あなたは普段身に着けている時計にどんな金属素材が使われているかご存知ですか?
ケースやブレスレットには様々な金属が使用されています。一般的にはステンレススティールが多く使われていますが、その他にもゴールド、チタン、プラチナ素材など、その種類は様々。
しかし、人によってはこの金属によってアレルギーを起こしてしまう人がいます。このような体質を持つ人は時計を選ぶとき素材に気を付けなければなりません。
そこで、今回は金属アレルギーについて解説していこうと思います。アレルギーがある方もない方も、是非ご一読してみてください。
目次
金属アレルギーとは?
金属アレルギーは病名でいうと「接触皮膚炎」という病気です。タマゴアレルギーの人がタマゴを食べるとアレルギーを引き起こすように、金属アレルギーは特定の金属を皮膚に接触させると、赤く被れたり、痒みを引き起こします。
また、金属アレルギーが発生する流れは以下の通りです。
- 金属製品を身に着ける
- 汗によって金属が溶ける
- 溶けた金属がイオン化して体内に侵入
- 体内のたんぱく質と結合し、アレルゲンと呼ばれるたんぱく質に変質
- 体内でアレルゲンに対する抗体が作られる
- 1~4が繰り返され、徐々に抗体が強くなる
- 特定の金属に対するアレルギーとなる
金属アレルギーは厳密には金属が原因ではなく、金属と体内のたんぱく質が結合して作られる「アレルゲン」が原因です。
金属アレルギーが発症するかしないかは、人によって個人差があります。ただ、一ついえるのは金属を身に着けたり、触っている頻度が多いほど、アレルゲンが作られる可能性は高まるということです。
時計に使用される金属の種類
続いて時計に使用される「金属の種類」を覚えていきましょう。時計は金属素材によってアレルギーが起こりやすいもの、起こりにくいものが存在するため、購入するときは素材にどのような金属が使われているか知っておくことが大切です。
ステンレススティール
ステンレススティールは、腕時計の素材として最もメジャーな存在です。ステンレススティールは鉄やクロム、ニッケルといった金属や元素で構成されおり、「錆びない」という特徴をもちます。そのため、多くの腕時計で採用されるようになりました。
また、ステンレススティールは1種類ではなく、用途やコスト、またはデザインによって無数のステンレス素材が使われています。その中で最も腕時計に使われるステンレススティールは「SUS316L」と呼ばれるステンレス素材であり、幾つもの高級腕時計に使用されてきました。
IWC ポルトギーゼ
ステンレスはアレルギーが起こりやすい素材
しかし、錆びない特徴をもつステンレススティールは、同時に腕時計の素材で最もアレルギーを起こしやすい素材として有名です。
ステンレススティールは「クロムとニッケルを混ぜた合金であることが特徴ですが、その中の”クロム”と呼ばれる元素が錆びないケースを作り出しています。
クロムを中心とする元素はケース表面に「不動態皮膜」と呼ばれる膜を形成し、この膜は外部からのダメージから素材を守る性質をもちます。その効果は絶大で、特に錆から素材を守る効果は注目されました。
しかし、ステンレススティールの不動態皮膜は「塩化物イオン」に弱いという欠点があったのです。
塩化物イオンは汗の中にも含まれており、腕に汗をかくことで塩化物イオンが発生させます。この塩化物イオンがステンレススティールの不動態皮膜を壊すことで、同素材に含まれるニッケルまでもを溶かすのです。
ニッケルを例に挙げましたが、ステンレスを構築する金属は日本人がアレルギー反応を起こしやすいものを多く含んでいるため、どうしてもアレルギーが起こりやすくなります。
汗に弱い性質をもつステンレスが汗によって溶け、ステンレスに含まれた金属が肌に触れることでアレルギーを起こしてしまうというわけです。
ロレックス デイトナ 116500LN
尚、ロレックスで使われている「SUS904L」というステンレス素材は、従来のステンレス素材よりも強度や錆びにくさを向上させたスーパーステンレスと呼ばれるもので、アレルギー反応を起こしづらいとされています。
