)、短・中・長期での事業機会とリスクに最も強く関係する領域(5または4))、重要課題領域(社会からの要請は現時点では一定レベル(3)にとどまるものの、事業を通じて社会に積極提案していく領域(5または4))における20の課題を決定しました。
- 3.それらの重要課題に対応する方策と目標値を「サステナブル社会に向けた2020-2022年活動計画」として設定しました。6つの重要課題グループのうち、気候変動への対応に関係するものは「持続可能な建築・まちづくり」「環境との調和」「着実な生産プロセス」の3つが該当します。
方策と目標値の策定後は、取り組み状況を定期的にモニタリングし、必要な軌道修正をおこなっています。とくに重要な方針転換等については取締役会で決定しています。2022年に重要課題を見直した結果、「持続可能な建築・まちづくり」「環境との調和」「働き方・生産性改革」「着実な生産性プロセス」「人権の尊重」の5つの重要課題グループと13の重要課題に集約しました。重要課題グループの一つである「環境との調和」は、ライフサイクルCO2ゼロ建築への挑戦(脱炭素)、自然と共生する建築・まちづくり(自然共生)、資源を循環させるまちづくり(資源循環)の3つの重要課題から構成されています。
リスク管理プロセス
「環境との調和」を構成する3つの重要課題における目標値と具体的な施策を「竹中グループ環境戦略2050」として設定しています。本戦略は、旧CSR推進中央委員会が上程し、経営計画中央委員会での審議を経て、取締役会で決定しています。また、その決定によって、中期経営計画にも組み込まれています。その施策と目標値は各部門の3か年計画に展開され、取り組みの進捗は地球環境専門委員会の傘下に設置している全社・グループ横断ワーキンググループの活動を通じて管理されています。
全社的なリスク管理体制への統合
全社的なリスク管理のため危機管理委員会が定常的に年2回、及び重大リスクの発生時など必要に応じて臨時で開催されており、気候変動に関するリスクや機会をはじめ、事業に関連する品質、安全、などのリスクを中心に把握し、評価して対応を検討しており、取締役会に報告して意思決定しています。
指標と目標
目標
2019年12月に「CO2削減長期目標を設定、2021年3月には目標値を引き上げて、2050年にCO2排出量100%削減を目指しています。さらに、2022年12月に竹中グループ(連結)全体を対象とした目標に拡大しました。2030年目標について、2024年3月にSBT認定を取得しました。
指標と目標値
竹中グループCO2削減長期目標(2022年12月設定)
スコープ1+2: 2030年までに46.2%削減、2050年までに100%削減
スコープ3: 2030年までに27.5%削減、2050年までに100%削減
(基準年:2019年)
実績
CO2排出量(t-CO2) | Scope1 | Scope2 | Scope1+2 | Scope3 |
---|---|---|---|---|
2019年(基準年) | 100,990 | 48,471 | 149,460 | 7,489,605 |
2020年 | 105,990 | 47,421 | 153,097 | 6,168,139 |
2021年 | 96,990 | 42,954 | 139,944 | 4,359,310 |
2022年 | 107,595 | 36,612 | 144,207 | 5,544,767 |
2023年 | 165,791 | 46,951 | 212,742 | 4,812,865 |
Scope 3については、Category1(購入した製品・サービス)、Category2(資本財)、Category3(Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動)、Category4(輸送、配送(上流))、Category5(事業から出る廃棄物)、Category6(出張)、Category7(雇用者の通勤)、Category11(販売した製品の使用)、Category12(販売した製品の廃棄)、Category13(リース資産(下流))、Category15(投資)を算出しています(Category8~10, 14は事業に関連しないので算出していません)。その中で、Category1及びCategory11の排出量が多くを占めています。
算定対象範囲は連結グループ会社を含む竹中グループ全体としています(但し、Scope3のCategory1, 4, 5, 11, 12については、全体に対する構成比が小さくかつ算定負荷が大きい海外工事は算定除外範囲としています)。