NOK×日刊工業新聞Journagram
技術コラム
technical column
技術コラム technical column
NO.102023/10/25
材料、形状のノウハウ生かし、電動車の安全・安心を実現
電動車(xEV)の開発では、熱マネジメントや電磁波によるノイズなど新たな課題が山積する。NOKはシール製品の開発で培った材料配合技術と形状設計技術の両面から、高機能を実現する電動車向け製品をラインアップ。顧客の期待に応えるため、幅広い部材や製品を提案している。NOKの電動車向け製品について、渡辺純一 NOK R&D 技術企画部 Mobility商品企画課 専門主事補と谷岡正浩 NOK R&D 技術企画部 Mobility商品企画課 課長に話を聞く。
難燃性材料と形状で延焼防ぐ
開発中の「断熱・難燃ゴムシート」はバッテリーのセル間に設置し、セルが熱暴走した際に隣接のセルへの熱の波及を緩和し、延焼を抑える。特に三元系(NMC)リチウムイオン電池(LiB)は、エネルギー密度が高い一方で過充電や内部短絡などによる熱暴走の課題もある。シートに使用している材料の難燃特性は米国の「UL94規格」で高グレードの「V―0」相当。また、シートに突起を設けたことで平面のシートに比べてシートとセルの接触面積が減少し、空気の層を確保できるので断熱性が向上する。さらに、突起が圧縮されることで電池の充放電に伴うセルの変形も吸収できるという。突起の形状を変更することで、圧縮特性を調整することも可能だ。
製法を工夫しカーボンニュートラルに貢献
サプライチェーン(供給網)全体での脱炭素化に貢献できる製品も提案する。航続距離を伸ばすため、各自動車メーカーは床下の広いスペースと同等の面積のバッテリーを搭載している。そのため、バッテリーケース用のガスケットも大径のものが要求される。従来のガスケットの製法ではその形状に成形するための金型を用意するが、大きな面積が必要になる。その場合、加硫工程で熱する範囲が大きくなってしまい、膨大なエネルギーを消費してしまう。そこで、NOKの「大径ガスケット」は小さく折りたたんだ状態で成形し、それを相手側の部品に取り付けるときに広げるという新たな製法を考案した。大径ガスケットは「フォルダブルラバーガスケット」と「スパイラルガスケット」の2種類を用意。どちらも取り付ける場所に合わせて形状を柔軟に調整でき、フォルダブルラバーガスケットは相手側の部品にガスケットを嵌めるための溝を必要とせず、ガイドピンで位置決めし、取り付けられる。約2mまでの周長に対応。スパイラルガスケットは相手側の部品にガスケットを取り付ける溝を加工するタイプで、周長は約6mにまで対応する。
ラジオノイズ・電食防ぎ、安全性と耐久性を確保
「導電リング」は高電圧で駆動するモーターが引き起こす特有の課題を解決する。駆動モーターは誘起電流により軸に帯電が生じ、それがノイズの発生源となって、ラジオの受信を阻害してしまう。ラジオは災害時の通信手段でもあり、電動車でもラジオを搭載するため対策は喫緊の課題だ。また、帯電が続くと軸を支持するベアリング内を電流が通過して放電(スパーク)が発生し、ベアリング内のボール転動面が溶融する(電食)。ベアリングの寿命低下にもつながるため対策が求められる。これらを防ぐため、NOKは軸からハウジングに導電させる製品を開発した。導電性を持たせたゴムを使用したタイプ、オイルシールと導電ファブリックを組み合わせたタイプ、オイルシールと導電フッ素樹脂(PTFE)を組み合わせたタイプの3種類を展開。従来、ベアリングの帯電防止に使っていたアースブラシやナックルアースといった通電製品と比べて省スペースで低コストなこともアピールポイントだ。
ニーズに応じたバリエーションを提案
NOKはさまざまな部品に適用を見込む熱伝導部材を取りそろえる。熱伝導率と硬さ、耐熱素材との組み合わせなど、顧客の要望に応じて提案できるバリエーションは多岐にわたる。「QLEASE」ラバータイプはゴムの弾力性などを維持しながら、一般的なゴムの数倍の熱伝導性を有する。複雑な形状をした電子筐体(きょうたい)や基板の凹凸などに合わせた立体形状に成形することができ、接触面積を増やすことで放熱効率を上げることができる。放熱性に優れるのはもちろん、熱による部品の膨張や収縮も吸収する。
同シリーズの「QLEASE」クレイタイプは粘土状で、発熱体に合わせてさらに自在に変形できる。組み付けを自動化できるよう、より低粘度でディスペンサーでの塗布が可能なタイプや、ラバーとクレイを組み合わせたタイプも開発した。相反する熱伝導性と絶縁性を両立させた材料として「Quantixシリーズ」も提案する。これは技術提携先の独フロイデンベルグが開発した樹脂材。電動車向けには、安全上高い絶縁性を必要とするモーター用ボビンやモールドバスバーなどでの使用を想定する。使用箇所や機能により、クレイから樹脂、ゴムまで、最適な熱マネジメントを提供できる。
ゲームやデモで技術を体感
「ジャパンモビリティショー2023」では導電リングのほか多数の未来のモビリティー社会で活躍が期待される製品・技術を展示する。出展ブースは“ゲームセンター”をイメージし、安全と快適を実現するNOKの技術をゲームやデモを通して紹介する。主力のシール製品のほか、ドライバーの状態が分かる生体センシングなど新分野の展示も企画。自動車業界だけでなく他業界からの来客も見込まれるため、知名度向上の好機と捉え、技術や製品群を広くPRする。
バーチャルブースはこちら(写真右)
谷岡 正浩
NOK株式会社 NOK R&D 技術企画部 Mobility商品企画課長
NOK入社後、営業部門に所属。2023年からNOK R&Dの商品企画部門に異動となり、主にMobility関連の企画を担当。
(写真左)
渡辺 純一
NOK株式会社 NOK R&D 技術企画部 Mobility商品企画課 専門主事補
2009年にNOK入社後、大手自動車メーカーの技術営業を担当。2021年よりe-Mobility向けの営業企画業務に従事し、2022年よりNOK R&Dに異動。e-Mobility向けの商品企画に携わる。
※記事内のデータ、所属・役職等は2023年9月現在です。