機械式時計には「自動巻き」と「手巻き」がありますが、どちらもゼンマイが動力になって動いています。
ゼンマイをリューズで巻き上げ、そのほどける力を利用して針が動くのです。
時計が稼働し続ける時間は搭載している機械によって異なりますが、一般的な機械式時計は約40~48時間程度。
中には「ロングパワーリザーブ」を備えたモデルも多く発売されており、3日間から8日間動力が持続するモデルもあります。
今回はパワーリザーブのメカニズムについて解説致します。
目次
パワーリザーブについて
パワーリザーブは「主ゼンマイを完全に巻き上げた状態で放置した場合に、●●時間動き続けます」という意味をもつ時計用語です。
この●●に入る持続時間がモデルによって、異なります。
当然長ければ長いほど使い勝手がよく、こまめにリューズを巻く必要がなくなります。
主ゼンマイは香箱(1番車)と呼ばれる歯車の中に収納されており、リューズを巻くことで主ゼンマイが巻き上がります。
香箱を取り出して蓋を外してみると、主ゼンマイが収納されていることが分かります。
写真は主ゼンマイが解かれた状態ですが、リューズを巻きあげることで主ゼンマイは中心にどんどん巻き付けられ、最終的にそれ以上巻けなくなる状態(巻きどまり)になると、リューズを進めることが出来なくなります。
そして、巻き上げられたゼンマイは『輪列機構・脱進機・調速機構』といった機械式時計特有の機構を通り、「少しづつ」解かれることで、止まることなく動き続けることが可能となるのです。
香箱及び主ゼンマイは非常に小さいパーツでありながらも、一度フルに巻かれた場合は少なくとも40時間前後は解けることがありません。
※1940年代~60年代のアンティークウォッチであれば30~36時間程度のモデルもあります。
香箱から主ゼンマイを完全に取り出すと、想像以上にゼンマイが長いことが分かります。この長いゼンマイこそが、機械式時計を動かす動力です。
長さは引き伸ばせば数メートルにも及びます。
主ゼンマイの「主」ってなに?
ここで1つの疑問。「主ゼンマイ」とは・・・。
主と付くからには何か意味がありそうですよね。
機械式時計には「主ゼンマイ」と言われるゼンマイ以外に「ヒゲゼンマイ」と呼ばれるパーツが存在します。
つまり「主ゼンマイ」はリューズを巻いて巻き上がる、所謂「ゼンマイを巻くと言われた時に巻き上がるゼンマイ」です。ヒゲゼンマイと区別するために主ゼンマイと呼ばれることが多くなっています。
ちなみに「ヒゲゼンマイ」はテンプと呼ばれるパーツに細く巻かれた振り子の役割をしたゼンマイの事を指します。ヒゲゼンマイは機械式時計において最も重要なパーツといわれており、ヒゲゼンマイによって時計の精度が決まるといっても過言ではありません。
主ゼンマイの長さが駆動時間を決める
機械式時計の駆動時間は40時間前後を中心に60時間、72時間など様々な種類が存在します。
これらの違いは主ゼンマイの長さであり、純粋に主ゼンマイが長ければ長いほど時計の駆動時間も長くなります。
ただ、ムーブメントの機構によってはゼンマイの長さを一定に保ちながらもロングパワーリザーブを実現している機構もあり、必ずしも長さだけが駆動時間の決め手ではありません。
ゼンマイを短く抑えることが出来れば香箱の肥大化を防ぐことができるため、近年は極力「ゼンマイは短く・持続時間」は長くがトレンドとなっています。
ブランパン Cal.1151
なお、駆動時間を伸ばす手段として最も注目されているのは香箱を増やすことです。
通常香箱は1つのムーブメントに1つですが、2つ搭載させることでパワーリザーブを2倍にした「ツインバレル」と呼ばれるモデルも増えています。
ゼンマイの持続時間が伸びるとその分精度も安定するため、ツインバレルを採用するメリットは大きいです。
ツインバレルを組み上げるのは難しい
ツインバレルはムーブメントの中に複数の香箱を組み込むため、その分のスペースを空けなければなりません。
そのため、各パーツを小型化する必要があり、製造には高度な技術が必要となります。
近年は自社ムーブのツインバレル化が盛んになってきていますが、これは各ブランドが技術力をアピールしているという側面もあるのでしょう。
パワーリザーブに優れる時計
持続時間は毎朝リューズを巻いていれば、時計が止まることはありませんが、休日を挟むと時計が止まっていることがあります。
例えば金曜日の朝にリューズを巻いた場合、何もしなければ日曜日の朝を迎える前に時計は止まってしまいます。40時間前後のパワーリザーブは一見十分に感じますが、毎日時計を身に着けることが出来なければ、意外と足りなく感じるものです。
そこで、オススメしたいのがロングパワーリザーブを誇る時計たち。
持続時間の最大値が伸びることで、使い勝手が格段に向上します。
ロングパワリザーブモデル①:ハミルトン スピリット オブ リバティ
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 42.0mm
全重量:161g
文字盤:ブラック
