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オリンピックの立役者・オフィシャルタイムキーパー
最終更新日:
2020年、いよいよ東京オリンピックが開催されます。
ついつい寝る間も惜しんで観戦してしまう、人々の心を熱くさせるなんとも不思議な力がありますよね。
スポーツ試合における一分一秒は非常に重要なものですが、公正無私なタイムキーパー(計時)は絶対不可欠。
もちろん公平であるだけでなく、コンマ1秒の世界を計測したりそれを瞬時に記録することができる高い技術も必要です。
その役割を各大会公式にサポートする高級時計メーカーがあることをご存じでしょうか。
2020年開催はオメガ、過去にはセイコーやタグ・ホイヤーなど・・・いずれも皆さんがよく耳にする企業だと思います。
この記事では、オリンピックのオフィシャルタイムキーパーを担うブランドとその役割をご紹介いたします!
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/watches/specialities/olympic-collection/52210422103001/
目次
オフィシャルタイムキーパーとは?
コンマ何秒の世界が競われるスポーツ競技の世界に欠かせないもの、それがオフィシャルタイムキーパーです。
公正無私に、きわめて厳格な計時が必要とされるだけでなく、最先端の計時技術を提供することも不可欠な条件。
それはゴールの瞬間の記録であったり、フライング検出器であったり・・・
歴史的な公式記録は全てオフィシャルタイムキーパーにかかっていると言って過言ではありません。
もちろん資金面での役割も担いますが、ただのスポンサーとは大きく異なるその意味合い。まさに「時のエキスパート」的な存在です。
とりわけオリンピックはスポーツだけでなく平和の祭典でもあるゆえ、その大役を担うブランドにとっては大きな宣伝効果だけでなく非常に栄えある称号を意味するのです。
1.オリンピックのタイムキーパー
オメガ
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/planet-omega/sport/olympic-games/
2020年東京での開催が決定したオリンピック。
ブエノスアイレスで大きく沸いたIOC総会は、まだまだ記憶に新しいですよね。
オリンピック会場で、お馴染みのオメガマークを見たことはありませんか。
実はオメガは、1932年ロサンゼルス大会から28回ものオリンピックでオフィシャルタイムキーパーを担ってきた、まさに大御所のような存在なのです。
オメガはスイスきっての老舗時計メーカーで、多くの伝統的な機械式時計を製造しています。
それゆえ意外に思われるかもしれませんが、現在オリンピック大会で実際に使用されているコンマの世界の計時を可能とした最先端電子テクノロジーの数々はオメガの技術に拠るところが大きいのです。
例えば選手自らゴールと同時に計時を止める競泳用タッチパッド。
選手のゴールタッチとともに順位の決まる水泳は、最もクレームの多い競技でした。
コンマの世界でのタッチの差が目視ではわかりづらいためです。
そこで1967年に導入されたタッチパッド式手動タイマー。ゴールと同時に記録が決まるため、より公平で正確な記録が計測できるようになりました。
今ではお馴染みのこのシステム、実はオメガによって起こされたイノベーションだったのです。
他にも1秒間に最大10,000フレームのデジタル画像を撮影できる高度な写真判定装置・スキャン-O-ビジョン ミリア カメラ。
赤い流線の閃光ガンと音響発生ボックスが特徴のスターティングピストルなど、「時を刻む」イメージのブランドが「時を計る」技術開発を着々と進めてきているのです。
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/planet-omega/sport/our-sports/
東京オリンピックでも29回目のオフィシャルタイムキーパーを務めることが決定しましたので、競技の合間に是非オメガマークを探してみてはいかがでしょうか。
広告看板ではなく、実際の試合に使用される計器でそこかしこに見つかるはず。
ちなみにオメガはFINA(国際水泳連盟)とも提携しており、世界水泳を始めとした国際大会で計時を担当しています。
タイムキーパーを担うにはそれと同時に莫大なスポンサー料が発生するものですがそれもまた人気ブランドの成せる業でしょうか・・・
オメガ オリンピック関連モデル
■オメガ オリンピック オフィシャルタイムキーパー クロノグラフ
