これぞ!という時計に巡り合って購入した時計が、すぐに止まってしまったり、異常な動作をしていたら凄くガッカリしてしまいます。
そんな時は「壊れてしまった」と落ち込む前にまずは一呼吸してみましょう。実は操作方法が違うだけかもしれません。ただし、普段何気なくやっていることが故障の原因となっていることもあり、その場合は何が時計にとってダメなのか知る必要があります。
そこでこの記事では、時計の不具合に関して当店GINZA RASINによくご相談いただく12個の事例を紹介いたします。「あれ?買ったばかりなのに変だな?」「普通に動いていたけど最近おかしいぞ?」と思われている方は、まず下記をご確認くださいませ。
目次
事例1:時計がすぐに止まってしまう
様々な原因が考えられますが、まず疑うべきはゼンマイの巻き上げ不足による駆動力不足。
自動巻きの時計は腕につけていれば、ずっと動き続けるものだと思っていませんか?自動巻きの時計は、内蔵されたローターが腕の動きで回転し、ゼンマイを巻き上げる仕組みです。従って腕から外すことが多かったり、腕の動きが少ないと時計を駆動させるための十分な動力が得られず、精度が乱れたり、止まってしまうことがあります。
そのため、1日最低でも8~10時間ほど腕に着用する必要があります。
腕から外すことが多い方、デスクワークなどで動きの少ない方は、長時間着用していても駆動力不足になる可能性がありますので、毎朝ゼンマイを巻き上げ方向に30~40回ほどゆっくり巻き上げてからご使用頂くと確実です。
駆動時間(パワーリザーブ)は時計によって異なりますが、一般的な機械式時計はゼンマイが巻き上がった状態で40~50時間程度のものが多いです。ただしメーカーが発表している駆動時間は、時計に一切の負荷を与えずに測定した最長時間になりますので、実際のご使用ではもう少し短いと思ったほうが良いでしょう。
また、ゼンマイをしっかりと巻き上げた状態で、大幅に所定の駆動時間を下回る場合は、ゼンマイ切れやパーツ破損などの可能性がありますので、時計店に見てもらうことをお勧めいたします。
自動巻きはリューズでゼンマイを巻かない方がいい?
自動巻き時計であっても手巻き時計と同様にリューズを巻くことでゼンマイは巻かれます。ただ、自動巻き時計はローターの巻き上げによってゼンマイが巻かれる設計となっているため、リューズでの巻き上げは飽くまでも補助的に使うのがベストです。
完全にゼンマイが解かれている状態なら、数十回ほど手で巻き、後はローターの動力で巻き上げをしたほうが機械に負担がありません。
必要以上にゼンマイを巻き上げることでパーツが摩耗する可能性もありますので、自動巻きを手にするのであればローターの動力に巻き上げを任せましょう。
事例2:0時ちょうどにカレンダーが変わらない
機械式時計が日付を変える時、±10分ほどの猶予があることが一般的です。カレンダー板がゆっくりと回転して日付が変わりますので、時間によっては日付窓に斜めに数字が2つ見えることがあります。
またモデルによっては1時間程度の誤差あったり、逆に「デイトジャスト機能」を持つ時計はカレンダー板にスプリングなどを加えることで瞬時に切り替わる仕様です。
(※「デイトジャスト」機能と聞くと「0時ちょうどに時間が替わる」ように感じますが、「瞬時に替わる」機能です。0時ピッタリに変わるわけではありません。)
また、昼の12時と夜の0時を勘違いしている可能性もございます。一見12時間表示に見える時計も24時間認識となっており、昼と夜を区別しています。
この場合は、リューズを引いて日にちと時間を合わせ直してください。
但し、機械式時計には「カレンダー操作禁止時間帯」というものがあります。その具体的な時間帯は午後8時から午前4時。この時間帯はカレンダー板の歯車と時間表示の歯車が噛み合っており、時計自体が自らの力で日付を変更しています。
そのため、この時間帯に無理に日にちを変更してしまうと歯車が欠けてしまい、修理が必要になってしまいますのでご注意ください。
知っておきたい。安全な日付・時刻の合わせ方
安全な日付・時刻の合わせ方を解説します。
- リューズを最後まで引き出してください。
- 6時頃を表示するように針を進めます。(一番安全な針の位置です。)
- リューズを一段戻し、カレンダーを合わせたい日の前日に合わせて下さい。(15日に設定する場合には14日に合わせます。)
- リューズを再び最後まで引き出して針を時計回りに進め、針が0時を過ぎるときに日付が変わることを確認してください。(切り替わったこの時が「夜中の」0時です)
- 日付が切り替わったのを確認したら針を時計回りに進め、合わせたい時間に合わせます。
- 日付と時刻を合わせたらゼンマイの巻上位置までリューズを戻します。リューズがねじ込み式のモデルはしっかり締めて下さい。
なお、一部のモデルを除き一般的な機械式時計は、2・4・6・9・11月(小の月)の月末の翌日は、手動によるカレンダーの調整が必要です。
事例3:時間が進むまたは遅れる
時間が進む、または遅れる・・・このような精度異常で修理店に持ち込まれるケースは少なくありません。
しかしながらクォーツや電波時計と比べると、どうしてもある程度の進みや遅れは出てしまうものです。
故障かな?と思って修理店に持ち込む前に、一般的な機械式時計の精度を知っておきましょう!
