2024年上半期IPO総括~一般市場とTOKYO PRO Market、それぞれの特徴と動向~|コラム|IPO Compass

2024年上半期IPO総括~一般市場とTOKYO PRO Market、それぞれの特徴と動向~

2024年上半期は、一般市場には38社、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)には23社が上場しました。IPO企業のデータから見る、2024年上半期IPOの傾向とは?J-Adviserの船井総合研究所が解説します。
2024年9月6日

1.はじめに

2024年は能登半島地震に始まり、物価高による消費の下押し、自動車認証不正問題など、景気回復が足踏みする状況が懸念されました。しかし2月下旬になると、日経平均株価はバブル期以来の高値を付け、3月には40,000円を突破、7月には史上最高値42,000円の大台に乗りました。2023年12月29日の終値33,464円と比べて約8,500円も値上がりしており、海外機関投資家による日本株の評価が高まったことや自社株買いの増加などがその要因と言われています。

IPO市場においては、2024年上半期で、一般市場に38社[東京証券取引所(以下、東証)スタンダード市場4社・東証グロース市場34社、名古屋証券取引所(以下、名証)ネクスト市場1社(グロース市場との重複上場)]、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に23社が新規上場しました。

日経平均株価が歴史的水準に到達した2024年上半期、IPO市場ではどのような変化があったのでしょうか。2024年上半期のIPO市場の状況を振り返ります。

2.2024年上半期IPOの状況

2-1.一般市場

2024年上半期は、一般市場に38社[東証スタンダード市場4社・東証グロース市場34社、名証ネクスト市場1社(グロース市場との重複上場)]が上場しました。昨年よりは6社減っているものの、2020年からの過去5年平均41社と比べると例年並みと言える水準です。

2020~2024年の上半期IPO企業数の推移
▲2020~2024年の上半期IPO企業数の推移
※2024年6月末時点で、各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
※TOKYO PRO Market及びテクニカル上場を除く

2024年上半期で、一般市場のIPOに関する特筆事項としては、以下3点が挙げられます。
  • ① 地方証券取引所へのIPOは1社のみ
    2023年上半期は福岡証券取引所(福証)Q-Board市場が1社、名証メイン市場が2社でしたが、2024年上半期は名証ネクスト市場1社(グロース市場との重複上場)でした。2024年上半期は1社のみでしたが、地方証券取引所へのIPOは、東証が市場を再編した2022年で4社、2023年は8社と、それまでの年1~2社の状況と変わりつつありますので、下半期に期待がかかります。

  • ② 決算期末または期越え上場の増加
    IPOは例年3・6・12月が多くなります。その理由は日本企業の決算期にあります。
    決算期は3・12月に集中しており、上場申請期の着地予想が見えてくる決算期末ぎりぎりまで待ってからIPOをすると3・12月IPOが増え、決算数値を見てからIPOをすると、3月決算後の4~6月、12月決算後の1~3月のIPOが増えることになります(なお、例年1・5月は長期休暇などの関係もあり、IPO社数は少ない傾向にあります。2024年も、1月IPOは無し、5月も1社のみ)。

    2024年上半期で見ると、
    ・3月決算企業11社のうち、5社が上場申請期の期末である3月に上場、残りの6社は期越え上場
    ・12月決算企業8社すべてが、申請翌期の2~3月に期越え上場
    ・2024年上半期IPO38社のうち、約6割の22社が期越え上場

    決算期末または期越え上場での原因として、予算の達成が大きく関係していると考えられますので、IPO準備の早い段階から予実管理を徹底し、精度を高めていくことに尽きるでしょう。

    2024年上半期、月別の一般市場の新規上場企業数
    ▲2024年上半期、月別の一般市場の新規上場企業数
    ※2024年6月末時点で、各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
    ※TOKYO PRO Market及びテクニカル上場を除く

  • ③ 「グロース市場の上場基準に係る検討」の実施(2024年3月22日開催、市場区分の見直しに関するフォローアップより)
    東証市場再編以降、東証では市場区分見直しの実効性向上に向けて「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を実施しています。IPO後にIPO時の時価総額を下回っている企業や上場維持基準に抵触している企業が少なくないことから、グロース市場の上場基準の引き上げが検討されています。会議時点では結論は出ていませんが、グロース市場の高い成長可能性というコンセプトに反する現状を改善する必要があるため、今後の議論の行方に注目が集まっています。
    参考)2024年3月22日 東京証券取引所『グロース市場の上場基準に係る検討』

【船井総研YouTube】2024年上半期(1月~6月)版 IPO市場の動向と今後の展望

2-2.TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の上半期における新規上場企業数は過去最多の23社となり、通年で新規上場企業数が40社近くに到達する見込みです。
当社、船井総合研究所はJ-AdviserとしてTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)を目指す企業を支援していますが、当社にも多くのTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へのお問い合わせをいただきます。地域問わず、会社規模問わず、お問い合わせは日々増えており、関心の高さが年々増していると実感しています。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の新規上場企業数の推移
▲TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の新規上場企業数の推移
※2024年6月末時点で、東京証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成

