売買契約における手付金の分割受領の可否とその根拠 | 公益財団法人不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター)

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2410-B-0338
売買契約における手付金の分割受領の可否とその根拠

 当社売主の物件を買主と売買契約するが、契約時に当社が要望している手付金を買主は工面できないという。そこで、売買契約書に記載する手付金は当社要望の手付金額を記載し、契約締結時は買主が用意できる金員を授受し、不足する金員は後日支払う旨の約定書を交わしたい。

事実関係

 当社は、不動産売買の媒介及び買取再販を主業務としている。この度、当社が購入した区分マンションをリフォームして販売活動をしたところ、個人の購入者と売買代金3,000万円で売買契約する合意を得た。買主はリフォーム済みの内装が気に入っており、他の買主が現れることを懸念して早急に契約締結したい意向を示した。当社と買主とで契約締結日の打ち合わせをした結果、4日後の日曜日に売買契約を締結する運びとなった。契約条件は、手付金を売買代金の1割の300万円とし、3か月後に住宅融資金額を含めた残代金を授受することとした。手付金は、買主が安易に手付解除できない金額を設定した。しかし、買主は手持ち金が少なく、契約時には50万円しか用意できないと言う。買主から契約締結日の7日後に手付金の差額を支払うことができるとの確約を得られたので、当社は、やむなく手付金を分割で受領することに同意し、契約締結日の7日後に残りの250万円を支払う約定書を買主から取得して、4日後に当社事務所で手付金300万円とする売買契約を締結することにした。

質 問

1.  売主宅建業者が、買主の資金力を斟酌して、手付金を分割支払いすることを提案してもよいか。
2.  宅建業者売主で、買主から手付金を分割で支払う希望があるときは分割で受領してもよいか。
3.  宅建業者が、売主、買主がそれぞれ個人の売買の媒介をする際、買主の希望により、手付金を分割で支払う売買契約は問題ないか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 宅建業者が、手付金を買主に分割して支払うよう持ちかけることは「信用の供与」に該当し、宅建業法違反である。
 質問2.について ― 手付金の分割支払いが買主の希望だとしても、業者が分割して受領することは「信用の供与」に該当し、宅建業法違反である。
 質問3.について ― 宅建業者の媒介による個人間の売買契約に際し、買主からの申出による手付金の分割支払いの場合でも、分割で授受することは信用の供与に該当すると解される。
2.  理 由
〜⑶について
 不動産の売買契約では、売買代金の授受が契約締結時に全額一括で行われることは少なく、売買契約締結時に代金の一部になる手付金を授受し、一定期間経過後に残代金の支払い、所有権移転手続き及び物件引渡しが行われるのが一般的である。手付金は、売買契約の成立を表す①証約手付、契約当事者に解約権を留保させる②解約手付、当事者の契約違反による契約解除のときの違約金とする③違約手付の3つの種類がある。不動産の売買契約は、口頭でも契約が成立する諾成契約であるが、手付金の授受は、「手付契約」とされ、手付金の授受があって成立する要物契約でもある。手付契約は、相手方の履行の着手前または手付解除期日までは、理由のいかんを問わず、買主は手付金を放棄、売主は手付金倍返しにより一方的に契約を解除することができる(民法第557条)。
 一般的に不動産売買契約において、売買金額の5~10%程度の手付金で売買契約を締結することが多いが、買主の資金力や資金計画により、手付金が少額になることがある。手付金の額は売買当事者の合意で設定することが可能だが、少額であると安易に放棄・倍返しによる手付解除ができ、取引そのものが不安定になることは否めず、安易な契約解除ができないような金額を設定することが多い。契約締結時に設定の手付金が少額のときは、分割により後日に差額の手付金の支払いを考えることもあろうが、宅建業者が売主の場合、宅建業者が手付金の分割支払いを提案することはできず、また、買主からの申出があったとしても分割受領はできない。分割受領は、手付について貸付けその他信用の供与をすることであり、契約の締結を誘引する行為として禁止されている(宅地建物取引業法第47条第3号及び宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方47条第3号関係)。売主業者からの手付金分割支払いの提案も、買主からの申出による手付金の分割受領も宅建業法の違反行為であり、行政処分の対象となる。
 また、宅建業者が媒介する場合の個人間の売買契約でも「宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない」と“その他信用の供与”を禁じており(同法第47条第3号)、“その業務”は媒介行為も含まれると解釈でき、“宅建業者の相手方”は、買主が該当し、買主からの手付金分割の申出があったとしても、個人間の契約で分割授受することも業者売主の場合と同様に宅建業法の違反行為であることに留意すべきである。
 ただし、宅建業者による手付の信用供与があったとしても、売買契約そのものには影響せず、契約は成立する。なお、分割により一部支払った手付金があった場合、手付解除の際は、売買契約書に記載された手付金総額ではなく、前記のとおり、手付契約は要物契約で現実に授受された手付金が手付であるから支払った一部手付金が契約解除の対価になる。(【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第555条(売買)
   売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第557条(手付)
   買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
   (略)
 宅地建物取引業法第47条(業務に関する禁止事項)
   宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
  ・二 (略)
   手付について貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為
 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方・第47条第3号関係
   信用の供与について 本号中「信用の供与」とは、手付としての約束手形の受領等の行為、手付予約をし た場合における宅地建物取引業者による依頼者の当該予約債務の保証行為等もこれに 該当することとなる。なお、手付の分割受領も本号にいう「信用の供与」に該当する。

