「あたらしい童話」に出会いたい。自分で本を選び、声を出して本を読むようになった子どもたちに、「お話って、こんなにおもしろい!」と思わせてくれる新鮮な本との出会いは、一生、子どもたちの心を潤してくれる。そういう童話を生み出す書き手と出会いたい! と願って、この童話賞は始まりました。
応募総数は2289作品。応募者の年齢は7歳から88歳まで、プロフィールや職種は多岐に渡っています。予想以上の応募数に、関係者一同、驚きながらも期待で胸がいっぱいでした。これだけの人が、童話を書き、この賞に応募する、という冒険に参加してくださったのです。その意気込みをとても貴重に感じました。
作品も実にバラエティに富んでいました。その中から、1次選考と2次選考を通過したのは、12作品。私、角野栄子と原ゆたかさん、ポプラ社社長と経験豊かな編集者数名が最終選考会に臨みました。
さまざまな視点から活発に意見を交換し、真剣に検討した結果、最終的に、大賞1名、優秀賞1名、奨励賞2名が決まりました。
審査委員長 角野栄子
※選考についてのお問い合わせには一切お答えできませんので、なにとぞ、ご了承ください。
※第2回の募集詳細につきましては、ホームページでも告知させていただきます。
■受賞コメント
このたびは誠にありがとうございます。両手などでは到底抱え切れないような、大きな大きな花束をいただいた心地です。
小学二年生の冬、学童に遅くまで残っていた私は、あたたかいストーブの前にピアノの椅子をがこがこ引きずって腰掛け、おばけのアッチシリーズに読みふけっていました。窓の外にちらつく雪。ふっと顔を上げ、「ああ、しあわせだなあ」と心の中で呟いたことを今でも覚えています。
まさか将来、作者の角野栄子先生に物語を読んで頂くなんて。お名前を冠した賞を頂戴するなんて。想像もしていなかったことです。
今度は私が、読んでくださるみなさまに想像をこえる物語や、未来を届けられたらーー。とても壮大な夢ですが「魔法」の力をお借りして、いつか実現できれば幸いです。
■選評(審査委員長・角野栄子)
今日は給食に大好きなプリンが出る日です、それなのに主人公「たく」は熱が出てしまいました。病院で診察を待っているあいだに、たくは不思議な看板を見つけます。「びょうき銀行」。病気をお金みたいに、預けたり引き出したりできる銀行です。わずらわしい熱や鼻水などの症状も預けられる。なんて便利なのでしょう! この発想はとってもユニーク! 言葉のリズムもこの面白い物語にふさわしく弾んでいて、作者の息づかいが伝わってきます。作品としても完成度が高く、審査員一同、「大賞」に推薦しました。この病院に大人も行かれるのかしら? それとも子どもだけ? どんな病気でもいいの? もっとしっかりと設定する必要を感じますが、同時に、もっと楽しく発展させられる余地もあると思いました。
■選評(特別審査員・原ゆたか)
教員という立場の作者が、子どもたちと向き合って生まれた物語だと思いました。子どもにわかりやすい文章で書かれ、咳や擬音にもオリジナリティや工夫が感じられます。
病気が預けられるというテーマも魅力的ですが、病気ドロップができる様子や病気の口座開設、ATMが登場するところなどリアルで、ひょっとしたら本当にあるかもしれないと病院に行った時、子どもたちは探検したくなるかもしれません。しかしこのような、世の中にはないシステムを手に入れた時には何らかのリスクを設定しないとただただ子どもたちの便利アイテムになってしまいますし、不治の病と闘っている子どもがいることも考えなくてはなりません。「病気」と一言では括れないデリケートで難しいテーマではあります。
■受賞コメント
この度は 栄誉ある優秀賞をいただき 誠に嬉しく思います。先⽣⽅、選考委員の⽅々、またこのような機会を設けてくださった関係者の⽅々に改めて感謝申し上げます。
