新潟医療福祉大学 運動機能医科学研究所


6/24 勉強会

【研究報告】

担当:東原

タイトル:スプリントにおけるハムストリングスの機能分化

要旨

  • 背景:ハムストリングスを構成する各筋は解剖学的形態の差,およびそれに起因する機能の差を有しており,各筋が有する形態や機能の差異がハムストリングスに多く発生する肉離れ受傷メカニズムや各筋の受傷率の違いに影響している可能性が指摘されている.また,肉離れは,強い筋活動と筋の伸張が同時に起こることで力学的な緊張が生じ,発生すると考えられている.
  • 目的:ハムストリングス肉離れが頻発するスプリント動作時のハムストリングスの筋活動動態,筋伸張動態,およびそれらの関連性を明らかにし,肉離れ受傷メカニズムとの関連に示唆を与えることを目的とした.
  • 方法:男子陸上短距離選手13名を対象とし,屋内の陸上競技直線走路上を最大努力で疾走した際の疾走動作および右脚の大腿二頭筋長頭(BF),半腱様筋(ST),および半膜様筋(SM)の筋活動を計測した.1ストライド(右脚の接地から再び接地するまで)を分析対象とし,接地期および遊脚期後半における筋活動量および筋活動のピークタイミング(% gait cycle)を算出した.筋-腱長は筋骨格モデリングソフトを用いた逆運動学解析により算出し,ピークタイミング(% gait cycle)を算出した.
  • 結果および考察:接地期および遊脚期後半におけるハムストリングス各筋の筋活動貢献度および活動ピークタイミングに有意な差が認められたことから,スプリント動作時のハムストリングスは協調して活動しているが,1ストライドにおいて各筋が高い筋活動を示す時点が時系列的に異なることが明らかとなった.また,ハムストリングスの筋伸張率は遊脚期後半にピークとなり,遊脚期後半におけるハムストリングス各筋は,股関節運動の影響を特異的に受け,異なる筋伸張動態を示すことが明らかとなった.さらに,BFおよびSMに関して,筋の伸張が最大となる時点で筋活動がピークとなったことから,遊脚期後半において瞬間的に高い伸張負荷が生じている可能性が明らかとなった.
  • 結論: スプリント時のハムストリングスが解剖学的構造・形態の差に起因した異なる筋活動動態および筋伸張動態を有していることが,特定の筋の肉離れ受傷リスクを高める潜在的な要因として関与している可能性が示唆された.