この記事では古典文法の難関の1つ「助動詞」について重要なポイントと、学習の際に役立つ参考書や問題集を紹介します。
古文読解で重要なカギとなる助動詞を理解すれば、古文は格段に読みやすくなります。助動詞に苦手意識を抱いている人も、古文の文法・読解に伸び悩んでいる人も、ぜひ参考にしてください。
1. 古文の助動詞とは
古典文法では、現代語よりも種類が多く多様な意味を持った「助動詞」が盛んに使用されます。助動詞とは、ある語の後に付いて役割を果たす付属語の1つで、接続の仕方によって活用するのが特徴です。
「活用」——つまり語の形が変化するので覚えなければならないことが多い上に、「文法的意味」と呼ばれる固有の意味も知っておく必要があります。大変厄介な文法事項なのですが、助動詞は作者の意図や文の時制など、文章読解のカギになるポイントを多く含んでいるため、古文の文章読解になくてはならない知識です。
2. 古文助動詞の重要な要素
2-1. 古文助動詞は「接続」から覚える
助動詞はそれぞれ決まった語形に接続します。したがって同じ形の助動詞が複数あった場合でも、直前の語の語形によってどの意味の助動詞かを区別することができ、この情報から古文読解や意味の判別をおこなうこともできます。
例えば「過ぐなり」と「過ぐるなり」は、どちらも動詞+助動詞「なり」で構成され、「なり」だけを見るとどの意味なのかわかりません。しかし、上二段活用動詞「過ぐ」の語形を見ると、「過ぐなり」では終止形、「過ぐるなり」では連体形になっていることがわかります。ここで助動詞の接続を覚えていれば、動詞の終止形に接続する「なり」は推定の「なり」、連体形に接続する「なり」は断定の「なり」、というように同じ「なり」でも、意味の違う助動詞であることがわかるのです。
「過ぐなり」=上二段活用動詞「過ぐ」の終止形+「なり」→終止形接続なので「推定」の「なり」
訳:過ぎるようだ。
「過ぐるなり」=上二段活用動詞「過ぐ」の連体形+「なり」→連体形接続なので「断定」の「なり」
訳:過ぎるのである。
古文の助動詞を覚える時には、まず以下のように語形接続に分類した形で、どのようなものがあるのかを覚えてしまいましょう。
未然形接続 | む・むず・まし・じ・まほし・る・らる・す・さす・しむ・ず |
連用形接続 | き・けり・つ・ぬ・たり(完了)・けむ・たし |
終止形接続 | らむ・べし・まじ・らし・めり・なり(推定) |
連体形接続 | なり(断定)・ごとし |
四段動詞已然形(命令形)・サ変動詞未然形に接続 | り |
体言・助詞・副詞に接続 | なり(断定)・たり(断定)・ごとし |
語形接続による分類で覚えると、後で助動詞をスムーズに見分けることができるようになります。
とはいえ、手始めに暗記するには量がそれなりにあるため、「替え歌」や「語呂合わせ」といったテクニックを使用するのも1つの手です。いくつか種類があるので、自分の好きな歌や面白い語呂合わせを使って楽しく覚えられると良いですね。
ここでは「替え歌」のYouTube動画を2つ紹介します。
こちらは童謡「もしもしかめよ」の歌の替え歌です。
「【古典】もしもしかめよ♪の歌で古文助動詞を覚えよう!【暗記】」
こちらは鉄腕アトムの歌で助動詞を覚えるための替え歌です。
2-2. 古文助動詞「活用の型」の覚え方
助動詞は古文の文章中にさまざまな活用形で現れるため、「終止形」(=基本となる形)だけを覚えていても意味がありません。助動詞は動詞や形容詞、形容動詞といった他の活用する語と同様に、「未然形・連用形・終止形・連体形・已然形・命令形」という6つの形に活用します。
これらの活用の仕方には「活用の型」というパターンがあるので、数の少ないものから覚えていきましょう。
「活用の型」は対象の助動詞が多い順に、以下の4つに分類できます。
〈1〉動詞の活用と同じ(四段・下二段・ラ変・ナ変・サ変)
〈2〉形容詞・形容動詞と同じ(ク活用・シク活用・ナリ活用・タリ活用)
〈3〉特殊型
〈4〉無変化型
無変化型は「変化しない」ことだけを覚えておけば十分です。
例として特殊型の助動詞の活用表を見て下さい。
ず (打消) |
き (過去) |
まし (推量) |
|
---|---|---|---|
未然形 | (ず) ざら |
せ | ましか (ませ) |
連用形 | ず ざり |
〇 | 〇 |
終止形 | ず | き | まし |
連体形 | ぬ ざる |
し | まし |
已然形 | ね ざれ |
しか | ましか |
命令形 | ざれ | 〇 | 〇 |
※〇は活用形が無いことを表します。
このような特殊型は「ずざら、ずざり、ず、ぬざる、ねざれ、ざれ」、「せ、〇(まる)、き、し、しか、〇(まる)」「ましかませ、〇(まる)、まし、まし、ましか、〇(まる)」というように、音読して繰り返し声に出して覚えていきましょう。「活用の型」が動詞や形容詞・形容動詞と同じパターンのものも、同様に活用表の列ごとに音読して覚えましょう。
他の暗記科目もある中、なかなか古文に割ける時間は少ないという人が多いかと思います。助動詞の活用については暗記すべき分量自体は多くないので、短期間に何度も呪文のように唱えて、一気に覚えてしまいましょう。
