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ロレックスも参入!高級時計の認定中古とは?
最終更新日:
「高級時計の認定中古って何?」
「ロレックスの認定中古について知りたい」
最近、時計業界でも頻繁に話題となる「認定中古」。
自動車業界でのイメージが強いかもしれませんね。
もちろん時計業界でも存在していたワードですが、2022年12月、ロレックスがリユース市場に乗り出した―すなわち、認定中古プログラムの開始を公式発表してより、認知度が急上昇することとなりました。
また、近年ではリユース市場への参入ブランドが増えており、規模の大小はあれど、ロレックス以外のブランドでも認定中古がスタートしています。
そんな高級時計の認定中古について知りたいという人は多いのではないでしょうか。
時計市場が拡大を続ける中で、中古品の価値は今後さらに注目されていくでしょう。
この記事では高級時計の認定中古について、GINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。
参入ブランドの増加が時計業界に与える影響についても解説しますので、高級時計に興味がある人はぜひ参考にしてください。
目次
ロレックスやセイコーも参入!高級腕時計の認定中古とは?
冒頭でもご紹介したように、2022年12月1日、にわかにロレックスから認定中古プログラム(Rolex Certified Pre-Owned)のスタートが発表されました。
なお、これより以前に認定中古を既に始めていたブランドの代表格は、フランクミュラーやブライトリング、リシャールミルです。また、オーデマピゲも2023年末を目途に認定中古プログラムをスタート予定との報道が最近なされましたが、同社からは、かなり早い段階からリユース市場への参入がアナウンスされていました。
では、いったい認定中古とは、どのような制度を指すのでしょうか。
まず最初に、認定中古の概要とユーザーが利用するメリット・デメリットをご紹介いたします。
※認定中古と使い分けるため、本稿ではメーカー以外の第三者が販売する中古品を「一般的な中古品」「一般的な中古時計」と呼んでおります。
認定中古とは?
認定中古とは、ブランドが設けた厳格な基準や検査によって、ブランドとして「真正性」や「品質」を保証した中古製品であり、かつそれをブランドが新たに値付けして再販する制度を指します。自動車業界ではレクサスやフェラーリ、ベンツ等々が行っており、非所に有名ですね。
一般的に「中古品」と言うと、ブランドの正規店・正規代理店(最近だとブランド運営の直販ECもありますが)でファーストオーナーによって購入された個体が、ブランドを通さない第三者が買い取り、値付けしたうえで再販した製品を指します。この「第三者」は時計専門店であったり、リサイクルショップであったり、個人であったりと様々です(もっとも、個人が転売や中古品販売をビジネスで行う場合には古物商許可が必要になります)。
この「ブランドを通さない第三者」が非常に多岐に渡るため、中古品のメンテナンスの有無や品質、アフターサービスは販売者の方針に依ります。
例えば時計に関して言えば、オーバーホールを行って販売するかどうかは義務ではありません。また、アフターサービスをどこまで行うのか、保証はあるのかないのかは販売者によってまちまちです。
すなわち、こういった中古時計の購入には、「お店選び」が重要になってくるということを示唆しています。とりわけ高級時計となると、メンテナンスの有無やアフターサービスは気になるところではないでしょうか。
一方でオーバーホールや充実したアフターサービス分を、価格に上乗せしているという考え方もできます。メンテナンスが一切行われない分安く販売されている中古時計は数多くあり、もし信頼できる民間修理業者をご存知だったり、メーカーで正規品以外の個体(二次流通品)も問題なくメンテナンスできるようであれば、イニシャルコストが安い中古品を買うという選択肢もアリですよね。
つまり「ユーザーが購入時に、どこを重要視するのか」ということになり、ご自身のニーズを満たせるのはどこなのか?といったことを見極めなくてはならない。すなわち一般的な中古時計の購入にはお店選びが重要、ということになります。
さらに言うと、「純正パーツ以外を用いるか」どうかも、販売者の判断です。
一般的な中古時計、非純正パーツを用いていることは決して珍しくありません。民間修理業者も基本的には純正パーツを用いることが多いものですが、入手困難なパーツについては別作することもあります(もちろん、きちんとした修理店ならユーザーの了承を得てからの作業になりますが)。こういった非純正パーツが内部等に使われているかどうかは販売店では確認しないことがほとんどです。非純正パーツの使用についてはユーザーによって許容範囲が変わってくることもあり、難しいところですよね。