知っておきたい。機械式時計の精度と日差
時計の遅れ・進みを「精度」という言い方をし、日に何秒程度の差が出るか、を表すのに「日差」という言葉を使います。
一般的な機械式時計の精度は日差-10~+20秒ほどが想定されます。
年代を経たアンティークであれば日差-30秒~+60秒程度が許容範囲。
日差10秒~30秒の範囲のうちは故障ではなく、機械式時計にとっては想定できるズレと思いましょう。
また、機械は姿勢差(腕に着けているときに様々な向きになること)や温度差、巻き上げ具合でも影響を受けるため、長く使用しているとこの許容範囲を超えることもあります。
極端に時間が遅れる・進む時はどうすればいい?
では、時間が前述の許容範囲を出て、極端に遅れ進みが出る場合はどうすればいいのでしょうか。
様々な要因が考えられますが、
- 磁気帯び
- パーツ異常
が考えられ、まず多い事例としては「磁気帯び」です。
時計の部品は金属なので、磁石のそばに置くと磁化して精度に影響が出ることがあります。
特に時計の心臓部ともいえるパーツ「ヒゲゼンマイ」は磁気を帯びやすいため注意が必要です。ヒゲゼンマイが磁気を帯びると”一時的な進みや遅れ”、さらには”止まり”が生じて時間精度を大きく狂わせます。
現代社会は身の回りの至る所に磁気を発生させるものがあります。一例として
- スマートフォンやパソコン
- 磁気ネックレスや磁気枕。
- バッグの留め金や冷蔵庫のパッキン部分。
- 電子レンジや冷蔵庫などの家電製品。
などなど・・・
なかでも最も身近で危険なのはスマートフォンやパソコンです。
時計を外す際にスマートフォンの上に時計を置いたりすると即、磁気を帯びてしまいます。
磁力は距離の2乗に反比例するので、極力近づけないようにすることが時計によって最良です。目安として、30cm以上離すように気を付けて下さい。
磁気を帯びてしまった時計は自然には戻りませんので、おかしいと思ったらすぐに時計店へお持ちください。軽い磁器帯びであればすぐに脱磁できます。
また、外部からの衝撃でパーツに不具合が起きていたり、機械内部の潤滑油が劣化し、精度をつかさどる歯車などがスムーズに機能しなくなることがあります。
これは定期的にオーバーホールをしっかりしていれば早期発見できる事例です。
時計を分解し、パーツを確認する。新たに潤滑油をさすなどといった対処法を修理店でしてもらうことによってまた順調に時を刻むことになるでしょう。
この時、あまりに摩耗が激しかったりパーツに変形が見られたりするとパーツ交換が必要になり、修理の値段も高額になってしまいます。
それを防ぐためにも定期的なオーバーホールをお勧めいたします。
事例4:時計から異音がする
振ると時計内部から何か音がする。
このご相談も大変多いですが、内部機械のローターが回転しゼンマイを巻き上げる際の「シュー、シュー」といった回転音である可能性が高いです。これは、一部ムーブメントでは、通常よりも大きめの音を出すこともあります。
音が以前より大きくなった。そんな時は修理店に持っていく必要があります。
内部機械の油が切れて、スムーズな回転をしていないために音を出している可能性があるためです。一度分解して、潤滑油をさすといったオーバーホールを行うことをお勧めいたします。
また、カタカタ音が不規則になっている場合は、外部からの衝撃などでパーツが破損してしまった可能性が考えられます。
このケースは他のパーツを傷つけてしまうことにも繋がるので、お早目に点検・修理に出すようにしましょう。
事例5:ガラスが曇る
時計の内部は真空ではなく空気があり、僅かですが湿気を含んでいます。そのため、防水機能が保持できていても温かい室内から気温が低い外に出た場合、内部の湿気が一時的に水滴となってガラス面に付着し「曇った状態」になることがあります。
曇りの状態がすぐに消えたり、時計本体の温度が周囲の温度と近くなると消える場合には、時計の機能に問題を起こすことはありません。しかし、曇りの状態が長く続く場合は水が内部へ侵入してしまった恐れがあります。
