観測的宇宙論
宮武 広直
MIYATAKE Hironao
2021年度採用
名古屋大学
素粒子宇宙起源研究所
准教授
研究領域:自然科学一般
専門分野
キーワード
重力レンズ
銀河団
銀河
サーベイ天文学
データサイエンス
所属学協会
日本天文学会
日本物理学会
American Astronomical Society
主な研究内容
1990年代後半、Ia型超新星の観測により宇宙は加速膨張していることが明らかになりました。宇宙では天体同士が重力で引き合っているので、直観的には減速膨張するはずです。この加速膨張は素粒子物理学や一般相対性理論といった現代物理学の根幹をなす基礎理論では根本的な説明はできないため、これらの基礎理論の変更を示唆している可能性があります。そのため、世界中の研究者が最先端の望遠鏡で観測された大規模データを用いて加速膨張の起源に迫ろうとしています。
私は宇宙の大規模構造を用いて宇宙の加速膨張の性質を測定する研究を行っています。大規模構造は銀河や銀河団が網の目状に連なってできる数十億年規模の非常に大きな構造です。宇宙の大規模構造は加速膨張の影響を受けるため、大規模構造の時間進化を測定することで宇宙の加速膨張の性質を調べることができます。
本研究では、宇宙の大規模構造から得られる統計量のうち、銀河団の単位体積・単位質量あたりの個数を測定することで宇宙の加速膨張の性質に制限を付けることを目標にしています。銀河団は、宇宙の加速膨張の程度が大きいと物質が集まりづらくなり重たい銀河団の数が減るなど、加速膨張の影響を大きく受けます。ここで重要なのが、銀河団の質量を正確に測定することです。宇宙の物質の大部分は光を発さない暗黒物質で構成されているため、望遠鏡で光っている物質(例えば銀河など。これらを総称してバリオンと呼びます。)を見ているだけでは銀河団の質量を正確に測定することはできません。そこで、私はバリオン・暗黒物質の区別なく全物質の質量を測定することを可能とする弱重力レンズ効果と呼ばれる現象を用いて銀河団の質量を正確に測定する研究を行ってきました。
現在までは暗黒物質だけからなる数値シミュレーションを用いて、銀河団の個数や弱重力レンズ効果の理論モデルが構築されてきました。ところが、近年のデータの大規模化によって統計誤差が劇的に小さくなる中で、このような理論モデルの精度は不十分であり、バリオンの効果を入れる必要があることがわかってきました。本研究ではこのバリオンの効果を定量化し、より精密に銀河団の個数から宇宙の加速膨張の性質を測定することを目指します。
論文
Miyatake H., Battaglia N., Hilton M., et al., “Weak-lensing Mass Calibration of ACTPol Sunyaev-Zel’dovich Clusters with the Hyper Suprime-Cam Survey,” ApJ, 2019, 875, 63
Miyatake H., Nishizawa A. J., Takada M., et al., “Subaru weak lensing measurement of a z = 0.81 cluster discovered by the Atacama Cosmology Telescope Survey,” MNRAS, 2013, 429, 3627
研究紹介
本事業を通じて解決を目指す世界的課題
次世代大規模銀河サーベイによる精密銀河団宇宙論
本研究ではすばる望遠鏡超広視野カメラHyper Suprime-Cam (HSC)による大規模撮像銀河サーベイのデータを用いて、銀河団の単位体積・単位質量あたりの個数を測定し、宇宙の加速膨張の性質に世界最高精度で制限を付けることを目指します。そのためには、観測量(銀河団の個数と弱重力レンズ効果)の精密な理論モデルを構築する必要があります。本研究では、私が立ち上げに関わった国際研究グループBaryon Pastersと協働し、バリオンの影響を考慮した理論モデルを構築します。具体的には、流体シミュレーションに機械学習を適用することで、銀河団の物理的性質と観測量を関連付けるなどの研究を進めていきます。また、研究室に所属する大学院生と本研究を行うことで、将来国際的に活躍できる大学院生の育成を目指します。
インタビュー
インタビューはありません