反社チェックとは?その目的や実施方法、チェック範囲について解説|コラム|IPO Compass

反社チェックとは?その目的や実施方法、チェック範囲について解説

反社チェックとは、取引先企業や関連会社など企業経営に関わるステークホルダーの中に、反社会的勢力に関わる人物がいないかを確認すること。反社チェックの目的とは何か?具体的な実施方法、およびIPO準備企業に求められる反社対応についても解説。
更新:2023年10月5日

1.反社チェックとは?

反社チェックとは、企業における取引先企業や関連会社、あるいは自社の役員や従業員、主要株主等といった企業経営に関わるステークホルダーの中に、反社会的勢力に関わる人物がいないかを確認することです。

1-1.反社会的勢力の定義

そもそも反社会的勢力(以下、反社)とは、具体的にどのような組織・個人を指すのでしょうか。

2007年に法務省が公表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」では、以下のように定義されています。

暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。
出典:法務省、犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ, 2007年6月19日,「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」

反社と聞くと、真っ先に暴力団を想像される方が多いと思いますが、実際には暴力団準構成員や暴力団関係企業(「フロント企業」や「企業舎弟」とも呼ばれます)、総会屋など、多岐に渡ります。一見すると反社会的勢力とはわからないケースも増えているため、反社に該当するかどうかは、その集団又は個人の属性と共に、暴力・威力行為、不当な要求行為などの行為とあわせた判断が必要です。

1-2.巧妙化する反社の資金獲得活動

日本では、政府や全国の地方自治体を中心に、1992年の「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(暴力団対策法)に始まり、2007年の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」の公表や、全47都道府県の地方自治体における「暴力団排除条例」等を制定してきました。一般市民・企業に対して、反社が関わりを持つ機会を排除するための取り組みを強化してきたのです。

しかし、近年、反社による資金獲得活動の手口は複雑化・巧妙化しています。たとえば、実態は暴力団であるのに、組織を隠ぺいし、通常の企業活動を装ったり、政治活動・社会活動などを標ぼうしたりなど、実態の不透明化が進んでいるのです。その結果、企業が反社と知らずに取引してしまうなどの事件が増加しています。

2.企業における反社チェックの目的

企業は反社との関与がないことを定期的に確認する反社チェックを行います。反社チェックを行う目的は主に以下の3つです。

  • ・反社への資金提供を断絶するため
  • ・企業のコンプライアンス遵守のため
  • ・企業を存続させるため

2-1.反社への資金提供を断絶するため

反社が企業に近づく理由の一つは、経済取引を通じた資金の獲得です。

反社はフロント企業を使って経済活動を行い、その裏で実は詐欺や違法薬物取引など犯罪行為を主導しているというケースがあります。企業が反社と取引を行ってしまった場合、それら犯罪行為を行うための資金源を提供することにつながります。

2-2.コンプライアンス遵守のため

反社であると知りながら取引を行った場合は、法令違反となり罰則が課される可能性があります。また単に法令違反というだけでなく、企業の責任として社会通念上のルールを逸脱する行為はコンプライアンス上、許されません。

2-3.企業を存続させるため

企業間取引においては、契約書等に反社排除条項(詳細は後述)を定めているケースが増えています。そのため、反社との関与が発覚した時点で、取引先との契約が解消され、取引先が被害を被った場合は損害賠償が請求されることもあります。また金融機関からの融資停止、上場企業であれば上場廃止に追い込まれる可能性もあるでしょう。

さらに、一度つながりを持ってしまうと、企業および従業員が脅迫・恐喝による不当な要求を突き付けられてしまうなど、二次トラブルに発展する可能性も考えられます。

反社と関与することで、企業活動が困難となり、企業の存続自体が難しくなる恐れがあるのです。

3.反社チェックの実施方法

反社チェックとは、何をどのように進めていけば良いのでしょうか。
実務上では、前述の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」の「2 基本原則に基づく対応」等を参考に、以下の4つの対応が必要とされます。

  • ・企業の行動規範などに反社に対する行動基準を明文化する
  • ・社内体制を整備する
  • ・契約書などに反社排除条項を記載する
  • ・反社チェックを定期的に実施する

