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装具治療

最終更新日:2022年4月21日

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☆装具治療とは?

前項でお話したように、側弯症の方の多くは、ほとんど進行せず、特別な治療を必要しません。しかし、3のように側弯症が進行してしまう方に対しては、進行を遅らせ、 成⻑期を終える段階のコブ角を 40°以下に留められるよう、装具治療が適応になります。

実際の診療において、「進行を遅らす」という事象は「治す」とは異なるため、治療 効果を実感することしづらく、側弯症が進行していなかったとしても、それが装具治療 の効果であったのか、自然経過であったのか、判断しにくいことが多いです。

このため昔は、「装具治療は本当に意味がある治療法であるのか」、その効果に疑問を感 じる方も多かった時代がありました。しかし、多くの質の高い臨床研究により、「装具 治療は進行抑制に有用である」という結果が得られたことで、その有用性は疑いようの ないものになりました(中でも、2013 年に報告された研究のインパクトが大きく、こ の後、大きく認識が変わりました [N Engl J Med 2013; 369: 1512-21])。

一方で「進行抑制だけでなく、改善効果もあるのか」という疑問については、現在ま だ回答は得られていません。もちろん、「矯正・改善効果もある」といった結論を示す ような、個々の患者さんの報告や少数例の研究は散見されます。しかし、その効果が多くの方にとっても有用であるのかは、質の高い臨床研究によって示されていないため、 現時点で結論付けるのは困難と思われます。

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臨床試験

☆臨床研究とは?

前述の通り、装具治療の効果は実感しにくいことが多いため、「装具治療が進行抑制に効果があるか否か」は議論が続けられていた時代もありました。そこでその効果を明 らかにするため、臨床研究が実施されてきました。

「装具が進行抑制に効果がある」と説明するためには、多くの患者さんを集めた後、 「装具治療を行う患者さん集団1」と「装具治療を行わない患者さん集団2」に分け、 ある一定期間観察した後、進行した患者さんの割合を比較する必要があります。

病気の進行スピードは、患者さん個々で異なります。このため、装具治療を行った患 者さん集団1の中には病気の進行が早く治療効果が不十分だった人(A さんとします) もいれば、装具治療を行わなかった患者さん2の中には病気の進行自体がゆっくりで、 何もせずとも進行しなかった人(B さんとします)も含まれてきます。

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対象となる装具治療の効果があったとしても、個々の症例にフォーカスしてしまうと、 誤った結論が導きだされてしまう可能性が高くなってしまいます。例えば、A さんとす れば「治療効果はない」と考えるわけですから、A さんをフォーカスしてしまうと、「実 際には効果があるといわれる治療を効果がない」と結論づけてしまう確率が上昇します。 一方、B さん個人をフォーカスすると「行わなくても問題ない」と結論付けられてしまいます。この場合、本当は治療効果がある治療を「効果がない」と結論付けられてしまう確率が上がってしまうわけです。すなわち、その治療が有効であるのか否かを判断す る際には、個々の症例にフォーカスするのではなく、集団1と2のどちらが進行した患者さんの割合が少なかったか、という事実を比較する必要があるわけです。

臨床試験3

☆臨床研究の結果を理解するときに必要な事

その治療が有効であるか否かは、集団同士の比較である臨床研究の結果によって判断されます。しかし、いくつもの臨床研究が実施されていくと、「この治療は有効である」 という結果と「この治療は有効でない」という結果が出てきます。この場合、その治療 が本当に有用であるか否か、専門医の間でも意見が異なるといった事象が生まれます。

このような場合、第一にその研究がいつ報告されたのかを確認する必要があります。 何十年も前に報告された研究であれば、その間に大きく医学や解析手法も進歩している ことから、当然その結論に対しては疑問を持つ必要が出てきます。

次に、研究方法の内容、研究の質を確認します。例えば、対象となる患者さんが研究 に参加していただく際に、治療介入を行う集団1と治療介入を行わない集団2のどちら の群に入って頂くかを誰が決めているかという情報を確認します。質の高い研究では、 その決定を完全な第三者が(乱数表やクジなどを用いて)、行います(無作為化・無作 為割付といいます)。一方、患者さんの診療に携わる方がその決定をしている場合、研 究の質は低くなってしまいます。

仮に、主治医の先生が患者さんを装具治療実施群1と行わない群2のどちらに入るか 選べたとします。この場合、その先生が「装具治療は有効である」と考えていれば、進 行がゆっくりそうだなと予測する方を装具治療群1に、装具治療を行わない集団2には 進行が早そうだなと予測する患者さんを割り付けることが可能になってしまいます。

これとは逆に、「装具治療は意味がない」と言いたい場合には、集団1に進行が早そ うと予想される患者さんを、集団2に進行が緩徐と予想される患者さんを入れる事が可 能になるわけです。一人一人の先生にその気はなくても、無意識的にそのような事を行 ってしまうというのが分かっています(バイアスといいます)。
よって、このような状況下では、せっかく時間やお金をかけて臨床研究を行っても、 本当の治療効果が分からなくなってしまう確率が上がってしまいます。よって、対象が どのように割付けられたのか、方法の確認が重要になるのです。

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☆装具治療の臨床研究

側弯症に対する装具治療の有効性は、「装具治療を行った患者さん集団1」と「行わなかった集団2」を比べた際、集団1の方が、コブ角が進行した患者さんの割合が少な かったという研究結果が多数報告され、その効果が期待されるようになりました (Eur J Phys Rehabil Med. 2014; 50(5): 479-87; J Pediatr Orthop 2014; 34(6): 603-6; J Bone Joint Surg Am. 1995; 77 (6): 815-22)。

さらに、2013 年に 242 人の思春期側弯症患者さんを対象とした質の高い臨床研究が 報告されたことで、「装具治療は進行抑制に有用である」という見解が統一されました (N Engl J Med 2013; 369: 1512-21)。この試験は、先程お話したような臨床研究で大事 な点(大規模、無作為化、前向き試験、⻑期の効果見ている、等)を全て含んだ良質な デザインの試験であったためです。

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☆装具治療で大事な事は何でしょうか?

