大学で「歴史学」を学んでみませんか?「高校で学ぶ歴史科目は暗記ばかり…」と思う人は多いかもしれませんが、大学で学ぶ「歴史学」は暗記の世界ではありません。歴史について論理的な思考で多角的に検証する「学問」であり、大学の歴史学は奥深く面白い世界なのです。歴史学を専攻している現役大学生4名が集まり、「歴史に興味を持ったきっかけ」から「高校時代の勉強法」、さらには「歴史を学ぶ理由」まで存分に語り合いました。
歴史学の“沼”にどっぷり浸かっているからこそ話せる、「歴史学」の魅力とは――。大学で歴史を専攻したい高校生だけではなく、歴史が苦手な高校生も読む価値あり!見えてくる世界が変わるかもしれませんよ。
~登場人物~
Rさん:大学4年生。専攻は東洋史(オスマン史)
Mさん:大学3年生。専攻は考古学(発掘調査)
Yさん:大学3年生。専攻は西洋史(西洋中世史)
Nさん:大学4年生。専攻は日本史(日本現代史)
1. なぜ大学で「歴史」を専攻しようと思ったのか?
Nさん:
まずは「なぜ大学で歴史学を専攻しようと思ったのか」、そのきっかけから話していこうと思います。Mさんいかがですか?
Mさん:
私は今大学で「考古学」を専攻していますが、志望するようになったのは小学5年生の時に校外学習で古墳の見学に行ったことがきっかけです。当時自分の中にピラミッドブームが来ていたのですが、古墳の存在を知って「日本にも大きなお墓があるんだ」と歴史に興味を持つようになりました。
中学・高校での歴史は暗記ばかりの授業内容で初めは面白く感じなかったけれど、高2で受験勉強を始めて、歴史的背景を知るうちに歴史の面白さに気づきました。学問として一番興味があったのが歴史学だったし、大学で学びを深めてみようと思いましたね。
Rさん:
受験勉強がターニングポイントになっているんだね。私は元々歴史を扱ったゲームやアニメが好きで、それがきっかけになっているよ。
たとえば有名な「ルパン三世」では考古学的な内容がネタになっていたりするから、それが気になって調べているうちに歴史に興味を持つようになったんだよね。
大学の学部選択では就職に役立つ学部を考えたこともあったけれど、それよりも好きなことを4年間じっくり学びたいと思ったのが最大の理由かな。
ドイツ、特にプロイセン史が好きで、でも高校生の時に資料集で見たイスラム建築が忘れられず、東洋史を選択した。東洋史はカバーできる範囲が広くて、実際はヨーロッパ史も扱うことができる。その自由度の高さが魅力だよ。
Yさん:
元々興味のあったドイツ(ヨーロッパ)と、イスラム圏をどちらも研究できるのは東洋史の特徴ですよね。
私は子どもの頃読書が好きで、その中で世界の偉人を扱った漫画を読み始めたのがきっかけです。他にもピアノを習っていたので音楽家の歴史についての本を読んだりして興味を持ちました。
あと一時期オランダに住んでいたことがあって、教会や資料館に行って本物を目にする機会が多かったから、私にとって歴史の入口となったのが西洋史ですね。アムステルダムにあるアンネ・フランクの家に数回行ったことでナチスに興味を持って、大学で専攻しようと思って受験しました。
Nさん:
オランダに住んでいたんだ、知らなかった!本物を見るってとても大事なことだよね。
私は小学生の時、学校の図書館にあった歴史漫画を全て読破したことをきっかけに、歴史、特に日本史に興味を持ったんだ。そこはYさんと同じだね。
中学・高校の頃は日本史が最大の得意科目だったけれど、さらに日本全国の博物館に行ったり、新書が好きで日本史を扱う本をたくさん読んだりして、大学で「学問としての日本史」を深く学びたいと考えるようになった。
初めは幕末史と鎌倉時代に興味があったんだけど、高校で日本史の細かな部分まで学ぶうちに、古代から現代まで色んなところに興味を持つようになって、具体的に何を専門としたいか受験までに決めきれなかったんだ。そこで大学入学後しばらくは、広く浅く歴史を学べる環境に身を置きたいと考えて大学選びを進めたよ。
