インタビュー(対談) クリエイター Xクロストーク
一言では難しいBtoB企業の魅力、
どうしたら伝わりますか?

「BtoB広告賞」は、一般社団法人日本BtoB広告協会がBtoB広告の発展と総合的なレベルアップを図ることを目的に開催しているコンテストです。第45回目となる今年、当社が制作に携わったクライアント3社が、経済産業大臣賞をはじめ3部門で受賞しました。 当社は日頃より様々な業種・業界のBtoB企業のコミュニケーションを支援しています。専門性の高いBtoB企業の事業を広告で表現し、受け手の理解や共感を促すクリエイティブの現場では、どのような視点や経験が生かされているのか、BtoB広告の制作ならではのポイントや難しさについて、受賞広告の制作を担当したデザイナー・コピーライター4名が語ります。

受賞の企業広告3作品、
共通するのはテーマとメッセージの強さ

——今回いずれの作品も新聞広告の部での受賞となりました。どのような点が共感されたと思いますか?

降幡:イトーキの場合、“人のイトーキ”を表現として貫いた強さ、です。当初から社員を登場させた広告をしたいというクライアントの強い想いがありました。ご存知の通り、オフィス空間デザインやオフィス家具等を扱う会社ですが、“人のイトーキ”と言われるように、担当する“人”で選ばれ続けてきたということを会社として大切にしています。

長谷川:「人も活き活き、地球も生き生き」という企業のビジョンを、隅々まで貫き通したクリエイティブですよね。

市野:大王海運では、“物流の2024年問題”に海運という視点で切り込んでいます。社会課題をテーマにした少し重い内容ですが、海運をポジティブに捉えてもらうために、夜明けの空で課題が晴れていくイメージと船の頼もしさを強調したビジュアルとしました。法改正の直前という社会的に注目が高まるタイミングで広告を打ったことも、読者の共感を得るという点で重要でした。

若林:ニチレキはアスファルト舗装による社会貢献をテーマに広告を制作したのですが、取引先や社員だけでなく、社員のご家族、就活生やその保護者の方など、多方面から反響があったそうです。
2023年にちょうど80周年を迎えることもあり、周年をアピールした案や、その他様々な案をご提案しました。
その中で、不朽の名作などと重ね合わせる案が、強いインパクトを与えるのではないかとのフィードバックをいただき、クリエイティブの方向が決定しました。

BtoB広告の役割とは、
企業とステークホルダーを “両想い”にすること

——改めてお聞きします、クリエイターの視点でBtoB広告をどのように考えていますか?

若林:企業と企業、さらにはその先にいる生活者とを“両想い”にすること、これが「BtoB広告」の役割だと考えています。そのためには、発信側の想いを一方的に押しつけるのではダメで、受け手の心をどう揺さぶるのか、どうアプローチすれば好きになってもらえるのか、両方の視点から考える、ということを心がけています。

降幡:「まずは企業を知ってもらって、興味をもってもらい、行動へ」というステップは、BtoB広告でも変わらないと思います。一気に畳みかけても伝わらないし、相手の関心から少しずつ、一歩ずつ。友達づくりや恋愛と同じような感じですね。  

若林:似ていますよね。では、企業の想いはどこにあるかと考えると、やはり社長の想いに行き着くのです。なので私はよく社長の想いや考えを想像して、メッセージを考えます。本当に言いたいことは何か、伝えたいことは何か。日経社は、日頃から日経グループメディアを活用したトップインタビュー広告や企業広告などをよく実施しているので、企業の経営層との距離が近いことが、社長の想いをカタチにする上でも強みになっていると感じます。

長谷川:企業の活動や目指す方向性を、生活者が感じている社会課題とつなげて伝えられるというのは、BtoB広告ならではであり、意義でもあると考えています。イトーキの例でいうと、人を大切にする企業姿勢を新聞広告で打ち出すことで、いま多くの企業が注力している「人的資本経営」をアピールするクリエイティブに振り切りました。大王海運では気持ちのよいビジュアルでありながら、物流の2024年問題という社会課題への対応をしっかりと問題提起したことでインパクトのある表現ができたのではないかと思います。

市野:私も同感です。一見難しい社会課題や技術の話を、ユーモアだったり新しい視点で表現できた時、いいものができたなと感じますね。難しい話をいかに簡単に伝わるように表現すればよいか、はクリエイティブの力。予算や使用素材などに制約があることも多いですが、その制約をむしろ逆手にとって、どんな表現ができるか、どうやって読者を振り向かせるかを考えることも、BtoB広告の面白さかもしれません。

「どんな広告を作るか」の前に
「何を伝えるべきか」からクライアントと考える

——「はじめて広告を出すことになったのですが」というBtoB企業からの相談も多いと聞きます。どのようなことを意識して進めていますか?