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/watches/specialities/olympic-official-timekeeper/product/
2020年東京オリンピックのオフィシャルタイムキーパー決定を記念し、2016年に発表された限定モデル。
全て手巻き式ムーブメント搭載のゴールド製ケースで、スポーティーというよりもドレスウォッチのような佇まいが特徴。
各188本のみの限定生産。
裏蓋にはオリンピックの象徴でもある五輪とオフィシャルタイムキーパーであることが刻まれています。
■オメガ シーマスター プラネットオーシャン ピョンチャン2018
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/watches/specialities/olympic-collection/pyeongchang-2018/product/
2017年、2018年に韓国の平昌で開催されるオリンピックを記念して誕生した2018本限定モデル。
韓国の国旗をイメージし、ブルーとレッドがあしらわれたデザインが特徴です。
600m防水、マスタークロノメーター認定コーアクシャルCal.8900を搭載。
■オメガ シーマスター アクアテラ ピョンチャン2018
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/watches/specialities/olympic-collection/pyeongchang-2018/product/
同じく平昌大会の2018本限定記念モデル。
アクアテラのデザインはそのままに、PYEONGCHANG 2018の文字がミニッツトラックに表記されています。
ちなみに「20」と「18」がちょうど20分と18分に位置するよう設計。
150m防水、マスタークロノメーター認定コーアクシャルCal.8500を搭載。
オメガが起用するスポーツ選手や関係者
オメガはオリンピックと非常に密な関わりを持つため、出場選手に記念時計を贈ったりアンバサダー(広告塔)メンバーとして起用したりすることに意欲的です。
浅田真央選手はバンクーバー記念モデルを贈呈された後も日常的に愛用していたとか。
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/news/news-detail/2708/
リオデジャネイロオリンピックの閉会式でマリオのコスチュームで現れ会場を沸かせた安倍晋三首相もオメガを愛用しており、マリオの際も持ち物であるコンステレーションを装着していました。
「スイスタイミング社」をご存知でしょうか。
あまり聞きなれない名前ですが、これは1972年にオメガとロンジンが共同で開発した企業です。
第一回オリンピックであるアテネでストップウォッチを提供したのはロンジンが最初とされています。
のち1932年、世界で初めて全種目の計時を任されたのがオメガでした。
歴史的にも実際的にも言わばオリンピックの公式記録の立ち役者でもあるこの二社が立ち上げた競技会の計時専門会社。
それがスイスタイミング社なのです。
表向きはオメガの子会社ですがこの二社はいずれもスウォッチグループのため、当グループが有する莫大な資本力とオメガ・ロンジンの高い技術力を背景に、年々洗練された計時技術を世に送り出してきました。
華やかなオリンピックの舞台とはうらはらに、あまり目立つ技術ではありませんが、世界記録樹立の裏側の立ち役者で、なくてはならない存在です。
セイコー
出典:https://www.seiko.co.jp/branding/sports/athletics/
日本が誇るセイコーもまた、オリンピックのオフィシャルタイムキーパーを担った過去があります。
1964年の東京開催から始まり、1972年の札幌、そして1998年の長野。
国外ではバルセロナなど、国内外開催のオリンピックで計6回と、その大役を見事に果たしました。
1964年の東京オリンピックは、セイコーが史上初として計時にクォーツを採用し、「着順・計時に関してのクレームが発生しなかった初めてのオリンピック」と称されます。
これはただ単にセイコーの技術力を誇示しただけではありません。
戦後の混乱期を経て、日本が見事復興を果たしていたこと。そしてセイコーを代表とする日本企業が、もはや他国に追いつき・追い越しつつあると世界に証明してみせたのです。
2020年東京オリンピックではその座をオメガに明け渡しましたが、IOCとオメガとの契約が2032年まで延長されることが決定していたからであって、決してセイコーの技術が後塵を拝しているわけではありません。
セイコーの時計製造技術がスイスのそれと遜色ないように、計時においてもその才能を遺憾なく発揮しています。