【船井総研YouTube】2024年上半期(1月~6月)版 J-Adviserが解説!TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の動向と今後の展望

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に上場を検討している企業様、いつか上場したいとお考えの企業様、船井総研にお問い合わせください。

3.2024年上半期、IPO企業分析

3-1.本社所在地

一般市場では、38社中27社の約7割が東京都に本社を置いており、東京一極集中状態は変わりません。また、設立年数10年以内の企業が38社中22社の約58%を占めており、比較的社歴の短い企業が多いこともわかります。

2024年上半期のIPO企業の本社所在地
▲2024年上半期のIPO企業の本社所在地
※2024年6月末時点で、各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
※TOKYO PRO Market及びテクニカル上場を除く
※%の数値は小数点第二位まで記載しており、小数点第三位以下は切り捨てています。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)においては、一般市場ほど東京一極集中ではなく、全国に上場企業が点在しているという特徴がありました。しかし2024年上半期では、東京都に本社を置く企業が約半数を占めています。一方、設立年数は11年以上の企業が23社中17社の約75%を占めています。一般市場と同じく東京都の企業が最多ですが、東京都の11社においても9社は社歴11年以上であり、社歴の長い企業が多いところは一般市場とは異なる特徴です。

TOKYO PRO Market全体と2024年上半期TOKYO PRO Market新規上場企業の本社所在地
▲TOKYO PRO Market全体と2024年上半期TOKYO PRO Market新規上場企業の本社所在地
※2024年6月末時点で、東京証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
※%の数値は小数点第二位まで記載しており、小数点第三位以下は切り捨てています。

3-2.業種

一般市場では、情報・通信業、サービス業が併せて全体の約7割を占めています。さらに情報・通信業13社すべてが東京、サービス業も13社中10社(77%)が東京であり、一般市場における業種と地域の偏りは顕著です。

2024年上半期IPO企業の業種別構成割合
▲2024年上半期IPO企業の業種別構成割合
※2024年6月末時点で、各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
※TOKYO PRO Market及びテクニカル上場を除く
※%の数値は小数点第二位まで記載しており、小数点第三位以下は切り捨てています。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)においては、一般市場と同様にサービス業・情報通信業の割合が高く、併せて全体の4割を占めています。また、例年と同様に不動産業・建設業の割合も併せて約3割と上半期時点では高くなっています。もともとは、サービス業や情報通信業に偏らず、様々な業種が上場しているところがTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の特徴でしたが、ここ数年は一般市場の業種構成に近づいています。

2024年上半期TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業の業種別構成割合
▲2024年上半期TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)上場企業の業種別構成割合
※2024年6月末時点で、東京証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
※%の数値は小数点第二位まで記載しており、小数点第三位以下は切り捨てています。

3-3.業績

一般市場においては、スタンダード市場4社は、2023年度のスタンダード企業に比べて事業規模が大きく上回りました。売上高の中央値は142億円で2023年売上高中央値71億円と比べて約2倍、経常利益の中央値は12億円で2023年経常利益中央値7億円と比べてこちらも約2倍です。ちなみにグロース市場は中央値で比較すると、売上高・経常利益は昨年並みです。

2024年上半期のIPO企業の業績
▲2024年上半期のIPO企業の業績
※2024年6月末時点で、各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
※TOKYO PRO Market及びテクニカル上場を除く

注目すべき点は、グロース市場に上場したアストロスケールホールディングスとトライアルホールディングスです。アストロスケールホールディングスは今話題の宇宙ビジネスです。経常利益は93億円の赤字ではあるものの、新規ビジネスへの期待から、上場時時価総額(公開)は上半期IPOにおいて第2位の960億円となりました。トライアルホールディングスは全国に数百店舗を構えるスーパーセンター(スーパーマーケットとディスカウントストアを一体化して衣食住をワンフロアで展開する複合店舗)です。同社はSkip Cartと呼ばれるスマートカートシステムやリテールAIカメラなどによりスマートストアの実現を目指しています。すでにそれらのAI活用は進んでおり、売上高(6,531億円)、経常利益(1,435億円)、上場時時価総額(公開)(2,021億円)において上半期IPOで第1位となりました。どちらも宇宙やAIなどの新規ビジネスへの期待値の高さがうかがえます。下半期も新規ビジネスの上場はあるのか、期待が高まります。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)においては、2024年上半期の中央値は、2021年・2022年と同水準で、売上高29億円、経常利益1.5億円です。売上高と経常利益の最大値・最小値は、この3年半を見るとかなり幅があります。形式基準がないため、幅広い業績規模の会社が上場していることが見て取れます。