よくある事例としては「リューズを引きっぱなしにして保管した」ケースです。長時間リューズを引きっぱなしにしておくと空気中の水分や埃が侵入し、ムーブメントにサビが発生する恐れもございます。
またガラスが曇ったからと言って、ご自身でガラスを取る事は絶対に止めてください。難しい構造になっていますし、専用工具でなければ無理です。様々なタイプがありますので、時計修理技能士でないと修理はできません。
ガラスの曇りで不安な時には時計店に持ち込んで相談してみてください。
事例6:ステンレス製の外装部にサビが発生した
一般的に、ステンレスは空気に触れている部分は錆びづらいと言われています。
しかしながらブレスレットの接合部など空気に触れにくい部分に汗やほこりが残っていたりすると、サビが発生してしまうこともあります。
小さなサビであれば、ワイヤーブラシで削り取ったり、サビ取り剤を使用したりとセルフケアで対処することも可能ですが、不安な方は修理に出すことをお勧めいたします。
なお、このケースは普段のお手入れで十分防げるトラブルです。
日常で水に濡れたり汗をかいた後は、しっかり水分をぬぐうことが大切。
また、時計裏面に張られた保護用シールを付けたままにしている方をたまに見かけますが、シールと時計本体の隙間に汗やほこりが溜まりサビの原因となります。
ご使用前に剥がすことをお勧めいたします。
事例7:コマが外れてしまった
出典:https://www.omegawatches.jp
ピンはコマに強く圧入されているので通常は外れませが、衝撃や摩耗、錆による腐食などで外れてしまうことがあります。
一箇所外れていると他の駒も緩んでいることがありますので、すべてのコマについて確認が必要です。
しかしながらコマが緩んでいるだけでしたら締め直すことで元通りになります。
また、ただ外れただけでなく、コマ自体が破損してしまった場合は交換となり、別途費用が発生します。
事例8:針の位置がずれる
12時に時刻を合わせたいのに、短針と長針が重ならない。微妙にズレている。
これは、バックラッシュと呼ばれる機構が原因で起こります。
バックラッシュとは、歯車と歯車の隙間。
駆動力となる二つの歯車が正しくかみ合うには、ある程度の隙間がなくてはなりません。これがないと歯と歯がぴったりくっつき、摩耗や余分な力がかかってしまう原因となります。
また、回転もスムーズにいかなくなってしまう、熱膨張を考慮した時、全く動かなくなってしまうと、デメリットだらけです。
こういった精密機械である時計ならではの便利機能がバックラッシュなのですが、その副作用として隙間ができているゆえ針がずれてしまう、という現象に繋がっているのです。
これは機械式時計よりもクォーツ時計でより目立ちやすいかもしれません。1秒ごとに針が動くため、見つけやすいのです。
多少のズレはこのバックラッシュが原因と考えられ、ほとんどのメーカーが許容範囲としております。そのためあまり神経質になる必要はありません。
なお、大幅(1秒以上)にずれてしまう場合は針の取り付け部分が緩んでいる、内部機械が劣化している、などといった原因が考えられます。
時計を落とした時に針がゆるんでしまったのかもしれません。その場合はオーバーホールを行う必要があります。
事例9:クロノグラフの針がゼロリセットされない
大抵のクロノグラフは2時側についたプッシャーを押すと作動し、再び押すとストップ。
計測が止まった状態で4時側のプッシャーを押すと、リセットされクロノグラフ針がゼロ位置に戻る、といった仕様となります。
このリセットの際、クロノグラフ針がゼロに戻らない、といったご相談をいただくことがあります。
これがクォーツの場合は、簡単な操作で元に戻すことが可能です。
ほとんどのモデルで、リューズを一段引きにし、上下どちらかのプッシャーを押す、またはプッシャーを同時長押しするとクロノグラフ針が動き出し、ゼロ位置に手動調整することが可能です。
※モデルによって操作方法は異なりますので、詳細は取扱説明書をご覧ください。
しかしながら機械式クロノグラフの場合はパーツが複雑なため手動調整ができないことがあります。
