「楽しいからやっている」地域の応援団

「登米バーバーズ・ネットワーク」 藤原ふさ子 さん

宮城県登米市東和町鱒淵(ますぶち)地区に、対話や交流を重ねる中で労働者協同組合の応援団になってくれた団体があります。住民自らの意思と行動力で共に地域の課題に寄り添う、ゆるやかな地縁のつながり「登米バーバーズ・ネットワーク」(以下、「登米バーバーズ」)です。
地域という大きな社会の中では、労働者協同組合だけでは力及ばないことも、まだまだたくさんあります。そのようなときに、心強い味方となってくれるのが、地域の人たちの「つながり」「応援」「サポート」「ネットワーク」です。
鱒淵地区では、地域の人も移住者も、「登米バーバーズ」とつながることで笑顔を取り戻していく、みるみる元気になっていく。その背景と「バーバーズ」の思い、労働者協同組合に期待することなどを、登米バーバーズのメンバーの藤原ふさ子さんにお聞きしました。

鱒淵の「バーバ」、ワーカーズと出会う

「登米バーバーズ・ネットワーク」はもともと、鱒淵地区に暮らす女性たちがゆるゆる集うご近所仲間、茶飲み仲間。「バーバ」とは「おばあちゃん」のことで、メンバーが孫に「バーバ」と呼ばれていることから名付けました。ご近所づきあいの延長で世間話をしたり、手の足りないことがあったら互いに助け合う、のんびりした地縁のつながりです。
労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団(略称:ワーカーズ)と出会ったのは、2011年の東日本大震災後のことでした。ワーカーズは、震災後すぐに震災復興本部を立ち上げ、のちに「震災対応人材育成事業(起業型)」を始めました。高齢者・障害者福祉や困窮者支援、子育て支援を行うワーカーズが被災地に来てすぐに、区長さん*から「災害復興でワーカーズさんという人たちがくるらしい。その説明会に参加してくれないか」と声をかけられたのがきっかけです。

*区長:登米市の行政事務の円滑を図るため、9町内に区を定め、区域内に居住する人の中から当該区の住民が推薦、申請する人を市長が委嘱して各区に「区長」を置いている。

「ワーカーズってなに?」「私たちになにができるの?」と最初はみんなおっかなびっくりでした。田舎には、地域の外から来た人に対して臆してしまうところがあり、みんな最初はなかなかワーカーズの人たちに声をかけられませんでした。
でも、震災被害を受けた人を支援したり、慣れない農作業や林業に悪戦苦闘している姿を見るうち、ぽつりぽつりと声をかけるようになりました。話してみると、ワーカーズの人たちは心から鱒淵地区のことを考えてくれていて、信頼できる人ばかりでした。

「なんでも相談してよ」で、ワーカーズが「ご近所さん」に

最初はぎこちなくても一度心を許せば、とことん面倒見いいのが田舎のいいところ。
どうやって地域に入っていっていいのか悩んでいるワーカーズの人たちには「とにかく話しかけてみなさい」「遠慮しないでなんでも関わってみたら」と背中を押しました。もちろん、バーバーズのネットワークを駆使して、いろいろなご縁を取り持ったりもしました。

ワーカーズの人たちも、知らない土地で遠慮があったと思います。どうしたらいい?と問われることも増え、「何でも相談してよ。出来ることは出来る、出来ないことは出来ないってはっきり言うから」と笑って伝えました。
そのうち、「お昼を食べにおいで」と誘ったり、事務所に立ち寄って世間話をしたりするようになりました。コロナ前までは、誰かの自宅に集まっておしゃべりに花が咲き、夜が更けることもしばしば。今ではすっかり地域住民の一員です。

畑でつながれ!人もバーバもワーカーズも

やがて、ワーカーズが行う生活困窮者自立支援事業や就労継続支援事業などを通して、生活に困窮する人たちやひきこもりの若者たちと一緒に畑仕事もするようになりました。
最初は、みんな暗い感じで、挨拶してもモゴモゴして、黙々と作業をする。でも、畑仕事には10時と3時のおやつや、昼ごはんを一緒に食べる時間があります。地元のお母さんたちが持ち寄ったごはんやおやつを食べながら、誰からともなく「どこからきたの?」と尋ねたりして少しずつ話をするようになりました。
ただ、バーバは物忘れがひどい(笑)。何度も同じことを聞いたり、前に聞いた話を忘れてしまったり。でも「前に話したよ」「それ、2回目だよ」などと呆れながら、ぽつりぽつりと話をしてくれるようになりました。あとで聞いたら「最初はイヤだったけど、なんか慣れてきちゃった」なんて。「同年代で話すよりかえって気を使わなくていい」とも。だからこちらからも「おなかが空いたり、悩みごとがあったら、いつでも畑にきたらいいよ」と伝えています。
なかには、他人の握ったおにぎりが食べられない人もいたのですが、いつの間にか「はい」とおにぎりを渡すと、食べられるようになったりして、少しずつ明るくなって、冗談も言えるようになりました。普通の仕事勤めをするようになってからも、一緒に食事に行ったりしています。まるで息子のよう。将来の成長が本当に楽しみです。

