「ロレックスが並行輸入品への規制を強化するって本当?」
「ロレックスの規制強化について知りたい」
近年の高級時計市場の異常事態。
それは、ロレックス相場ではないでしょうか。
店頭に並ぶモデルの値札はどれもこれも100万円超えが当たり前となり、しかも留まるところを知りません。
にもかかわらず需要は増すばかりで、常時品薄。
なかなか入荷してこない、といった並行輸入店も少なくないと言います。
そんな中で、最近ますますロレックスの新品流通量が激減しています。
ロレックスの戦略的な減産や高まりすぎた需要も原因の一つですが、実はこれは、ロレックスが打ち出したある施策が大きく関係しています。
そんなロレックスの規制強化について知りたいという人は多いのではないでしょうか。
その施策は、並行輸入店を激震させるような「並行差別」とも捉えられるようなものなのです。
この記事では、ロレックスの並行差別および現在のロレックス並行輸入市場の動向を、GINZA RASINスタッフ監修のもと紹介します。
今後のロレックスの並行輸入市場についても考察していますので、ロレックスの購入をお考えの方はぜひ参考にしてください。
目次
速報!ロレックスが2019年11月1日より一部モデルで購入制限
ついに転売対策がロレックスより始まりました。
それは、2019年11月1日より、一部の人気モデルについて購入制限を設ける、というものです!
詳細はこちらです。
内容:対象モデルについて、購入した同一型番品は5年以内の再購入不可
対象モデル:デイトナ(116500LN 黒/白),GMTマスターII(116710LN,116710BLNR,126710BLRO,126710BLNR),サブマリーナ(116610LN,116610LV,ノンデイト114060),シードゥエラー(126600),ディープシー(126660 黒/D-BLUE),エクスプローラーI(214270),エクスプローラーII(216570 黒/白)
購入時の条件:顔写真付き身分証明書の提示、本人以外への販売は一切不可
実施店舗:免税店を除く日本全国67店舗のロレックス正規代理店
実施期間:2019年11月1日~※一部店舗で例外あり
つまり、現在転売の対象となっている人気モデルについて、「お一人様一点まで(しかも5年間)」という制約が設けられたことになります!
さらに言うと、対象モデルを購入した方は、別のモデルであってもその後1年間は購入を断られる、ということです。
対象モデルは全てがスポーツロレックスですが、エアキングやミルガウスは含んでいません。また、ステンレススティール製に限られており、対象モデルであっても、コンビや金無垢に関してはこの限りではありません。
冒頭でも述べたように、現在ロレックスは正規価格より実売価格が大幅に上昇しており、一部「転売」の対象となっております。本当に欲しい方が手に入らない、ということで、今回の購入制限に踏み切ったのでしょう。
購入時に提示された本人確認は、国内ロレックス店舗で共有されるようです。
ただ、まだきちんと条件が取り決められていないのでしょうか。当店で何件かロレックスに確認したところ、「一度対象モデルを購入したら5年間は対象モデル内の別型番品であっても買えない」「対象モデルを買ったら一年間は別モデルであっても買えない」などの回答もありました。
ちなみに「自分用と、プレゼントなどで別に買いたい時はどうすればいいのですか?」と問い合わせたところ、「本人を連れてきてください」とのこと・・・身分証明書がないと一切売らない、というスタンスのようです。
いずれにせよ、今後ロレックスの「買い方」「売り方」が大きく変わることが予想されます。
観光目的の訪日外国人にはスポーツロレックスを売らない?
当店の外国人スタッフが2019年11月17日、某ロレックス正規店への来店時、新情報を入手しました。
と言うのも、日本に住所の無い訪日外国人には、人気のスポーツモデルを販売しない、とのことです。つまり、ホテル滞在をしているような外国の観光客には売らない、ということ・・・
これは東京 新宿の一正規店の施策で、全ての店舗がそうなのかは未確認です。また、「人気のスポーツモデル」とのことですが、どのモデルが対象なのか。前述した今回の購入制限対象となるモデル全てなのか、などはわかっていません。
日本の住所を持っていれば、日本人とともに上記制限のもと、販売が可能とのことでした。
時計メーカーの並行輸入品規制について
転売対策はもちろん、並行輸入品への規制も見逃せないロレックスの動向です。
では、「並行差別」ってどのようなものなのでしょうか。
正式な用語ではありませんが、時計メーカーが自社の正規店以外で購入した―つまり並行輸入店で買われた製品に対してアフターサービスの面で差をつけたり、正規ルート以外に一切の新品を卸さないようにしたりして、並行市場に流通させないようにする戦略のことです。
そもそも並行輸入店で時計を買う最大の旨味は、「正規の定価より安い」ことにあります。
並行輸入の業者は国内外の価格差や為替相場を利用し、海外の卸業者や正規販売店から時計を割安で仕入れます。そのため、ほとんど値引きを行わない正規店で定価で製品を購入するよりも、並行輸入店で買った方が消費者にとっては「モノは同じ」でも「より安く」手に入れることができるのです。
ブランドによっては定価と並行輸入店での価格差が数十万円に及ぶこともあります。
これは、時計メーカー側にとってはあまり喜ばしいことではありません。