また、一般的な中古時計市場だと、コピー品が出回るリスクも無視できません。
※ただし補足しておくと、「コピー品の販売」は非常に由々しき事態であることは、ブランドに限らず業界共通の意識です。コピー品が出回るとブランド価値が毀損されるのみならず、適切な市場価格が狂ってしまうためです。また、コピー品の使用によって肌が荒れてしまったなどといった報告もあります。
すなわち、国内できちんとした運営を行っているような時計専門店(並行輸入店)などは、コピー品を販売していることはまずありません。
一方の認定中古プログラムでは、ブランド独自の「品質保証」を突破した製品が販売され、かつメンテナンスは正規で行われます。そのため必ず純正パーツが使用され、工具や設備もブランドが自社製品のアフターサービスを行うものと同様になります。
また、認定中古にも保証が付属し、ブランドの正規アフターサービスが受けられるというのも特筆すべき点です。なお、認定中古品であっても、認定中古用の正規保証書が付属します。当然ながら真贋判定もブランドが行うため、コピー品は排除された市場となります。
現在リユース業界では自動車・時計のみならず認定中古が広がっております。
コーチの「リラブド;(Re)Loved)」プログラムや、三陽商会の中古革靴のリペア販売「三陽山長をはいた猫」プロジェクト等々、ブランド・メーカー側のリユース市場への参入が続いており、今後もいっそう発展していくことが見込まれます。
認定中古のメリット
認定中古を購入するメリットは、大きく分けて三つあります。
まず一つ目は、安心の品質です。認定中古の最大のメリットと言っても良いのではないでしょうか。
前述の通り、これまで中古時計と言うと「メンテナンスされているのか」「故障品をつかまされるのではないか」といった心配事が払拭できないものでした。繰り返しになりますが、きちんとした専門店であればメンテナンスを行う、あるいは状態を正確に伝えていることがほとんどですが、こういったお店選びを間違えると、思わぬトラブルに発展するものです。
その点、認定中古はブランドのお墨付きが加わるわけです!ブランドの厳格な基準のもとにしっかりとメンテナンスされた個体が販売されているという安心感があります。とりわけ複雑機構やブランド独自機構は繊細なことも多いため、ブランドでしっかり整備してくれるというのは、かなり大きなメリットになるのではないでしょうか。
二つ目は、「保証」を含めたアフターサービスの充実です。
時計は精密機器です。そのため認定中古品だからと言って絶対に故障しないわけではありません。そういった中で何らかのトラブルに見舞われた時でも、メーカーが面倒を見てくれると言うのは大変心強いですよね。保証が付いているため、内部の自然故障に関しては無償で受けてくれるというのも嬉しいところです。
メンテナンスの際は純正パーツに交換され、かつ修理後はメーカー保証が継続されるといったメリットも大きいでしょう。
もちろん民間修理業者でもハイレベルなメンテナンスを行ってくれるところは非常に多いですが、「そういった修理店を知らない」「探し方がわからない」「正規メンテナンスを受けたい」といったユーザーにとって、認定中古の大いなるメリットとなるはずです。
三つめは、ブランドでの購入体験ができるということです。
出典:https://www.rolex.com/ja/buying-a-rolex/rolex-certified-pre-owned.html
出典:https://www.rolex.com/ja/buying-a-rolex/rolex-certified-pre-owned.html
※上の二つの画像はロレックスの認定中古プログラムに付属される、保証書と品質保証タグ。
これはブランド側の販売方法にもよりますが、基本的に高級時計の認定中古はブランド運営のショップ(オンライン・オフライン問わず)で販売され、購入者には認定中古のための保証書やサービスケース等が付属します。
一般的な中古時計だと、専門店の保証書はあったとしても、メーカーの正規書類についてはファーストオーナーが手にしたもののみでしょう。しかしながら認定中古であれば、正規書類が受け取れるというわけです(ただし近年ではペーパーレス化に伴い、電子保証書等に移行するブランドも少なくありません)。
また、ブランドの接客や、ブランドのサービスを享受できるという購入体験に価値を見出す方も少なくないですよね(個人的にはブランドのショッパーにステータスを感じます)。
なお、購入側のメリットを取り上げましたが、もちろん売却するユーザーにとってもブランドに委託し、認定中古品として販売することには大きなメリットがあります。