2021~2024年上半期のTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)新規上場企業の業績規模
▲2021~2024年上半期のTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)新規上場企業の業績規模
※2024年6月末時点で、東京証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成

3-4.監査法人

一般市場に上場した38社のうち大手監査法人(有限責任監査法人トーマツ、有限責任 あずさ監査法人、EY新日本有限責任監査法人、PwC Japan有限責任監査法人)の実績数は19社(50%)でした。2022年57.3%、2023年59.4%のシェアと比べると(いずれも通年)、やや減少しています。大手監査法人のシェア減少にともない、中堅・中小監査法人の実績数も増えています。しかし中堅・中小監査法人のリソースにも限界があるため、この先も中堅・中小監査法人のシェアが増加し続けるかどうかは現状ではわかりません。

2024年上半期のIPO企業の監査法人の実績
▲2024年上半期のIPO企業の監査法人の実績
※2024年6月末時点で、各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
※TOKYO PRO Market及びテクニカル上場を除く
※%の数値は小数点第二位まで記載しており、小数点第三位以下は切り捨てています。

一方で、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は、一般市場と異なり、中堅・中小監査法人が大半を占めていますが、担当社数1位の監査法人コスモス以外は、その顔触れが年々変わっています。太陽有限責任監査法人と監査法人FRIQのように、一般市場の監査を担当している監査法人もいますが、その数はまだまだ少ない状況です。

2024年上半期のTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)新規上場企業の監査法人の実績
▲2024年上半期のTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)新規上場企業の監査法人の実績
※2024年6月末時点で、東京証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
※%の数値は小数点第二位まで記載しており、小数点第三位以下は切り捨てています。

3-5.主幹事証券会社

SMBC日興証券が10社と最も多く、続いてみずほ証券8社、大和証券とSBI証券が6社、野村證券5社と続きます。主幹事契約を結べない「主幹事難民」という言葉を耳にすることもあるように、主幹事契約の締結に難航する企業も少なくありません。そのため、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)に目標市場を変更する企業も増えています。

2024年上半期IPO企業の主幹事証券の実績
▲2024年上半期IPO企業の主幹事証券の実績
※2024年6月末時点で、各証券取引所のデータを集計し、株式会社船井総合研究所にて作成
※TOKYO PRO Market及びテクニカル上場を除く
※%の数値は小数点第二位まで記載しており、小数点第三位以下は切り捨てています。

4.IPO市場・TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)のトレンド・トピック

4-1.2代目社長によるIPO事例

2023年は、株式会社西部技研(福岡県本社、2023年10月スタンダード市場に上場)やJapan Eyewear Holdings株式会社(福井県本社、2023年11月スタンダード市場に上場)のように、2代目社長によるIPOがありました。
2024年上半期においても株式会社STG(大阪府本社、2024年3月グロース市場に上場)が2代目社長でIPOを実現しました(同社は2019年6月にTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へ上場後、グロース市場にステップアップしています。詳細は後述)。

事業承継を機に、2代目社長がIPOを目指す事例はもともと一定数存在します。さらにTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)により、IPOへのハードルが下がったことで、これまではIPOに関心が薄かった地方の老舗企業層がIPOを視野に入れるケースも増えています。事業承継をきっかけにした、2代目社長のIPO増加が今後期待できるかもしれません。

4-2.TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)からのステップアップ上場

2024年6月末時点で、累計11社がTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)から一般市場へのステップアップ上場を実現しています。
2024年上半期では、株式会社STGがグロース市場へステップアップしました。同社は2019年6月にTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へ上場したのち、売上高を24億円から46億円と約2倍に成長させ、2024年3月にグロース市場に上場しました。
自社の事業成長のファーストステップとして、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へ上場する企業が今後も増加することが期待できます。

TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)からのステップアップ上場
▲TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)からのステップアップ上場

4-3.2024年12月16日(月)開設予定!Fukuoka PRO Market(福岡プロマーケット)

福岡証券取引所(以下、「福証」)が2024年12月に、プロ投資家向け市場「Fukuoka PRO Market(福岡プロマーケット)」を開設します。東証のTOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の制度を踏襲するとのことです。TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)の市場の盛り上がりを踏まえると、Fukuoka PRO Market(福岡プロマーケット)にも期待が高まります。

【船井総研YouTube】 2024年12月開設予定のFukuoka PRO Market(福岡プロマーケット)とは?

5.まとめ

日経平均株価が歴史的水準に到達した2024年上半期、一般市場のIPOは38社、TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は23社が上場しました。一般市場のIPOは昨年44社よりはやや減ったものの宇宙やAIなどの新規ビジネスが好評価されました。TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)は2023年の上場社数32社を通年で超す勢いを見せています。
グロース市場における上場基準の引き上げや主幹事難民、中堅中小監査法人のリソース不足など、懸念事項もあるなか、2024年下半期IPOはどのような動きを見せるのでしょうか。下半期もIPO市場に注目です。

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更新:2024年9月6日
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