Mさん:
日本史は身近なトピックが多いから、興味を持ちやすい分野ですよね。
私も今は考古学を専攻しているけれど、初めは日本史を専攻しようと思っていたんです。
Rさん:
そうだったんだ。確かに日本史と考古学ってそう遠くない存在だよね。
2. 今、大学で学んでいる「歴史」
Nさん:
皆さんきっかけはさまざまですが、共通して「好きなことをとことん突き詰めてみたい」という気持ちが大きな理由となっていますね。
続いて、現在大学で専攻している内容について。印象的だった授業や卒業論文(卒論)の内容、またあわせて、資格や免許を取得しようとしていたら、それについてもぜひ教えてください。
Yさん:
私は先ほどナチスに興味があると言ったけれど、今は西洋中世史、特に教会音楽のひとつである「グレゴリオ聖歌」に興味があって文献を読んでいるところで、このまま卒論のテーマにも教会音楽史を据える予定です。
印象的だった授業は「中世都市史」。西洋史を勉強していると「魔女狩り」という言葉をよく聞くけれど、実際に被害者となった人物がどのような職業についていたのかについて、知ることができました。コロナ禍ということもあって、感染症、特にペストについて深掘りできたのも面白かったです。
Mさん:
私は専攻している考古学の方法論や発掘調査、整理作業に必要な技術を学んでいます。卒論では縄文時代を対象とした植物考古学について検討していて、縄文人の植物利用を通して彼らの生活の一端を明らかにできたらと思っています。
印象的だった授業は「考古学実習」!授業の一環で発掘調査に6日間参加しましたが、発掘現場に行くと、道具の扱い方や遺物の整理、遺構の解釈など、大学の座学だけでは学べないことを勉強できました。実際の発掘はあまりにも楽しすぎた!(笑)
将来は埋蔵文化財職員を目指しているので、学芸員資格の勉強もしています。
Rさん:
私はイスラム史を扱うゼミに所属していて、卒論ではオスマン史について研究しています。他には高等学校教諭一種免許(地理歴史)の勉強もしています。
印象的だった授業は「アフリカ史」。アフリカを歴史学上でどのように扱うかということや、エチオピアを中心にキリスト教との繋がりを学んだり、他にも伝承(伝説)と史実の違いやコーヒーの歴史などについても勉強したりしました。高校世界史ではアフリカ史をほとんど扱わないから目新しかったですね。
「歴史学」は文字のある歴史を対象としている学問ですが、文字がない地域の歴史を描くにはどうするべきか、試行錯誤してアプローチを考えることがとても興味深かったです。
アフリカは、以前はヨーロッパをも凌ぐ高度な文明があった場所なので、現代の「発展途上国」とされている印象を疑っていくことが楽しかった。
Nさん:
私は日本現代史を専攻しています。大学2年生までは鎌倉時代の仏教と政治の関係性について研究しようとしていたのですが、将来的な進路を考えた時に日本現代史のゼミで卒論を書きたいと考えました。その卒論では雑誌の誌面の変遷を調査して論文を作成しています。
他にも中学生の頃から「大学では必ずミュージアムについて勉強したい」と考えていたので、学芸員資格取得のための授業も履修中です。
私は「戦後日本の政治史」の授業が印象に残っていますね。第二次世界大戦が終わった後の日本政治の歴史を辿っていく授業なのですが、講師の先生が政治に長く関わっていた方で、政治家にまつわるエピソードがふんだんに盛り込まれた授業は、ただ話を聞いているだけでもとても面白かったですよ。
初めは政治に興味が無かったし、大学受験時は戦後政治史がとても苦手だったけれど、この授業を通して政治の難しさと面白さを知ることができました。
3. 大学での学びを通して自身の変化はあった?
Nさん:
これまで歴史学・考古学を学んできて、自分自身に変化はありましたか?