それは、「下取り」です。
高級時計になればなるほど、大量生産とは無縁です。そのため製造数や流通量はもともと多くないものですが、一部のブランドの一部のモデルでは世界的な需要が急激に高まった結果、いっそうの品薄となり、二次流通市場が急騰するといった事態になっております。
昔はこういった人気商品の「順番待ち」がブランドでもあったものですが、現在では予約すら受け付けないといったところが出てきました。
そんな中で認定中古プログラムは、ブランドが売却品を下取りにして、希望モデルを販売することが期待できます。明確にブランド側が発表しているわけではありませんし、ブランドによってはこの限りではありませんが、下取りによって希望モデルに近づける可能性は多いにあります。
一般的な中古市場では、希望モデルが売却先で取り扱われているかどうかはタイミング次第です。その点、ブランドのファンであり、ブランドの現行品への買い替えを検討しているなら、認定中古プログラムの利用の旨味は大きいでしょう。
認定中古のデメリット
メリットの反面、認定中古のデメリットはどういったものが考えられるのでしょうか。
まず知っておきたいのが、一般的な中古時計よりも高額になる可能性がある、ということです。
前述の通り、認定中古品はしっかりとした正規メンテナンスが施されたうえで販売されます。中には「交換の必要はない」とユーザーが考えるようなパーツまで交換されることもあり、メンテナンス費用は高くつく場合があります。当然その費用が上乗せされた販売金額となるので、一般的な中古時計よりも高い値付けとなる可能性は否めません。
また、認定中古品の中に希望モデルがあるとは限らない、というのも事実です。中古販売を専門としているショップであれば、様々なブランド・年代のモデルを販売していますが、基本的に認定中古品はブランドが取り扱っているモデルであり、また取り扱い数はそこまで多くはありません。
「価格が高い傾向にある」「品揃え」のデメリットを考慮した時、頻繁に買い替えて色々な時計を楽しみたいといったユーザーにとっては、認定中古はあまり向かないかもしれません。
「オリジナル性」の問題も、無視できない課題です。
「交換の必要はないように思えるパーツまで交換される」と述べました。これは、一般的な中古市場では価値あるものと判断されていたパーツまで交換され、オリジナル性が損なわれる可能性があることを示唆しています。
どういうことかと言うと、例えばロレックスの夜光。ロレックスでは1960年代~1999年頃までトリチウム夜光を使用しており、その後ルミノバやクロマライト夜光へと進化していきました。このトリチウムは放射性物質で、崩壊しながらβ線を放射し続けることで発光するため、約10年ほどで光らなくなります。すなわち「夜光としての機能」が損なわれたとして、ロレックスでは正規メンテナンスの際に針や文字盤を交換することが多いのですが、一方で中古市場ではトリチウムが残った個体は高い評価を得ています。なぜなら交換されておらず、オリジナル性を維持していることの証左(後年トリチウムが塗り直された個体も存在しますが)となるためです。とりわけアンティーク・ヴィンテージと称される年式の古い個体は、このオリジナルが大きな価値を持つことをご存知の諸氏も多いでしょう。
もしメーカーが「しっかりと整備する」のであれば、こういったオリジナル性が損なわれてしまう可能性があることを示唆しています。
もちろん「性能が良い中古品が欲しい」といったニーズもありますが、オリジナリティやリセールバリューを意識して買いたい方にとっては、認定中古の安心の品質保証がデメリットとなる場合があるのです。
※ただし後述するジャガールクルトの「コレクタブルズ」のように、オリジナルの状態を尊重したリペアに留める場合もあり、一概にデメリットとは言えません。
さらに「正規のアフターサービス」にも、気を付けたい点があります。
まずメーカーのメンテナンスは、往々にして費用も時間もかかる場合が多いということです。例えば針ズレを起こしている場合。重症なケースだとオーバーホールとなりますが、針のハカマ(針を取り付けるパイプのようなパーツ)が緩んでいるだけなら、ここを締め直せば解決することもあります。
しかしながらメーカーの中には部分修理を行わず、オーバーホールやコンプリートサービスとセットでのみ受け付けるといった場合があります。こうなってくると修理費用が高額になったり、納期も数か月かかってしまうケースもあります。
また、保証があるとは言え、「保証対象」には明確な基準が存在します。具体的には第三者が手を加えた製品については、保証対象外とする、などといったことが挙げられます。当然と言えば当然なのですが、ちょっと小傷が気になって、市販の研磨剤で磨いてしまった・・・などといった場合にも、保証対象外となる場合があります(もっとも、ご自身で研磨剤を時計に使うことは並行輸入店であってもお勧めしません)。