チタン
ウブロ クラシックフュージョン クロノグラフ チタニウム
チタンはステンレススティールよりも更に「強度」を高めた金属素材として知られています。性質的にはステンレススティールに似ており、錆びないという特徴をもつ素材です。
ただ、ステンレスと大きく異なるのは塩化物イオンに対する耐性。ステンレススティールの不動態皮膜は塩化物イオンに弱いという欠点をもっていましたが、チタンは塩化物イオンに強く、簡単には溶けません。そのため、アレルゲンを作り出す金属が肌に当たることがなく、アレルギーが起こりません。
加えてチタンに対してアレルギー反応を起こす日本人は極めて少ないため、現状は金属アレルギーに対して最強の素材といえる存在でしょう。
ゴールド
ゴールドは最もメジャーな金属ともいえるでしょう。ゴールドには24k/22k/18k/14k・・・といった種類があり、この数値は金の純度を表します。
24kはほぼ100%の純金含有率を誇るため、腐敗・変色することがありません。そのため金にアレルギーを持っていない限り、アレルギー反応がでることはありません。
また、ジュエリーや時計は一般的に18kが使われています。この18kは一般的に金75%に銀12.5%と銅12.5%を混ぜた合金です。
金・銀(特に銀)はアレルギーが起こりにくい素材なのですが、「銅」にはアレルギー反応を起こしやすい金属元素が含まれているため、24kと比べるとややアレルギーが発生しやすくなっています。
ホワイトゴールド
ハリーウィンストン ミッドナイト
ホワイトゴールドは白い輝きをもつ金属。ジュエリー色の強い時計によく使用されており、パテックフィリップ・ハリーウィンストン・フランクミュラーなどの多くの時計で採用されています。
ホワイトゴールドは白く輝く銀系の色ですが、本来の色は名前の通りの純金(Au:ゴールド)です。この純金(75%)に銀・パラジウム(合金)の3種類を混合しすることで鮮やかな白さに仕上げます。
ただ、複数の素材を混ぜて作っているホワイトゴールドは完璧な白色にはならず、微妙に黒っぽさが残ります。そのため、表面にロジウムメッキをコーティングしていることが多いです。
ロジウムメッキは銀系素材ですのでアレルギーが起こりにくいとされています。しかし、汗でメッキが剥がれたり、メンテナンス時の研磨によって剥がれてしまうため、過信はできません。
イエローゴールド
ブレゲ アエロナバル
イエローゴールドは純金(75%)・銅・銀の3種類を混合して作られるゴールド色の一種。銅>銀の割合で混ぜることで、イエロー色の強いゴールドに仕上げます。時計メーカーによって比率がまちまちな為、モデルによって若干色合いが違いますが全てイエローゴールドと言えます。
ピンクゴールド
ランゲ&ゾーネ サクソニア
ピンクゴールドはイエローゴールドと同じく純金(75%)・銅・銀の3種類を混合して作られるゴールド色の一種です。奥深いピンク色の仕上りとなるため、主にレディース向けの腕時計に多く見受けられますが、近年はメンズモデルにも多く使われるようになっています。こちらも混合率がメーカーによって違うため、同じピンクゴールドでもメーカーや時計によって色合いが違うことも特徴です。
銅の配分が多いため、18kやイエローゴールドと比べるとアレルギーが起こりやすいゴールドともいえます。
プラチナ
ロレックス デイデイト アイスブルー
白い光沢(銀色)を持つ金属として存在しているプラチナは、科学的に非常に安定している金属で「アレルギー発生率が低い」ことが特徴です。そのため、高級金属としての装飾品や時計に多く利用されています。また、長年常用をしていても変色を起こしにく、錆びも発生しません。
プラチナにはゴールドと同じく純度があり、Pt 900(プラチナ90% パラジウム10%)、Pt 950(プラチナ98% ルテニウム2%)、Pt1000(Pt1000は100%を意味するが実際の純度は99.9%。)の3種類が貴金属としては一般的に扱われています。