そのメーカーが考えている市場価格よりもえてして価値が下落してしまうため。また、並行輸入品は「本来仕入れるはずだった国・地域」への製品を、別の国・地域の業者が手に入れてしまう、というためです。メーカー側は世界展開を考えているのに、実際は一部地域でのみ流通・・・といった、メーカーの戦略を大きく損なうことに繋がります。
それを受けて、メーカー側は様々な並行輸入店対策―並行差別―を行います。
例えばブライトリングやタグホイヤー、ウブロなどはアフターサービス面で差別化を行い、正規店以外で購入された製品のメンテナンス(オーバーホールなど)を割高に設定しています。また、カルティエなどは正規ルート以外への新品販売を停止する、といった具合です。
一方で並行輸入市場に製品が多く流通すると言うことは、そのブランドの知名度がアップする、ということでもあります。
知名度が上がれば営業や流通の幅がさらに広がるとあって、そこまで問題視していないブランドもあります。
例えばオメガは並行差別を設けず、並行市場での新品の流通量は豊富です。一時期、「オメガ自身が並行市場に新品を流している」なんて言われたものです。また、先ほど挙げたカルティエも、確かに新品販売は規制していますがアフターサービス面で差別は設けていません。これはカルティエ属するリシュモングループ全体(IWCやジャガールクルトなど)に言えることです。
こういった、並行輸入品に寛容なメーカーも少なくありません。
そして、ロレックスもまたこの「寛容」なメーカーのうちの一つでした。アフターサービスに特に差別はなく、ほんの数年前までは並行輸入店には豊富に新品が並んでいました。
しかしながら、そのロレックスの並行差別が始まったのではないか。そんな疑念を抱かせる施策が始まります。
次項で詳しくご紹介いたします。
ロレックスの並行輸入品への規制強化が始まった?
なぜロレックスの並行輸入品への規制強化が始まったと言えるのか。その理由と、影響を解説いたします。
正規店購入品は「保護シールを剥がすこと」が標準ルールに
ロレックスの新品の条件の一つとして、「メーカー保護シールがついている」というものがあります。ロレックスの各モデルは時計に傷がつかないよう、本国出荷時に保護シールが貼られます。並行輸入店でロレックスの新品を買おうと思うと、このシールがついているものがほとんどでした。
そんな保護シール。正規店購入時には店頭で剥がされることがルールになりました。
ケースサイドやフラッシュフィット、裏蓋シール。果てはベゼルカバーも取られ、しかも回収されると言うのです。
これは何も最近始まったことではなく、国内の一部ショップでは徹底していたようです。
しかしながら今後、このルールが国内のみならず世界的な標準になることとなりました。
ロレックス側は「製品に細かい傷や不具合がないかを一緒に確認するため」と言っており、実際そういった側面があるのでしょう。しかしながら、やはり「転売対策」という面が大きいのではないかな、と考えてしまうものです。
つまり、「保護シールがついた純正の新品はうちの正規店以外では見ることもできませんよ」、と。
保護シールは必ずしも新品条件とはなりませんが、このシールがないことによって正規店で購入したものをそのまま時計買取店持ち込んでも、中古品対応となる可能性がぐっと高くなったことは事実となります。
保護シール以外にも並行差別の予兆が!?
実は、ロレックスの転売・並行店対策と思われる予兆は保護シールの件だけではありません。
例えば保証書請求ハガキ。
ロレックスの保証書は購入時はついておらず、購入者が請求ハガキに住所・氏名といった必要事項を記入し、後日郵送で手元に届きます。パテックフィリップやランゲ&ゾーネなんかもこの手法ですね。
このハガキ、以前はそのまま渡してくれるところが多かったのですが、現在は購入時に店頭で全ての必要次項の記入を求められると言います。つまり、その場で購入者の個人情報を書かせて、他人の手に渡ることを阻止しているのです。
そして、「販売店」「購入日」および登録した「購入者」が記名された保証書カードが送られてきます。
これによって正規店で購入した時計を保証書と一緒に転売しようと思っても、自身の名前が入ったものを買い取ってもらう、ということになります。
もちろん再販される時は名前は次のオーナーに見えないように塗りつぶされたり、削り取られたりします。
名前が塗りつぶされた保証書であってもロレックスの保証に影響はありません。
しかしながら、海外ではこの名前の箇所になんらかの細工がしてあるものは嫌われ、価値が落ちてしまいます。
そのため海外のロレックス正規店では依然は保証書の名前を空欄で顧客に渡すこともあったようですが、今は記名必須となりました。
これもまた転売対策の一環なのでしょう。
また、現在正規店では「ブレスレットの調整を強く勧められる」などと言った話を聞きます。
加えて、ロレックス社の人間が並行輸入店に並ぶ新品ロレックスのシリアルナンバーを控えたり個体を購入したりして販売店を突き止め、仕入れルートをつぶしている・・・なんていった話もちらほら出てきています。
これらはまだ噂の域を出ません。保護シール剥がしだって、単に本当に傷や不具合を見るためかもしれません。また、アフターサービスなどはこれまでとは変わらないため、明確な並行差別とまでは言い切れないでしょう。
しかしながら圧倒的な品薄が改善されるような余地はなく、こういった並行輸入品規制とも思われる施策によって新品流通量が目に見えて激減していることは事実です。
正規店で買った新品は新品とは言えないのか?
