【パリ=三井美奈】ドイツのショルツ首相は17日、北部ニーダーザクセン州のボリス・ピストリウス内相(62)を新国防相に指名した。19日に就任し、20日にドイツ駐留米軍基地で行われるウクライナ支援国会合に臨む。会合を控え、ドイツに戦車供与を求める圧力が国内外で高まる中、首相は応じる姿勢を見せていない。
ピストリウス氏は、16日に辞意を表明したランブレヒト国防相の後任。第1与党、社会民主党(SPD)に所属し、国政経験はない。ショルツ首相の出身地、同州オスナブリュックで約7年間市長を務めた。首相が地元の側近を起用したのは「国防方針は変えない。自分で決める」という意思の表れとみられる。
ショルツ首相は17日の記者会見で、ピストリウス氏を「よき友人、よき政治家だ」とたたえる一方、主力戦車「レオパルト2」のウクライナ供与の是非には触れなかった。ピストリウス氏も同日、沈黙を保った。
ドイツへの圧力は、英国が14日、主力戦車「チャレンジャー2」14両の供与を表明したことで強まった。
ウォレス英国防相は16日の声明で、英国の決定を契機として「レオパルト戦車を供与できるようにしてほしい」と訴えた。ドイツはレオパルト2を供与しないなら、せめて保有国が移転するのを許可するべきだという主張だ。
レオパルト2は、欧州の10カ国以上が計約2千両を保有し、外国移転には製造国ドイツの承認が必要となる。ドイツが決断すれば、ウクライナは欧州各国からの供与を期待できる。すでにポーランドやフィンランドが提供意欲を示している。チャレンジャー2は、欧州で英国にあるだけで、波及効果に乏しい。ウクライナは、レオパルト2提供を強く求めている。
ドイツ連立政権では、第2与党「緑の党」のハーベック経済・気候保護相が12日、「ドイツの決定がどうであれ、ほかの国が支援を決めるのを妨害すべきではない」と述べ、ショルツ首相に決断を促した。緑の党は戦車供与に前向き。SPDは慎重で、閣内に温度差がある。
ハーベック氏は17日、米民放テレビで「米国が戦車供与を決めれば、ドイツも決断しやすくなる」と発言。まず、米国が主力のエイブラムス戦車の供与を決めるよう促した。ショルツ首相は「わが国単独では決めない。同盟国と連携する」と繰り返している。
ピストリウス氏は支援国会合を前に、19日にもオースティン米国防長官と会談するとみられ、米独のすり合わせが焦点になる。
昨年末のドイツ世論調査では45%がレオパルト2供与に反対し、賛成は33%にとどまった。ドイツは第二次大戦後、反戦平和主義が浸透し、国民は軍事支援で目立つことを敬遠する。独連邦軍では長年の投資不足で、武器の不備が相次いで露呈していることも供与への不安につながっている。
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フランス戦略研究財団のオリビエ・ケンプ研究員 ウクライナが米欧に戦車供与を強く求めるのは、昨年秋以降、戦局が膠着しているからだ。接近戦で、突破力を必要としている。
だが、戦車には軍事より、政治的意味の方が大きい。占領地奪回の戦いを後押しするという米欧の意思の象徴になる。ウクライナは「武器支援が新段階に入った」とロシアに示すことになる。接近戦の支援では、すでに米独が歩兵戦闘車、フランスが「軽戦車」の供与を表明している。
ウクライナはソ連製戦車を使用しており、米欧からの歩兵戦闘車、さらに戦車が数種加われば、それぞれの修理用部品が必要になる。調達や補給の複雑化という問題を抱えることになる。ドイツの「レオパルト2」を求めるのは、欧州各国からの供与が期待でき、調達も単純化できるという狙いからだろう。(談)