ACID ANDROID~デペッシュ・モード愛を感じる『idea』などシングル4曲をyukihiroが語る - サンレコ 〜音楽制作と音響のすべてを届けるメディア

ACID ANDROID~デペッシュ・モード愛を感じる『idea』などシングル4曲をyukihiroが語る

TR-909とTR-808を持っていなかったら、こういうことをやりたいと思わなかったかもしれない

L'Arc-en-Cielはもとより、ここ最近は京(DIR EN GREY)たちとのバンド=Petit Brabanconのドラマーとしても活動を活発化させているyukihiro。彼の美学を純度高く具現化したソロ・プロジェクトであるACID ANDROIDは、自らボーカル/トラック制作を担当し、前出のどのバンドとも方向性の異なる、耽美かつ深淵なる空間を描き出している。そんなACID ANDROIDが久しぶりのリリースとして、7月から約1カ月にわたって4枚のシングルを発表。ミックスも自ら行うことで完ぺきなまでに自身の世界観に仕上げているが、最大のトピックは4枚目の『idea』にてyukihiroが敬愛する海外アーティストのサンプルを導入していること。どのような制作が行われたのだろうか。

ブレイクビーツはハマったときの面白さがある

──今回の4曲はいつぐらいから作り始めたのですか?

yukihiro 作った時期はバラバラで、既にライブではプレイしたことがあるんです。ライブ用にトラックはできていたので、今回のリリースのためにボーカルとギターのレコーディングをしてトラックをブラッシュアップしました。

──最も古い曲はいつぐらいに作ったものですか?

yukihiro 2年くらい前でしょうか。

──制作時期が異なるとはいえ、この4曲は一貫した世界観ですよね。共通したコンセプトはあったのでしょうか?

yukihiro コンセプトではないですが、『GARDEN』(編注:2017年初出の4thアルバム。2018年に別ミックス・バージョンもリリース)を作って、その方向性を推し進めたいと思っていました。制作面では、リズムはROLAND TR-909とTR-808を使うことを基本としていて、今回はブレイクビーツなどのループものも多用しています。

──6月にリリースされたPetit BrabanconのEPでも、yukihiroさんはブレイクビーツを導入していました。近年、ブレイクビーツがyukihiroさんの中で重要になっている?

yukihiro ブレイクビーツって単純に格好良いですよね。うまくハマったときの面白さがあります。ただ、Petit Brabanconの場合、他のメンバーがデモにブレイクビーツを入れてきたものを僕が差し替えていっただけで、僕がPetit Brabanconで作った曲にはブレイクビーツは使っていないです。

──今回、ギターの使用比率も多くなりましたよね。作曲の早い段階からギター・パートも考えながら作っている?

yukihiro 実は、ギターは作曲の一番最後に入れることが多くて、特に想定せずに作っています。ギター・パートを考えるのは、トラックがある程度完成してからです。

──ギターのレコーディングでLillies and RemainsのKAZUYAさんが参加しているそうですが、デモ段階のギターはyukihiroさん自身で入れているのでしょうか?

yukihiro そうです。僕が持っているGIBSON Les PaulやFENDER StratocasterなどをKAZUYA君に弾いてもらって、自分がデモで弾くときは手に届く場所にあるギターを適当に手にして弾いています。そういえば、最近カスタムショップ製のFENDER Jazzmasterを買いました。

──デモでギターを入れる際は、何かペダルを通すのですか?

yukihiro ラインでAVID Pro Toolsに入れて、中でアンプ・シミュレーターのプラグインをかけています。ただ、それはデモのときだけで、レコーディングはDIEZELのギター・アンプを鳴らして録っています。クリーン・チャンネルを使って、アンプ手前で音作りしています。以前はDIEZELでひずみを作っていたんですが、今はアンプ側ではひずませていません。

──ギターは何本くらい所有しているのですか?

yukihiro それなりに持っています(笑)。ギターはある程度欲しいものはそろえたと思います。でも今も毎日チェックしていますね。ギターって、純粋に格好良いですよね。惹かれるものがあります。

yukihiroが所有するギターの中から、今回のレコーディングで実際にギタリストのKAZUYAが弾いたものを撮影。左がGIBSON Les Paul Custom、右がFENDER Stratocasterで、共に黒のボディ・カラーとなっている

これまでの反省点を踏まえたミックスができた

──『GARDEN』に引き続き、ミックスも自身で手掛けていますね。

yukihiro ミックスは頼めるエンジニアがいたらお願いしたいと思っているんですけど、解釈を言葉で伝えるのが難しい曲が多いので、だったら自分でやろうという判断です。ミックスでシンセの扱い方を伝えるのってすごく難しいんですよ。ドラム/ギター/ベース/ボーカルの曲だったら、バランスもある程度はお任せできて、歌のレベルなどのオーダーも伝えやすいんですけど、ACID ANDROIDの曲の場合は、“このループはもう少し見えてほしい”とか“このシンセの定位はこうしたい”など、どうしてもリクエストが細かくなってしまって、エンジニアに付きっきりで“こうしたい、ああしたい”とお願いしながらミックスしなければいけなくなってしまうのは違うかなと思うので、今は自分でやるしかないんです。