インデックス:バー
ムーブメント:Cal.H-10
パワーリザーブ:約80時間
防水性能:50m
パワーリザーブが長いモデルが欲しいけど、予算はあまりない。と、いう方にオススメなのがこの”スピリット オブ リバティ”。
香箱から脱進機までの一連の運動連鎖の改良によって、標準持続時間80時間を実現したムーブメントH-10を搭載しています。
定価は129,600円ですが、平行輸入品ならば10万円以下で購入することが可能です。
ロングパワーリザーブモデルをお探しの方に非常におすすめだと思います。
ロングパワリザーブモデル②:オメガ シーマスター アクアテラ コーアクシャル 220.10.41.21.03.002
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 41.0mm
全重量:150g
文字盤:ブルー
インデックス:バー
ムーブメント:Cal.8900
パワーリザーブ:約80時間
防水性能:150m
オメガの代表的なモデル「シーマスター・アクアテラ」シリーズ。2017年新作の”220.10.41.21.03.002″は60時間のパワーリザーブと15,000ガウス以上の耐磁性能を持ったMETAS認定のマスター クロノメーターCal.8900を搭載しています。
価格は40万円以上と高額ですが、初めての高級時計としては勿論、一生モノとしてもご利用いただけます。
尚、シーマスターにはこのモデル以外にも55時間~60時間のモデルが数多くラインナップされています。
ロングパワリザーブモデル③:グランドセイコー スプリングドライブ SBGA011
素材:チタン
ケースサイズ:直径 41.0mm
全重量:100g
文字盤:ホワイト
インデックス:バー
ムーブメント:Cal.9R65
パワーリザーブ:約72時間
防水性能:100m
ゼンマイの解ける力を動力源としながらクォーツと同等の高い精度を持つ”スプリングドライブ”を搭載したブライトチタンモデル。パワーリザーブは約72時間です。
ケースバックはスケルトンタイプとなっています。
尚、SBGA011は手巻きではなく自動巻き。毎日身に着けて生活していれば、ほとんどクォーツ時計と同じ感覚で使用することができます。
セイコーマスターショップ限定モデルですので、価格は正規店で648,000円(税込)です。中古品ですと40~50万円程度で購入可能ですので、状態の良い中古品を探してみるのも良いと思います。
ロングパワリザーブモデル④:IWC ポートフィノ IW510102
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 45.0mm
全重量:83g
文字盤:ブラック
インデックス:バー
ムーブメント:Cal.59210
パワーリザーブ:約192時間
防水性能:30m
モデル名からも分かりますが、ポートフィノ ハンドワインド 8DAYSは8日間の超ロングパワーリザーブを持つモデルです。
ゼンマイを最大まで巻き上げると、約192時間持続します。
ブラック文字盤以外にも青文字盤・シルバー文字盤といったラインナップも存在します。
ケースバックは一面全体をサファイアクリスタルを配した豪華なスケルトンタイプ。美しく動き続ける機械式時計の魅力を楽しむことができます。
ロングパワリザーブモデル⑤:ウブロ クラシックフュージョン 516.NX.1470.LR
素材:チタン
ケースサイズ:直径 45.0mm
全重量:96g
文字盤:ブラック
インデックス:バー
ムーブメント:Cal.HUB1601
パワーリザーブ:約192時間
防水性能:100m
こちらもポートフィノ ハンドワインド 8DAYSと同じく192時間持続モデルです。
パワーリザーブの表示が文字盤にあり、持続時間がどれだけ残っているか確認可能です。
ビッグバンシリーズのイメージが強いウブロですが、クラシックフュージョンも人気があります。
独特の機械構成も魅力。他のモデルでは味わえないメカニカルな意匠に溢れています。
ロングパワリザーブモデル⑥:パネライ ルミノールベース 8DAYS アッチャイオ PAM00560
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 44.0mm
全重量:123g
文字盤:ブラック
インデックス:バー/アラビア
ムーブメント:Cal.P5000
パワーリザーブ:約192時間
防水性能:300m
パネライ ルミノールベース 8DAYS アッチャイオ。こちらも192時間の持続時間を誇ります。
パネライは数多くのロングパワーリザーブがラインナップされているため、巻くことを面倒に感じている方にはお勧めのブランドです。
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当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年
タグ:機械式時計の仕組み