Google提訴の例で見た独占禁止法の基本 - 経済的自由のススメ ~そのあと~

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Google提訴の例で見た独占禁止法の基本

こんにちは~、今村です。

司法省がとうとう独占禁止法違反でGoogleを提訴しましたねー。

こういうのは大抵ダラダラ長引くので、今回もダラダラ長引くんじゃないかと思います。ただ、Microsoftという前例もあるし、グダグタ揉めても結局はあっけない結末になるという可能性もありそうです。

でもまあ、傍観者としては、独占禁止法に関するお勉強をしておくには良い機会かもしれません。

……てことで、独占禁止法の基本を今回のGoogle提訴の件を例にしてざっくりまとめておきます。

つい最近、下院司法委員会がGAFAの独占力を調査したまとめと対応案を発表しましたが*1、こういう話も独占禁止法について少しわかっていると判断しやすくなるはずなので、GAFAなど大手IT企業に投資している、またはしたいけれどあんまりわかってないかも……という人は、一応読んでおいてください。

わかってる人は……まあ読んでも読まなくてもどっちでもオッケーです。

今村個人の見解も最後に書いておきます。

独占禁止法のポイント

アメリカの独占禁止法(反トラスト法)には、シャーマン法、クレイトン法、FTC法、ロビンソン=パットマン法、合併制限法といろいろな規制が含まれていますが、ざっくりまとめると

  1. 1つの企業が(または複数の企業が価格設定するなど連携して)特定の市場を独占し
  2. 健全な競合を阻み
  3. 結果的に消費者の不利益となっている

という事態を避けるのが目的の法律と言えます。

昔は、独占と言えば、大手企業間で販売価格を決めて市場を独占してしまう、競合を買収して市場を独占してしまうなど、わかりやすいケースが多く、法的にはその辺りを禁止すれば良い感じでした。

もちろん今でもそのような行為は自動的にアウトです。

でも、事例が複雑化するにつれ、特定の行為を違法と定義するだけでは対応できなくなってきたため、消費者の不利益になっているかを分析して違法かどうかを判断するようになりました*2

つまり、連携して価格設定を行った、不当なやり方で競合を排除した等、明文化された違法行為以外の場合は、3で判断されるわけです。まあそれでも白黒つけにくくて難しかったりするんですが。

でもとりあえず上の3つのポイントを順に見てみましょう。

市場の独占

市場のどのくらいを占めていたら独占していると見なされるのか?

これについては、司法省が今までの判例をもとに「最低でも70~80%を占めていないと市場独占には該当しない」としています。

今回のGoogleの件では、司法省は「検索の88%、モバイル検索の94%、検索広告の70%をGoogleがコントロールしている」と言っていますから、この数字で良いのであれば、Googleはそれぞれの市場を独占しているということになります。

「この数字で良いのであれば」というのがポイントです。

なぜかと言うと、それぞれの市場をどう定義するかによって数字は変わるからです。

おそらく司法省は「検索=ブラウザでの検索」と定義して88%としているのだと思います。

でも、Googleはこちらのブログで「Googleの競合は他の検索エンジンだけではない」「人々はTwitterでニュースを、KayakやExpediaでフライトを、OpenTableでレストランを、オススメをInstagramやPinterestで検索している」「商品購買に関しては、アメリカ人の6割がAmazonでまず検索している」と反論しています。

このような他の検索の選択肢を入れたらGoogleが占める割合はもっと下がるはずだというわけですね。

ちなみに、AppleとEpic Gamesの論争でも、Epic側が「iOSという市場をAppleがApp Storeで独占コントロールしている」と主張し、Apple側は「iOSが嫌ならAndroidに行けばいい、ゲームアプリ市場はiOSだけではない」と反論しています*3

このように、市場をどう定義するかで独占の解釈も変わってくるわけです。 

競合の排除

不当なやり方で競合を排除したかに関しては、判断は比較的簡単なはずです。

証拠を揃えるという意味では簡単ではないかもしれませんが、不当か不当でないかはわりと明白なはずなので、やったかやってないかで判断ということになるのではないかと思います。