とりわけ陸上競技大会でその活躍が目覚ましく、IAAF(国際陸上競技連盟)との関係性は32年、オフィシャルタイムキーパーとしては24もの大会で名を馳せました。
もちろん、2017年のロンドン世界陸上も含まれます。
出典:https://museum.seiko.co.jp/history/milestone/olympic/index.html
最新のタイマーシステムを駆使し、スタートピストルからフォトフィニッシュカメラ、ファール判定システムなどでコンマの世界を計測しています。
ウサイン・ボルト選手が打ち出した9.58秒の世界記録も、セイコーによって計測がなされました。
他に自転車競技で選手の足にICチップを付けてより厳密なタイム計測を行うトランスポンダー計測システムを樹立するなど、その技術力は留まるところをしりません。
今後も各所で開催される世界大会でSEIKOのロゴを見ることができると思うと、少し誇らしい気分にもなります。
セイコー スポーツ大会関連モデル
1964年、東京オリンピックのオフィシャルタイムキーパーを務めた年、セイコーはオリンピック記念モデルを発売しています。
クラウンクロノグラフ(ワンプッシュクロノ),カウンタークロノ,ワールドタイムです。
新しく正確な計時システムを確立したこと、一躍世界にその名が知れ渡ったことを象徴するようなモデルですね。
半世紀も前の限定品のため、なかなか市場で見かけることはありませんが、同年に発表されたクラウンクロノグラフは国産初のクロノグラフモデルとして、今なお技術が応用されています。
セイコーが起用するスポーツ選手や関係者
セイコーは山縣亮太選手など国内の陸上選手を中心にスポンサー契約を結んでいますが、同じくらい愛用者も多く挙げられます。
スポーティーでリーズナブルなのに高級感ある品質や機能性の高さゆえでしょうか。
また、リオオリンピック閉会式ではオメガのコンステレーションを装着していた安倍晋三首相も、普段はセイコーのハイエンドであるグランドセイコーを愛用しています。
2.その他有名大会のオフィシャルタイムキーパー
オリンピックの他にも、有名な大会には必ずオフィシャルタイムキーパーが存在します。
そのうちのいくつかをご紹介させていただきます。
FIFAワールドカップ~ウブロ~
せんだってオーストラリアとの死闘で見事勝利を勝ち取り、日本代表の出場が決定したFIFAワールドカップ。
オリンピックと同様に知名度があり、日本国内でも並々ならぬ盛り上がりを見せますよね。
2018年のロシア大会での優勝トロフィーが、今年の5月25日限定で一般公開されました。
場所は東京・表参道ヒルズのウブロ ポップアップブティックです。
2011年よりFIFAワールドカップのタイムキーパーを担うウブロ。
イタリア創業、日本での流通はまだまだ最近ですが、時計愛好家やサッカーファンにはおなじみのブランドですね。
ウブロは企業コンセプトに「FUSION」という概念を持ち、高級時計と新しい概念を融合させたかつてない試みで時計業界を席巻してきました。
例えばこれまでの高級時計には考えられなかった素材―ラバーベルトやカーボンファイバー、マグネシウムなど―を見事融合させたビッグバンシリーズがまさにウブロそのものを表しています。
ウブロはマーケティングにおいてもFUSIONを実践しています。
ウブロは比較的若いブランドでありながら100万円超えのモデルが当たり前の高級時計メーカーですが、世界中で人気を博す理由や有名企業や著名人、そして大きなイベントと上手にタイアップしていることが戦略として挙げられるのです。
FIFAワールドカップもそのうちの一つで、これにより世界各国のサッカーファンを上手に取り込んだと言えるでしょう。
選手交代やアディショナルタイムを示すレフェリーボードの「HUBLOT」の文字やそのブランド名の通り舷窓をイメージした時計のフェイスはもはやワールドカップの定番風景ですよね。
出典:https://www.hublot.com/ja/partnerships/fifa-world-cup
ウブロはFIFAワールドカップの他、世界で最も人気のあるバスケットボールのNBAチーム「ロサンゼルス・レイカーズ」やアメリカンフットボールチームとパートナーシップを結び、オフィシャルタイムキーパーを務めています。
ウブロ スポーツ大会関連モデル
■ウブロ ビッグバン バイレトログラード クロノグラフ
出典:https://www.hublot.com/ja/news/big-bang-unico-bi-retrograde-chrono
2014年ブラジルで開催されたFIFAワールドカップを記念した限定モデル。
ウブロの自社製ムーブメント「ウニコ」では初となるバイレトログラード機能を備えます。
