高級腕時計を購入する時、「新品」を選ぶか「中古」を選ぶかは誰もが悩むポイント。新品は中古と比べ値段は高くなりますが、時計の状態を気にする必要はなく安心感を得ることができます。対して中古は価格を抑えることができ、生産終了品も選択の範囲に加わることから選べる時計が多いことが大きなメリットです。
しかし、中古時計を購入する際にどうしても気になってしまうのが「コンディション」。一般的に使用感が強いほど、価格が安くなる傾向がありますが、折角なら”安くて良い時計“を選びたいところです。
そこで今回は中古の時計を選ぶ際のポイントをプロ目線で紹介!これを見ればあなたも中古時計マスターに一歩近づけるかもしれません。
目次
中古時計を選ぶポイント① ガラスを見る
まず、中古時計を購入する際によく見てほしい部分は「ガラス」です。ガラスにはプラスチック、クリスタルガラスなどいくつかの種類がありますが高級腕時計はほとんど「サファイアガラス」が採用されています。
このサファイアガラスはケースやブレスとは違い、研磨ができません。研磨が出来ないということは、付いてしまったキズは落とすことができないということです。どうしてもキズをとりたい場合はサファイアガラスごと交換することになりますが、ガラスはメーカーでの交換になってしまうため修理代が高額になります。
そのため、折角中古時計を安く買ったとしても、結局「もう少し状態のよい時計を買っておけば・・・」と後悔してしまう人も。
よくあるガラスのキズ
ガラスのキズは治せない事を前提に「自分が許せるキズの範囲」で時計を選ぶのが大切です。ここではガラスのキズでよく見受けられるキズを2つ紹介します。
1つはガラスのフラット面につく「引っかき傷」のような線キズ。細かなキズから目立つキズまで、その大きさは様々です。ガラスの正面から見ると分かりづらいですが、照明等の光に当てるとキズはクッキリと浮き出てきます。
もう1つは「縁の部分も欠け」。こちらは年期の入った時計によく見受けられるガラスのキズです。このキズは縁をツメでなぞっていくとキズの有無がわかります。視覚的にわかる大きなキズはもちろん、細かなキズがある場合でもツメに引っかかるため、キズの存在を知る事が可能です。
ただ、これらのキズがある時計は価格も低めに設定されているため、ダメージを許容できるならばお得に購入することも可能です。
中古時計を選ぶポイント② ブレスを見る
中古時計を選ぶ際には金属ブレスレットの「たるみ」もチェックしてみて下さい。たるみは経年劣化により、ブレスが伸びてしまった状態のことをいいます。たるんでしまったブレスは正常のブレスよりも曲がりやすくなっていることが特徴です。
チェックの仕方ですが、時計のケースをリューズを上にして横に持ちます。ブレスにたるみが生じている場合、ブレスが重力に負けて下方向に垂れていきます。正常なブレスと比べると違いは明確です。
このように伸びてしまったブレスは修理することができないため、ブレスレットを一式全て交換しなくてはなりません。そのため、伸びが発生している時計は購入を避けることをオススメします。
ぱっと見キレイな時計も確認しましょう。
中古時計の中にはブレスにたるみが生じていても、外観がとてもキレイな時計も存在します。その理由は研磨(ポリッシュ)によるものです。
技術のある優良店舗はケースやブレスの細かい傷を研磨で取り除くことができるため、大事に扱われてきた時計は小さなキズを落とせば”新品”と見間違えるほどキレイな仕上がりを見せます。
しかし、どんなに外観はキレイでもブレスの「たるみ」は取る事ができません。そのため、ぱっと見キレイな時計も一度時計を横にして”ブレスの伸び”を確かめてみることをオススメします。
また、たるみが生じているということは長期間使用されていたともいえます。その分ムーブメントに目には見えない消耗も起こっているため、購入の際にはそれも考慮しなければなりません。
中古時計を選ぶポイント③ ベゼルを見る
ベゼルはコンディションの良し悪しがわかりやすいポイントです。ケースやブレスは研磨することで傷が落ちますが、ベゼルは研磨できないモデルが多く、特にロレックスのフルーテッドベゼルは打痕が多く残りやすいため注意が必要です。
打ち傷の確認は当然ながら、もう1点確認してほしいのはベゼルの凹凸。中古時計は使用期間が長くなるほど、研磨が施される回数が増えます。特に大きな傷が入った時計を研磨すると「ギザギザの高い部分」と「低い部分」が削られて、凹凸が少なくなってしまいます。オリジナルの形状から大きく変化したベゼルはその時計の価値を下げてしまうのです。
中古時計を選ぶポイント④ ケースを見る
ケースやブレスはガラスとは異なり、細かなキズは研磨で落とすことができます。そのため、重要なポイントになるのは「大きな打痕」の有無。大きな打痕やキズは研磨で落とすことができないため、選ぶ基準としてウェイトが高くなります。
高級腕時計は耐衝性が強いモデルが多く、ちょっとぶつけた位では凹むようなキズはつきません。そのため、大きな打痕がつくということは「高いところから落とす」 「かなり強くぶつける」など、大きな衝撃が与えられたことが想定されます。
打痕やキズだけならば、その部分を許容すれば済みます。しかし、高級腕時計は精密に作られた機械式ムーブメントを搭載しているため、大きな衝撃を与えた際に内部パーツにダメージが与えられた可能性もあります。正確な精度がでているか確認してから購入することをお勧めいたします。
中古時計を選ぶポイント⑤ 文字盤と針を見る
腕時計を購入する際、多くの方が重視する文字盤。その文字盤の代表的なダメージといえば“焼け”でしょう。
時計は長期使用していると紫外線などの影響を受け、文字盤に”変色・焼け”が発生します。一般的には焼けは時計の価値を下げるマイナスポイントであり、時計を購入する際には焼けが少ないものを選ぶことが基本です。
※ただしアンティークウォッチなど、”焼け”を1つの個性と捉え、高額取引される時計も中には存在します。
特に白い文字盤は焼けが目立ちやすいため、よくチェックが必要です。またもう1つ注意したいのは、ロレックス デイトジャスト等でよく見かける「シェル文字盤」。天然素材であることから一般的な文字盤よりも耐久度が低く割れやすいため、製造されてから時間が経過したモデルはヒビや割れがないかチェックしたほうがよいでしょう。
針は腐食に注目!
時計の針は腕時計、置時計問わず劣化すると腐食する性質を持ちます。よく見ないとわかりませんが、腕時計を照明などの光に当て視線を斜めにして針を見ると、針の表面が「ザラザラ」していることに気づくと思います。
腐食の程度は個体によって違いがあります。しかし、基本的には腐食が無い、もしくは微細なものを選べば良いでしょう。また、ダイバーズモデルなどに見受けられる「夜光塗料」が塗られている針は、経年劣化により塗料部分が白から茶色に変色します。こちらもアンティークウォッチを求めている方でない限りは避けた方が無難です。
最後に
傷有りの時計はキズが目立てば目立つほど価値が下がります。劣化の許容範囲は人それぞれですが、気にならない程度の傷であれば新品を買うよりもお買い得です。
また、中古時計を専門で取り扱っているお店は研磨やメンテナンスにより良いコンディションに保たれている事が多く、「すぐ壊れるんじゃないか?」「手垢で汚れているんじゃないか?」といった心配はしなくても良いかもしれません。
今回紹介させていただいたポイントを参考に自分なりの”一番得する許容範囲”を見つけてみてはいかがでしょうか?
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。
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