Mさん:
私は積極的に行動できるようになりました!大学では先生が何でもサポートしてくれるわけではないから、自分で何かしたいと考えた時に自分で調べて行動を起こすことがとても大切です。
実際に考古の発掘現場に自分から参加するようになりました。
大学生はやる気さえあれば何でも学べるし行動に移せる環境にいるので、たくさんある時間を有効活用して活動するべきだと思います。
Yさん:
私もそれには賛成です。大学生は行動力が問われますね。
何もしないで過ごすこともできるけれど、それはあまりにももったいない。たくさんの機会と選択肢が与えられるので、何でも果敢に挑戦するべきだと思います。
Rさん:
私は歴史学での学びを通して、ものの見方が大きく変わったよ。物事や情報をそのままの状態で受け取るのではなく、そこにある意図や背景を探るようになって、洞察力が身についたと感じている。
もうひとつ、世界に対する解像度が上がった。これまであまり関わってこなかった世界や文化圏に飛び込んでいけるようになったし、広く「文化」に興味を持つようになってさまざまなことに親近感を覚えている。だから私とは異なる文化圏に関することでも、知識がないゆえに生じる「怖さ」というのは感じなくなったよ。
歴史学を通して自分の目で見て判断できるようになったし、これまで持っていた偏見も自分の力で理解して新たな世界へと進めていくために、何をするべきか考えられるようになったのが良かったと思う。
Nさん:
たしかに私も大学に入学してから視野が広がって、多様性を意識するようになったな。
高校って思いのほか狭い世界だったということに大学生になってから気が付く。大学に入学すると一気に世界が広がっていくことで生まれる面白さがあるね。
4. 高校時代の「歴史」勉強法
Nさん:
ちなみに皆さんは高校時代、歴史科目を勉強する上で心掛けていたことはありますか?
Rさん:
「歴史科目は暗記」と言われているけれど、私は歴史科目は単なる暗記科目ではないということを、声を大にして言いたいです。
歴史科目は覚えることが多くて、丸暗記することで点数が伸びることもある。でも長期的な記憶には繋がらずにすぐに忘れてしまうから、勉強する時は「歴史の流れを意識すること」が何より大切!
Yさん:
私も同じです。歴史の流れを意識するためにも、「一問一答」形式の問題集はメインでは使わないようにしていました。一問一答だと知識がぶつ切り状態になってしまうので、あくまでもアウトプットする時や最終確認に少し使う程度でした。
内容をインプットする時はとにかく、時代の流れと歴史的背景を理解することが重要だと思います。
また世界史では、複数の国の話が同時に進んでいるから、「横のつながり」を意識した勉強も必要です。日本史でも、各時代で政治・文化・経済とそれぞれのカテゴリに分けて勉強するけれど、同じ時代の政治や文化の関連性についても知っておく必要があるから、やっぱり「横のつながり」を意識した勉強は必須ではないでしょうか。
Nさん:
インプットとアウトプットのバランスは重要だよね。歴史科目はインプットばかりになりがちだから、紙に書き出して自分でまとめてみたり、過去問や論述問題に挑戦することも忘れないでほしいね。
Mさん:
歴史科目はたくさんの知識を体系的に整理することも必要ではあるけれど、まとめノートを作るのは時間がかかってしまって勿体ないから、教科書に直接書き込んで「自分の1冊」を作るのが効率的かつ確実でいいと思います。
Nさん:
確かにそうだね。私は資料集にたくさん書き込んでいたよ。
間違えやすいところにマーカーペンで線を引いたり、ポイントを書き込んだりしてボロボロになるまで使ったな。
5. 歴史学を学ぶ理由って?
Nさん:
ところで、大学で歴史学を学んできた今だからこそ考える、「歴史学を学ぶ理由」は何だと思いますか?
