有栖川有栖「折れた岬」(113)
有栖川有栖「折れた岬」(113)
滝原は渚まで進んで、泡となって消えていく波に靴先を洗わせてみる。こんな子供じみたことをするのも、ずいぶんと久しぶりだ。湿った砂の感触を楽しみながら、しばらく波打ち際を歩いた。
さして年齢が変わらないぐらいの男女とすれ違う。リタイアして旅行を楽しんでいる夫婦だろうか。子供はとうに独立し、肩の荷をすべて下ろしての旅行。
「夕食に鮑は出るかしら」
「そりゃ出るよ、きっと」
会話の断片が耳に入った。麻の…
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