ロレックスの並行差別と思しき動向をご紹介いたしました。
現在、多くの時計買取店ではロレックス製品の新品条件を「保護シールが付いていること」とし、これに該当しないものは「中古」または「未使用品」の扱いとなります。
では、保護シール剥がしが標準となり、今後、ロレックスの思惑通り、新品として正規店購入モデルを転売することはできなくなるのでしょうか。
買取店の基準にもよるため一概には言えませんが、答えはNOに近いでしょう。
前述の通り現在は保護シールの有無が大きな判断材料となりますが、これは絶対ではありません。
例えば保護シールがあっても販売日から大きく日が経っているものは新品とは見られません。
一方で保護シールがなくとも、購入日付が近く傷コンディションが良好なものなどは十分新品の対象となります。
保護シールのない個体が市場に流通すれば、いずれ買取基準は変わる可能性が高いでしょう。
とは言えロレックスが転売対策に乗り出したのなら、今後ロレックス側の方針もまた変わってくかもしれませんね。
ロレックスは相場のみならず、ロレックス自身の動向からも目が離せません。
どうなる?今後のロレックスの並行輸入市場
ロレックスの、並行輸入店や転売への規制強化と思しき動向は、今後の並行輸入市場にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
ロレックスがここまで相場を上げてしまうと、ロレックスの並行輸入市場における「安く新品が買える」という旨味はなくなった、ということになります。
一方でロレックスは品薄で正規店で人気モデルを手に入れることは大変難しく、むしろ「高くても欲しい」という需要に下支えされて、並行輸入店でロレックス製品を買おうと言う方は後を絶たない状況です。
ちなみに現在スポーツロレックスは軒並み価格が上昇し、ついにはコンビモデルのデイトジャストも一部モデルでプレミア価格をつけるようになりました。
モノの価値は需要と供給で決まる。そんな資本主義経済のプリンシプルにのっとって、現在の相場を「適正価格」と考えることもできます。しかしながら冒頭でも述べたように、現在新品の流通量が激減し、それが品薄や新品相場の高騰に一役買っていることは想像に難くありません。
今後並行差別がどんどん進み流通量がますます減れば、さらに世知辛い価格になってしまうかもしれません。
一方でこういった「並行差別」を生んだ背景として、消費者のマインドの変化によってロレックス相場が上がった、というものもあります。
と言うのも、本項でも何度か「転売」について言及していますが、現在「売った時のことを考えてモノを購入する」というスタイルが主流となりつつあります。
これは高級時計に限った話ではなく、ブランド品やジュエリー、精密機器に車など多くの分野で顕著になってきた傾向です。
街中には気軽に利用できる買取店が増え、インターネット上にはメルカリなどのフリマアプリが溢れています。
ちなみに巷では「ロレックスマラソン」とか「デイトナマラソン」などといった言葉があるようで、これは、人気モデルが見つかるまでロレックス正規店を何店舗か回って探しまくることを指しています。もちろん本当に欲しい一般消費者が大多数だとは思いますが、転売目的も少なくありません。
ロレックスは「売れる高級時計」としては最高レベル。新品の転売には賛否両論ありますが、使い倒した後でも買い取ってもらえる、というモデルが多いことは事実で、これは消費者にとっては嬉しいところ。「買って楽しみ、使って楽しみ、さらに売れる時も楽しめる」のですから。
こういった傾向がロレックス相場に与える影響は大きいです。
なぜなら、「今高くても、どうせ売れるなら思い切って買おう」と考える消費者が増えているためです。
こういった傾向がロレックスを突き動かして並行差別に走らせたのでは・・・これは推測の域を出ませんが、相場を後押ししていることは間違いありません。
まとめ
ロレックスが並行輸入品に対して規制強化しているのではないか。そんな疑念を抱かせるロレックスの動向と、今後の並行輸入市場についての考察をご紹介いたしました。
文中でも述べたように、保護シール剥がしにしろ保証書請求はがきの記入にしろ、転売対策とは言えるものの並行差別とまでは言えないかもしれません。
しかしながら相場や流通量に影響を与えていることも事実。まだまだロレックスから目が離せそうもありません。
当記事の監修者
池田裕之(いけだ ひろゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン 課長
39歳 熊本県出身
19歳で上京し、22歳で某ブランド販売店に勤務。 同社の時計フロア勤務期に、高級ブランド腕時計の魅力とその奥深さに感銘を受ける。しばらくは腕時計販売で実績を積み、29歳で腕時計専門店へ転職を決意。銀座ラシンに入社後は時計専門店のスタッフとして販売・買取・仕入れを経験。そして2018年8月、ロレックス専門店オープン時に店長へ就任。時計業界歴17年