【対談】From Peru with Loveアルパカが繋ぐ、愛のあるモノづくり。
デンマーク⇄ペルー⇄日本。アルパカの糸が紡ぐ、
ナチュラルなコラボレーションのゆくえ。
2018年11月にコラボ商品を共同発表した、エシカルなアルパカ製品を作り続ける「ザ・イノウエブラザーズ」の井上 聡さん(以下「井上」)とSnow Peak取締役 執行役員 企画開発本部長の山井梨沙(以下「梨沙」)が、そのナチュラルな出会いやこれからについて語り合いました。
※肩書き含め記載の内容は掲載時点のものです。
Peace × Ourdoor=Snow Peak
- 梨沙
- ザ・イノウエブラザーズのことを知ったきっかけは、福岡のDice&Diceで偶然見つけたことだった。普通にいいなと思ってパンツとストールを買ったら、Dice&Diceの吉田さんに「やばい兄弟がいるから紹介するよ」って言われて、会ってみたら「あのパンツとストールの!」っていう感じでしたね。
- 井上
- 僕もまったく同じパターン。Dice&Diceに展示会をしに行ったとき、1FにSnow Peakのお店があって、なんか一目惚れしちゃって。吉田さんに聞いたら、それがSnow Peakだった。僕たちはデンマークがベースでずっと海外に住んでいるから、日本のアウトドアブランドって知らなかったんだけど。それで、吉田さんが紹介してくれたんだよね。
- 梨沙
- あー、嬉しい。
- 井上
- 僕たちは超アナログなアルパカのニットを中心にやってきたんだけれど、ハイテクなアウトドア・ブランドと何か一緒にやったら面白いかななんて、ずっと漠然と考えてたんだよね。でも、いろんなアウトドア・ブランドを見ていると、やっぱり最終的にはミリタリーになっちゃう。軍隊への提供とか。
- 梨沙
- 耐水圧とかウォータープルーフ何ミリとか。
- 井上
- そうそう、「全部チェコ軍が使ってます」とかね。で、Snow Peakを初めて見たときに、本当にピースフルなアウトドアブランドだなっていうのがすごく印象的で。だからすごく好きになっちゃって。それで会ってから、「一緒にぜひ何かやろうよ!」って意気投合したんだよね。
アルパカって、燃えにくくて、結構火に強いんだ。Snow Peakの焚火を囲んで喋るっていうコンセプトにすごく合ってるなと思う。体温を調節してくれて、ナチュラルな機能性も合うんじゃないかなってね。だからもう、ナチュラル・コラボレーションだよね。
Snow Peakを初めて見たときに、
本当にピースフルなアウトドアブランドだなっていうのがすごく印象的だった。
Natural Born Collaboration
- 梨沙
- そうですね。もうすべてが必然的で、自然なコラボレーション。
聡さんが言ってくれた通り、自然が持つアウトドアに対しての機能性って、無いわけがない。だってワイルドな環境の中で育った羊やアルパカ、それにコットンやリネンとか、植物も動物も自然の中で育ったものだから。Snow Peakでは、テクニカルな機能性の追求ももちろんしてるんですけど、自然の機能性はとても大切な存在。
私も、アルパカにめちゃくちゃ興味があったんですよ。ざっくり標高の高い順に羊、ヤク、アルパカ、カシミアじゃないですか。ウールは簡単に使えるんですけど、アルパカは標高が高い所、4,000mとかで暮らしている、しかも希少な野生のアルパカを使ってペルーでものづくりをしてるっていうところに、凄く興味があった。で、実際着てみたら、めちゃくちゃ気持ちよいし。
- 井上
- 5,000mを越える場所もあるよ。僕たちがアルパカのよいところを理解してるのは、さんざんペルーに行ってるから。行かないとわかんないところが、たくさんあるよね。
Snow Peakも、実際キャンプ行って使ってみたらめちゃくちゃ使いやすかった。やっぱり、体験が重要だよね。Snow Peakを理解するためには、ちゃんとキャンプをしないといけないと思う。
- 梨沙
- 初めて会ったあと、すぐに本社のキャンプ場に来てくれましたもんね。本当に嬉しかった。
- 井上
- めっちゃくちゃ楽しかったよ。それからずっと後になって一緒に行ったスウェーデンのサバイバルキャンプも楽しかったね。
- 梨沙
- 私は、井上さんと会ってからずっと楽しいですよ、ホントに。お付き合いしてる卸先さんとかも近いところばっかりなんですけど、そんなの関係なく尊敬できて、しかもフィールがあう。
- 井上
- 本当にそうだね。
- 梨沙
- ものづくりの感性がすごい近いなっていうのは、初めて会った時からすごい感じてて。あの後CHALIE VICEの商談行きましたもんね。
- 井上
- そうだね。そういえばこの間、JALさんと一緒に仕事をとやるときも、「Snow Peakさんと何かお仕事しているんですか?」って聞かれて、最初は「え、バッティングか何かでまずいことがあるんですか?」って聞いたら、担当の方が「いえいえ、個人的に大好きなので、もっと知りたかったんです」って言ってた。
- 梨沙
- あ~、嬉しい。
- 井上
- そういうの、よく言われるよ。何か今はもう「キャンピング・ブーム」なんて言うより、みんな自然の中で時間を過ごしたいと本当に思っているんだなって、凄く強く感じる。
- 梨沙
- そうですね、ようやくそれが当たり前のことになってきた感じ。
- 井上
- 今、たくさんの人がSnow Peakに辿り着いているってことは、Snow Peakがそういう活動をずっと続けてきたからこそなんだと思うよ。だから本当すごいなと思う。「Snow Peakが大好きなんです」って、周りで凄く聞くよ。
- 梨沙
- 嬉しい。でも逆も真なりで、私の周りでは「イノウエブラザーズとコラボしたんですか!?」みたいなことをよく言われる。
- 井上
- 同じだね。だからこそのナチュラルなコラボレーションであり、これから長く続けていけるとよいね。もっともっとやりたいもん。
- 梨沙
- ね!
