歌舞伎・演劇の世界|松竹株式会社

#08

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歌舞伎座舞台 足立安男

――大道具はどのようなお仕事があるのでしょうか。

足立 舞台部、製作部、営業部などがあります。舞台部は劇場に常駐し、転換や幕引き、ツケ打ちなどを行います。製作部は、大道具の土台を作る大工、紙や布を貼る「経師(きょうじ)」がいる製作課、「絵描き」と呼ばれる海や山などの絵画的風景を描く第一美術課(歌舞伎座)、「塗り方」といって屋根や柱などの建造物を塗りこんでいく第二美術課が工場にいます。営業部には公演営業課、公演物流課、「道具帳」という大道具を製作するための設計図を作るデザイン室があります。

 歌舞伎には、時代物や世話物など上演頻度の高い演目がありますが、これらを「定式物(じょうしきもの)」と称しています。通常25日間興行がされますが、千穐楽を終えるとバラバラにしてしまいます。壊すことを前提とした大道具ですが、俳優さんの命を預かっているので、長期期間耐えられるようにきちんと作っています。一回の公演をゲーム感覚で0にリセットをするのではなく、興行期間中にプラスやマイナスなことを蓄積し、日々修行をしなければいけません。

――初日までの一連の流れを教えてください。

足立 翌月、翌々月の演目の発表と同時に取り掛かります。古典の場合、俳優さんによって背景画の色の好みや模様など少しずつ違ってくるので、まずはどの俳優さんが演じるのかを確認します。例えば、『京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)』の場合。背景に描かれている桜の色味が淡いのか、濃い方がいいのか。桜の山は多い方がいいのか、空の割合が多い方がいいのか…。歌舞伎は演出家がいないため、俳優さん自身が演出家となります。ですので、1カ月前に、俳優さん、振付の方たちと打ち合わせをし、それを元に社内で製作会議を開き、方向性を定めます。各々のパートが持ち帰り、どんな風にどのタイミングで道具を出すのか決めるのが、4~3週間前です。新作だと、外部の演出家の方がいらっしゃることもあるので、稽古場に通い日々変化をする稽古に対応をしていきながら、準備は早め早めで動いていきます。

道具帳

 その後劇場での仕込み、道具調べ、舞台稽古を経て本番です。道具調べでは、実際に組み立て、舞台転換やスペース上に問題がないかチェックをし、舞台稽古で俳優さんが演じながら最終確認をしていきます。準備が大変でも、意地でも開けるのが初日。でも準備にばたつきが出ると、お客様の目に映ってしまいます。幕が開いて舞台で最初に目にするものは、「大道具」だからです。大道具は、芝居の世界へ誘うワクワク感から始まり、俳優さんが出てくるとスーッと消えていくのがいい仕事なので、芝居の邪魔をしてはいけません。大切なのは、どんな時でもオーダー以上のパフォーマンスをする、ということです。

――本番中はどのようなことが裏で行われているのですか。

足立 11時に開演だとすると、10時には昼の演目の準備に入ります。夜の演目の物は、地下(大奈落)に格納されており、昼と夜の幕間中に大きなセリをつかって運び、入れ替え作業をしています。舞台上では、上手、下手、センターとチーム分けがされており、素早い舞台転換が行えるように各担当部分を仕事します。日頃は工場にいる製作チームも、初日前の道具調べの段階から一緒にいてもらい、随時対応できるように控えています。稽古中も客席にいて仕上がりのチェックや芝居の勉強をしています。

――客席の方から観ていらっしゃるのですね。

足立 はい。作り手として、お客様としての両方の目線を養ってほしいからです。芝居には絶妙な「間」 が、存在するので、それに合わせて飾り方の段取りを考えます。私も今年で40年目。若い頃は、舞台袖で正座をして台詞を覚えるほどに観ていました。20~25年経った頃に、ようやく芝居が分かるようになりました。歌舞伎の世界は、幼稚園から大学までの一貫校のようなもの。今、自分がどの立場で、これから何が必要とされるのか。形にするまでに様々なことを考え、下地をどれだけ作ることができるかで、個々の仕事が変わってきます。そして、これからの歌舞伎を作ろうとしている俳優さんと、どう向き合い寄り添っていくのか試されています。何がお客様の心の琴線に触れ、そのためにどのエッセンスを出すのか。新しいものを生み出すための、アイデアのヒントにしていきたいですね。

つづく

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