売却側のデメリットも知っておきたいですね。
ブランドがどのように値付けを決定するのかはわかりませんが(定価との兼ね合いなのか、二次流通価格を意識した価格とするのか?)、メンテナンス費用が上乗せされる分、認定中古品の販売価格は高くなる傾向にある、と前述しました。しかしながら、だからと言って売却した際の価格が、ご自身の想定よりも高いとは限りません。
また、時計専門店や買取店などであればショップ側が査定額を提示し、売却するユーザーがこれに納得して成約すれば査定金額が支払われる形となります。
一方で認定中古が委託販売形式であった場合はいつ売れるかわからないといったリスクもあります。
認定中古・一般的な中古、どちらも一長一短です。ご自身の時計への価値基準や許容範囲、予算を軸に、ニーズにマッチする方を選びたいところですね。
高級腕時計の認定中古が与える時計業界への影響
これまで時計業界では、正規ブランドがリユース品を取り扱うといった事例は、そう多くはありませんでした。
ブランドにとって「売り切り型」などとも呼ばれるビジネスモデルが一般的で、顧客に新品を販売することが収益を得るゴールであったためです。リユース市場に目を向けることは、新品製品の購買を妨げる、そもそもリユース市場でのかじ取りが難しいなどとと考えられていたことが背景にあります。
しかしながら時代は変わりました。
リユース市場は拡大の一途をたどり、リサイクル通信によると2021年の市場規模は前年比11.7%増の2兆6988億円に!これは12年連続での成長となっており、2022年もこれを上回っているであろうこと。また2025年には3兆5000億円規模を記録することを予測しています。さらにジャンル別に見ると、衣料・服飾品は前年比14.4%増・ブランド品は19.6%増と、ファッション業界全体でリユース市場規模が大きく成長していることも指摘されています。
こういった時代において、ブランド側のリユース市場参入は喫緊の課題となってきました。
現在の時計業界におけるリユース市場から、高級時計ブランドの認定中古が発展した背景や、与える影響について最後にご紹介いたします。
認定中古を手掛ける人気時計ブランド
認定中古を手掛ける人気の時計ブランドは、いったいどこなのでしょうか。
まず、2009年という早い段階からスタートさせたのが、フランクミュラー(ワールド通商)です。「プレミアム アプルーブド ウォッチ(Premium Approved Watch)」として大規模な下取り・委託販売を展開しており、フランクミュラーが誇る高度な技術者らによって蘇らせられた認定中古品は、一般の中古市場でも非常に高い評価を得るクオリティです。ブライトリングも、2009年頃から「トレード・イン・システム(TRADE IN SYSTEM)」としてクラブ・ブライトリングメンバーを対象に下取りサービスを行っています。
2000年代と言えば、まだリユース市場規模もここまでではなかった時代。自社の製品と、その製品を愛する顧客の目線に立った、素晴らしい企業姿勢ではないでしょうか。
なお、「超高額時計」として有名なリシャールミルも早い段階から認定中古を展開しており、2022年には国内5店舗目となる正規認定中古販売店「NX ONE KOBE」がオープンしました。
さらに2018年、リシュモングループがウォッチファインダーを買収したことも、近年の認定中古ビジネスにおいて、大きな役割を持ちます。
ウォッチファインダーは、イギリスの高級時計に特化した二次流通企業です。この買収によってリシュモングループ自らがリユース市場でのかじ取りを行うこととなります。これに伴いリシュモングループ傘下のヴァシュロンコンスタンタンが「レ・コレクショナー」として正規メンテナンスした年代物をイベントや展示会で実際に販売したり、ジャガールクルトが「コレクタブルズ」として、歴史的なタイムピースを修復したうえで(一方でオリジナルは尊重して)、再販しております。
その他ではセイコーグループの和光限定「グランドセイコー ファイン ビンテージウオッチ」。スイス ジュネーブブティックのみでの販売とはなるもののロンジンの「ウォッチコレクターズ」。
また2023年末までにオーデマピゲが認定中古をスタートすることをアナウンスしています。
このように、大きな潮流を生んでいるブランドのリユース市場への参入。今後、リユース市場の大いなる成長とともに、参入ブランドもまた増加していくことが見込まれます。
特にロレックスの兄弟ブランドであるチューダーや、ヴァシュロンコンスタンタン・オーデマピゲとともに世界三大時計ブランドに名を連ねる―そして歴史的スポーツウォッチで、驚異的なプレミア価格を記録する―パテックフィリップが気になるところ・・・!