- 井上
- 複雑にやらずに、パッパッパって出てくるようなシンプルなもので、お互いのいいところを活かしてさ。言い方おかしいかもしれないけれど、生産とかデザインとか時間をかけ過ぎちゃうと、一緒に過ごせる楽しい時間が短くなっちゃうから。仕事ってツールだから、楽しい時間を優先したいよね。
- 梨沙
- そうですね! だからうちらの打ち合わせは、本当にすぐ終わる。
今回のコラボレーションで誕生したHigh Gauge Waffle。他にも、Solid Jacguard Crew Neck Sweater、High gauge knit Trousers、Neck warmer、Woven Brushed Scarf Hoodieなど全5型のペルー産アルパカ製品を販売中。
衣服はユバーサルなメディアである
- 梨沙
- ザ・イノウエブラザーズのものづくりには、「エシカル」みたいなものが普通にあって、本当に人間らしく洋服を作っているのが凄い。私たちSnow Peakも別にファッションがやりたくて洋服作ってるわけじゃなくて、その先にある本質を伝えるための手段がファッションって感じなので、とても共感しています。
- 井上
- そもそも、ファッションって何なんだろうね? ファッションはコロコロ変わるし、よくわからないよね。確実にいつでも答えられるのは、「服は大好きだ。でもファッション業界にはめちゃくちゃ違和感を感じる」っていうこと。それがなぜかっていうと、それはぜんぜん答えられる。でも、「ファッション業界って何なんだ?」って聞かれると、それは誰も答えられない。実態のないものだから。でも、ファッション業界の悪いところっていうのは、色んな意見が出てくると思う。自分たちにとってファッション業界で嫌なところは、他の人たちにとっては、ファッション業界の素晴らしいところかもしれないし。キラキラしてギラギラしてるところとかさ。僕たちがファッションをやりたくない理由は、そういう業界の一部に中に加わりたくないってところにあるかもしれない。
- 梨沙
- そうですね。深く掘り下げないというか、やっぱり感覚的に楽しむのがまあファッションだとは思うんですけど、じゃあなぜそれがこういうモノになっているかとか、原理原則のとこまで、消費者も突き詰めないじゃないですか。どんなものでもやっぱり実際作ってる人がいて、それを作りたいとか考えてる人たちの考えがあって、それを必要としている人がいると思うんですけど、ファッションっていう言葉でぜんぶ平たく伝えられてしまうことに、違和感を感じる。
人に対して愛を持ってモノづくりしているところが、
いちばん通じてる部分かなって思う。
- 井上
- トレンドとかね。
- 梨沙
- そうそう。で、なんかやっぱりザ・イノウエブラザーズのモノづくりって、ファッションの訴求力を活用しつつも、ちゃんと本質を伝えていく活動なのかなっていうのは、本当に尊敬してる部分で。生産工程とか、すべて公開してるじゃないですか。
- 井上
- そうそう、すべて。その代わりファッションで素晴らしいなって僕が思うのは、ファッションっていうより服だと思うんだけど、自分が何かを着て、自分で自分がもっと格好よくなったとか、可愛くなったとかっていう気持ちは、服のパワーだと思うよね。それは飲食にもあるし、音楽にもあるのと同じようなもので。
音楽や飲食、服っていうのはユニバーサル、みんなが理解できるものだと思うんだよね。なにか感情を起こすツールというか、メディアみたいな感じになってるから、そこは服を作っていてよかったなと思うし。もしイノウエブラザーズが別のものを作ったら、何か違う素材に出会って、それが服じゃなかったら、ここまでみなには知られてなかったと思うんだ。服って本当にワイドだよね。今回参加させてもらった佐渡のLocal Wear Tourismの稲刈りキャンプでもさ、会長夫婦みたいな人たちもいたし、友だちからお金を借りて参加した大学生もいたけど、みんなSnow Peakを着てワイワイがやがやニコニコしながら楽しみを共有し合っていて、ああいう体験からよりSnow Peakの本質を理解していくんだろうなって思った。昔、広告代理店で働いていたんだけれど、ある意味で、本質的なマーケティングやブランディングの手法なのかもね。
