「太陽の王子 ホルスの大冒険」ヒルダ(色紙)(C)東映
太陽の王子 ホルスの大冒険(1968年)
1959年東京大仏文科を卒業した高畑勲は、同年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社。アニメーション映画の演出家を志し、早くから新人とは思えぬ才能を発揮した。68年公開の「太陽の王子 ホルスの大冒険」では、長編アニメーションの演出(監督)に抜てきされ、これが初監督作品となる。
アイヌの民族叙事詩をモチーフに深沢一夫が書いた脚本「春楡(チキサニ)の上に太陽」をベースに物語が構成された。
太陽の剣を手に入れた少年ホルスが、悪魔グルンワルドに滅ぼされようとしていた村を守るため、村人たちと団結して戦い平和を取り戻す。その過程でホルスは、謎めいた少女ヒルダと出会う。彼女は悪魔に心を操られ、一度はホルスを陥れようとするものの、村の少女を救うため結局は死を覚悟してグルンワルドに反旗をひるがえす。
ホルスの大魚やオオカミと戦う躍動感、善悪の間で揺れ動くヒルダの葛藤、つましく力を合わせて暮らす村人たちの様子などが実に細やかに描写されている。音楽に造詣の深い高畑は「歌」を効果的に用いた。50年以上前に作られたアニメーションとはとても思えないクオリティーの高さだ。
展覧会では、高畑自身が書いた膨大な構想メモ、そして彼に多くの助言を行い重要な役割を果たした宮崎駿のアイデアスケッチや原画などが多数出品されている。森康二、奥山玲子、小田部羊一、そして本作の作画監督を務めた大塚康生が確かな描写力で描いたキャラクタースケッチなども見ることができる。彼らは戦後のアニメーション史を形成しただけでなく、その後の高畑作品で重要な役割を果たした。
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福岡市美術館で開催中の「高畑勲展」。同美術館の学芸係長山口洋三さんが、重要な三つの作品を通じて高畑アニメの魅力をつづる。
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やまぐち・ようぞう 1969年生まれ。福岡市美術館学芸係長。前衛グループ「九州派」や、画家・菊畑茂久馬に関する研究のほか、近年はアニメーションなどサブカルチャーの展覧会を企画。
高畑勲展 7月18日(日)まで。観覧料は一般1500円、高大生1000円、小中学生600円。問い合わせは、西日本新聞イベントサービス=092(711)5491(平日午前9時半~午後5時半)。緊急事態宣言の間は、高畑勲展以外の館内施設は閉鎖中。