コンテストがあるのを知ったのは5⽉中旬だったので 締め切りに間に合ようにと ⼤慌てでした。とにかく楽しんで書く! それだけを念頭に置いて作りました。
受賞のお知らせを受けた時は、ちょうど期⽇前投票に⾏った役所の中だったのですが、本当に信じられない気持ちで、もう投票どころではないし、その後に⾏く予定だった⼣ご飯の買い物も忘れて、そのまま家へ戻り、同居している猫どもを相⼿にひたすら喜びまくってしまいました。
■選評(審査委員長・角野栄子)
「わたし ねこの ふとんやです。ねこふとん いりませんか?」これを読んだだけで、猫を抱いて寝たら、あったかいだろうなあ! と感覚が刺激されます。「ふとんならあるもん。いらないよ」と返事をされても、それで引っ込むねこふとん屋ではありません。ちょっとずるくて、でも可愛くて、言葉たくみに駆け引きするので、主人公の「ぼく」はねこふとん屋のペースに巻きこまれていきます。「それから、どうなるの?」と展開が楽しみな作品でした。猫を題材にした作品はたくさんあります。でも、この作品はよくある猫ものとは一味違っていました。作者が楽しんで書いている気持ちが伝わってきました。ただラストがちょっと残念。飛躍しすぎたような気がします。やっぱり猫物語は猫で決めて、終わりたい。
■選評(特別審査員・原ゆたか)
この方は、童話作家のキャリアをお持ちなので、さすが子どもにわかりやすい文章でこのまま出版されてもおかしくない作品に仕上がっていると思います。唯、そのこなれた手腕に新鮮さが感じられず次点となってしまいました。ストーリーも楽しくユーモラスなねこと少年のやり取りに終始ニヤニヤが止まらず読み進んでいけました。しかしラストで急にトラとチーターが現れたところで私は不安な気持ちになってしまったのです。と言うのも果たしてこの少年の両親がすんなりこの状況をすんなり受け入れてくれるのかという疑問です。
ねこ好きなら、ねこの方からふとんに入ってきてくれるだけで幸せです。ダメダメねこふとんを少年が受け入れてあげるホッコリしたラストでも良かったのではないでしょうか。
■受賞コメント
この度は大変すばらしい賞をいただき、本当にありがとうございます。
今でもまるで夢の中のできごとのようです。
わたしは子どもの頃から、子どもの本を書く人になりたいと思っていました。
でも、デザインという、これもまたわたしにとって人生をかけたい大切なものと出会い、忙しく働くようになりました。
そんな生活の中で、ずっと、なにか宿題をやり忘れているような気持ちがあったのです。
それで、えいっ! と会社を辞め、何年ぶりかに書いたお話が受賞作です。
自信は全くありませんでしたが、思い入れのある作品でした。
角野栄子先生、原ゆたか先生、ポプラ社の方々からこのような評価をいただけたことは、一生の思い出です。
■選評(審査委員長・角野栄子)
この作品の主人公は、情熱の赤い色をしたザリガニです。しかもシェフで冒険家。色々な場所へ旅をして、色々なお料理を作ります。色々なアクシデントが起きます。旅先でのロブくんの変身振りが鮮やか! それなのに、肝心のロブくんの作るお料理が平凡でした。よくあるサラダに、よくあるグラタン。「えっ、こんなお料理、あり!?」って、びっくりさせてほしかった。「これ食べたい!!」と読者に思わせる、ロブくんならではのお料理を。文も絵も手掛ける作者。カラフルでポップな絵は、お話にぴったり。でも本来、ザリガニとワニはもっとサイズに差があるはずでは? と、ひっかかりました。ナンセンスといえども、いささかリアリティに欠けるのでは? ただ、この作者の発想のユニークさは評価に値します。書いて、書いて、書き続けることによって、今後、もっと面白い作品が生まれてきそうな気がします。
■選評(特別審査員・原ゆたか)
最初の、シェフからのご挨拶を読むと、このレストランで振る舞われる料理はロブ君の冒険によって生み出され、その思い出話を聞きながら食べるとさらに料理が美味しく食べられるのだろうなと期待して読み始めましたが、大した冒険じゃない上に、さらに致命的なのはその料理の味がどれも想像できてしまうことです。