降幡:「広告を作りたいが、何から伝えたらいいのか、どう制作者に頼んだらいいのかがわからない」というところからご相談いただくことは、意外とよくあります。中には「ウチの製品は地味なので」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、僕たちとしては「こんな製品があるんだ!」と面白さを感じたりします。ですので、もちろんテーマや訴求点が絞られていることに越したことはないと思いますが、まず、すべて悩んでいることからお話しください、とお伝えしています。受賞した広告でもそうでしたが、「テーマ」を探すところから、一緒にスタートすることができます。

若林:「自社を伝える」という作業の難しさは、自画像を描くのが難しいことに似ていると思います。自分では気づいていなかったり、欠点だと思い込んでいることでも、外から見ると魅力的に映ることがあります。制作過程で、私たち“外の目”を通して、“外から見た自社”に気づき、新たなアピールポイントを見出せるという点でもお客様にとって意味があると思います。

市野:大王海運の制作でもテーマ探しからご一緒しました。その過程で船の見学をさせていただいたのですが、オリエンシート上だけでは見えてない企業の素顔を肌で感じることで、魅力もそうですが、逆に課題なども伝わってきてより深く理解することができますよね。

降幡:現場にいくと、楽しそうに案内してくださるんです。あ、この人たちはこういうところに誇りを持っているんだなと。自社にとっては当たり前になっていることも、初めて見る僕たちが魅力として掘り起こし、広告という形にすると、本当に喜んでいただけますよね。

長谷川:単純に目立たせるというのではなく、企業が本当に必要としているコミュニケーションを、一緒に探して形にしていく、というのが私たちのやり方です。先ほどの両想いの話でいえば、広告の受け手の気持ちも探りながら、少しずつ、一歩ずつ、企業に伴走し魅力を伝えていくという感じです。

想いが伝わるBtoB広告は、
あえてクライアントに寄り添いすぎない関係性から生まれる

——“伴走”というキーワードが出ましたが、クリエイターとして普段どのようなスタイルを大事にしていますか?

降幡:クライアントと二人三脚で…とイメージしがちですが、僕は逆にほどよい距離感を保って理解し寄り添えることが、伴走なのではないかと思います。あまりにクライアントを好きになりすぎて、“中”に入り込んでしまうと、クライアントと同じ目線になってしまって見えなくなるものがある。そこはやはり“外”の目線というものもキープしながらでないと、いいものは作れないと思います。

若林:私が目指すのは、“ドラえもんとのび太くん”の関係です笑。ドラえもんがのび太くんにしてあげるように、クライアントが困っている時、その困りごとを解決できるアイデアやコピーをいつでもポケットから出してあげられる、そんな寄り添い方が理想ですね。

長谷川:クライアントの情報は、クライアントが一番よく知っていることに変わりはありません。そのクライアントが見えていないもの、見えにくいもの、それはBtoB企業にとっては製品やサービスを直接見てもらうことが難しい“一般の生活者”だと考えています。だからこそ、僕の役割としては、パートナーとして、クライアントが持っていない目線や視点を提供していきたいと考えています。

市野:クリエイティブとしてカタチにするには、企業の魅力や強みを分析したり、クライアントの事業戦略を正しく理解するロジカルなプロセスも必要です。営業、マーケティングプランナーなど異なる専門性をもつメンバーと連携し、それぞれの経験・スキル・視点を活かしながら、チームとしてクライアントの課題解決に取り組む伴走力も大事にしていきたいです。

日本経済社は、これからも企業と社会を繋ぐコミュニケーション支援において、クライアントの課題解決や企業価値向上に貢献できるような作品創出に力を注いでまいります。

<受賞作品>
第45回2024 BtoB広告賞
受賞作品

経済産業大臣賞(新聞広告の部)
広告主:ニチレキ株式会社

銀賞(新聞広告の部)
広告主:株式会社イトーキ

銅賞(新聞広告の部)
広告主:大王海運株式会社

出演者

市野 花
クリエイティブ局 デザイナー

出演者

長谷川 佳史
クリエイティブ局 コピーライター

出演者

降幡 寿郎
クリエイティブ局 アートディレクター

出演者

若林 剛
クリエイティブ局 コピーライター

※内容および出演者の所属・肩書は2024年10月現在のものです。

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