解説
セーマとは、仏教において儀式を行う聖域のことです。聖域と周囲の空間を区別するため、木柱やシロアリの塚、河川など、自然の要素や素材を用いた境界標が置かれました。特に、現在のタイ東北部にあたる地域では石が多く用いられました。この石は「セーマ石(英:Sima Stone)」と呼ばれ、日本語では「結界石」と訳されます。
7~11世紀、チャオプラヤー川流域に存在したドヴァーラヴァティー王国では、主に上座部仏教が信仰されていました。王国領内ではセーマ石を建てる習慣が普及し、時代を経てセーマ石の形状は芸術的な装飾が施されるようになりました。
11世紀にクメール王朝がタイ東北部を支配すると、仏足石へ信仰が集まるようになりました。セーマ石の伝統は継承されましたが、別の寺院の結界石として利用するために移されることも多くありました。世界遺産に登録された地域のセーマ石は、配置された当初の場所に保存されているものや、ドヴァーラヴァティー時代の形態を残しているものが多いといった点で、他のセーマ石遺跡とは一線を画しています。