このお話の肝は、冒険の面白さ、そしてロブくんの料理を食べてみたい!の2つです。そのどちらも消化不良で、期待した分さらにがっかり感が倍増してしまいました。
さてこんなに貶す作品がどうして受賞するのでしょう。それは最初の発想です。この設定の延長線上には楽しい作品にたどり着きそうな予感があります。もっとストーリーを練って、美味しそうな未知の料理を冒険から生み出せるならシリーズ化してほしいくらいです。その可能性に期待しての奨励賞です。
■受賞コメント
このお話は小学1年生の息子を観察中に思いついたものです。とにかく騒がしい小学生と暮らす日々は、“毎日がスペシャル”改め“毎日がてんてこまい”です。(もちろんスペシャルなのは変わらないですが)
私が小学生の頃は大変おしとやかな文学少女だったので、その頃の自分との違いに日々驚かされています。その賑やかで面白おかしく過ぎていく日常をスポーツ実況風に解説したらどうなるかなと、お話を書いてみました。本なんてきらいと思っている子や、まだ一人で本を読んだことのない子が、『もしかして本を読むのって楽しいかも!?』と少しでも思ってもらえるようなお話になっていましたら、元おしとやかな文学少女もにっこりです。選考に携わってくださった皆様に心より御礼申し上げます。
■選評(審査委員長・角野栄子)
「タロウくんのいつものとくべつないちにち」 黒石かおる
主人公、田中タロウくんは、ある1日をアナウンサーの山田さんに実況放送されることに……。しかも中学1年生の川井くんという解説者付きです。「では、さっそく、タロウせんしゅのへやのようすをのぞいてみましょう」山田アナウンサーのこんな言葉から始まります。実況放送だけで成り立っている作品構成がとってもユニークで、素晴らしい。タロウくん、どうなるの? とワクワクさせられます。タロウくんだけでなく、クラスメートやいろんな人の1日も実況放送したら、次々面白い作品ができそうです。誰にも「いつもの特別な1日」があるはずですから、アナウンサーに追っかけてもらいましょう。この実況放送のシリーズで、いくつか作品を書いてみることをお勧めします。
■選評(特別審査員・原ゆたか)
小学生の一日を、実況中継するという発想に惹かれました。ただ、小学生が学校へ行くまでにもっと色々トラブルは考えつくはずで、アイディア出しが足りない気がします。十や二十のトラブルを考え、その中から厳選して小学生の一日の慌ただしさを更に実況中継で煽るドタバタストーリーを期待します。バナナを軸にドラマを組み立てようとされていますが、そこを中心とすると普通の童話になってしまいそうで残念です。このお話の一番のポイントはあくまで実況中継だと思うのですが。
ですからこのタロウ君に全く関係のないアナウンサー山田さんと川井君より、お父さんや妹など身内に実況中継をさせた方が、普段家族も見たことないタロウ君の行動に呆れたり、見直したり、つっこみが入れやすいのではと思います。
藤田くみこ 『そっちのミラのおかげだよ』
■選評(審査委員長・角野栄子)
朝、鏡を見た主人公ミラは驚きます。映っているのは、髪を切る前の昨日の自分です。「鏡の中のワタシは、1日おくれの、昨日のわたしってこと? 」なんだかワクワク、ドキドキすることが始まりそう! 鏡を使ったファンタジーはよくありますが、冒頭の場面に期待がふくらみました。でも、その後の展開が行き当たりばったりで、鏡のこちら側と向こう側の関係がわかりづらい。設定と構成をもっと練り上げる必要があります。こっちのミラとあっちのミラ。くっきりと対比しながら、二人の関係の変化や心理描写をもっと描けるはずです。幼年童話というより、長編がふさわしい題材かもしれません。最初の着想は良かった。でも、問題はそのあと。何度書き直したっていいのです。粘り強くね!