──yukihiroさん自身でミックスを多くこなすことで、その部分のスキルも上がってきているのではないですか?

yukihiro まだまだだなと感じてます。

──普通のポップスに比べると歌のレベルは小さいですが、音響全体で聴いてほしいというyukihiroさんの意図が伝わるミックスだと思いました。空間系の使い方も影を付けるようなさりげなさが効いています。

yukihiro 空間系って難しいですよね。もっと深くかけたいと思う音もあるんですけど、リバーブ音に対する恥ずかしさみたいなものを感じてしまうんですよね。

──yukihiroさんはドライな音像が好きなので、そういう趣向も関係しているんでしょうね。

yukihiro 空間系のエフェクトはもっとうまく使えるようになりたいですね。

──個人的には『GARDEN』のときよりも、今回はリズム周りが立体的になった感触もありました。

yukihiro 『GARDEN』をミックスした後に、“こうしてみたら良かったな”という反省はリズムに限らずあったので、そこは改善しているのかなと思いますが、TR-909やTR-808をミックスするのは本当に難しいです。

──TR-909/808の素の音って、実はリスナーが音源で聴いているような処理後のものとは違って、意外と地味だったりしますよね。

yukihiro 最近の完成されたTR-909のサンプルとかすごいですよね。どうやったらあそこまで行けるのか教えてほしいです。

──今回、TR-909/808のミックスで気を付けた部分は?

yukihiro 取り込みはビンテージのNEVE 1073のプリアンプを通しています。ひずませるわけではなく、レベルを整えている感じです。

──そもそも、市販のTR-909/808のサンプルを使うという選択肢はyukihiroさんには無いわけですね?

yukihiro せっかく実機を持っているので、それで音作りしたいですね。持っていなかったら、こういうことをやりたいと思わなかったかもしれないです。

──TR-909/808はyukihiroさんの中でも音楽性に直結するツールということですね。

yukihiro そうですね。

──TR-909/808の内蔵シーケンサーは使わずに、AVID Pro ToolsのMIDIで鳴らしているんですよね?

yukihiro その方が好きなんですよね。

──曲を作って、アレンジして、歌って、詞も書いて、さらにミックスまで行うというのはなかなか体力が削られますよね。

yukihiro そうなんです。どうしても時間はかかります。

──11月にはACID ANDROIDとして久しぶりのライブも控えています。

yukihiro まだ発表できていない曲があるので、それを形にできたらいいなと思っています。

──yukihiroさんはライブごとに既存曲のアレンジを変えるなど、入念な準備をすることも特徴ですが、今回は?

yukihiro 必要であればやろうと考えています。新曲が増えていくと、今までやってきた曲が合わなくなったり、自分のモードが当時から変わっていることがあるんです。リハで昔の曲を久しぶりに聴いたら、“このシーケンス、昔のままでいいのかな?”と思うことがあって。そうなると作り直さずにはいられないですね(笑)。

左の写真はシンセ・ベースとして多用されたMOOG Minimoog Model D。右の写真はリズム・マシンの最高峰、ROLAND TR-808(上)とTR-909(下)

「dealing with the devil」のメイン・フレーズなどで活用されたROLAND Jupiter-6。他のシンセと同様、MIDIシーケンスで鳴らしている

今回のデジタル・シングル4曲について

『dealing with the devil』

──ここからはシングル4曲それぞれについてお聞きします。最初に配信された「dealing with the devil」はどのように作り始めたのですか?

yukihiro どの曲もそうなんですが、僕の場合、“こういう曲を作ってみたい”という発想からスタートしています。

──この曲はサビでコードの動きが出て解放されるような、今回の4曲の中では最も展開の動きがある印象です。

yukihiro そうですね。コード展開がある曲を作りたいと思って。

──この曲で多用したシンセは?

yukihiro メインのフレーズはROLAND Jupiter-6です。あとはSEQUENTIAL Prophet-6とか、シンセ・ベースはMOOG Minimoog Model Dでした。

──リズムはTR-909ですね。

yukihiro そうです。

──この曲で苦労した点はありますか?

yukihiro 形になるまで苦労は無かったですが、そこから音を足していく段階で試行錯誤はしました。シューゲイズっぽくしかったので、アーミングのギターを入れたりして。

──この曲の歌詞は、制作のどのくらいのタイミングで考えたのですか?

yukihiro 詞はどの曲も一番最後ですね。

──“詞から導かれてできた曲”というのはACID ANDROIDでは無い?

yukihiro それは一切無いと思います。

──テンポは155BPM前後ですが、ライブを想定してその速さにしたのでしょうか?