装具治療を行う上で重要な事は、「一定以上の時間、装具を装着すること」です。これは、先程の 242 人の側弯症患者さんを対象とした大規模な研究で、装具治療された患 者さん集団1の患者さんを装着時間が0〜6時間(1―A)、6〜12.9時間(1―B)、 12.9〜17.6時間(1―C)、17.7時間以上(1―D)の4群に分け、進行した 人の割合を算出した場合、0〜6時間の装具治療集団1―A は、装着しなかった患者さ んの集団2と変わらなかったのに対し、12.9時間以上の集団(1―C と1―D)は顕 著に進行抑制効果が見られていたためです。

患者さんにとってみると、装具治療は効果を実感することが難しく、一日装着する事が 難しかったり、どこかが当たって痛かったりと、先生に言いづらい事はあるかもしれま せん。しかし、先生が「最低でも半日以上」というようなお話をするのは、このような 臨床研究の結果があるためです。

昔は、一つの装具をつらいのを我慢して使用する、という時代もありましたが最近で は、装着しやすさが追求され、自身の生活スタイルに合わせた装具が開発されてきてい ます。しかし、装具治療に伴う皮膚のトラブルや日常生活でのストレス、等問題は多く ありますので、そのような細かい点を相談できるような先生を選択されることも大事で す。
☆装具にはどのような種類がありますか?

装具の歴史は古く、半世紀以上前にミルウオーキー型装具が開発されました。この装具は、体幹を腰周囲のガードルで固定し、そこから顎に向かって身体の前に1本、後ろ に2本、金属棒を伸ばし、首の周りで固定される構造になっていました 。見た目の問 題や装着のしづらさから、使用し続けてもらうことは難しいという問題がありました。

その後、胸椎の下の部分にカーブがある患者さんを対象に、金属を外したアンダーア ーム型の装具が開発されました。アンダーアーム型装具は、開発された都市や病院施設 の名称で呼ばれる事が多く、ボストン型、チャールストーン型、OMC 型など様々な種 類の装具が開発されました。

ボストン型装具は、数多い装具の中でも代表的であり、プラスティックのみで作成さ れているため、それまでの装具と比較して軽く、装着していても目立ちにくいという利 点がありました。その有用性は、臨床研究でも報告されたことで今では一般的な装具と なっています(Spine 1986; 11(8): 792-801)。

現在、日本で普及している「ボストン型」をはじめとする多くの装具も、1)体幹の周 囲にまいた後、固定される部位が身体の前ないし後ろの一方であるため、成⻑や側彎の 状態に合わせた細かい調整が難しい、2)ミルウオーキー型装具よりはよいかもしれな いが、それでもなお重く、見た目の問題がある、等の課題がありました。 一方、最近は、個々の患者さんの側彎や成⻑の状態に合わせて細かい調整が可能な装具 が開発されてきています(Prosthet Orthot Int 2005; 29(1): 105-11)。

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☆軽症の患者さんに対して装具治療は有効でしょうか?

前述の「装具治療の有効性」を示した臨床試験は、コブ角が 25〜40°の 10〜15 歳の患者さんを対象としたものでした。このため、コブ角が 25°以下の軽症の患者さんに 対して装具治療を行うべきか否かはわかっていません。私個人の意見としては 20°で も、進行する可能性がある患者さんには使用した方がよいと考えています。

現在までに、このような軽症の患者さんに対する就寝時のみの装具治療が有効である といった研究が報告されていますが、一つの施設で行われた経験症例のまとめであるた め、その結論を導くには時期早々です(Orthop Traumatol Surg Res 2017; 103(2): 275- 8)。また、前項でお話しした質の高い臨床研究では「6 時間以下の装具治療は、行わな い患者さんの集団と進行した患者さんの割合が変わらない」という結果が出ていますの で(N Engl J Med 2013; 369: 1512-21)、「軽症の患者さんに対して一律に装具治療をす すめる」という根拠は乏しいと考えられます。

自然経過の項でお話ししたように、19 度未満の患者さんでは進行する確率が 10〜12 歳で 25%、13〜15 歳で 10%、16 歳で 0%とほとんどの方は進行しないという結果が得 られています(Lancet 2008; 371: 1527-37)。よって、軽症の方に治療介入を行うと、10 〜12 歳の方は 4 人に 3 人が、13〜15 人では 10 人中 9 人が本来行わなくてよい治療を 受けなければならないとなってしまいます。
これは、医療経済的にも患者さんの負担を考えても、望ましいことではありません。 このため現時点では、「経過観察」していく中で、3のような経過と予測された症例に 対して早期に介入する、という手法が最善になっています。