新潟医療福祉大学 運動機能医科学研究所


8/20 勉強会

研究報告

担当;堀内

研究テーマ:筋疲労によって起こる大脳運動野皮質内抑制低下の機序に関する研究

  • 要旨
  • 背景:直接的な筋疲労後または非疲労筋後には大脳運動野のMEPや皮質内抑制(short interval intracortical inhibition; SICI)が低下することは報告されている.運動野のMEPは興奮性神経伝達神経物質との,SICIはGABAA受容体との関与によると言われている.筋疲労で起こるMEP低下やSICIの低下の機序を明らかにするために,test刺激とconditioning刺激の刺激強度の組み合わせを工夫し筋疲労後のMEP低下やSICIの抑制変化から,筋疲労と興奮性変化や介在抑制性ニューロンのGABAAの関連を検討する.
  • 目的:Test刺激とconditioning刺激の刺激強度や刺激条件の組み合せによって筋疲労で起こるMEPやSICIの低下の機序を明らかにする.
  • 方法: <実験1> 安静時の抑制状況;100%Test刺激(約1mV誘発)や105%Test刺激と,80%,90%,100% AMT(active motor threshold) および80%,90%,100%RMT(resting motor threshold) の各conditioning刺激を組み合わせた刺激条件で安静時の抑制状況を確認する. <実験2> 筋疲労と選抜された二重TMS刺激強度の組み合わせ;被験者に右FDI筋に2分間の40%MVC(等尺性筋収縮)で3回行わせ,筋疲労を起こす.各疲労直後および回復時に選抜されたTest刺激とconditioning刺激の刺激強度の組み合せで二重TMSを行う.
  • 現在,実験1による安静状態でTest刺激とconditioning刺激の強度の関係を検討している.100%Test刺激TMS(約1mVを誘発できる強度)と 105%Test刺激TMSの関係を比較した結果,約1.2倍のMEPを誘発できることを確認した.今後,疲労によるMEP低下と刺激強度の関係やconditioning刺激強度と抑制状況を検討する.

文献抄読

担当: 久保雅義

論文;Delignieres et al., Transition from Persistent to Anti-Persistent Correlations in Postural Sway Indicates Velocity-Based Control. PLoS Computational Biology (2011) 7(2).

要旨

  • 背景:静止立位での姿勢コントロールの研究には、足圧中心動揺(COP)をその対象とするものが多く、近年では非線形時系列分析の手法を用いてより多くの情報を取り出す試みがされている。Collins and DelucaはCOPの位置情報にStabiligram Diffusion Analysis (SDA)という手法を用いて、立位姿勢制御には、同じ傾向の運動を続けようとするPersistentな過程と、逆の傾向の運動へ変えようとするAnti-Persistentな過程が含まれていることを示し、これをopen-loopおよびclosed-loop制御と重ねて議論した。しかし、位置情報としてのCOPに対するSDAの適用は必ずしも適切ではないのではないかという疑問が生じた。
  • 方法:ローレンツ・アトラクタによって生成される有界なデータに対してSDAを適用してみる。さらに Detrended Fluctuation analysis(DFA)とスペクトラル分析をCOPの速度に対して適用してみる。
  • 結果:運動制御とは関係のないデータに対してSDAを適用することでも、PersistentからAnti-Persistentへの偏移が観察されたことから、Collinsらの主張するCOP位置に対するコントロールは支持されなかった。COP速度に対するDFA適用では、PersistentからAnti-Persistentへの偏移が観察され、さらにスペクトラル分析でもこの結果が支持された。
  • 考察:COP位置の変化ではなく、COP速度の変化のレベルでの静止立位姿勢制御が示唆された。非線形時系列分析には、その適用にさいして満たされていなければならないさまざまな前提条件がある。生体信号の制約・特徴と、分析手法の理論的背景の一致には注意が必要であり、”古典的”な手法よりも非線型時系列分析では特にそのことが重要になる。