要介護予測システムを自治体の現場で使えるものに

宇田 和晃

UDA Kazuaki

筑波大学 医学医療系

探求者インタビュー|宇田 和晃イメージ画像

行政が保有している既存データを活用

本プログラムはつくば市の職員の方々を交えたチーム編成も、他にはない特徴になっています。
具体的な目標は、行政が保有する地域住民の方々の医療・介護・福祉に関するビッグデータをもとに、将来要介護となる高齢者や要介護が重度化するリスクが高い高齢者を早期に発見し、早期対策につながる予測システムの開発・実装をすることです。
自治体がビッグデータを活用して医療・介護・福祉の業務で活用する例は日本国内ではまだ少ないですが、意欲的なつくば市の協力のもと、今回のチームビルディングが実現する運びとなりました。

通常、我々研究者が単独で地域住民の医療・福祉データを収集するとしたら、検査協力者を募るところから始まり、さまざまな決め事をクリアし、検査を受けていただいた後も長期的にフォローするため、数年はかかる上に分析に耐えるデータ量を収集するのは容易ではありません。
その点、本プロジェクトはすでに行政が日常的に収集している地域住民が医療や介護を利用した際に発生するデータを使えるというアドバンテージがあり、データ収集までのプロセスを一気に短縮することが可能です。また、新たな検査等を実施する必要もありません。

世界の中でも高齢化が著しく進んでいる日本は、介護費・医療費の増大や高齢者本人および家族介護者の負担増が大きな社会課題の一つになっており、その一方で誰もが等しく介護を受けられる介護保険制度という諸外国にはない独自性を有しています。
そこにスポットを当てた本プロジェクトもまた、その独自性を映し出すものになると確信しています。

探求者インタビュー|宇田 和晃イメージ画像

予測システムの導入フェーズへ前進

私たちの解析データの対象者は65歳以上の高齢者です。つくば市から倫理審査を終えて受領している2014年から18年度分のデータを活用しています。年齢、性別、要介護認定と関連するであろう過去1年間に診断を受けた病名を予測因子とし、それらをもとに要介護のリスクを予測します。
現在までに得ている予測結果の確率と、対象者が実際に診断された要介護認定の確率を照らし合わせたところ、ほぼ一致しており、今回の第一フェーズである予測システムの開発は予定通り達成することができました。

現在は第二フェーズ、開発した予測システムを実際に自治体のシステムに導入し、最新の住民データに適用するところに取り組んでおり、日々の業務で介護保険等に携わっている職員や保健師の方々と意見交換を行っている最中です。

これまで本研究以外にも医療・介護の分野で、こうした予測ツールを開発する事例は耳目を集めてきましたが、なんといっても課題は「実際に現場に導入して役に立っているのか」、この一点に尽きると感じています。
そこに一石を投じるためにも、行政との連携をさらに深めることが重要です。

意欲ある介護予防研究者や関連産業、行政関係者とつながりたい

繰り返しになりますが、介護費・医療費の増大や高齢者本人および家族介護者の負担増は日本社会の喫緊の課題です。
幸い、医療・介護の分野にはユーザー目線を持った意欲の高い研究者や企業も多く、本プロジェクトに取り組む私たちも今後さらなる発展のために、介護予防に向けてさまざまなアプローチを試みている方々とつながるきっかけを探しています。

また、とりわけ本プロジェクトに関心を持ってもらえたら嬉しいのは、行政関係者の方々です。地域の医療・福祉の充実には行政の力が必要不可欠。地域を超えた情報交換も大歓迎です。
私たちもゆくゆくは、本システムの汎用性を検証・拡大し他の自治体や、ひいては社会全体に活用できるようになればと考えています。