ケース径45mmとウブロが得意とするデカ顔に、ブラジル国旗を彷彿とさせるイエロー・グリーンが特徴。
■ウブロ アエロフュージョン ペレ セラミック
出典:https://www.hublot.com/ja/partnerships/pele
「サッカーの王様」と称され、ブラジル代表として数々の歴戦を制したペレとタイアップした限定モデル。
同じく2014年のFIFAワールドカップを祝して発売されました。
ダイアル3時位置にはサッカーボールをモチーフにしたスモールカウンターが配され、さらにストラップもサッカーボールのモチーフが型押しがされているという、サッカーファンにはたまらない一本。
ゴルフ・テニス国際大会~ロレックス~
出典:https://www.rolex.com/ja/rolex-and-sports/golf.html
圧倒的知名度と抜群の品質から、長きにわたって時計業界を牽引してきたロレックス。
数々の格調ある大会のオフィシャルタイムキーパーを務めていることは、ロレックスならではの偉業とも言えるのではないでしょうか。
オフィシャルタイムキーパーとして最も関係深いスポーツは、ゴルフとテニスではないでしょうか。
この二種いずれも有名世界大会を30年以上にもわたってサポートしています。
例えばゴルフ。
メジャー選手権の中で最も歴史と権威のある全英オープン。
1860年以来毎年夏にイギリスで開催され、日本国内でも地上波で大きく取り上げられます。
同じくメジャー選手権で、世界最高額である1200万ドルが賞金総額として有名な全米オープン。
この二大会いずれもロレックスがオフィシャルタイムキーパーを担ってきました。
オフィシャルタイムキーパーに留まらず、ロレックスは多くの有名選手のスポンサーを担っているため、愛用者が多いブランドのうちの一つです。
日本人では昨年ゴルフの松山英樹選手がスポンサー契約を結んだことで話題となりました。
超一流プロ選手としか契約しないロレックスに、しかも日本人初のことだったためでしょうか。
松山選手はインタビューなどでゴールドのサブマリーナRef.116613LNを身に着けているところをよく見かけます。
日焼けした松山選手の肌に大変よく似合います。
また、テニスの分野でも密接なかかわりを持ちます。
出典:https://www.rolex.com/ja/rolex-and-sports/tennis.html
毎年1月後半にオーストラリアのメルボルンで開催される全豪オープン。
そしてイギリスのロンドンで行われるウィンブルドン。
このテニス4大国際大会のうちの二つをオフィシャルタイムキーパーとしてロレックスが関わっています。
ロレックスは世界的に有名な企業だけあって、数々の傑出したプレイヤーとタイアップしています。
しかしそれはネームバリューやマーケティング戦略だけに留まらず、ロレックスがひたむきに追求してきた実用性が本当にいいものだからに他ならないでしょう。
ロレックス スポーツ大会関連モデル
ロレックスは各コレクションが持つデザインを大きく変えたり大々的に「限定」と謳ったモデルを製造することはありません。
しかし、ゴルフやテニスを優雅に楽しむ「お供」として、ロレックス自らスペシャルセレクションと題したモデルを紹介しています。
■ロレックス デイデイト ゴルフウォッチセレクション
出典:https://www.rolex.com/ja/watches/featured-selections/golf-watches.html
コースのグリーンとロレックスのコーポレートカラーであるグリーンが融合したかのようなダイアルやゴルフボールを彷彿とさせる装飾が施されたものが見られます。
デイデイトはロレックスきってのドレスウォッチのためあまりスポーティーという印象はありませんが、お金持ちのスポーツとも言われどこか優雅な雰囲気を持つゴルフにはうってつけのモデルのように思います。
まとめ
他のオフィシャルタイムキーパーとしては、シチズンが25年連続でテニス全米オープンを、またタグ・ホイヤーが2016年からJリーグと契約するなど動きを見せています。
ちなみにタグ・ホイヤーは1900年代前半、単独でオリンピックの計時を3度果たしました。
高級時計は機械式時計の伝統性と切っては離せない関係にあるため、居並ぶデジタル数字、そしてIT技術が駆使された現代のタイムキーパーとは相反するもののように感じられます。
しかし高度なものづくりの技術や発想は、実は多いに結びつくところ。
今後も私たちをワクワクさせてくれるオリンピックはじめスポーツ大会運営の立ち役者。
こんな裏側の視点で観戦してみるのも楽しいのではないでしょうか。
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。
タグ:雑学