■選評(特別審査員・原ゆたか)
一日未来を知る物語に目をつけたのは新しいと思いました。
子どもに時間差をストーリーで理解させるのは昔から難しいといわれています。
また、不思議な事が都合よくはじまり都合よく終わる感がぬぐえませんでした。こういうお話は子どもたちがひょっとしてありえるかもしれない私もやってみようかなという所まで持っていけないと成功とはいえないと思います。
ほくほくま 『ペットにはおばけが一番です』
■選評(審査委員長・角野栄子)
ペットがほしい「ぼく」に、ペットショップから「おばけカタログ」が届きます。ペットのおばけをカタログで選ぶ、というアイディアが新鮮で楽しい。男の子とおばけの日常って、どんなふう? おもしろそう! でも読み進めるうちに、その期待がしぼんでしまいました。せっかく犬や猫ではなくて、おばけがペットになったのですから、もっととんでもないことが起きるのでは? ふたりで冒険したっていいし、とびっきり驚かせてほしかった。そこに作者のオリジナリティが光るはずです。
■選評(特別審査員・原ゆたか)
おばけのペットを飼えるという物語は子どもたちにとって最高の題材です。
ただ前半数字が出てきますがそれぞれにどうしてという疑問がついてしまいます。
おばけの名前の由来もなぞですし、ママが恋しい時期があって最終的にはどこかのママの赤ちゃんになるということは、その生んでくれたママがおばけのママだったということでしょうか。つくり話でもちゃんとリアルを入れていくと、あるかもしれないワクワク感につながりますが、なぜ?どうして?がつづき、お話にはいりこめませんでした。
織田れい 『つよがりねずみ と なきむしらいおん』
■選評(審査委員長・角野栄子)
ネズミの作るパンがおいしくて、ライオンが感激。やがてふたりでパン屋さんを開く……というお話。子どもたちが大好きな要素が満載です。けれど、酵母菌など細部にこだわったため、ちょっとむずかしい印象になってしまいました。子どもたちが一番期待しているのは、パン作りのシーン。ここを思いっきり楽しくおいしそうに書いてほしかった。幼年童話に特に求められるのは、子どもたちがくっきりとイメージできることと、心がぽんぽんと弾むようなリズムのある言葉。こまごまと説明されることを、子どもたちは好みません。また、せっかく明快な色彩のイラストなのに、ネズミの青と木の青が重なってしまうようなところが随所にあったのが、残念。
昔話的なタイトルも、ネズミとライオンの関係など、だいたいの予想がついてしまいます。まだまだ良くなる余地がたくさんありますよ。
■選評(特別審査員・原ゆたか)
3週間で文も絵も描かれたということですがそれにしては密度もありすごいなと思います。仕事が早いことは編集者にとってありがたいことですから。
ただせっかく設定したねずみとライオンという弱者強者の関係が徐々に逆転していくのかなという期待は最初の10ページで確定してしまったので残念でした。
あとはパンドミとかコウボ、曾祖父など作者はわかっていても子どもがわかるかなという単語はやさしく説明して欲しいと思いました。
秋野やーな 『つくろいや』
■選評(審査委員長・角野栄子)
お話の書き出しがとても良かった!「つくろいや」ってなに? なにをつくろうの? どんなお客さんが来るの? と心惹かれました。ところが、つくろいやのアカネさんのお店にやってきた女の子は、「心をなおしてほしい」と言うのです。「つくろう」という言葉の本来の意味は、何かと何かをつなぎ合わせたり、ちくちく縫ったりして、修繕することですよね。でも、女の子は、「つくろう」ことを比喩的にとらえています。「心をなおす」って、幼年童話の小さな読者にすんなり伝わるでしょうか? つくろいやのアカネさんは、おいしいお料理や楽しい音楽で女の子を元気にしようとします。でも、つくろいやさんなのですから、やっぱりチクチク縫って、つくろわないとね。童話的な楽しく温かい要素をつなぎ合わせて、じょうずにまとめられたお話。でも、子どもたちが求めているのは、まだ見たこともない、あなただけにしか書けない作品です。あなたもそうじゃない?
