新潟医療福祉大学 運動機能医科学研究所


10/3 勉強会

【研究報告】

担当:藤本先生

タイトル:ヒトの寒冷暴露時の皮膚血管収縮反応の新規メカニズムの解明-温度感受性TRPM8チャネルの役割-

  • 背景・目的:近年,温度刺激感受性TRPM8が寒冷暴露時の皮膚血管収縮に関与する可能性が動物実験において明らかとなった.そこで,本研究では,ヒトの寒冷暴露時の皮膚血管収縮反応におけるTRPM8の役割について検討することを目的とした.
  • 方法:健康な成人11名(男性 7名,女性 4名,26±4歳) を対象とした.皮内マイクロダイアリシス法を用いて,前腕部4か所にそれぞれ1) リンガー液 (コントロール部位),2) M8-B溶液 (TRPM8阻害部位) ,3) ヨヒンビン+プロプラノロール溶液 (α&βアドレナリン受容体阻害部位) ,および2と3の混合液 (コンビネーション部位) を投与し,全身および局所寒冷刺激に対する皮膚血流量を計測した.また,コントロールおよびTRPM8阻害部位における透析液中のノルアドレナリン濃度を計測した.
  • 結果:全身冷却に対する皮膚血管収縮反応は条件間で差はみられなかった.局所冷却に対する皮膚血管収縮反応はコントロール部位と比較して,その他の部位で抑制された.また,局所冷却時にはコントロール部位でノルアドレナリン濃度が上昇したが,TRPM8阻害部位ではノルアドレナリン濃度の上昇はみられず,コントロール部位よりも低値を示した.
  • 結論:局所冷却時に生じるヒトの皮膚血管収縮にはTRPM8の活性化を介したノルアドレナリン濃度の上昇が重要な役割を果たすことが明らかになった.

【文献抄読】

担当:鈴木さん

タイトル:Lesion Area in the Cerebral Cortex Determines the Patterns of Axon Rewiring of Motor and Sensory Corticospinal Tracts After Stroke

出典:Sato et al., Front Neurosci. 2021. DOI 10.3389/fnins.2021.737034

  • 背景と目的:脳梗塞は,皮質脊髄路などの神経回路を障害し,運動機能の低下が生じます.近年の研究から,障害された皮質脊髄路は不可逆的であるが,梗塞を免れたものが再編により代償的な回路を作り,失われた機能を回復へ導くことがわかってきた.これまで本研究領域では,皮質脊髄路には様々なタイプが存在することを見出してきた.しかし,脳梗塞の部位や大きさは多様であるため,再編の様式はそれぞれの症例で異なるのかは不明である.今回,筆者らは,マウスの大脳皮質において脳梗塞の位置や大きさを任意に調節できるモデルを作成し,神経トレーサーを用いて皮質脊髄路をタイプ別に可視化し,脳梗塞後にそれらの軸索が新たに伸びる投射パターンを詳細に解析した.
  • 方法:脳梗塞モデルとして,生体マウスの左大脳皮質に光凝固脳梗塞(photothormbisis法)を生じさせた梗塞モデルマウスを用いた.損傷後,反対側の皮質に順行性トレーサー(BDA)を注入し,非損傷側の皮質脊髄路を標識した.損傷後に脊髄を採取し,凍結切片を作成し,BDAを染色した.脊髄における軸索発芽の割合を正中線を越える軸索数で計測した.
  • 結果:障害側の皮質脊髄路が損傷したとき,対側の皮質脊髄路が関与する.障害側の皮質脊髄路は対側性の皮質脊髄路よりも有意に使用されている.感覚軸索と運動軸索のどちらかが損傷しても,相互に補う可能性は低いことが示された.
  • 結論:脳梗塞の起こる部位や大きさにより,皮質脊髄路がタイプ別に異なった様式で再編することを明らかにした.