宮代町の第三セクター、観光農園「新しい村」(同町山崎)。その中の農産物直売施設「森の市場結(ゆい)」で4年以上眠っていたパン工房が復活し、地元を盛り上げようと奮闘している。復活に名乗りを上げたのは同町の東武動物公園駅近くで昨年10月からイタリアンレストランを営んでいる湯浅克也さん(33)。再開して約半年、「来店客が高齢化している。若い力で新しい村を盛り上げていきたい」と意気込んでいる。
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◆トスカーナ地方のよう
福島県会津若松市出身の湯浅さんは、20代前半でイタリアに料理修業。30歳で越谷市内にイタリアンレストランをオープンさせた。経営は順調で2店舗目の開店のため場所を選んでいた際、越谷市出身である妻の彩子さん(36)から「きっとこの町が気に入るよ」と紹介されたのが宮代町だった。「どこか、当時修業していたイタリアのトスカーナ地方の雰囲気に似ていた」と湯浅さんは振り返る。
物件を内覧した同じ日に、立ち寄った新しい村で使われないまま放置されていたパン工房を発見した。この工房は平成25年12月から職人不在のため休業を余儀なくされていた。町もホームページや都内の料理専門学校への訪問などを通じて工房の担い手を募っていたが、手を挙げる人はいなかったという。
「こんな立派な工房がほったらかしになっているとは…」。湯浅さんはすぐさま、町に連絡して工房の出店者に立候補。町の選考を経て、今年1月、正式に出店者となった。
◆将来背負う気持ちで
かつては東京・銀座のイタリアンレストランで料理長をしていた湯浅さんだが、パンとなると全くの素人。予定通り、4月に「パネッテリア イル ピノリーノ」を開店させたが、「当初はパンのでき具合が毎日異なり、味も安定しなかった」と明かす。7月までイタリアンレストランを他の従業員に任せ、パンづくりに没頭する日々。「結局、開店後3カ月で開店時に売っていたパンは一つも残らなかった。走りながらやってきた証拠」と笑う。
現在、得意のイタリアンをベースに、ピザパンや断面が鮮やかなフォカッチャの「萌え断サンド」など30種類を用意。この秋からは、より宮代町に特化するため、ナス、トマト、ししとう、カボチャといった宮代産野菜を積極的に取り入れている。
開店から今月で半年が経過した。湯浅さんは「今までは自分のために働いてきたが、今回は自分のためではなく、宮代町の将来を背負う気持ちで取り組んでいる」と強調する。まずは商品を手軽に買ってもらうことを重視しているため損益ベースでぎりぎりの状況が続いているというが、若い力で町の施設ににぎわいを取り戻すべく、湯浅さんの奮闘は続く。(大楽和範)