ちなみにpt1000は他の2つのプラチナよりも強度が低いため、時計素材としてはpt900もしくはpt950が使われることが多いです。
金属アレルギーをおこしやすい素材
金属アレルギーを起こす人は特定の金属に対して「過剰なアレルゲン抗体」を持っています。自身が持っている過剰抗体によってアレルギー反応が起きるため、全ての金属がダメという方はまずいません。
そのため、アレルギー反応を起こさない素材が使われている時計なら、問題なく身に着けることが可能になります。
一般的にシルバー(ロジウム含む)にアレルギーをもつ人は少なく、さらにチタン素材に関してはほとんどアレルゲンを持つ日本人がいないほど。ですので、これらの素材が使われている時計は金属アレルギーが起こりにくいといえます。
逆にアレルギーが起きやすい金属素材はステンレス。このステンレスには多くのアレルゲンが含まれており、金属アレルギーを発症してしまった方にとっては注意しなくてはならない素材となります。
ここでは、金属アレルギーを引き起こしやすいといわれている主な金属元素を下記にまとめてみました。
■Hg(水銀)・・・常温、常圧で凝固しない唯一の金属元素がこの水銀。日用品としては蛍光灯や水銀灯といったランプやライトに使用され、医療用計測器にも使用されました。また、毒性が強く、水俣病の原因ともなった金属でもあります。
■Ni(ニッケル)・・・光沢があり耐食性が高いことを特徴とする金属。装飾用のメッキに用いられるほか硬貨にも使用されていて、50円硬貨や10円硬貨にも使用されています。ステンレスのを構築する主な元素としても有名です。
■Co(コバルト)・・・単体金属としてはほとんど使用されていませんが、合金材料として工業的に利用される元素です。鉄より酸化されにくく、酸や塩基にも強いという特徴をもちます。
■Cr(クロム)・・・クロムは銀白色の硬い光沢のある金属。また、ステンレスの構築する元素の一つもであります。加えて人体にとって必須の栄養素であることも近年判明しました。
■Cu(銅)・・・通貨や食器、彫刻なども使用されるメジャーな金属。その用途は様々ですが、触れる機会が多いため、銅がアレルゲンの方は不便なことがどうしても多くなります。割と発症例が多いのも特徴です。
■Sn(スズ)・・・錆びないことが特徴で、一定の硬さがありながらも加工もしやすいため、食器などの日用品に使われてきた金属です。スズを含む代表的な合金は、鉛との合金で作られる「はんだ」や、銅との合金である青銅が有名。
■pd(パラジウム)・・・ホワイトゴールドの割り金としてよく利用される金属。ホワイトゴールドはドレスウォッチによく使われています。
■Pt(白金・プラチナ)・・・白い光沢(銀色)を持つ金属。酸化しにくく非常の価値の高い金属のため、時計では超高級モデルに使われることがしばしばあります。
■Zn(亜鉛)・・・牡蠣、チーズ、レバー等に多く含まれている人体では鉄の次に多い必須微量元素。食物による接種はいいですが、工業的に作られた物の摂取によってアレルギーを引き起こす場合もあります。
■Au(金)・・・重く、光沢のある黄色(金色)を特徴とする固体金属。非常に資産価値が高く、時計のケースにも多用されています。そのため金アレルギーが強いと、着けられる時計の選択肢が格段と減ってしまいます。
■Cd(カドミウム)・・・カドミウムは人体に有毒かつ体内に滞留する性質をもつ軟金属。イタイイタイ病の原因となった元素でもあるため、現在は使用が控えられています。
■Mn(マンガン)・・・マンガン乾電池に使われていることで有名な元素。較的反応性の高い金属であり、粉末状にすると空気中の酸素、水などとも反応します。
■Sb(アンチモン)・・・ハンダ合金の材料などに使われる元素。銀白色の金属光沢のある硬くて脆い半金属の固体ですが、毒性があります。