Googleの件では、司法省は「GoogleはAppleやAndroidのモバイル機器のメーカーや販売者と排他的な契約を結び、Googleの検索エンジンをデフォルトとして他社が競合できないようにしている」と主張し、例をいくつか挙げています。

これに対しGoogleは、

  • iOS:Yahoo!やBingも選択肢として提示されており、Googleの独占契約ではない
  • Windows:デフォルトはBing
  • Android:Googleのサービスを掲載する条件でAndroidを無料配布しているが、Googleの独占契約ではなく、他の選択肢も提示されることが多い

と反論し、どの契約も今まで何度も行われた独占禁止法の取り調べをすべてパスしていると述べています。

また、普通に考えたら、Googleの弁護士もMicrosoftの判例を勉強したうえで様々な契約書を作成しているはずですよね。

となると、司法省が新しい証拠や証言を入手して今までの理解を覆すのでもない限り、現行の法律では、Googleはマイナーな修正を命令されたりはするかもしれませんが、ビジネスモデルを大きく変えなくてはならないようことになる可能性は低そうです。

消費者の不利益

消費者の不利益は白黒つけにくい話です。

Googleの件では、司法省は「Googleの独占行為は、検索の品質を低下させることと検索の選択肢を減らすことで消費者に被害を与えている」と主張しています。また、「競合を抑制することで、検索サービスにイノベーションが起きにくくなっている」とも主張しています。

もしかすると司法省が言うようにそういう面もあるのかもしれません。

ただ、これを数値化してGoogleが反論できないレベルで証明するのは結構難しいと思います。

Googleも指摘しているように、Google検索がデフォルトになっている場合でも消費者は簡単に検索エンジンを変えることができる仕様になっていますし、GoogleがデフォルトでないケースでGoogleに変更している人もたくさんいるからです。

また、検索エンジンにイノベーションが起きていないとしても、Twitter、Instagram、Pinterest、Amazonなど他の検索方法は増加しているので、Googleにとっての競合が厳しくなっているだけで消費者の不利益にはなっていないという議論もできてしまいそうです。

さらに、たとえ一定の不利益が証明されたとしても、消費者の利益になっている部分もあると反論できます。

例えば、Googleは「GoogleのサービスをAndroidとバンドルすることでAndroidを無料提供でき、結果スマホメーカーは安くスマホを提供できるようになっている」と述べていますし、他にも「広告側で十分な収益を得ているから検索サービスは無料提供できている」などの主張もできそうです。そうなるとやはり、最終的に強制スピンオフのような措置に至る可能性はそれほど大きくない気がします。

ちなみに、Microsoftの事例では、一旦下級裁判所でスピンオフの命令が出ましたが、Microsoftが上訴して、やり方を変える諸々の妥協をして両者合意したため、スピンオフには至りませんでした。

Googleは今Microsoftの事例を復習し直しているはずなので、必要と判断すればもっと早々に妥協案も出してくるでしょう。

GAFAと独占禁止法の問題点

……とここまで、Googleの件を例に独占禁止法の基本をざっとまとめてみましたが、どうです、つまんなかったでしょう?笑 なーんだ、そんな感じなのか、と思いませんでしたか?

そうなんです、つまんないんです。たぶん。

じゃあなんで、そんなつまんないことを司法省はやるのか?

ここからは単なる今村の個人的見解ですが、これは時代の流れだと思います。

近年のGAFAに対する独占禁止法の取り調べの根本にあるのは、GAFAが民間企業としては力を持ちすぎてきているのではないかという漠然とした懸念です。

個人情報、人々の生活スタイル、ニュースなどの情報拡散、GAFAに依存するビジネスなど、多岐に渡っての影響力が大きすぎて、このまま放っておくとマズイんじゃないか、という懸念があります。

市場独占という懸念もあることはあるでしょうが、核心はそこじゃないわけです。

ただ、複雑すぎて、漠然すぎて、じゃあ核心は何なのか、何をどう規制しておくべきなのかと言われると、誰も明確にビジョンを出せない、というのが現状なのではないかと。

実際、そう考えると、「議会が何度も公聴会を開いてGAFAを招集するも、多くの議員はとんちんかんな質問しかできず何の解決にも至っていない」という状況も、「GAFAの事業を分割させようという案も、分割すべき明確な理由があると言うより、分割して小さくすればいろいろなことが解決するんじゃないかという曖昧な希望的観測で言っているようにしか聞こえない」という状況も説明がつきます。