Mさん:
私は「知的好奇心」であると思います。歴史学って今を生きていく上では優先順位は高くないし、必要ではないと考えている人もいるかもしれない。でも歴史学は知的好奇心を満たすことができると考えていて、皆がそれを望んでいるから博物館があると思います。
必ずしも全てに意味を見出す必要はないんじゃないでしょうか。私はとにかく歴史が大好きだから、ということが理由になっています。
Rさん:
「歴史が好きだから」というのはとても重要だよね。
私は歴史学が現代社会の「教科書」となっていることが、歴史学を学ぶ理由だと考えています。現代に至るまでに積み上げられた、人間のトライ&エラーを全般的に司る学問を学ぶことは、これから生きていく上で、歴史の上を歩む者として必要なことだと思うんだよね。
また広範囲の歴史を学ぶ理由としては、自分のアイデンティティを確固たるものにするためだと思うんだ。他者に出会った時に自分と他者を混同しないため、相手の思考や心情などを理解するためにも、歴史を学ぶことは人間として必要なことだと考えます。
Yさん:
私は「自分たちの存在自体を考えるきっかけとなるから」だと考えます。長い歴史の中で、何か小さな躓きがあれば私たちは存在しなかったかもしれない――そう考えると勝者の歴史である「書かれた歴史」以外のいわゆる「敗者の歴史」や「庶民の歴史」にも興味が湧くのではないかな、と思います。
あまりピンと来ないかもしれませんが、もし自分の家に「家系図」があったら見てほしいです。それも立派な歴史ですよね。家系図の中の誰か1人でも欠けていたら自分はいないかもしれない、そういった「ちょっとしたこと」がきっかけで、歴史に興味を持ってもらえればと思います。
Nさん:
歴史は身近なところにたくさんあるから、ちょっと意識するだけでも違う世界が見えてくるよね。
私はRさんと近いんだけど、歴史は「未来につながる架け橋」になっていると考えているから、私たちが未来のことを考えるには歴史を学ぶことが必要だと思っているよ。
歴史に興味のある人はぜひ専攻して、過去の成功も失敗も含めさまざまなことを学んだ上で、未来をどのような世界にしたいのか考えてほしいな。
6. 歴史を専攻したい高校生へメッセージ
Nさん:
では最後に、大学で歴史学を学びたいと考えている高校生へメッセージをお願いします!
Yさん:
高校までの「歴史」と、大学入学後から学ぶ「歴史学」は、同じ「歴史」という言葉が入っているけれど、かなり異なっていて発展的になります。だからこそ学問としての「歴史学」ならではの面白さの虜となるのではないでしょうか。
歴史が好きな人はぜひ、大学に入学して「歴史学」という学問を楽しんでほしいです。
Mさん:
大学生は時間がたくさんあるから、やる気次第で何でも行動できるよますよね。大学に入ってから新たな出会いがたくさんあるから、大学入学前に学びたいと思っていたテーマと、卒論で扱うテーマを変える人がすごく多い印象があります。
大学生活では自分の興味関心に合わせて、さまざまなことを学んでほしい!
Rさん:
これは歴史学専攻に限った話ではないけれど、「大学で何を学びたいのか」ということを重視して、入学後のビジョンを考えながら大学を選んでほしいなと思った。
特に歴史学は教授の専攻分野や大学のカラーで学べる内容が大きく変わってくるから、偏差値だけで判断するのではなく、大学のシラバス(講義内容)や教授について細かく調べた上で大学を選んだ方が、入学後に後悔しないと思う。
Nさん:
それは私も同じ。私は大学選択の時に偏差値はほとんど考えていなかったな。
学科についてオープンキャンパスやパンフレットで徹底的に調べて、「ここしかない」と思ったから入学したし、おかげさまで4年間充実した時間を過ごせているよ。大学選びを妥協しなくて良かったと思っています。
Rさん:
歴史学専攻の特徴として、歴史を本当に好きな人たちが集まって、好きなことをとことん勉強しているよね。
就職活動に有利かどうかで学部を選んでいる人もいるけれど、大学生になると好きなことややってみたいことに好きなだけ取り組めるから、進路選択の時に迷ったら自分が本当に好きでやりたいことを突き詰めるべきだと思う!
Yさん:
4年間夢中になって好きなことに取り組んだら、人生が豊かになりますね。私も歴史学を学んだことで視野が広がって成長できたと感じています。
7. まとめ
大学で学ぶ歴史学についてだけではなく、高校で学ぶ歴史科目についても興味深い考えが共有されました。高校で学ぶ歴史が、大学につながる学びであることを知ると、より一層受験勉強にも力が入るのではないでしょうか。
また「好きなこと」を突き詰める重要性についても話がありましたが、歴史に限らず好きなことがあれば大学でその分野を専攻するというのも、進路選択の方法のひとつです。
大学の専攻が歴史学ではなくても、大学で歴史を学ぶ機会はたくさんあります。歴史を学ぶことで身につく思考力は、さまざまな場面で活用することができます。あなたの身近に少しでも気になる「歴史」があれば、調べてみてくださいね!