3-1.企業の行動規範などに反社に対する行動基準を明文化する

代表取締役などの企業トップが、反社からの不当要求があった場合の行動基準を、企業の行動規範・社内規則などに明記します。組織としての対応方針を、企業内外に宣言することで反社からのアプローチを防ぐ予防策になります。

3-2.社内体制を整備する

社内体制整備としては以下を実施します。

・対応部署の設置と責任者の配置

定期・都度の反社チェック(詳細は後述)の実施、反社に該当する企業情報の一元管理・蓄積、実際に不当要求があった場合に対応します。従業員向けの研修、警察や弁護士などの外部専門機関との連携も行います。

・対応のマニュアル化

万が一反社との関与が発覚した場合に備えて、対応をマニュアル化しておきます。

3-3.契約書などに反社排除条項を記載する

反社排除条項では、取引の相手方に対し、暴力団などに該当しないことを表明させたうえで、仮に取引開始後に暴力団に該当することなど一定の事由が発覚した場合には、即時に解除できる旨などを定めます。
東京都の条例では、契約書に反社排除条項を導入することについて努力義務が課されています。仮に、条例でそのよう努力義務が規定されていなかったとしても、通常は反社排除条項を拒絶する取引の相手方はいないでしょう。

これから新規取引先と契約する際には、あらかじめ反社排除条項を規定した契約書で契約を締結しましょう。
一方、既存の取引先との契約書に、反社排除条項が規定されていない場合には、取引の相手方に説明し、変更契約書や覚書を締結することになります。過大な事務負担となる場合には、誓約書(誓約する側の一方当事者のみの記名押印)の差し入れにより手当てすることも検討するとよいでしょう。

3-4.反社チェックを定期的に実施する

3-4-1.反社チェックの具体的な方法

反社チェックの方法として、代表的な3つの方法を紹介します。

  • ・公知情報による情報収集
  • ・調査会社、興信所など専門機関の利用
  • ・警察・暴追センターへの問合せ

・公知情報による情報収集
世の中に公表されている情報(公知情報)を利用して反社に該当するか否かを確認します。

【情報収集の例】
  • ・インターネットで会社概要・会社案内を確認する
  • ・商業登記情報にて、社名・住所・役員名などを確認する
  • ・有価証券報告書などの開示文書を確認する
  • ・SNSを使って企業担当者のプロフィールを検索する
  • ・情報データベース会社の記事検索サービス(たとえば、日経テレコンなど)で確認する

・調査会社、興信所など専門機関の利用
公知情報のみで反社に該当するかどうかの判断が難しい場合には、信用調査会社や興信所に調査を依頼することもあります。

・警察・暴追センターへの問合せ
警察や、全国暴力追放運動推進センター(暴追センター)に連絡し、反社に関する情報を提供してもらうことができます。しかし、情報提供は無条件に受けられるわけではありません。警察情報を提供する必要性があると判断され、かつ、情報を受領する企業側にて適正な情報管理ができる体制が整備されていると認められる場合に、情報提供(原則として口頭)を受けることができます。

警察情報を提供する必要性の判断基準に、自社のポリシー、取引先との契約書(締結予定のものも含む)において反社排除条項が導入されていることが挙げられます。反社排除条項では、排除対象が明確であり、該当する場合は必ず排除する方針が定められていることも重要です。また、反社チェック体制が整備されており、そのチェックの結果疑いを持ったことが説明出来れば、提供を許容してもらえる可能性が高まります。
そのほか、取得に際しては、反社に該当すると思われる企業の調査資料や取引資料などの提出が必要です。

ただ漫然と情報提供を求めるのではなく、必要性と許容性があると判断してもらえるように体制を整えておきましょう。

なお、これらをすべて確認しておけば問題がないということではありません。まずは自分で出来る範囲でチェックをしてみること、さらに状況に応じて、それぞれの方法を組み合わせることや、チェックの頻度を増やすことなどが重要です。

3-4-2.反社チェックのタイミング

反社チェックを実施するタイミングとしては、たとえば、以下のような場面が考えられます。都度チェックはできないという企業でも、最低年1回の定期チェックを行うことが必要です。

  • ・新規取引開始時
  • ・取引の継続・更新時
  • ・新役員の就任時、従業員の採用時
  • ・資金調達前
  • ・IPO審査前 など

3-4-3.反社チェックの範囲

反社チェックは、以下の関係者に対して実施することが必要です。

  • ・子会社、関係会社
  • ・役員(特に外部から招聘した役員・監査役など)
  • ・主要な従業員
  • ・主要な取引先企業
  • ・主要な株主 など

なお、企業規模が大きな会社などでは、すべての従業員・取引先企業・株主について、確認することは現実的でないでしょう。その場合には、主要な関係者に絞って確認することが一般的です。

4.IPO準備段階で求められる反社対応とは?