参照判例

 大阪高裁昭和58年11月30日 判タ516号121頁(要旨)
 不動産売買契約の締結に際し、買主から売主に対して手付金名目で金銭の授受が約され、ないし、その授受が行われる場合、特段の意思表示がない以上これを解約手付と解すべきところ(民法557条1項)、前認定のようは本件売買契約締結の経緯によっても、右特別の事情を認めることができないから、本件においても、右の趣旨の手付と認めるのが相当である。そうすると、売主と買主間において、売買代金の約10分の1とされた手付総額金500万円を、本件売買契約における解除権留保の対価とすることの合意がなされたと認められ、これが当事者の意思に合致するものというべきであるが、手付契約が金銭等の交付により成立する要物契約であることを考慮すると、前示のように、昭和〇〇年〇月〇〇日、本件売買契約が締結され、これに従たる総額500万円とする手付に関する合意がなされ、買主から金額100万円の小切手が売主に交付されているけれども、右総額500万円についての手付契約としては未だ成立するに至らず、むしろ、同月〇〇日までに右全額を交付する旨の手付の予約がなされたにとどまるものと解するのが相当である。そうすると、売主の買主に対する右金400万円の請求については、右手付総額500万円につき手付契約がそもそも成立していないのであるから、その前提を欠くというべきであり、したがつて、交付のない手付金の没収ないし支払請求をする根拠がないことに帰着する。なお、売主は、手付の予約でなくその成立があるとし、右手付金の支払いを分割したにすぎないというけれども、手付の要物契約性を無視するものであって採用することができない。

監修者のコメント

 手付金の授受は、売買契約等に付随する「手付契約」に基づくものであり、この手付契約は要物契約の性質すなわち口頭による意思表示の合致(諾成契約)ではなく、現実に物(ここでは金銭)の授受があって初めて成立する契約である。このことは、意外と思われる方が多いようである。たとえば、300万円の手付金として契約書に表記されているが、契約締結に際し、取りあえず100万円だけ渡し、残り200万円は後日支払うと約した場合、手付金として成立しているのは100万円だけである。したがって、その場合に買主が手付放棄して解除するときは100万円の放棄で足り、あと200万円を支払う必要はなく、また逆に売主が手付倍返しによる解除するときは、200万円を買主に支払えばよく、600万円を支払う必要はない。
 なお、相談事例に係わる宅建業法47条3号の「手付貸与の禁止」の条項は、その制定時の立法趣旨は、顧客が物件に興味を持ったが、「今は手付金を持っていない」と言った時に「大丈夫、手付金をお貸ししますよ」、とか「手付金は、今は一部でよいですよ、残りの手付は後日でよいですよ」などと言って物件への申込みを誘引する行為が顧客保護の見地から好ましくないとの考慮であった。それゆえ、同号の文言は、「手付について貸与その他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為」とされたのであるが、それを形式的に解釈すると、もはや契約締結の誘引とは言えないケース、すなわち既に契約したいと確定的意思を持った顧客自らが手付の信用供与を申し出たようなケースは、同号に該当しないように読むことができる。しかし、実務的にみると、その信用供与と契約締結の誘引行為の因果の関係が曖昧なことが多く、場合によっては宅建業者の工夫によって、同号の条文が潜脱されてしまうので、行政解釈によって、とにかく顧客からの申出か否かに関係なく手付の信用供与行為一般が禁止されることになった。
 本事例の質問1の回答は当然のこととして、質問2と3についての回答が意外と思われる向きもあるかも知れないが、現行の解釈がそのようなものであることを知っておいていただきたい。

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