yukihiro ライブは特に意識していなかったです。このテンポでTR-909を使って、8ビートなリズムにしたいと思っていました。

 

『pale fire』

──ギター・リフとブレイクビーツの絡みが格好良い曲です。これはどのように作ったのですか?

yukihiro この曲はギター・リフから作っています。自分の過去の曲が元ネタになっていて、DIE IN CRIESが解散した後に、初めてソロでライブをやったときの曲の中にこのギター・リフを使った曲があるんです。

──そのソロ・ライブを調べると、1995年だったようです。

yukihiro ブレイクビーツも当時のものと同じもので作り直しました。

──リフの後に無音になる部分がありますよね。あのフレーズに斬新さを感じました。

yukihiro ありがとうございます。

──さらに途中でムードが変わります。その構成も1995年の段階でできていたのですか?

yukihiro 使ったのはギター・リフとブレイクビーツくらいで、曲の構成は今回考えたものです。

──イントロではフィルターが開閉しながらディケイが徐々に短くなっていくような、SE的シンセも入っていますね。

yukihiro NORD Nord Rack 3のTB-303系音色です。ディケイのコントロールはデュレーションの長さが連続的に変化するように打ち込んで作っています。フィルターの開閉はベロシティに対応するようにシンセ側をエディットして動かしています。

 

『demonstration』

──この曲ではTR-808を使っていて、ブレイクビーツとの絡みで独特なノリが出ています。サンプルのスライスはPro Tools上でやるのですか?

yukihiro サンプラーのAKAI PROFESSIONAL MPC4000です。ブレイクビーツに限らず、サンプリングのエディットはすべてMPC4000でやって、それをプリアンプを通してPro Toolsに録音するという形です。

──サビでメロトロン系の音色が入っていますね。

yukihiro ソフト・シンセかMELLOTRON M4000D Rackのどちらかですね。

──シンセ・ベースはMinimoog Model D?

yukihiro そうです。今売られているモデルの前のバージョンですね。ボディの木の色が薄い方。今売られているModel Dも一瞬買おうかなと思ってしまったことがあって、自分でも危ないなと思いました(笑)。

──『demonstration』というタイトルに関して、これは最初から決めていたものでしょうか? タイトルから導かれて曲ができるパターンはあったりしますか? 

yukihiro タイトルは歌詞が出来上がってからです。曲名は制作の最後に考えることが多いです。タイトルが最初から決まってることはほとんどないですね。 

 

『idea』

──この曲で特筆すべきは、冒頭にデペッシュ・モード「ピープル・アー・ピープル」の金属音がサンプリングされていることです。

yukihiro 曲作りの最後の方で“オープニングのパートが欲しいな”と思って作りました。

──許諾申請のハードルが高そうで、デペッシュ・モードのサンプルを使うという発想にはなかなか至らなそうです。

yukihiro 僕も最初は無理かなと思いました(笑)。半年くらい前から申請準備を始めたんですけど、そもそもどこに問い合わせればいいかを探すのに時間がかかって、そこから確認用に曲を送ったり、追加で歌詞も送ってほしいと言われたりして。

──yukihiroさんの敬愛するアルバム『ヴァイオレーター』ではなく、デペッシュ・モードがボディ・ミュージックど真ん中な時代からのサンプリングだったのが意外でした。

yukihiro このリズム系の音だとあの音かなって感じでした。試しにサンプリングして後で差し替えてもいいかなと思ったりもしたんですが、自分の耳になじんでしまって、あれ抜きでは違和感を覚えるようになってしまったので、思い切って申請を出してみました。

──大好きなアーティストのサンプルを自身の曲で使えるというのはどんな心地なのでしょうか?

yukihiro 申請が通ったと聞いたときは、うれしかったです。

──そのサンプルにかぶせて、ダイナミックなピッチ変化の強烈なシンセ音も入っていますが、あれは?

yukihiro Nord Rack 3です。あのサンプルに負けないような音を入れたいと思って。

──この曲は、シリアスな世界に対して違和感のある明るいシンセ・フレーズが入っていて、むしろそれが不気味さを演出していると思いました。

yukihiro シンセはKORGのARP Odesseyです。かわいい感じもあるけどダークな曲というのがイメージでしたね。

──クラップの連打も特徴的な入り方をしています。

yukihiro クラップ3発で始まるのがかっこいいと思ったんです。TR-808のクラップとノイズを混ぜています。TR-808のクラップは毎回違う音が出るので、それを補うためにノイズを重ねました。

──通して3発録っているわけですね。1発をコピペして貼る方が楽な気がしますが……。

yukihiro 僕としては、それは何か違うんですよね(笑)。

Release

『dealing with the devil』
『pale fire』
『demonstration』
『idea』

ACID ANDOROID
(tracks on drugs records)

Musician:yukihiro(vo、prog)、KAZUYA(g)
Producer/Engineer:yukihiro
Studio:Private

 

 

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