IPO 2018年総括と今後の展望|コラム|IPO Compass

IPO 2018年総括と今後の展望

2018年、IPO社数は前年と同数の90社でした。相変わらず活況ではありましたが、審査のさらなる厳格化などIPO準備企業にとって厳しい状況は2019年も続きそうです。2018年を振り返り、2019年の展望を解説します。
2019年1月22日
目次
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はじめに

 2018年の日本の株式市場は米中貿易摩擦やブレグジット、新興国景気減速懸念などの外的要因に左右され、特に年後半はアメリカのトランプ大統領の発言に一喜一憂する不安定な展開となりました。IPO市場においては、IPOを目指す企業数は増加しているものの、監査法人をはじめとするIPO支援家の人手不足、審査の厳格化によるIPOスケジュールの長期化、上場承認後の上場延期等、懸念事項も多く見受けられました。
 株式市場においても、IPO市場においても2018年と同様の懸念事項が存在する中で、2019年はどのような展開になるのでしょうか。今回のコラムでは“8つの注目点”で、2018年のIPOの状況を確認し、2019年以降の展望を記したいと思います。

1.年間90社前後が定着

 2018年のIPO社数は、90社(東証一部7社、東証二部5社、マザーズ63社、ジャスダック14社、札証アンビシャス1社)となりました。2015年に年間90社を超えて以来、横ばいで推移しています。企業業績(景気)がIPO社数に影響を与えるため、景気は安定している一方で力強く上昇しているとはいえないこと、等が要因として考えられます。
 上場を目指す会社の数は増加している実感がありますが、当面のIPO社数のトレンドは変化が少ないのではないかと予想しています。
 市場選択としては、ベンチャー企業はマザーズを目指す意向が強く、年間63社は市場創設来の記録となりました。市場の枠組みの変更を検討するワーキングが東証で始まっていますが、ここ1~2年で大きく変わるスケジュールではない模様で、現在の傾向はしばらく続くことが見込まれます。

2.主幹事、監査法人の競争状況

 主幹事の社数ではみずほ証券が首位(26社)となりました。一方で、共同主幹事案件においてトップレフト(引受株数最多証券)だけをカウントすると、野村證券が首位(23社)となります。2019年もこの2社とSMBC日興証券が首位争いをするものと見込まれます。
 監査法人ではEY新日本が首位(29社)で、2017年首位だったトーマツは、あずさ(25社)にも抜かれて3位(21社)になりました。大手監査法人は、社数を追及しない方針になっていると思われますので、今後は勢力図に変動があるかもしれません。ベンチャー企業が上場準備を始める場合、どの監査法人と契約するかが大きな論点になっています。

3.上場日が遅くなる傾向

 引受審査および取引所審査において業績確認の厳格化が続いている影響と思われますが、期初から上場日までの期間が長期化しています。かつては第3四半期中に上場するケースも多かったのですが、第4四半期中、あるいは期越え(株主総会前まで)のIPOが増加しています。期越え上場は32社(36%)にのぼりました。今後も同様の傾向が続くと想定していますが、望ましい状況とは思いません。「甘い業績管理で下方修正」というのは確かに良くありませんが、投資家サイドも「ベンチャー企業の業績はブレがある」というリスクを十分認識していく必要があると考えます。

4.取引所審査の厳格化

 10月くらいまでは、年間100社上場に届くのではないかと期待していました。届かなかった原因のひとつに、取引所の審査にパスできずスケジュール通りとならなかったケースが相当数あったことが指摘されています。延期理由は様々ですが、よくある課題として挙げられている労務コンプラアンスに加え、下請法や景表法など、本業に係るコンプライアンスの問題が取引所で厳しくチェックされていることが要因のひとつと思われます。
 今後も、特に新規性の高い事業を行っている企業は、関連法令・規制のチェックを綿密に行う必要があるでしょう。

5.上場承認後の中止

 2018年第1号が見込まれた世紀、インバウンドテック、パデコ、テノ.ホールディングス(その後再承認)、レオス・キャピタルワークスと、5社が承認後にIPOプロセスを中止しました(2017年の中止は1社のみ)。個社ごとに原因は違うと思われますが、業績の急な変調、内部統制に係る内部通報や投書等には、気を付けていく必要があります。

6.大型IPO

 ディールサイズが約2.6兆円となったソフトバンクの上場により、IPO年間合計ディールサイズは3兆円を超え、過去最大となりました。2019年以降も、子会社上場やファンドEXIT案件の大型IPOが出てくる可能性があると考えられます。

7.年末の波乱

 年末上場のポート、自律制御システム研究所の初値は、公開価格を大きく割り込みました。株式相場全体の変調が影響を及ぼしていることと思われますが、ベンチャー企業のIPOといえども「買えば必ず初値で儲かる」とは限らないことをあらためて教えてくれました。

8.プロ市場

 IPO社数に含めていませんが、東証が運営するプロ投資家向け株式市場(TOKYO PRO Market)の年間新規上場社数は8社となり、過去最高となりました。現状、流動性や資金調達という観点ではあまり期待できませんが(但し、筑波精工は上場時ファイナンスを行った)、財務諸表を公表することによる信用力の向上、人材獲得における上場企業としてのメリット、海外への事業進出の際のアピール等から、プロ市場をステップにする企業が更に増える可能性があります。

【最新コラム公開中】 IPO 2021年総括と今後の展望
執筆
宝印刷株式会社<br>取締役常務執行役員/企業成長支援部長<br>兼 プロマーケット事業部長<br>大村 法生氏
宝印刷株式会社
取締役常務執行役員/企業成長支援部長
兼 プロマーケット事業部長
大村 法生氏
1986年に東京大学法学部を卒業後、野村證券株式会社に入社。20年以上にわたりIPO関連業務に携わる。2005年に公開引受部次長、2011年から同部東京エリアヘッドを歴任。2018年に宝印刷株式会社に顧問として入社。同年7月執行役員、2019年7月常務執行役員企業成長支援部長に就任。2021年8月より現職。
宝印刷株式会社 ホームページ

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