朝ドラ『虎に翼』尊属殺人事件の第二審はなぜ実刑判決? 「夫婦のように暮らしていたし緊急事態ではなかった」という屈辱的な解釈 | 歴史人
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朝ドラ『虎に翼』尊属殺人事件の第二審はなぜ実刑判決? 「夫婦のように暮らしていたし緊急事態ではなかった」という屈辱的な解釈

朝ドラ『虎に翼』外伝no.69


NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』は、第25週「女の知恵は後へまわる?」が放送中。寅子(演:伊藤沙莉)らは少年法の厳罰化に反対し、桂場等一郎(演:松山ケンイチ)は若手法曹らの思想や行動に対して異例の人事を行うなど、あちこちで問題が発生している。一方、山田よね(演:土居志央梨)と轟太一(演:戸塚純貴)が弁護する被告人・斧ヶ岳美位子(演:石橋菜津美)の控訴審では第一審の判決が覆され、実刑判決が下されて上告した。今回はドラマでは詳しく描かれなかった第二審の顛末を取り上げる。


※本稿には実際に起きた事件について性的虐待等の描写が含まれます。予めご了承ください。

 

■性的虐待を受け続けた女性の過酷な裁判

 

 モデルとなった事件の概要や第一審については前回前々回の記事で取り上げた通りである。改めて簡潔に経緯をまとめておこう。

 

 被告人・A子さんは、14歳の時に実父に性行為を強いられて以降、度重なる性的虐待を受けてきた。やがて実父の子を5人身ごもり、出産(うち2名は早逝)。まるで夫婦のような生活を約15年にわたって強制されていた。

 

 そして昭和43年(1968)10月5日の夜、自身の結婚に対して激昂した父親に約10日間監禁され、暴力を受け続けた彼女は、泥酔して自分に掴みかかってきた父親を絞殺するに至ったのである。

 

 第一審では、刑法第200条「尊属殺人罪」は日本国憲法第14条が規定する「法の下における平等の原理」に反するため違憲とされた上で、刑法第36条「正当防衛」の第2項目「防衛の限度を超えた行為は、情状により、その刑を減刑し、または免除することができる」を適用して「被告人に対し刑を免除する」という判決を下した。

 

 検察は、「憲法第14条の解釈を誤り、本来適用されるべき刑法第200条(尊属殺人罪)が適用されなかった。刑法第199条(殺人罪)を適用したのは誤りであり、かつ本件を正当防衛の過剰行為であると認定したのも事実誤認がある」として控訴した。

 

 第二審では「原判決を破棄し、被告人を懲役3年6カ月に処する」という実刑判決が下っている。なぜこの判決に至ったのだろうか。

 

■第二審では「夫婦同様の暮らしで日常的な衝突はなく緊急事態でもなかった」とされた

 

 第一審では、被告人が父親に結婚したいと打ち明けてから約10日間監禁され、暴力・暴言を受け続けたために神経が衰弱しきっていたことは異常な事態だったことを認めている。また、泥酔した父親が被告人に襲い掛かろうとした瞬間に「もはや父親を殺害するしか、近親相姦の忌まわしい関係を断ち切ることも、人並みの結婚をすることも、自由になることも叶わない」と思い至り、殺害したことについて「被告人の自由に対する父親の急迫不正の侵害に対する防衛行為だが、防衛の限度を超えたものである」ということも認められたことが罪を免じるという判決に繋がった。

 

 ところが、第二審では関係者の証言等に基づいて、「被告人は少女時代に父親に汚辱を受け、長年親子でありながら夫婦同様の生活を継続してきた関係で、その間に数人の子までなした間柄である。そのことは近隣住民をはじめ多くの人々が知るところであり、世間からは普通の夫婦にしかみえなかったという。被告人は忍従の生活とは言いながら、常時父親と喧嘩闘争をしていたわけではないことは、被告人の妹や近隣の人々の証言から明らかだ」とした。そして「被告人と被害者との間が不断の緊張、鬱積の関係にあったとし、それを被害者が被告人に対し継続的強姦行為をなしていたというにたとえるが如き弁護人の答弁書の議論はとるに足りない」とされたのである。

 

 父親に結婚の意思を伝えた後に監禁され、日夜暴力・暴言を受けた事実こそ認められたものの、それさえ「不正の侵害が急迫しているといえるようなものではない」つまり「被告人にとって法に保護される利益が侵害されている状態にある、もしくはその危機に迫られていたわけではない」という検察官の主張を認めたのだ。

 

 そして、防衛ではなく殺意をもって首を絞めたこと、正当防衛もしくは過剰防衛・緊急避難を認定するような緊急事態ではなかったとし、第一審が認めた「正当防衛の過剰行為」をはねのけた。

 

 また、第一審が認めた「刑法第200条(尊属殺人罪)は憲法第14条に違反する」という点も、過去に最高裁判所が「違憲ではない」という判断を下したことを根拠に、間違った判決であるとした。

 

 被告人・A子さんは刑法第200条(尊属殺人罪)が定める「自己又は配偶者の直系尊属を殺したる者は、死刑又は、無期懲役に処す」に従って無期懲役とされ、犯行時に神経耗弱の状態にあったことから第39条第2項「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と、第68条第2項「無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、7年以上の有期の懲役又は禁錮とする」によって減軽された。

 

 さらに、刑法第66条「犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる」と、第68条第3項「有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる」を適用し、酌量減軽をした刑期の範囲内として、懲役36月に処するという判決が出たのである。

イメージ/イラストAC

<参考>

京都産業大学法学部「憲法学習用基本判決集」

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