2-3. 古文助動詞の意味の見分け方
助動詞には1つの語に複数の意味を持つものがあります。読み間違えると文意が大きく変わってしまうこともあるので、注意して読みたいところです。
複数の意味がある助動詞は、それぞれの意味で使われる時に大まかなルールがあります。それを覚えてしまいましょう。
例えば、「る」「らる」は《自発・可能・受身・尊敬》という4つの意味があり、文脈の中でどの意味であるかを判断しなければなりません。
そこで押さえておきたい点は以下の5点です。
・「れ給ふ」「られ給ふ」の「れ」「られ」は《尊敬》の意味には使われない。
・「仰せらる」の「らる」は必ず《尊敬》に意味になる。
・「誰か/何かに」が示されている場合の「る」「らる」は《受身》の意味になる。
・《可能》の意味で使われる時は打消の表現を伴うのが原則。
・「思ふ」などの心情や思考を表す動詞、「見る」などの知覚を表す動詞と一緒に使われている「る」「らる」は《自発》の意味になる。
これらのルールさえ覚えていれば、文章の中でも簡単に助動詞の意味を見分けることができます。助動詞の意味を見分けるためには、参考書などにまとめられている見分け方のルールを身につけましょう。
3. 古文助動詞の最難関!紛らわしい語の「用法の識別」
さて、助動詞の接続・活用・意味もある程度覚えたら、古文助動詞の最後の難関として立ちはだかるのが「助動詞を含む紛らわしい語の見分け」です。これは古典文法の中では「用法の識別」という項目に含まれるもので、同じ形でも文法的な成り立ちの異なるもの、つまり意味が異なるものを見分けていきます。
ここでは助動詞「ぬ」を例に挙げ、紛らわしい語の見分けがどのようなものか説明します。
⑴ 梅咲きぬ。
⑵ 梅咲かぬ。
⑶ 河内へ往ぬ。
⑷ ぬ(寝)。
これらの「ぬ」は全て文法的な成り立ちが異なっています。
⑴は動詞の連用形に接続しているので《完了(強意)》の助動詞となり、⑵は動詞の未然形に接続しているので、《打消》の助動詞「ず」の連体形です。
⑶⑷は動詞の一部で、⑶はナ変動詞、⑷はナ行下二段動詞です。
これらは一見同じように見えて文法的に異なるので注意しなければならず、助動詞の接続や動詞の活用によって見分ける必要があります。
特に大学入試では、どの用法による「ぬ」であるかを問われることもあります。ここで「ぬ」=《完了》の助動詞と安易に結び付けずに、他の助動詞の活用や動詞の用法である可能性も考える必要があるのです。
助動詞だけでなく、動詞の活用や助詞の知識も必要になるので、古典文法の全体的な理解が受験本番での「あと1点」に結びつくことを、胸に刻んでおきましょう。
4. 古文助動詞のマスターにおすすめの参考書
古文の助動詞を学習する時におすすめの参考書を紹介します。基本事項の確認や演習を通して知識を定着させていきましょう。
『望月光の古文教室 古典文法編 改訂版』(旺文社)
助動詞を含む古典文法の基礎的な知識がとても丁寧に解説され、まとめられている文法書です。シンプルな構成ながらも理解の助けになる情報がたくさん含まれており、助動詞だけでなく、古典文法の基礎から確認したい人にもおすすめです。
以下の2冊は問題を解きながら助動詞の基本事項を確認したいときにおすすめ。
『基礎からのジャンプアップノート 古典文法・演習ドリル 改訂版』(旺文社)
助動詞だけでなく敬語や助詞、用法の識別など、古文読解に必要な文法事項が丁寧に解説されています。表を埋める形で意味や活用などをチェックする問題に加えて、短文を用いた練習問題も収録されているので基礎固めに最適です。
『基礎から学べる入試古文文法―代々木ゼミ方式 基礎から学べる入試古文文法―代々木ゼミ方式』(代々木ライブラリー)
動詞・形容詞の活用から敬語、用法の識別まで重要事項が簡潔に整理されており、「基本のチェック」項目で知識のヌケ・モレを確認できます。また演習問題の解説が丁寧なので、問題を解きつつ文法事項を再確認する時にも役立ちます。
さらに演習を重ねたい場合は、次の1冊を手に取ってみましょう。
『古文上達 基礎編 読解と演習45』(Z会)
基本事項が簡単にまとめられているほか、短文の文法確認の練習問題と長文形式の実戦問題が収録されているので、より実戦的な問題演習をこなすことができます。解説が詳しいので、問題を解きながら古文常識も身に付きます。問題数も比較的多いので、入試本番に向け演習を重ねたい人にもぴったりです。
*こちらの記事では実際に『古文上達 基礎編 読解と演習45』を使って勉強をした先輩ユーザーの「使い方レポート」を紹介しています。先輩たちがどのように使っていたかを見てみましょう!
>>【厳選】古文・漢文参考書の「使い方レポート」傑作セレクション
5. まとめ
古文の助動詞は、文中の時制や作者の意図などに関わっており、古文を読む上で大切なポイントになる文法事項です。
まずは助動詞について、以下の3つを確実に押さえましょう。
- 接続
- 活用の型
- 意味
さらに「助動詞を含む紛らわしい語の識別」ができるようになれば、古文の文章がより正確に読めるようになるはずです。
参考書や問題集を効果的に使いながら基本知識の暗記・確認を進め、問題演習を重ねて読解力の向上を図りましょう!