すべての人々が
豊かな心を育める社会に
「本を読む」という行為は、思考力を培い選択肢を広げるための学びとして、著者の経験の追体験として、あるいは愉しむものとして、旧来より多くの人々に親しまれてきました。それはまさに、生活に豊かさをもたらす文化的な営みと言えます。日販は、1949年の創業以来、卸という立場で出版流通を支えてきました。それは、業界・社会・人々の変化に合わせて発展を重ね、その文化的営みを絶えず支援してきたと言い換えることもできます。今後も時代の潮流に合わせ、会社としても、流通としても変容していくことで、人々の豊かな心の育みに貢献し続けることが、私たちの使命です。
現在の出版業界は、人口減少・高齢化・労働者不足・価値観の多様化といった激動の時代のなかで、数多くの課題を抱えています。喫緊の課題は、人と本との出会いの場である書店の減少です。2020年までの10年で、4,000軒を超える書店が街から姿を消しました。それはすなわち、日々の生活から文字・活字に直接触れる身近な機会が減り、人々の豊かな心を育む環境が失われているということであり、日本国民の文化的営みを衰退させる重大な危機とも言えます。
そこで私たちは、「すべての人々が豊かな心を育める社会」を守るために、この危機に立ち向かっています。
その挑戦の1つが「出版流通改革」です。「出版流通改革」を成し遂げた先の未来では、全国各地に書店がある風景が守られ、人々が多様な出版物に出会える社会であり続けている。また、全国に本を届ける役割を担う運送会社をはじめとする各社では、コンプライアンスが遵守され、正当な対価が得られている。そして日販は、それを支えるインフラとして使命を果たす存在であり続けている。こうして描いた未来を現実のものとするために、業界のみなさまとともに誠心誠意、改革に取り組んでまいります。
また、グループ経営理念「人と文化のつながりを大切にして、すべての人の心に豊かさを届ける」に沿って、日販が届けてきた価値の本質を捉え直してみると、従来より日販が届けてきたものは「単純なモノとしての本に留まらず、人が本と出会うことによって生まれる歓びや豊かさ」であると思っています。これを提供し続けることが私たちのパーパスです。
このパーパスに立ち返り、今まで以上に、さらに多くの人々に豊かさを届けるために、出版物の卸という既存のビジネスの枠に捉われず、事業ドメインを拡張することにも挑戦しています。新しい書店の形の創造、本を起点としたプロデュース事業、遊休資産のリノベーションによる公共的プレイスの開発など、生活者起点で日常の「不」を解消し、ニーズを満たす価値提供を行い、地域の文化的発展に貢献するものです。各地域で育まれてきた文化を重んじ、その地域をさらに盛り上げる新たなプラットフォームづくりに一層励んでまいります。
日販の企業としての成長は、地域・社会・人々の豊かな心とともにあります。今後も文化インフラとしての使命を果たし続けるとともに、すべての人々に豊かさを届けるため、挑戦の道をひた走ることをここに約束いたします。
代表取締役社長
奥村 景二