4-1.反社対応はIPO審査の実質審査基準の一つ

東京証券取引所では、投資家保護の観点から、IPO審査の実質審査基準で反社対応について以下のように定めています。

反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること
出典:日本取引所グループ, 「2023 新規上場ガイドブック(グロース市場編)」

4-2.「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」の提出

東京証券取引所への上場申請時に、申請会社は有価証券新規上場申請書の添付書類として「反社会的勢力との関係がないことを示す確認書」を提出することが求められています(東京証券取引所,上場規程施行規則204条1項5号)。なお、この確認書は反社チェック等の社内体制が整備されていることが前提です。

確認書には、上場申請日における役員、役員に準ずる者(執行役員等の重要な従業員)、重要な子会社の役員、株主(上位50名)、主な仕入先および販売先(連結ベースで上位10社)のリストを添付します。

また、申請会社による確認書のほか、主幹事証券会社による、申請会社と反社との関係を含む調査に係る「上場適格性調査に関する報告書」を別途添付書類として提出することも求められます(東京証券取引所, 有価証券上場規程施行規則204条1項6号)。万が一、主幹事証券会社により問題ありとされた場合には、IPOは事実上断念せざるを得ません。IPO審査に向けた平時からの社内体制整備と定期的なチェックが重要です。

4-3.審査においてどのくらいの深度を求められるのか

IPO審査において、反社チェックはどのくらいの深度を求められるのでしょうか。
たとえば一般消費財を売るようなBtoCの小売業において、取引先であるすべての購入者をチェックするということは現実的ではありません。ただ、取り扱っている商材によっては、BtoCであったとしても取引先をすべてチェックするということもあり得ます。ビジネスの内容次第で、反社の関与する可能性があるならば深度は求められるということです。
深度や対象範囲については、証券会社によるところが大きいため、証券会社としっかりと擦り合わせておきましょう。

4-4.いつから反社対応を始めるべきか

反社対応は今すぐに始めるべきです。

IPO準備段階は、IPOに向けて企業規模が急拡大する時期です。企業規模が拡大する前に体制を整備するとよいでしょう。また関与が発覚した場合でもIPOまでに対処する時間が十分取れるように、少しでも早く反社対応に取り組むことが肝要です。

たとえば、株主の中に反社に関与する人物がいる場合は、早急にすべての株を買い取り、関係を解消しなければなりません。しかし所有している株数によっては、関係解消に費用も時間もかかるでしょう。また契約書等の反社排除条項の追加についても、既存取引先への対応に時間と労力がかかります。主要な取引先が反社に関与している場合は、事業の継続が危ぶまれることもあり、IPOどころではなくなってしまうかもしれません。

反社との関与がIPO審査で発覚すると、IPO審査はその時点で終了です。それだけでなく、その後もIPOが出来ない可能性すらあります。またその場合、IPO審査に通らなかった理由が反社との関与である旨は教えてもらえないため、問題の解消も難しいでしょう。

最近ではN-3で受ける監査法人のショートレビューでも反社チェック体制について問われるケースがあります。出来る限り早く現状把握と体制構築を進めましょう。
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執筆
TMI総合法律事務所<br>パートナー弁護士<br>高野 大滋郎氏
TMI総合法律事務所
パートナー弁護士
高野 大滋郎氏
2005年弁護士登録。2015年ニューヨーク州弁護士資格を取得。主な取扱分野は訴訟、上場会社法務、IPO、事業再生等。現在、大手証券会社の引受審査部門に対して法的アドバイスを提供するほか、上場申請会社の法務顧問を務めるなど、IPO実務に従事している。
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