時計業界には長い歴史と伝統を有するブランドが数多くあり、また不朽の名作は枚挙にいとまがないため、ファンにとってこの潮流は願ったり叶ったりと言って良いのではないでしょうか。
なぜ高級時計ブランドが認定中古に参入を始めているのか?
多くの人気ブランドが認定中古に参入することは、時計業界や中古時計の価値の維持にとって、大変有意義なことです(詳細は後述)。
とは言え、長らくリユース市場に消極的であった各ブランドが、なぜ近年、認定中古をスタートさせているのでしょうか?
この背景は様々でしょうが、下記の二点を本項では取り上げます。
まず一つ目が、何度か取り上げている「リユース市場の拡大」です。リユース市場規模は年々拡大を続けており、2021年には2兆6988億円に到達したと前項で述べました。リサイクル通信では、これを「リユース品に対するユーザーの抵抗感が薄れた」「新品よりも割安で購入する、あるいは購入品を売却する行動はユーザーにとって賢い消費と捉えられるようになった」と指摘しています。
確かに時計業界でも、かつて中古品を頻繁に利用するのは、何本も時計を所有してきた愛好家といったイメージがありました。時計は洗浄やオーバーホールを経ることで蘇るものですが、なんとなく中古品は抵抗があるといったユーザーは多かったものです。
しかしながら近年では「中古品に抵抗がない」ことはもちろん、あえて購入時には「リユース市場から探す」といったユーザーが格段に増え、またご自身でも「売却」を考えて中古品を購入するといったケースがよく見られるようになってきているのです。
こういった消費マインドの変遷や、拡大するリユースビジネスを、ブランド側はもう無視できなくなったと考えられます。換言すると、巨大なリユース市場はブランド(だけではありませんが)にとって参入する旨味が大きいのでしょう。
とりわけロレックスやオーデマピゲといった人気ブランドの一部モデル(ことロレックスに至っては、現行の大きい部分を占めますが)は二次流通品の価格高騰が凄まじく、時には定価の二倍以上にも及ぶようなプレミア相場を記録することとなりました。これは現行品に限らず、生産終了モデルでいっそう顕著です。市場に出回る価値ある中古時計をコントロールし、自社で取り扱うことは、製品の価値を維持するうえであっても、ブランドのビジネスとしての旨味であっても、決して小さくありません。
二つ目は、サスティナビリティの重要性が際立つ昨今、循環型経済(サーキュラーエコノミー)へのシフトがブランドに求められているという点です。
サスティナビリティは持続可能性という意味で、環境・社会・経済の三つの観点において、将来にわたって継続していける能力を示します。この概念の中で、従来のブランドの「売り切り型」は得策とは言えません。大量生産・大量消費社会では、いずれ限りある資源が枯渇し、持続可能とは言い難いためです。そこで製品・パーツを含む資源を循環利用し続けながら、付加価値の最大化を図るビジネスモデル「循環型経済」が注目されています。
そして時計のリユース市場は、長らくこの循環型経済の代表的存在でした。
一方でリユースの価値が今ほど認知されていなかったがゆえに、再販しづらいモデルが安い価格で買い叩かれたり、金を採るために鋳つぶされてしまったりといった事情もありました。さらに、ブランド側が「パーツ保有期間」を定め、年式の古いモデルの修理を受け付けなかったり、二次流通品に対して差別を設ける(正規品とのメンテナンスの金額に大きな差をつける、あるいは二次流通品を受け付けない等)ことで、埋もれてしまった歴史的タイムピースやリユース品の価値はあったことでしょう。近年リユース品の価値が高まるにつれ、正規メンテナンスの在り方や企業のリユース品への姿勢に対するユーザーの目は厳しくなっています。このような「目」の中で、ブランド側はどのようにして自社の中古品を継承し、市場で循環させていくかが、試されているとも捉えられます。
前述の通り、現存する時計ブランドはいずれも長い歴史と伝統の中で、非常に素晴らしい製品の数々を輩出してきました。
今こそサスティナビリティを、そして自社のリユース品を適切に取り扱い、価値を永続的に示していくためにも。リユース市場への参入や自社リユース品のコントロールはブランドにとって取り組むべき課題であり、その一つの回答が認定中古プログラムなのではないでしょうか。
認定中古で時計業界はどう変わる?
