機械式時計は繊細な歯車が絡み合って動くため、定期的なオーバーホールが必要不可欠です。
それとは違い、クォーツの時計はオーバーホールの必要がないと言われることがあります。
確かに機械式ほどのメンテナンスは必要はありませんが、クォーツ時計もやはりオーバーホールは必要です。
そこで今回はクォーツ時計のオーバーホールについて解説します。
目次
なぜオーバーホールが必要ないと思われているのか?
なぜクォーツの時計はオーバーホールの必要がないと言われるのでしょうか。
それは一般に、クォーツ時計は下記のような特徴を持つと言われているからです。
- 精度が高い
- 安価で手に入る
- 止まってしまっても電池を交換すれば動く
- 電子回路に寿命がある
機械式時計は日差±15秒ほどが標準なのに対し、クォーツ時計は月差±15秒~±30秒ほどの高い精度を誇ります。
しかも大量生産が可能なため、100円SHOPでも手に入ります。
機械式のように毎日ゼンマイを巻かなくても動き続け、止まってしまっても電池交換をすればまた2~3年は動き続けます。
しかしクォーツの振動を調整する電子回路には寿命があり、それはだいたい10年ほどであると言われています。
交換するとなるとそれなりにお金がかかってしまい、また古すぎると生産が終了になってしまっていることもあり、元々安価なので買い直した方が得、ということになってしまいます。
使い続けて動かなくなったら交換することを想定していることが多いため、オーバーホールを行う必要性がないと思われているようです。
オーバーホールをすることで長く使うことも可能
高級クォーツ時計なら新品に買い直すよりオーバーホールをしたほうが費用がかかりませんし、思い入れのある時計ならばオーバーホールをしていつまでも使いたいと思うのは当然です。
そんな方にはぜひオーバーホールをお勧めします。
クォーツムーブメントは電池とモーターで動いているので、動力部のオーバーホールは必要ありません。しかし「歯車で針を動かしている」ことは機械式時計と同じなので、その部分の潤滑油は長期間経過すると劣化します。
油が劣化すると歯車が動きにくくなり、電池の減りが早くなったり、精度が安定しなくなります。
長年メンテナンスをせず使い続ければ、部品の寿命よりも早く時計が動かなくなることもあるのです。
そうならないためにも、クォーツ時計であろうとも定期的なオーバーホールは欠かせません。
オーバーホールを行うことで故障の原因となる目に見えない部分の汗や汗を取り除き、摩耗した部品を交換して時計を快適な状態に戻します。
同時に時計内部の油の状態やネジの緩み、汚れや汗に拠る錆、ケース内部の腐食などをチェックします。
加えてオーバーホールで大切な、防水性が保たれているかどうかを確認します。
防水のためのパッキンは長い年月を経過すると緩むことがあり、そこから水分が侵入するとクォーツの電子機器が壊れることがあるので、パッキンは定期的に点検及び交換をする必要があります。
オーバーホールをしてパーツの状態を確認し、必要があれば交換をすることで、大事な時計をより長く、より良い状態で使うことができます。
電池切れのまま放置してはいけない
しばらく使っていなかった時計がいつの間にか電池切れを起こしていた、という経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。
時計の電池は電池がなくなって針が動かなくなった後も微量な電力が放電されています。
その状態が長く続くと電池内部の圧が上がり、電池に設けられた安全弁からガスとともに電解液が外に漏れてしまうことがあります。
漏れてしまった液が機械内部にダメージを与えてしまいますので、電池が切れた場合はすぐに電池交換をおこなってください。
オーバーホールにかかる費用と期間
オーバーホールで掛かる期間はブランドや状態によっても異なりますが、おおよそ1か月くらいです。
費用は国産のものなら5,000円くらいから、海外のものは10,000円くらいから、クロノグラフですと20,000円くらいからが相場のようです。
機械式のオーバーホールは3~5年くらいのスパンで行いますが、クォーツ式の場合はもう少し期間を開けてもよく、7~8年経ったらオーバーホールに出したほうがいいようです。
その前にも電池を交換しても動かない、電池切れまでの期間が早くなったと感じたら潤滑油の劣化や電池の液漏れが想定されますのでオーバーホールを検討してみてください。
日々の手入れも忘れずに
数年に一度の本格的なお手入れも大事ですが、大切な時計を長く使うためにはやはり日々のお手入れが欠かせません。
時計の裏蓋やブレスは常に肌に触れているので汗や汚れが付着しやすくなっています。
特にこの時期は汗を多くかくため、それらが付着することが多くなります。
そのままにしておくと錆びてしまったり、またそれが原因で衣類の袖口を汚したり、かぶれたりすることもあります。
ブレスは指が一本入るくらいの余裕を持たせて通気性を良くしてはめるようにし、時計を外した後は柔らかい布で汗や水気を拭き取り、風通しの良い、直射日光が当たらない場所で保管してください。
また、防水性の高い時計であっても水仕事や手を洗う際には時計を一度外すことをお勧めします。
パッキンが劣化している場合には水の侵入の可能性があります。
水がかかってしまったときにはすぐに乾いた布でふき取ってください。
磁気にも注意
磁気には特に注意が必要です。
クォーツ時計は機械式時計よりも磁気の影響を強く受けます。
クォーツの針を動かすステップモーターには永久磁石が組み込まれており、これが外からの磁力が加わると一時的に進みや遅れが見られ、止まってしまうことがあります。
磁力源から遠ざければ元通りに動くようになるので、時刻合わせをすれば問題なく使うことができます。
しかしながら現代社会では磁力を発生するものが多く、身の回りに溢れています。
冷蔵庫などのドア部分。スマートフォンやパソコンのスピーカー部。
タブレットカバー。
クォーツの時計をお使いの方は女性の方が多いのですが、ハンドバッグの留め具にも強力な磁石が入っているので注意が必要です。
ですが磁気の強さは距離の2乗に反比例します。
磁気を発する製品と密着状態では影響を受けますが5cm程度離せば影響は出ません。
過敏になる必要はありませんが、スマートフォンと一緒に時計を置く、冷蔵庫のドア部付近に時計を置く、などは避けるようにしてください。
最後に
普段のちょっとした扱いや日頃のお手入れで時計の寿命は変わってきます。
それにオーバーホールという本格的なメンテナンスを入れると大事な時計と長くお過ごしいただけます。
お手入れ方法など、ご不明な点があれば当店スタッフがアドバイスさせていただきますので、お気軽にご相談ください。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年