山下 啓さん/高等学校教員 – 世界遺産検定

山下 啓さん/高等学校教員

認定級 1級

山下 啓 さん

高等学校教員

地理の魅力は実生活との接点が大きいところ
世界遺産を通じ地理の魅力を生徒に伝えていきたい

―― 山下さんのお仕事について教えてください。

 中高一貫の学校で社会科の教員をしています。専門は地理です。中学では地理・歴史・公民すべてを教えていますが、専門性を求められる高校では地理を担当しています。
 私が地理の魅力に気がついたのは高校生の頃です。大学受験の社会科科目で地理を選択していたのですが、地理は勉強すればするほど面白い。受験勉強をしながら地図帳を広げては「いつかここに行ってみたい」なんて、勉強そっちのけでまだ見ぬ世界へ思いを馳せたりしていました。
 地理の魅力のひとつは、実生活との接点が大きいことではないでしょうか。例えば、テレビの旅番組などで「ここはミカンの産地です」と、ある地域が紹介されたとします。そのときに、地理の知識があれば「柑橘類が育つのであればこういう気候だろう」と、その場所をより具体的に思い浮かべることができます。そのため、生徒に向けた授業でもなるべく具体的なイメージが湧くような事例を盛り込んで話をするなど心掛けています。
 私は数ある旅番組の中でもNHKの『ブラタモリ』が好きなのですが、番組内の至る所に地層や気候など地理好きが反応するような話題がちりばめられていて、放送しているとついつい番組に見入ってしまいます(笑)。生徒たちにも、そんな風に耳にした地理や社会科関係の言葉からイメージが浮かぶようになってくれればうれしいのですが。

―― 世界遺産検定を受検されたきっかけは何だったのでしょうか?

 世界遺産は世界史・日本史と深く関係しているイメージがあり、学習を通じて世界史・日本史の知識がブラッシュアップできるだろうと以前から考えていました。検定についても、いつか受検したいと思ってはいたのですが、日々の仕事との兼ね合いもありなかなか機会に恵まれませんでした。受検のきっかけになったのは、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う休校期間です。「受検するなら、今しかない!」と一念発起。久々の試験勉強に取り組むことになりました。
 社会科教員として、世界史も日本史もある程度の知識はあるのですが、いざ世界遺産を勉強してみると新しい発見がたくさんあり、久々に知的好奇心が満たされる思いでした。また、日頃は生徒に対して試験を実施している立場ですが、試験を受ける立場を経験できたのも良かったですね。勉強の計画を立てたり緊張しながら試験当日を迎えたり、結果発表を心待ちにする……。おかげさまで、とても新鮮な体験をすることができました。

「好きな世界遺産は、新婚旅行でも訪れたイタリアの『アマルフィ海岸』。波の浸食による独特の断崖が面白いですよね」

―― 2022年度より、高校では地理が必修科目となっています。検定を通じて得た世界遺産の知識は、授業でどのように役立っていますか?

 世界遺産と、高校の地理の授業で扱う内容の親和性はかなり高いと実感しています。地理の中でも特に地形や気候といったジャンルは生徒が苦手意識を持つことも多いのですが、自然遺産を絡めることで「この地理的な要因があってこそ、この遺産が存在している、」と印象付けることができます。たとえば、北アメリカ大陸西部のプレート運動や造山運動を取り上げるときは実例として『イエローストーン国立公園』が、安定陸塊を取り上げるときは『ウルル・カタ・ジュタ国立公園』がそれぞれ例に挙げられます。「プレート運動」や「安定陸塊」という抽象的な単語が、世界遺産という具体化された存在になることで生徒たちの興味も引き付けられ、知識の定着を助けることになります。

―― 地理以外では、世界遺産をどのように授業に活用されていますか?

 探究の授業で世界遺産を取り扱っています。最初の授業では、『イエローストーン国立公園』やポーランドの『ヴィエリチカとボフニャの王立岩塩坑』などインパクトのある世界遺産を紹介して、まずは生徒たちが世界遺産に興味を持てるようにしました。今後は、3級の公式テキストを軸に生徒一人ひとりが自分の好きな遺産について研究し、まとめた成果を発表していく予定です。
 探究の授業は、いかに生徒の自主的な興味・関心を引き出すかが重要です。探究で世界遺産を取り上げるのは今年度が初の試みなのですが、地理だけではなく世界史や日本史、政治経済や宗教まで幅広いジャンルに話が広がるため、探究の素材として大いに可能性を感じています。生徒が世界遺産を通じてどんなこと学び感じ取っていくのか、どのように自分の世界を広げていくのか、いち教育者としても検定の認定者としても、今からとても楽しみです。

(2022年5月)