■選評(特別審査員・原ゆたか)
お話はきれいにまとまり全体の雰囲気や世界観もちゃんと描かれていると思いました。
しかし、まだ作者の自分だけが理解して子どもに伝えようという努力が足りないように思えます。まず、つくろうという言葉が今の子どもたちにどれだけ伝わるか、少し説明してあげる必要があると思います。子どもがやってきて「こころをなおして欲しいの」というセリフもこどもが言うには大人すぎるような気がします。せっかくまとまったストーリーなのでもう一度子ども目線で読み返してみてください。
蒼 『うさぎ探偵 きえたてがみはどこ?』
■選評(審査委員長・角野栄子)
うさぎ探偵とねずみの助手の「うさぎ探偵じむしょ」に、依頼人の犬のミモザがやってきます。大事な手紙が盗まれて、窓にはあやしい影がうつっていた、と。さあ、なぞ解きのスタートです! うさぎ探偵とねずみの行く手には、犯人が仕組んだにせの手紙が次々現れ、そこには「なぞなぞ」や「めいろ」が書かれています。読者にもなぞ解きを呼び掛けるスタイルで、思わず身を乗りだしました。
でも、私にも経験がありますが、新鮮な驚きのあるなぞなぞを作るのって案外難しいのです。さらに、なぞなぞとストーリーの面白さを両立させないといけないのですから、これはかなりハードルが高い。オリジナリティのある探偵物語を書きたいという作者の意気込みは感じます。でも、もっと斬新なアイディアがほしかった。イラストはほのぼのした味わいがありますが、探偵ものにしてはすっきりしすぎでは? 何気なく描かれた絵のディテイルから、子どもたちはイメージをふくらませるのが得意です。小さな読者たちをもっと楽しませましょう!
■選評(特別審査員・原ゆたか)
こなれたイラストやキャラクターなどは手ぎわよく描かれているなと思いました。
ただ探偵ものとしてはもっと遊ばせて欲しいと感じました。特にパノラマで手紙を探すシーンでは、もっと町の人々の生活を描き込んで子どもたちをこのページにしばらくくぎづけに出来るのになあと思いました。
やおいひでひと 「ひらめきたんけんたい」
■選評(審査委員長・角野栄子)
めばえ保育園のハルタとカイは恐竜が大好き。でも、園のみんなと恐竜の博物館に行っても、なぜかけんかばかり。その翌日、ふたりは、うら山の木のうろから、不思議な世界へ入りこんでしまいます。そこにはティラノサウルスの親子が! 恐竜好きの子どもたちが飛びつきそうな設定ですね。けれども、二人の冒険が始まるまでが長すぎます。おそらく作者も恐竜が大好きで、自分のかわりにハルタとカイに知識やうんちくを語らせたいのかもしれません。たとえば、木のうろのところから書き出してみたらどうでしょうか。恐竜好きどうし、でも気の合わない二人の男の子がいきなりスリル満点の不思議な世界に放り込まれたとしたら……? 男の子たちの会話と行動を生き生きと描くことで、物語ももっとテンポよく動き出すことでしょう。しっかりした描写力をお持ちの作者です。二人といっしょに冒険している気持ちで挑戦してください。
■選評(特別審査員・原ゆたか)
子どもの本を何冊か刊行されていらっしゃるので文章も解りやすく素朴な絵にも好感が持てました。
ただ、かいちゅうでんとうのかげでおどかすとか、ヤマモモの実を3コとわかれた枝をひろった時点で先が読めてしまうのが難点でした。
みやけまきこ 「アオとゆきねこの甘い冒険」
■選評(審査委員長・角野栄子)
印象的なイメージに彩られたお話です。主人公はアオという女の子。雪が積もった日、「ゆきねこ」のユキちゃんを作ったのに、お母さんから朝にはとけてしまうと言われて悲しみます。その夜、ユキちゃんがアオをむかえにきて、つれていかれたのは、雪だるまの世界。おばあさんの雪だるまに会ったり、雪だんごを食べたり、雪だるまのダンスを見たり……。おもしろい出来事が続きますが、その出来事がばらばらで、読者は迷子になってしまいそうです。おそらく作者の中に、まだ世界ができあがっていないからでしょう。また「すてきなものはいつかは消えちゃうもの。だからって、最初からなかった方がよかった、ってことはないでしょ?」という、作者のメッセージがアオの言葉として書かれていますが、それは直接語るのではなく、行動で表してほしいものです。声に出して読んでみてください。それも1回だけでなく何回も。すると物語はもっとくっきりとしたものになっていくでしょう。読み返すこと、直すことが好きになってください。
■選評(特別審査員・原ゆたか)