認定中古を始めとしたブランドのリユース市場の参入によって、時計業かはどのように変わっていくことが予測されるのでしょうか。
この考え方もまた様々でしょうが、以下の三点において、時計ユーザーにとっても時計業界にとっても意義深いと考察します。
すなわち
・中古品の価値の維持
・コピー品や粗悪品の排除
・ブランドレガシーや修理ノウハウの継承
この三点です。
もっとも、「中古品の価値」については、現在のリユース業界やユーザー自身の手に依るところが小さくないでしょう。前述の通り、かつて中古品の市民権が今ほど獲得されていなかった頃は、適切な価値が付けられていない個体も少なくありませんでした。これは「価格」のみを指しているのではなく、再販性やオリジナル性にも当てはまります。
しかしながら中古時計の価値が周知されると市場は大きくなり、中古時計の取り扱いに長けた買取店・販売店が急増しました。ショップの急増は、良質な競争をもたらします。果たしてユーザーが求めるサービスや質を提供できる中古時計専門業者が増え、ユーザー自身の買い替えや中古時計店の利用も活発化。加えて上質な情報が溢れることでユーザー自身の目も肥えていき、さらにサービス・質の向上が求められる・・・といった循環が生まれています。
ここにブランドの認定中古という付加価値が新たに加わることで、いっそう中古時計の価値は深まり、市場の躍進に寄与すると考えられます。
また、ブランドのリユース市場の参入は、コピー品や粗悪品の締め出しにも一役買ってくれることでしょう。
ブランドがリユース市場に目を向けないということは、コピー品や粗悪品を追跡しないことを示唆します。しかしながら認定中古プログラムによってブランドお墨付きの鑑定や品質基準が確立すれば、真正品の価値を守れることはもちろん、偽造品の販売抑止に繋がることにも期待されます。
さらに、ブランドレガシーや修理ノウハウが継承できるというのも、業界にとって大きな意味を持つことでしょう。
これまで一部のモデルを除き、公式に自社の生産終了モデルの詳細なアーカイブ・資料が公開されていないがゆえに、真正性やオリジナル性が不明瞭といった個体が少なくありませんでした。
また、パテックフィリップやオーデマピゲといった永久修理を掲げる一部の名門ブランドを除き、年式の古い個体の修理は保証されないこともありました。これは、致し方ない面もあります。時計に限らずメーカーにはパーツ保有期間があり、生産終了したモデルであっても、一定期間はパーツを保有しておくことが求められますが、保有期間を過ぎればこの限りではありません。
もちろん高級時計ブランドの多くはパーツ保有期間を過ぎてもできるだけ修理してくれるところが多いですが、一方で製造していないパーツ交換が発生した場合は、断られてしまうといったケースもあります。そういった場合は、民間修理業者でパーツを別作することも可能ですが、全ての業者が対応してくれるわけではありません。
しかしながら認定中古プログラムのスタートによって、ブランドが自社のレガシーを公開すること。また修理ノウハウが継承されていくこととなり、結果としてこれまで不透明であった年代モノの解明が進んだり、修理できないとあきらめていた個体が蘇ることに繋がる、と予想できます。
中古時計の「繰り返しメンテナンスをして、次のオーナーに手渡していく」といった特性は、サスティナビリティの在り方そのものと言えます。認定中古プログラムによって、いっそう素晴らしい中古時計が市場に溢れかえる未来を期待するところです!
まとめ
ロレックスやセイコーグループ、リシュモングループ等も次々とスタートしている認定中古プログラムについてご紹介いたしました。
認定中古のメリットやデメリット。また認定中古が広がっていく背景について、お伝えできていれば幸いです。
時計市場が拡大を続ける中で、中古品の価値は今後ますます注目されると考えられます。
今後もこの業界動向から、目が離せません!
当記事の監修者
田中拓郎(たなか たくろう)
高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB、システム系全般を担当。スイスジュネーブで行われる腕時計見本市の取材なども担当している。好きなブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年