また、リセット時に毎回違う位置に戻ってしまう場合は、「ハカマ」と呼ばれる針を支える筒状のパーツが緩んだりズレてしまっていることが考えられます。
精度に大きな影響はありませんので、オーバーホールの時に一緒に締め直してもらいましょう。
事例10:風防(ガラス)が傷ついてしまった
「機械式時計」に限りませんが、長年時計を使用しているとどうしても傷がついてしまうもの。
愛用してきた証ですので、傷一つもまた味わい深い思い出となりますね。
しかしながら風防(ガラス)が傷ついてしまってはちょっと不便。
視認性が悪くなりますし、ケースやブレスレット部分より目についてしまいます。
この場合は市販の風防用研磨剤で、ご自身で磨いて傷を取ることが可能です。
しかしながらあまりにも傷が深いと交換しなくてはなりませんが、プラスティック風防であれば無料で交換してくれるショップもあります。
また、最近はサファイアクリスタルという傷がつきずらいガラスを使用したモデルが多いです。ただし傷のトラブルは減ったものの、研磨ができないため万が一傷がついた場合は交換しなくてはなりません。
その費用は大体1万~2万円程度になります。
事例11:防水時計なのに水洗いをしたら挙動がおかしくなった
時計を水洗いしても良いかどうかは時計の防水性能次第です。一般的には100m防水が基準となっており、それ以上であれば問題なく、それ以下であれば水洗いはできません。
ただ、しばらくオーバーホールをしていない時計はパッキンが劣化していたり、古い時計はそもそも防水性能が失われている場合があるので、100m防水だからといって安心というわけではありません。
なお、水道の蛇口から出る水は水圧が高いため、たとえダイバーズウォッチであっても水が浸入してしまう場合があります。
安全に水洗いするのであれば、桶や器に水を貯めてから時計を洗うことをオススメ致します。
お湯に浸けると時計は故障する
ダイバーズウォッチであれば水でもお湯でも時計を濡らしても大丈夫だと思われがちですが、実はお湯だけは絶対に避けなければなりません。
なぜならお湯の場合は蒸気が発生してしまい、蒸気に含まれる小さい粒子が時計に入り込んでしまうからです。どれだけ防水性能に優れていても粒子の侵入を避けることは難しいです。
また、時計は温まることにより金属が膨張してしまうため、時計内部に粒子を取り込みやすくなります。
冷水と比較すると故障のリスクが格段に大きくなるので、入浴の際につけっぱなしにすること、お湯で時計を洗浄することは避けた方がよいでしょう。
事例12:リューズが極端に重い
リューズを巻くときに極端に重さを感じる場合は油切れの可能性が高いです。
機械式時計は100を超えるパーツの集合体であり、その一つ一つに専用の油(潤滑油)を塗布することで部品の摩耗を防いでいます。
ただ、油は乾燥や凝固により、徐々に役目を果たさなくなり、油切れになってくると金属疲労やパーツ摩耗が起こります。
リューズが極端に重い場合は、おそらくリューズに関連する歯車の油が切れているのでしょう。
例えば毎日炎天下の野外で着用するといった使い方をした場合、ムーブメント内部の機械油が蒸発によって劣化してしまう場合があります。
夏の終わりにオーバーホール依頼が増えるのは、油が切れやすくなる季節だからだといえます。
まとめ
時計は常に身に付けているものなので、気を付けていても些細なことが原因で調子が悪くなってしまうことがあります。
おかしいと感じたら、お気軽に店頭までいらして下さい。
その際、時計の状況によってはお預りをしてメンテナンスをする必要がございます。時計の他に「当店の保証書」「メーカー保証書」をお持ちいただければと思います。
遠方の方でなかなかお店に足をお運びいただくことができない方には宅配でのメンテナンスも承っております。
まずはご連絡くださいませ。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年
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