新潟医療福祉大学 運動機能医科学研究所


10/12 勉強会

【研究報告】

担当:関根

タイトル:ローイング動作時の筋シナジーの腰椎椎間板変性の有無による比較

  • 目的:ローイング動作時の体幹・下肢筋群の筋シナジーを椎間板変性保有者と健常者で比較し,椎間板変性保有者に特徴的な筋シナジーを明らかにすることを目的とした.
  • 方法:大学ボート選手12名(椎間板変性群6名,健常群6名)を対象とし,ローイングエルゴメーターを用いた2000mタイムトライアルを実施した.椎間板変性の評価には腰椎MRT2強調画像から得られた正中矢状断画像を用いた.トライアル所要時間の20,80%経過直後の1ストローク中の右側の腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,多裂筋,広背筋,脊柱起立筋,大腿直筋,大腿二頭筋の活動を測定し,シナジーの群間の一致度をScalar Product(SP)で評価し,SP>75%で同一とした.
  • 結果:トライアル前半部,後半部のいずれにおいても,両群ともに1つのシナジーのみを有した.前半部,後半部のシナジーとも,全ての筋で貢献度が高く,ストローク全体を通して高い活動を維持しており,両群で同一であった(前半部:SP=99.8%,後半部:SP=99.9%).
  • 結論:ローイング動作には,1つのシナジーのみが動員された.椎間板変性保有の有無で筋の協調性に差を認めなかった.

 

【文献抄読】

担当:五十嵐小雪

タイトル:Somatosensory cortical excitability changes precede those in motor cortex during human motor learning

出典:Ohashi et al., J Neurophysiol 122: 1397–1405, 2019.

  • 背景:運動学習には、一次運動野(M1)と一次体性感覚野(S1)の可塑性が関与していることが多くの研究で報告されているが、運動学習過程において、どのようにM1とS1の変化が生じているのは不明である。そこで、運動学習に関連したM1およびS1の経時的変化を調べ、その変化が運動学習にどのように影響しているかを明らかにすることを目的とした。
  • 方法:被験者は右利き,神経学的疾患の既往のない40名(男性 17名,女性 23名,18-28歳)とし、M1およびS1の興奮性評価と運動学習を交互に実施した。M1興奮性は、TMSを用いて、左M1の手の支配領域に対する単発刺激によって誘発される運動誘発電位(MEP)測定し、その振幅のPeak-to-peakを評価した。S1興奮性は、正中神経刺激を用いて測定し、体性感覚誘発電位(SEP)振幅のN20-P25のPeak-to-peakを評価した。MEP・SEP測定は2群に分け、学習前および運動学習30試行後ごとに5ブロック実施した。運動学習は、力制御課題を用いて、ターゲット線に合わせるようにセンサーを押す力を調節する。1ブロック30試行とし、5ブロック行った。
  • 結果:パフォーマンスは、初期にパフォーマンスレベルが高まり、60~90試行で運動が適応した。SEPは学習前と比較して、初期段階から増大し、運動学習と正の相関関係が認められた(SEP増大が大きいほど運動学習が促進する)。MEPに関しては、90試行以降の学習後期に増大した。
  • 考察:本研究の結果は、S1興奮性が運動学習に重要であり、パフォーマンスや運動学習の促進に関与することを示唆している。先行研究においても、感覚運動学習を反復的に行うとSEPが増大し、S1興奮性の重要性が示されている。また、運動学習後に運動機能に加えて知覚能力も変化することや体性感覚野損傷患者は知覚機能が低下していること,筋活動に先行してS1錐体ニューロンが活動することが報告されている。これらのことから、S1興奮性の変化は、遠心性の運動制御に関与し、知覚能力の向上とそれに伴う運動学習の促進に関与している可能性が考えられる。
  • 結論:運動学習において、S1興奮性の変化は学習初期に増大し、この増大が大きいほど運動学習が促進することが明らかとなった。M1興奮性の変化は、学習後期に増大する。