広範囲のウイルス不活化 情通機構、小型のLED照射装置
情報通信研究機構(NICT)の井上振一郎室長らは、波長が非常に短い「深紫外光」で殺菌やウイルスの不活化ができる小型の発光ダイオード(LED)照射装置を開発した。手で持ち運べる大きさで、直径1メートル以内の豚コロナウイルスを30秒以内に99.99%不活化できた。企業と連携し、3年以内の実用化を目指す。
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深紫外光は殺菌やウイルス不活化の作用を持ち、浄水やペットボトルの除菌などに使われている。光源にLEDを使うタイプは、工業利用されている水銀ランプに比べて安全性が高い。ただし、これまでは高い出力が得られず広範囲の照射が難しかった。
研究チームはかねて高出力の深紫外LEDを開発しており、そのノウハウを生かした。LEDを構成する半導体の品質を高めるとともに、LED表面に微細な凹凸をつくるなど構造も工夫した。半導体の欠陥を減らすことで発光効率が高まり、表面の凹凸によって光を外部に取り出しやすくもなった。1ミリメートル四方のLEDチップあたり520ミリワットと世界最高水準の出力が得られた。
開発した照射装置はこのLEDチップを20個搭載する。従来は数十ミリワットにとどまっていた持ち運びタイプの照射装置の出力を約8ワットに高められた。性能実験では、直径1メートル以内の豚コロナウイルスに深紫外光を照射すると、13秒でウイルスの99.9%、27秒で99.99%を不活化できた。
現状では水銀ランプよりも高コストになるため、LEDの製造コストを下げるなどして低価格化を狙う。井上室長は「水銀ランプを代替するとともに、従来は深紫外光を利用しにくかった分野にも応用を広げたい」と話す。実用化に向けて複数の企業と共同研究を進めており、3年以内をめどに市場投入を目指す。