- 梨沙
- えっ、そうなんですか?! うそぉ。
- 井上
- 最初はグラフィックデザイナーとしてデンマークの広告代理店に所属していたんだよ。Local Wearのコンセプトがあってあのキャンプを体験すると、素直だけどめちゃくちゃパワフルだなって感じた。普通マーケティングって嘘ついたりとか誇張したりばかりだけど。
- 梨沙
- よく見せるための。
- 井上
- そうそう。だから普通はそういう見せかけが多いのに、こんだけ素直でオネストなことをやりつつ、これこそがSnow Peakをいちばん理解してもらえる、マーケティング・ツールにもなってた。「ここ来てSnow Peakを好きにならない奴らはもう来なくていい!」みたいな感じだもんな。
- 梨沙
- 聡さんの子どもたちがめちゃくちゃ楽しそうにしてたのが、私は本当嬉しくて。なんか奥さんが、「子どもたちが二日間も、一回もiPad使いたい、触りたいって言わなかったの初めて」って言ってた。
- 井上
- びっくりしたよ。一回も「iPhone見せて」とかさ、iPadとかって言わずに、ずーっとカマキリやね、バッタ、捕ったりしえたもん。朝起きたらすぐに。
久しぶりに日本で集合した兄・聡さん(写真中央)と弟・清史さん(写真右)のザ・イノウエブラザーズのふたりと山井梨沙さん。対談後、このまますぐに3人でペルーに向かうのではないかという雰囲気がプンプンに漂っていた。
From Peru with Love
- 梨沙
- この間も話しましたけど、やっぱり一回目のコラボレーションが終わってからも、お互いに心地よい付き合いの中で継続的にパートナーシップでやっていきたいですよね。
- 井上
- そうだよね。一緒にずーっと、定番みたいな感じで、長続きできるようなものがいいね。あんまり変えなくていいようなもの。どんどんベーシックに戻っていくっていうかさ。肌着とかね。もちろんアウターとかはさ、技術も変わっていくし、デザインのトレンドとかも変わっていったりするけど、インナーとかっていうのだと、もう永遠に変わんないからさ。
ザ・イノウエブラザーズとしては、今はアルパカがオンリーだけれど、これからはナチュラルコットンもやろうと思っている。アルパカと同じく、素材も縫製も全部ペルーで。僕たちは、ペルーに仕事を作りたいからやってるので。ある意味Local Wearだよね。
- 梨沙
- 私たちはアウトドアっていうものが人を幸せにできるもので、そのための手段が洋服だったりキャンプ用品だったと思っている。イノウエブラザーズは、もちろん洋服が好きで洋服を作って、また更にその先の生産者の人たちを幸せにするためにやってる。人に対して、愛を持ってモノづくりしているところが、たぶんいちばん通じてる部分かなって思う、やっぱり。
- 井上
- そうだね、そこはすごく似てる。だから、そういう核心のところはファッションみたいにトレンドとかではコロコロ変わんないから、長く一緒に続けていきたいね。僕たちも、Snow Peakと同じで人が自然とのコネクションをまた持てるようなものを作っていきたい。それがこれからのミッションだと思う。
みんな自然から離れすぎちゃってるから、病気になったり、鬱になったりっていうのは、そういうところだと思う。自然と常に繋がってたら、本当に幸せな人生を送ることができるから。単純に言えば、自然のパワーはやっぱりすごいよね。それを一緒にこれからやれるとよいね。
- 梨沙
- ペルー行きますね!
- 井上
- うん、行こう。ペルーへ行こう。
THE INOUE BROTHERS
ザ・イノウエブラザーズ/共にコペンハーゲンで生まれ育った、兄・聡(さとし)と弟・清史(きよし)の井上兄弟が、コペンハーゲンと大阪を拠点に活動するブランド。兄弟がルーツを持つ日本の繊細さと北欧のシンプルさ、生産地であるペルーへの愛情を基本に生まれたデザインを、彼らは「Scandinassian」(スカンジナジアン)と呼ぶ。聡はコペンハーゲンを拠点にアートディレクターとして、清史はロンドンを拠点にヘアスタイリストとしても活躍。そこで得た収入のほとんどを、イノウエブラザーズの活動に費やす。
photography : Great the Kabukicho
Edit : Kei Sato