【開発秘話】 from Snow PeakヘキサエヴォPro.

Prologue

1980年代、アウトドア=不自由を楽しむという風潮があった時代、スノーピークが提唱したのは大自然の中で快適に過ごし、家族や友人と豊かな時間を共有できるキャンプの形だった。

キャンパー自らがサイトを快適にレイアウトするという「概念」を提唱し、必要な道具を開発していった。

「焚火台」、「鍛造性ペグ」など、キャンパーだから生み出せる革新的な野遊び道具はやがて、日本のキャンプ文化を築き、世の中の“STANDARD”になった。それらの製品はどのようにして生まれたのか?今回紹介するのは、風に強い曲線美。広い日陰をつくる究極のタープ「ヘキサエヴォPro.」の開発秘話。

◇ヘキサエヴォPro.とは。

降雨量が多く、夜露でびしょびしょになる日本の気候を考えるとタープは必要不可欠な存在。突然雨が降ってきたからといって、テントに逃げ込んでも中は狭く、食事を作るにも換気の問題でメニューが制限され、「快適」というには程遠くなってしまう。

そんな時に役立つのがタープだ。夏は、直射日光を遮り日陰をつくってくれる。寒い季節には、タープの下にテントを張れば優れた防寒性を発揮し、夜露も軽減される。タープがあれば、あらゆる天候でのキャンプが身近なものになる。

スノーピークからリリースしているタープは、大きく分けて2種類ある。1つは、ヘキサ(リーフウイング型)のタイプ。自然の景観に調和するその美しい曲線により、風の抵抗を受けにくいことが利点としてあげられる。もう1つは、スクエア形状のレクタ(フラッグシップ型)のタイプ。大人数でも十分な有効面積を確保することができる。

風に強く美しいラインが魅力的なヘキサタープもいいが、グループで食事を楽しむなら広い範囲に日陰をつくれるレクタタープもいい。どちらのタープにも利点があり迷ってしまうが、両方のいいとこ取りをした究極のタープがある。それがヘキサエヴォPro.だ。

そんなヘキサエヴォPro.が生まれた背景にある、圧倒的な情熱のストーリーをご紹介しよう。

大人数でも十分な有効面積を確保することができる。

◇開発者の新たな挑戦のはじまり。

ヘキサエヴォPro.の形状を形にするまでには、縫製方法で苦戦を強いられた。ヘキサ(リーフウイング型)は、テンションのかけ方を工夫することでシワを極力なくすことができるが、ヘキサエヴォPro.は、片面3方向にテンションをかけるため、シワを取り除くことが難しい。

生地は、縦軸と横軸に交互に織り込まれているため、その直線上にテンションを掛けた際には強いが、斜めの場合は生地が伸びてしまい、生地自体が弱くなってしまうのだ。

ヘキサエヴォPro.の場合、図のように直線にかかる力と斜めにかかる力が存在する。斜めに生地を引っ張ることで生地自体に無理をさせてしまうため、強度と耐久性の面からなかなか合格が出せなかったのだ。

これまでのヘキサやレクタの縫製方法では解決できず、新たな解決策が求められていた。

1988年にリリースしたウイングタープ。

◇解決の糸口は、名作ウイングタープだった。

縫製方法について苦戦を強いられる中、開発者は原点に立ち戻り、ウイングタープの構造を思い出した。ウイングタープは、1988年にスノーピークからリリースしたモデル。

ウイングタープはその形状から、有効面積が小さくなってしまうのが難点であったが、独立した両サイドの三角形の延長にテンションをかけるため、頂点に素直に力がかかり美しいラインを生み出し、生地の強度的にも非常に優れていた。

ウイングタープのように無理のないテンションをかけられないだろうか。開発者は、ふと目の前のヘキサエヴォPro.に目をやった。すると、ウイングタープの形状を重ね合わせるかのように縫製ラインが自ずと見えてきたのだ。

「そうか!これでシワをなくせるかもしれない」。

そう感じた開発者は、中央の大きい三角の面と、両サイドの面を一旦切り離し、両サイドの生地の縦目を張り綱(斜めにテンションをかける綱)と同線上にくるように回転。中央の大きい三角の面と再度縫い合わせたのだ。

早速サンプルを作成したところ、予想は的中。

◇シェルターやテントとリンクするヘキサエヴォPro.。

風に強い曲線美を持ちながら、広い範囲にしっかりと日陰をつくることができ、4〜6人のリビング、キッチンシステムをレイアウトすることができるヘキサエヴォPro.は、スノーピークの最高峰プロラインとしてリリース後、瞬く間にユーザーの間で話題となり広まった。

美しさと有効面積の広さを両立し、シェルターやテントとリンクするヘキサエヴォPro.。ヘキサとレクタ、両方の利点を生かした新しいタープは、こうして誕生したのだ。

Epilogue

いかがでしたでしょうか。スノーピークが日本のキャンプ文化を築き「不便」を「快適」に変えた理由。それは、自然と人、人と人の豊かな時間を創りたいから。キャンパーだから生み出せる革新的な野遊び道具はやがて、世の中の“STANDARD”になる。