上記の中で発症例が多いHg(水銀)/Ni(ニッケル)/Co(コバルト)/Cr(クロム)は4大アレルゲンと呼ばれ、これらの入った合金である「ステンレス」はどうしても金属アレルギーが出やすくなってしまいます。これが時計における金属アレルギーのだいたいの原因です。
また、発症例こそ4大アレルゲンより少ないAg(金)/Pt(プラチナ)ですが、この2つの金属は時計によく使用されている為、どちらかのアレルゲンがある方は、該当する金属を使用した時計を着けることはできません。
金属アレルギーを起こしづらい素材と防衛策
金属アレルギーに対する防衛策はただ一つ。アレルギーを引き起こす金属を避けることしかありません。
そのため、金属アレルギーを持つ方が腕時計を選ぶ時はアレルギーを引き起こしづらい素材のモノを選ぶ必要があります。
人によってアレルギーの度合いは違うため個人差はありますが、金属アレルギーを起こしづらい素材は「チタン」「プラチナ」素材です。
その中でも特にアレルギーを起こしにくいとされているのは「チタン」なので、金属アレルギーだという自覚がある方はチタン素材を採用した時計を購入することが無難なのではないでしょうか。
チタンはアレルギーがでにくいだけでなく、軽量であるというの支持を集める理由となっています。
長時間身につけていても疲れにくいので、時計初心者の方にもオススメです。
症状が軽い人向けの対処法
金属アレルギーはいつ発症してもおかしくない為、昔は平気だったのに急に腕時計をすると腕が赤くなるようになったという方もいます。もし、そうなってしまったら、現在使っている時計の着用を控えるかアレルギーが起こりづらい時計を買い直すしかありません。
ですが、高いお金を払って買った腕時計をそう簡単にあきらめたくない!と思う方も多いでしょう。
そこで、少しでもアレルギーを緩和する方法を3つお教えします。ただ、どれも症状が軽い人にはオススメですが、完全に防げるわけではありませんのでご注意ください。
腕と時計の隙間を開ける
金属アレルギーは汗と金属が触れることで起こります。そこで、アレルギーを引き起こす時計と腕の隙間を少しでも大きくすれば、通気性が良くなり、汗と金属が触れる機会を少なくすることが可能です。
つまり、ゆるめに時計を着ければいいのです。
服やサポーターの上から時計を着ける
苦肉の策ですが、長袖の服やサポーターの上から時計を着けることで、金属アレルギーを回避することができます。
ただ、夏場に長袖は厳しいものがありますし、そもそも見た目も宜しくないため基本的にはオススメはできません。
また服の上から着けるときは”汗を通さない素材”の服を選んでください。汗を通しやすい服だと、服を通りこして汗が金属を溶かし、結局アレルギー反応を起こすことがあるからです。
保護液や保護シールを使う
時計の肌に触れる部分に塗る”保護液”というものが、金属アレルギーの方向けに販売されています。意外とコレが効果的です。保護液を時計の裏蓋全体・ブレスレットに塗ることで、肌と金属が直接触れない状態を作り出します。
また、保護シールやマニキュアのようなコート剤を塗るという方法もありますが、保護シールは長期間の使用により”錆”を引き起こすことがあるので、使用する場合はこまめに保護シールを交換することを心掛けてください。
まとめ
金属アレルギーは誰にでも発症してしまうメジャーなアレルギーです。昨日は大丈夫だったのに、急に腕時計がつけられなくなってしまうことも。
しかし、金属アレルギーには必ず原因となる金属があるため、その金属を使用していない時計なら着けられます。特にチタンは金属アレルギーの人でも着けられることが多いので、仮にアレルギーを発症してしまった場合はコチラの時計を使うことがオススメです。
また、少しでもおかしいな?と思ったら病院にてアレルゲンが何なのか調べてもらうことも大切。アレルゲンによって選べる時計が変わるため、是非調べてみてください。
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。