ふんわりとしたファンタジーの世界観は描けていたと思います。ただファンタジーだからといって都合がよすぎる展開ばかりだと子どもたちにとって、ひょっとしたらこんなことが起こるかもしれないというワクワク感が薄れてしまいます。
また、ユキダンスやステージに上がって踊る歌など、せっかく子どもたちが口ずさみたくなるリズムが表現できたのにもったいないと思いました。
村瀬琴音 「月子とユニ夫の夜の冒険〜招待状を届けよう〜」
■選評(審査委員長・角野栄子)
月子ちゃんとユニコーンのユニ夫は、毎夜冒険に出かけていきます。すると、人魚のネリからダンスパーティーの招待状を配ってほしいと頼まれます。人形作家のアトリエ、人魚のすみか、雲の上、動物のレストラン、雪国のテント……。月子ちゃんとユニ夫が招待状を届けた不思議な14の世界が、1見開き(2ページ)ずつ描かれていきます。緻密に描かれた絵は、細部まで見る楽しさがあります。非常に個性的な絵なので、読者を選ぶかもしれません。ストーリーはいたってシンプル。その分、構図やレイアウトに変化をつけるなど配慮が必要でした。でも、作者が自分の世界を存分に楽しんで創りあげていることは、熱く伝わってきます。さらに表現力を磨いて、もっともっと楽しんで描いてください。
■選評(特別審査員・原ゆたか)
絵描きとしてこんなシーンを描きたいと思う気持ちはよくわかりますし、これだけの密度の絵を書かれた努力に頭が下がります。
ただ物語としてはあらすじを語られただけのような気がします。読み手の我々が知りたいのは、月子ちゃんがユニ夫と冒険に出かける動機。人魚が招待状まで出して呼びたい相手との関係だったりするのです。このストーリーには指輪物語レベルの展開が必要な気がします。
<総評>
以上、受賞作4作品と惜しくも選外になった8作品についての感想です。いずれも作者の意気込みが感じられ、楽しく読ませていただきました。とても充実した時間でした。童話を創る冒険に参加してくださった皆様のことを、仲間のように感じます。感謝の気持ちでいっぱいです。
でも、私はとっても欲張りなので、今まで見たこともない、もっと驚くような作品を期待していました。残念ながらそれはありませんでした。なぜかしら? と考え続けています。
誰もが子どもの時から「童話」に親しんでいて、自分が親しんできた童話が、その人にとっての「童話の形」になっていたのでは? その豊かな恵みを受けとめながらも、そこから飛び出してほしかった。きっとそれは難しいことでしょう。私もそうでした。「童話とは、子どもが読むお話とは、こういうもの」という固まった考えから、なかなか離れることができませんでした。それでも、何回も書き直し、書き直し、新しい素材を見つけては書き続けました。とにかく書くことが好きで楽しかったのです。うまく書けなくても、あきらめることはできませんでした。
やがて私は、こう思うようになりました。自分が書きたいものを、形にとらわれずに楽しく書こう。たとえ人から否定されても、書きたいものを書いている自分を否定することはない。そして次第に、「これでいい」と思える作品を書けるようになりました。
どうぞ勇気を持って書き続けてください。書き続けることによって、あなたの童話の世界は確実に広がっていきます。次回も、この賞にぜひ参加してください。お待ちしております。
審査委委員長・角野栄子
応募作品全体に言えるのが、まだ大人の感覚で文章が書かれているなということです。
児童文学の書き手には、子どもの心で書いたストーリーを大人として子どもにわかりやすい言葉で伝えてあげる特殊能力が必要だと私は思います。その特殊能力を自然と身に付けていらっしゃるのが角野先生で、幼年童話を書かれている時はいつの間にか子どもになられ、子どもが共感する言葉でお話が生まれてくるようです。
さらに角野先生の作品にはキャラクターのネーミングやオリジナルな擬音、詩のリズムなど子ども達が口ずさみたくなるような言葉がたくさん隠れています。
皆さんも一度は子どもを経験されていますから、その時の記憶はどこかに残っているはずです。ですから、お話を書き上げたら一度子どもに戻って読み返してみてください。
この言葉は小学1年生の時、知っていただろうか?この言い回しは理解できてたかな?と、たえず自分に問いかけてみるのです。
そして文章のリズムや心地よさを感じるかどうか確認してみましょう。声を出して読んでみるとよくわかるはずですし、とても大切なことだと思います。
皆さんが苦労して書かれた唯一無二の作品がお客さんである子ども達に、わかりやすく楽しい物語となって届けられるよう、これからも試行錯誤していってください。
特別審査員・原ゆたか