下院司法委員会のGAFA調査も、今回のGoogle提訴も「精査して対策を考えたいが、適した枠組みもなければ、明確なビジョンもないから、とりあえず独占禁止法という枠組みで精査しよう」という動きに見えます。下院司法委員会や司法省が実際にそう意識しているかどうかは知りませんが。

何をどう規制すればいいのかわからないし、現行の規制には適切なものがない、でも不安はある、というのが問題なのだと今村は思います。 

GAFAと今後の規制

本質的な問題は市場独占ではなく、GAFAの影響力(とその力が悪用される懸念)なのだとすると、現行の独占禁止法の枠組みで議論してもあまり進展はない気がします。

ただ、話の流れによっては、ここから新しい規制案が出てくる可能性はあるかもしれません。

例えば、下院司法委員会が出した提言の1つに「プラットフォーム所有者は関連事業に参入できないようにする」というのがありましたが、今回のGoogleの件がきっかけで、これを法律にしようとする動きが強まるかもしれません。

現行の独占禁止法ではGoogle検索とAndroidを分ける判決まで持ち込むのはハードルが高い気がしますが、プラットフォームと関連事業を分けることが法律化されれば、GoogleだけでなくGAFA全社になんらかの分割を強いることが可能になります。

一方、話の流れによっては、Google側が懸念点を1つずつ潰して妥協案を提示することで、このまま何も大事に至らず一旦は終止符を打てる可能性もありそうです。

なぜかと言うと、まだ明確で有力なビジョンがないからです。

誰が一番最初に本質を突いて、みんなが納得するビジョンを出すかが勝負になります。

……たぶん笑

GAFAの経営陣の美意識

ところで、今後のビジョンも大事ですが、経営陣が今までどんな信念で何をしてきたかも大事です。

前回リーダーについて書いたときと、前々回CEOの評価基準について書いたときにもリーダーの美意識について触れましたが、「真・善・美」という美意識を持って行動している経営陣であれば、提訴されて取り調べを受けることになっても

  • そもそも法に触れることはしていない
  • 法で明文化されていない事柄に関しては、善悪で判断しているので、大抵問題にならない
  • 問題になった場合でも、判断の理由を説明できる
  • 間違いもすぐに認めて正すことができる

という確率が高く、逆に美意識がない経営陣は

  • 法に触れなければ良いという判断なので、グレイゾーンでギリギリなことをしていて問題になりやすい
  • 問題になった場合、法には触れていないという言い訳しかできない
  • 具体的な措置を強制されないと物事を正すことができない

という確率が高いからです。

規制や枠組みがまだないところで発展する新しい分野であればあるほど、リーダーの美意識が重要になるというわけです。 

まとめ

ということで、まとまったのかまとまってないのかよくわかりませんが、独占禁止法とGAFAにまつわる本質的な問題についてちょっと書いてみました。

いろいろ書きましたが、結局は「美意識がある経営陣が仕切っている企業であれば、どういう方向に物事が動くにしてもそれなりに乗り越えられるはず」という話で、独占禁止法や本質的な問題はどっちでもいいと言えばどっちでもいいのかもしれません。

ちなみに、個人的には、GAFAの経営陣の中で一番美意識が足りないのはZuckerbergチームだと思っています。

Pichaiチームは、失態は犯してきているけれど根本的にはそれほど悪くないと思います。少なくともMicrosoftが独占禁止法で提訴されていた当時のGatesチームよりずっと良いですね。Gates氏は今でこそ立派な慈善家ですが、あの当時はあんまり美意識があるCEOではなかったですから笑

まあとにかく、各社がどう出てくるのか今後も楽しみに見守っていきましょうか。

*1:実際の報告書を読みたい人はこちら。(PDFが開きます)

*2:これをRule of reason(条理の法則)と言います。

*3:3割の手数料を取っているという意味ではGoogleもAppleと同じ立場ですが、GoogleがEpicの件であまり話題にならないのは、Androidの場合、GoogleのPlay Store以外にもアプリをダウンロードする選択肢があるからです。