見返りを求めるわけじゃない、楽しいからやっているだけ

以前、ワーカーズの人たちに頼まれ、住むところを失って鱒淵に来られた方に、バーバーズのネットワークを駆使して、たった1日で家財道具一式を集めたこともあります。
洗濯機だけは揃わなかったのですが、地区では子どもや孫たちが使わなくなった電化製品を物置に保管している人が多く、「使ってよ」と気前よく持ってきてくれました。物を揃えただけでなく、その後もちゃんと暮らせているか気にかけたりもしています。
行動の原動力になっているのは、「喜ばれたら嬉しいから」。自分も気分がいい、そんな単純な事です。やりたくてやっているのだから、見返りを求めるわけじゃない、詮索もしない、気にしない。楽しいから続けられるのです。

地域を元気にする働き方「労働者協同組合」

人生の先輩、応援団として

現在は、ワーカーズやそこで働く若者たちと一緒に畑仕事をしたり、山の伐採をしたりしています。ワーカーズの人たちには地域住民が高齢のため出来なくなった草刈りなども手伝ってもらい、助かっています。
一方で、地域の先輩としてできる範囲で皆さんの仕事を応援しています。例えば、剪定の仕事を見に行って、「こうしたほうがいいよ」とアドバイスしたり、熟練者の意見を教えたりしています。
どんな仕事もちゃんとやらなければ、仕事とはいえません。うまくできていないことには遠慮なくダメ出ししますし、「もう少し勉強しなさい」なんてハッパをかけるときもあります。バーバの知恵と文句は、のちのち役に立つのです(笑)。でも、皆さん、やる気がすごくて勉強会も熱心にされているので、少しずつ良くなっています。
私たちは色々な面でワーカーズの応援団のような存在なのだと思います。コロナ禍で少しお休みをしていましたが、ワーカーズとの取組の一つとして、毎年、仙台から児童館の子どもたちがバスで鱒淵に自然体験活動に来てくれます。親御さんから「子どもの話を聞いて私も鱒淵に行きたくなりました」「仙台ではできない経験をさせてもらってうれしい」とお手紙もいただきました。
今は親子で参加できる「田んぼの楽校」という取組を行っています。川や山などの自然や食べ物など、地域住民にとっては、普通で当たり前のことが他の地域から来る人にとっては特別でうれしいことのようです。そのことに気づけたのも私たちには大きな幸せです。
子どもの数が減っている鱒淵でたくさんの子どもたちと関わることができる機会は、地域の方たちにとって、やりがいや生きがいにつながっています。

労働者協同組合の働き方に地域づくりの未来がある

大切なのは地域の様々な組織がつながること

鱒淵地区のある登米市(9町が合併)は、どこも農村中山間地域です。
森林や竹が群生していますが、特に竹林は手入れをしないと畑や庭にまで進入してきて、土地が荒れ放題になります。担い手がどんどん少なくなる中、竹をただ刈るだけでは限界があります。そこで竹をチップにして、そのチップの活用方法をみんなで考えたり、竹明かりづくりのワークショップを開いたりしました。
ワーカーズと登米バーバーズだけではなく、地域の自治組織や自治会などさまざまな組織がつながって活動を広げていくことが大切だと考えています。
ワーカーズとの取組はまだまだ小さいですが、大きな可能性を秘めています。このワーカーズ、労働者協働組合の働き方をさらに色々な人たちに伝えて広げていきたいと考え、各地で地域づくりを頑張っている有志が集まって、登米市全域のネットワークづくりを始めています。

労働者協同組合との活動を通じて地域本来の魅力を取り戻す

鱒淵での人の「つながり」はとても強いのですが、きちんと組織された団体ではありません。地縁の中で活動しているバーバーズのような地縁ネットワークは9町それぞれにあります。9つの町のバーバーズがつながり、大きな一つの登米バーバーズとして活動できれば、さらに活動の可能性が広がると思います。近い将来、「労働者協同組合登米バーバーズ」が設立できるといいですね。
労働者協同組合が地域に生まれると、これまで出会う機会のなかった児童館の子どもたちや、障害のある方、ひきこもりの若者、様々な困難を抱えた方など、労働者協同組合の事業を通じてたくさんの関わりが生まれます。そして、地域に必要な仕事の担い手が増え、途絶えていた地域の行事も復活する。やがて、地域が本来持っていた魅力が戻り、地域が活性化してくる。そうすれば移住者も増えるのではないでしょうか。
登米バーバーズはワーカーズの応援をしているようで、実は私たち自身が楽しんでいます。労働者協同組合の働き方の素晴らしさが地域に住む人たちにも伝わって、地域に良い連鎖を生み出していると感じます。
これからも登米バーバーズはワーカーズの良きパートナーであり続けたいと思っています。